あんスタ



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年に一度の全校行事体育祭。小学校、中学校と毎年行われてきたそれは高校でももちろんあって、去年は仕事の関係で参加しなかったけれどもちろん正式な予定でもなければ強制参加のそれは今年は出る必要があった。

言い渡された色分け。幸い今年は五人とも同じ色だから休憩以外も一緒にいて目をつけられることはなさそうだ。

「はーちゃん!二人三脚でよ!」

「きぃとはくあじゃ高低差ありすぎとちゃ、いってえ!」

「くぅちゃぁん??」

「二人とも、あまり騒いでは他の方の迷惑でしょう?」

「黄蘗も事実なんだから手を上げるのはやめろ」

いや、すでに目をつけられてる気もする。

参加種目決めで騒ぐ四人に衣更は腹をさすりながら困ったような顔を向けてくるから苦笑いを浮かべた。

『えっと、今人気が偏ってるのは―…』

「借り物競争だな」

『あれ?借り物競争人気だね?』

「運動神経がそこまで関係しないからじゃないか?」

『へー…』

去年出ていない俺も、あの四人も興味がないらしい競技にはクラスの希望者名が並んでる。教室の後ろでクラス代表の三枠をめぐり行われてる壮絶なじゃんけん大会。それを横目に逆にスカスカになってる競技の下にチョークを取った。

『僕達はこれでいいかな』

「はーちゃんんん?!」

「はくあああ?!」

「そうなりましたか…」

「二人が騒いだのが悪いな」

深々とため息をついたシアン。これでクラス参加は問題ないだろう。あとは部活単位で何に参加するかだ。

案の定不貞腐れた二人は部室についても唇を尖らせていて柑子とシアンが俺を見上げてくる。目を逸らして配られた体育祭のパンフレットに目を落とした。

『部活単位で参加できるのは綱引き、パン食い競争、玉入れ、借り物競争…』

「はくあの阿呆!なんであの競技やねん!」

「はーちゃんと二人三脚でたかったぁぁ!!」

手元から消えたパンフレットは床にほうり投げられ、腹に黄蘗が突進してくる。息がつまりかけて顔を上げると柑子とシアンは深々と息を吐きだして首を横に振った。

「ばかばかぁぁ!」

「阿呆!」

『ああでもしないと二人とも落ち着かないだろ?』

「だって~!」

「せやからてあれはあらへん!」

『まあまぁ、仲良く大玉転がしてきて?ね?』

「はーちゃん!」

「はくあぁ!」

本格的に拗ねたらしい二人。木賊に至っては鳩尾に拳を突き入れてきたから咳が出て、涙が滲んでしまう。

『けほっ…ごめんって、あんまりこういうの出たことがないから勝手がわからなくて、ね?』

「……しゃーないなぁ、なら誠意見せぇ」

「はーちゃん僕のお願い聞いてよ!」

幾分か機嫌がよくなった二人になんとなく声をかける方向性は間違えた気はしたものの、これ以上へそを曲げられるのも嫌で頷いた。



なんとか部活で参加する競技も決まり用紙を提出しきる。

今年が初参戦の俺には比較のしようがないが、生徒から見ても教師から見ても今年の体育祭はすでに熱の入れ具合が違うようだ。聞いた話では応援団なんてものも追加されてるらしい。

ポケットの中で揺れた携帯を取り出して目を落とす。連絡が来ること自体稀なその相手にまばたきをしてから書かれてる内容に息を吐く。待ち合わせるのであればもっと事前に教えておいてほしかった。

教室に向かっていた足を止めて向きを変える。途中すごい速さで走り抜けていった鳴上にぶつからないようスレ違い、呼ばれた天文部の扉の前には腕を組み眉根を寄せたその人がいた。

「遅いのだよ」

『これでも急いできたんですが…』

「ふん」

機嫌が悪いのか鼻を鳴らしたその人の右手にはマドモアゼルがいない。

昼食時で生徒が購買や食堂に集まっている関係か、廊下は静かでどちらかが話し出さなければ物音一つしなかった。

『それで、僕にお話とは?』

「……………、手を借りなくてはいけないのは酷く惨めだけれど…」

唇を噛んで声をしぼりだす。迷っていた視線は俺と合わないまま息と一緒に言葉を吐いた。

「騎馬戦に、一緒に出てくれないか」

『きば、せん?』

ついさっきも見た気がする競技名。騎馬戦はたしか学年関係なく出場できる競技で、基準は赤か白で分かれてたはずだ。

『白組なんですか?』

小さく頷いたその人に影片も白組なのを思い出す。

「最初は影片だけでどうにかしようと思ったのだけど、僕をあれ一人で持ち上げるのは難しい」

『普通そうでしょうね。……もしかして今日の影片が異様にぐったりしてたのって、』

「…やはり無理があったか」

頭がいいのにたまにすごく抜けたことを言うからため息が出そうになる。いくら人に比べ軽いと言っても鍛えてる人間ならまだしも華奢な影片じゃ苦行だろう。

一体どこまでの無理を強いたのかはわからないけど、万一にも影片がこんなことで潰れてしまうのは困る。

まだ仮らしいが渡されてたプログラムを思い浮かべる。ある程度の余裕を持って出場競技は決めているから無理はなさそうだけど、

『僕があなたに手を貸す事に、なにかメリットはありますか?』

「………―ないね」

『ないのに、僕に頼むんですか?』

「―ああ、ない。それでも、君に頼む」

じっと見据えてくるラピスラズリの意思は硬いのか揺らがない。

「僕はどうしても天祥院の鼻を明かしたい」

『……完璧に私怨じゃないですか』

「そうだね」

『…天祥院さんは誰と組まれてるんですか?』

「A組はかなりエントリーしたけれど人選まではわからない。けれど僕にふっかけてきたのだから彼奴が上に乗るのだろうね」

『…………―わかりました。いいですよ、一緒に騎馬戦に出ましょう』

もう少し粘るか、もしくは断固として断られると思っていたのか、一瞬理解できなかったようで固まった。

抜けたその表情に笑みを浮かべれば首を傾げる。

「本気かね?」

『ええ。』

「……そうかい、なら頼むよ」

『はい、よろしくお願いします』

俺と影片、若干の不安はあるものの二人ならば持ち上げられないことはないだろう。

遠くから休み終了を告げるチャイムが鳴り響いて話は切り上げることになった。


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