あんスタ(過去編)



「お前なんてっ!」

手芸部を一歩出た瞬間、後頭部になにか投げつけられたものがあたったようで鈍く痛む。転がったそれが袋から溢れでて丸められてる毛糸が姿を見せた。

一緒にぶつけられた声に誰かはあたりをつけていたものの、一応顔を上げるとやはり赤髪が小さな体を震わせて今にも泣きそうな顔を見せてる。後ろ手に戸を締めて、目を合わせれば鋭い目つきで俺を睨んでた。

「ふざけるなよ!また兄さんを困らせたな!?」

『まぁまぁ落ち着いて?僕はただ部活の資料を渡しに来ただけだから、ね?』

にっこり笑って落ちてる毛糸を拾い袋に戻す。瞳孔が開き揺れる目を見つめながら差し出してやれば口を一文字に結った。

どっちも目を逸らさず、傍から見れば睨み合ってるようにも感じ取れるそれを壊したのは緩い速度で近づいてきた足音だった。

「んぁぁ?なにやってるん?」

独特のイントネーションに少し高めの声。

視界に入れたオッドアイと白い肌は首を傾げて目を丸くしてる。

『あ、影片ちょうどいいところに。鳴上が探してたみたいだけどもう会った?』

別に話を逸らしたわけではないんだけど、後ろから突き刺さり始めた視線に心の中で苦笑いをこぼした。

真向かいの影片はとてとてと進めてた足を止める。

「俺?んん、まだ会っとらん。教えてくれてありがとうなぁ。……どこにおるか知っとる?」

『うーん、会ったのは二階の渡り廊下だけど…ちょっと場所までは、ごめんね?』

「大丈夫、気にせんといて。自分でがんばって探してみるわぁ」

柔く笑ったその表情は人形とも欠陥品とも思えないが人間にしてはどこか足りてないような気がした。もう少し人間味を増させてほうがいいかもしれない。

踵を返し、普段よりも歩調を早めここから離れてく後ろ姿に思わずかわいいなぁなんて笑みをこぼせばまた後頭部に短く鈍い痛みが走る。足元を転がっていった毛糸にまたかとため息を吐いた。

それと同時に軽い足音が離れていく。走っているらしくあっという間に聞こえなくなった足音に後頭部を擦りながら毛糸を拾い上げた。

随分と嫌われてるようで、何よりだ。



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