あんスタ(過去編)


【紅紫一年・秋分】


「やぁ、こんにちは」

『こんにちは』

用を済ませ出た職員室の少し先、目があったその人は美しく笑ってみせた。

今のところ直接的関係は殆ど無いその人は機を伺っているらしく、今は静かに力を蓄えてる最中の未来の覇者だ。

「初めまして、紅紫くんだよね?」

向かい合った目の奥。泉さんよりも水色が混じったジルコンみたいなそれは何か企んでいてなんとなく気分は良くない。

『はい、紅紫です。えっと…天祥院さんですよね?』

「おや、僕のことを知っているのかい?」

『蓮巳さんのお友達とうかがっておりますので』

白々しく瞬きをしてきたから笑顔を浮かべる。向こうも笑顔を崩さずにわざとらしく軽く握った右手を口元にやってそうだと口を開いた。

「紅紫くん生徒会に興味ない?」

嫌に唐突な問いかけに表情を崩さないよう心がけながら首を横に振ることにした。

『興味がないというわけではないんですけど…ご存知かもしれませんが、僕は学級員を任せていただいていて…そちらで手一杯です』

向こう側から教師が目の前の人の名前を呼ぶ。そちらに目をやってから彼は笑った。

「そっか。気が変わったらいつでも声をかけてね?君の加入を心待ちにしているよ」

優雅に去っていく後ろ姿に一度頭を下げて反対側に足をすすめる。

会いたくないわけではないけど、あまり関わりたくはないその人にまた近いうち何かある気がした。



「敬人、あの子は面白いね」

「誰のことだ?」

「…ふふ、是非とも来年の生徒会には籍を置いてもらいたいな」

「おい、誰を巻き込む気だ」

「巻き込むわけじゃないよ。ただ、あの子が手伝ってくれたら…話は早く済みそうだなって」

退屈もしなそうだしと笑ってカップに口をつけた英智にざわりざわりと心の奥が騒ぐ。

不意に胃の奥からこみ上げてきたそれを飲み込んで、落ち着くために一度ポケットの中の携帯を撫でた。



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