イナイレ
緑川と俺が〜なんていう道也の誤解をようやくといて、解放される頃には日が傾いてた。緑川はどうやら基山に湿布を貼ってもらったらしく夜には普通に活動できるくらいには回復してるみたいだった。
吹雪に緑川と表立って交流もしている様子がなかったメンツと会話したせいか、ちらちらとこちらを窺う視線が増える。あからさまに苛立って刺さっているドロリとした重い視線にそろそろ面倒事が起きそうだなとは思ってた。
ちょいちょい隙間を見つけては声をかけてこようとする奴がいるから視界に入る度に道を変えて、夜も鍵をしっかり締めた上で訪問者をすべて無視し眠りについて、朝を迎える。
「久しぶりね?」
『っすねー』
新生イナズマジャパン…じゃなく、ネオジャパンを引き連れた瞳さんを出迎えて挨拶をする。後ろには帝国の源田やら世宇子の出右手だの色んなとこから集めた奴等が首を傾げてた。
膨らませた風船が割れ口の回りにくっついて、指でガムを取った。
『で、顔合わせはどうすんだァ?』
「サッカーなのよ。これでしょう?」
にっこり笑った瞳さんは昔から見せる、悪いことを考えてるときの笑顔でそれを持ち上げた。
「今日は実戦形式の練習試合を行う」
もっともらしいことを言って道也はあいつらを集める。告げられた内容にチーム内で分けられるのかと思い立ったらしい全員が目を輝かせて、砂木沼はボールを宙に放り投げ、蹴った。
「っ!」
唐突に飛んできたボールを円堂が慌てて受け止め、周りの奴らが顔を上げる。
「流石円堂だ」
「デザーム!」
砂木沼治だと訂正したそいつの隣にネオジャパンの奴等が並んだ。
「源田…成神…寺門!」
帝国中で同部活だった奴らの顔を見つけ鬼道が名前を呼ぶ。とりあえず皆してわざわざ名前を呼んでてよく覚えてるもんだなと感心する。
「久しぶりね。円堂くん」
最後の最後、黒幕かってくらいに颯爽と現れた瞳さんに目を見開くイナジャパは写真を取りたいくらいに間抜け面で面白い。
瞳さんが道也に宣戦布告してるところを見つめる。
まあ、最初からわかってたんだから道也が断ることはなく代表選手をかけた試合が始まった。
「諧音くんは出ないの?」
『出ない』
向こうに行くのも面倒で瞳さんの隣に立つ。風に吹かれて乱れかけた髪を抑えて、ふふっと笑った。
「あら、それは残念ね」
ガムを噛み膨らます。
「来栖、か…」
「…なんでここいんだ?」
後ろでネオジャハンの奴らがひそひそと話すけど、俺が瞳さんと会話してるからか声をかけてくることはない。瞳さんは道也に話があると一度離れた。
「……、来栖?」
『なに』
タイミングをはかってたのか、後ろから近づいてきた源田と成神に振り返らず返事をする。かけようとしてたイヤホンの先を指で触っていればひょこりと成神が視界に映りこむように回り込んだ。
「なぁ、来栖って音ゲー好きなんだろ!」
『どこ情報だそりゃ』
「鬼道さん!対戦しよーぜ!」
「成神もゲーマーでな…」
嬉々としてD●を取り出した成神と頬を掻き笑う源田。つまりこいつらもゲーマーって訳で、あまりに屈託なく笑うから息を吐いた。
「なぁ、いーだろー!」
『試合終わったらなァ』
「そうか!ありがとう!」
すでに満足そうに笑う二人に戻ってきた瞳さんが生温い目を向けてきてたから払うように手を動かした。
☓
砂木沼がMFであることに驚くイナジャパだがそんなところで驚いてたら先に進めない。ネオジャパのメンバーが次々と繰り出す他校の必殺技に翻弄されていくのをガムを噛みながら眺めた。
客席がうるさくて、あの喧しい女子と黒服の奴誰だァ?
噛んでたガムを膨らませる。
ネオジャパが、一点入れた。
肩に重みがかかり、見上れば後ろで腕を組み観戦していたはずの俺に向けて瞳さんが笑ってるところだった。
「ね?」
『そう言われてもなァ…』
円堂が技を進化させてシュートを止める。緑川も唇を噛んでから前を向いて日頃の練習の成果をようやく発揮した。
道也はこっちを見てから悩むようにポーズする。前半序盤に出ていった風丸が虎と交代し入って、流れはそのまま戻ることがなかった。
☓
「今回は仲介ありがとう」
『別に、面白そうだったから手伝っただけだァ』
ネオジャパは負け、代表は今まで通りだ。
産物として円堂だの緑川だの風丸だの、あと飛鷹までもが必殺技を身につけた。
ぶっちゃけ俺に利益はほぼなくて、瞳さんのお願いだったから頷いたようなものだった。
「じゃーなー来栖ー!」
「ゲーセンいこーなー!」
『おー』
ゲーセンいつ行くかな
ネオジャパたちに労いと激励の言葉を伝えて解散したところで、瞳さんは俺に目線を合わせる
「まさか、諧音くんがまたサッカーしてくれるとは思ってなかったわ」
『してねぇよ』
分かってるくせに、瞳さんは笑う。
『彼奴らとサッカーするくれーならまだあっちの奴等としたほうがいい』
「ひねくれてれるわね」
つい先日にも吹雪に言われたばかりの言葉を告げられて、急に動いた瞳さんにより視界が塞がれた。
「またいつでも帰ってきてね。おひさま園はあなたのお家なのよ」
『…ん』
懐かしい柔軟剤の匂いに目を閉じて頷く。優しい加減で背が叩かれて、入っていた余分な力が抜けてく気がした。
「あ、ねぇさ…ん……」
「あら、ヒロト」
聞こえてきた手に多分、いつものように瞳さんが笑い返す。
「えーっと、あれ?」
「どうしたの?」
『__おい』
「あら、ごめんなさい?」
一気に開けた視界に、基山のなんとも言えそうな顔と楽しそうな瞳さんの顔が見えた。
『……戻る』
「ええ。またね、諧音くん」
『ん』
「………」
物言いたげな基山に背を向け歩いていった。
どうして瞳さんはいつも色々やらかしてくれんだろう
さっさと歩いていけば、道也が待っていて視線があった。
「諧音」
『なんだァ?』
「今日の彼奴らを見ててどうだった」
『知らねーよ』
ガムを膨らませ割る前に食べる。口の中で空砲が起きた。
「そうか。」
なんでか俺を見る目が落ち着いていて、含みのあるそれに目を逸らす。
「今日はゲームセンターにはいかないだろう?ほら、もう戻るぞ」
当たり前のように肩を抱かれ腹が立つから道也の払って先を歩いた。珍しく道也は何も言わないでニ歩後ろをついてきた。
☓
「来栖くん、いるかな?」
昨日といい、一時間前といい、何回も来るこいつは俺になんの用があるんだろう。
碌でも無い要件だろうなと検討をつけて今回も居留守を通して音が去るのを待つことにする。携帯を弄りながらパソコンに向き合う。来ていたメールと、それのせいで調べなくちゃならなくなった情報に眉根を寄せた。
ここで、この名前を見ることになるなんて思ってなかった。
「なにやってんだ?」
扉越しに聞こえる声に一瞬気を扉へ向けて、関係はないから画面に戻した。
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