あんスタ


「真!最近調子良さそうだな!」

隣で水分補給してた衣更くんが笑うと明星くんと氷鷹くんも頷いた。

「ウッキーは前からダンスが上手だなって思ってたけど、最近もっとキラキラしてるよね!」

「ああ、完成度も高いし、表現力に幅ができてる…とでもいうのか?自己練習の方法でも変えたか?」

純粋に見上げてくる三人の目に笑顔を作る。

「そ、そんな褒められるほどじゃないよ、僕なんてみんなとくらべたらまだまだだし。えっと、ちょっと練習する時間増やしたんだ」

「真は本当に謙虚だよな」

「ふむ、あまり無理はするんじゃないぞ」

納得したように笑う二人に、僕はどうして紅紫くんの名前を出したくなかったのか、ちょっと不思議に思った。





前回のサマーライブ、そして次はオータムライブ。そもそも僕達がSS優勝を目指してることををもちろん知っていた紅紫くんは夏よりは時間があるからとあれ以来練習を一緒にしてくれることが多くなった。

凱旋で僕達は他校に行ったり、紅紫くんにだってもちろんユニットや事務所のお仕事があるから合間をぬってぬって、見つけ出した貴重な時間で行う。

その殆どは学園で行われるけど、休日である今日は紅紫くんがよく利用してるスタジオを使うらしい。送られてきた住所を頼りに歩く。学園の最寄り駅から四つ離れた駅で降りた。地図によれば比較的駅に近いビルみたいだった。

きょろきょろと視線と一緒に顔も動かしていれば携帯がなにかメッセージを受け取って、Tricksterのグループだったから通知を確認する。

次の練習の開始時間が早まったなんていう連絡にスタンプを押して返して、ちょうど見つけたビルに足を踏み入れた。

「ウッキー!」

「わ!」

後ろからきた衝撃。掛けられた声に驚いて振り向けばやっぱり明星くんがいて、愛犬の大吉くんと同じようなキラキラとした目で僕を見てた。

「ウッキーとお休みに会うのって珍しいね!なにしてるのー?!」

「だね、えっと、僕は練習しにきて…明星くんは?」

「家にいてもつまらないからふらふらしてたんだ!」

にっこりといつも通りの笑顔でさらっと言うけど、大吉くんいないしなにかお家でトラブルでもあったのかもしれない。

空元気が専売特許な明星くんを放っておくのはちょっと心配で、腕につけた時計はもうすぐ約束の時間になろうとしてる。

だいぶ図々しいお願いになるし、断られても仕方ない。

携帯を取り出して、文面に悩みながらさりげなく、柔らかく問いかけてみる。僕の行動にきょとんとしながらもおとなしく待ってる姿が忠犬っぽいなぁなんて思ってれば返事がきた。

中身を確認してから顔をあげるとばちりと目があって、明星くんに笑いかける。

「明星くん、よかったら一緒にダンス練習しない?」

「いいの!?」

キラキラと輝き始めた瞳に頷き、二人でビルの中に進んでいく。エレベーターに乗って五階のボタンを押せばゆっくりと上がっていって、小さな電子音の後に扉が開いた。

「ウッキーっていきつけのスタジオがあったんだね!」

普段は学校で練習をすることが多いから、わくわくしてる明星くんの声も弾んでる。

「うんん、僕の行きつけじゃないよ」

「ん?どういうこと?」

不思議そうに目を丸くして首を傾げた明星くんに何か声をかけようとしたところで近くの扉が開いた。

揺れた黒髪にあ、と声を上げればにっこりと微笑まれる。

『おはよう、遊木くん。それと、今日はよろしくね、明星くん』

「わ!あ、あれ?!隣のクラスの人!…だよね?」

『うん、隣のクラスの紅紫。二年ともクラスが一緒になったことないから初めましてかな?』

「だよね!初めましてー!俺明星スバル!よろしく!」

初対面だったなんて、これは失礼なことしちゃったんしゃないかってわたわたしそうになる僕に大人な対応を見せる紅紫くんは、自然な流れであまり運動向きの格好をしてなかった明星くんにハーフパンツとシャツを渡した。

「ありがと!着替えちゃうね!」

教えられた手洗いに向かった明星くんを見送り、残された僕は両手のひらを合わせて頭を下げる。

「急なお願いしてほんとごめんね!」

『うん?気にしないで、ほら、顔も上げてよ』

促され頭を上げる。柔らかく微笑む紅紫くんは言葉どおり気にしていないようで、それでも引け目を感じ恐る恐る言葉を続けた。

「でも、紅紫くん初対面だったんでしょ?」

『そうだね、明星くんとはクラス一緒になったことなかったから…でも結構衣更とか遊木くんに聞いてたから気にならないかな』

「うう、ありがとう…」

昔は天使だと思ってたけど、神様かな。

ちょっと滲んだ涙に首を傾げた紅紫くんは笑って僕の背を撫でた。

『そろそろ明星くんも着替え終わると思うから、遊木くんも準備しちゃおう?』

「うん!今日もよろしくね!」

『もちろん』

ゆるく口角を上げて作られた笑みに一々心臓が音を立てるからいつだって紅紫くんといると苦しい。

不整脈、狭心症?病院にかかるほどじゃないとは思うけどいつになっても慣れないから困りものだ。

指定された場所に荷物をおいて、まずは靴を履き替える。飲み物とタオル、それと携帯だけ鞄から取り出したところでぱたぱたとした足音が聞こえて扉が開かれた。

「お待たせ!」

「おかえり~」

渡された服に着替えて私服は手持ちしてる。紅紫くんはちらりと見つめたと思うと柔らかく笑った。

『サイズは問題なさそうかな?』

「大丈夫!すっごく動きやすいよ!」

『ふふ、それはよかった。荷物はそこにまとめて置いてね?』

「はーい!」

上機嫌で指示に従う明星くんに楽しそうに笑う紅紫くんがなんか印象深くて、ちりちりと胸の奥が焦げ付くような、なんだかそんな感じがする。

胸の上に手をおいてみるけど心拍数は何も変わってなくて、不思議にしてると明星くんが顔をのぞき込んできた。

「ウッキー?どうしたの?」

「あ、うう、ん。ごめんちょっとぼーっとしちゃって!」

「?」

ぱちぱちと目を瞬き何か言おうとした明星くんにもう一回大丈夫と伝えて、紅紫くんの待つ防音室に入る。

とんとんと爪先で床を二回叩いて、紅紫くんは僕達を見つめると微笑んだ。

『それじゃあ改めて、よろしくね、明星くん。たまに口出すかもしれないけど、意見があったら遠慮しないで言ってね?』

「おっけー!」

『うん。遊木くんもいつもどおり、何かあればすぐに声をかけて?…よし、早速始めようか』

一度どんな感じなのか見たいからと曲が通される。僕と明星くんの踊りを二回見つめて、少し悩んだあとに口を開いた。

いつもは紅紫くんと二人でする練習は明星くんがいる分本番に近づけて、更には立ち位置も含めた指示が飛ぶ。

僕と違って天性のダンスセンスを持ち、明るさを全面に押し出していくタイプの明星くんはたまに手直し程度の言葉がかけられるだけで、どちらかというと僕に指示が飛びやすい。

『ここの三回の踏み込みだけど、一回目が遅れ気味で次が浅い踏み込みになってるから二回にしか見えなくなってるかな。だからその前の―…』

二人いるのに変わらずしっかりとしたアドバイスをもらってちょっとだけ肩を落とす。以前よりは指摘されるところは少なくなったと思うけど、やっぱりまだまだだ。

『…うん、通す前に一回休憩にしようか』

「ふぁー…」

「ウッキー!おつかれ!」

その場で崩れて息をする僕に対し、汗はかいてるけどにこにこと笑ってまだ元気の余ってる明星くん。

僕の分の飲み物も持って隣に座るとスポドリに口をつけて、目が合えばにっこり笑う。

「コッシーってすごいね!同い年のはずなのにこの間の巴さんとかと同じくらいキラキラしてる!」

「えっと、コッシーって紅紫くんのこと?」

「そうだよ!」

いつの間にそんな仲良くなったんだろう。

またちりっと胸の奥が焼けるような痛みが走って、思わず唇を結んでから笑顔を繕った。

「紅紫くん、ほんと凄いよね」

「だね!すっごくキラキラしててわ!眩しい!って感じ!」

巴さんたちのときよりもはしゃいでるのは紅紫くんが同い年なことが強いからかもしれない。

にこにこと笑ってた明星くんは僕の手を取りあげて繋ぐ。

「最近ウッキーのキラキラがちょっと変わったなぁって思ってたんだけど、コッシーのキラキラに似てるんだね!」

「え?どういうこと?」

「うーん、なんていうか…変な意味じゃないんだけど、前のウッキーはあんまり自信ないことが多いからキラキラも小さいのが強くキラキラしてる感じだったんだ。でも最近は小さくて強く、いっぱいキラキラしてる!コッシーのお星様から力をもらってちょー元気!みたいな!」

全く持って伝わってこないけど、でも心臓が跳ねてうるさい。

前に紅紫くんがあまり見ると紅紫くんの型がついてよくないんじゃないかなんて心配していたけど、明星くんにはキラキラなんて形でそれが目に見えたんだろう。

なんだろう、これ、すっごく嬉しいかも

「あはは!ウッキーってば顔がにやーってしてる!」

「うええ!?そんな顔してる!?」

「うん!」

深い意味はなく頷かれて顔がすごく熱く感じる。

褒められたこと、指摘されたこと、どれの割合が一番大きいのかわからないけどきっと全部が原因で熱い。

外から見て、言われることがこんなに嬉しいなんて思ってもいなかった。

評価されることはモデル時代のことがあってあまり好きじゃなかったけど、これならいいかもしれない。

口角がまた上がりそうになるからむにむにと唇を噛んで誤魔化す。

「ウッキー嬉しそうだね!」

「うう、そんなに顔に出てる?」

「うん!キラキラしてる!」

あまりに屈託なく、にこりと微笑まれてしまったから苦笑いを浮かべた。

がちゃりと扉が開いて、紅紫くんが戻ってきたから慌てて顔を両手で覆うと明星くんはさらに上機嫌に笑う。

「も、もう、やめてよー」

「あはは!ウッキー変なのー!」

休憩しないで談笑してる僕達に微笑ましそうな表情を浮かべてる紅紫くんが視界に入って、話は聞かれていなかったみたいだけどなんだか気恥ずかしい。

「こ、紅紫くん!休憩ありがとう!もう大丈夫!!」

『うん?わかった』

あからさますぎて流れを切ろうとしたのはバレているだろう。それでも指摘しないで明星くんにも声をかけて空気を変えてくれたから心の中だけで感謝を口にした。



「あ、あれ?!この間までスバルもそこできないって言ってなかったか!?」

「なんだ、明星まで自己練習か…?どんな練習しているんだ?」

集まった二人の視線になんとなく目を合わせて、二人で笑う。

「「秘密!」」



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