イナイレ
目の前に広がる緑色のフィールドに、酷い目眩がした。
×
「スターティングメンバーは…」
次々と呼ばれていく名前に元気な返事が聞こえて、道也は一瞬黙って俺を見た。
『……………』
2秒足らずで視線をそらしてまた違う名前を呼び出す。
「以上だ」
呼ばれた者は喜び、呼ばれなかったものは悔しがり、不満、不平を嘆く。
名前が呼ばれなかったことに俺は息を吐いて、胸を撫で下ろそうとしているの気づいて、唇を噛む。酷い頭痛と煩い心音に気づかないフリをしてイヤホンを耳に引っ掛け曲を流した。
__…今の俺は、どんな表情をしているんだろう。
×
フィールドを見つめる来栖の横顔を見る。
『あ?なんか用かァ』
ガムを噛んで風船を作ってた来栖が風船を割って、こちらを見もしないで声をかけてきた。
見ていないのになんで俺が見ていると気づいたのかは謎で、顔をしかめる。
「別に、なんでもねーよ」
答えれば来栖は興味なくしたのかまたガムを噛みだした。
×
ボールを持った鬼道は敵に囲まれてボールをとられる。“ボックスロックディフェンス”それがビックウェーブスのサッカーの要だ。
それにしても、と膨らませた風船は空気をいれて、息を送りつづければ破裂した。
『意味わかってねぇなァ』
「…………」
「?」
俺の一人言に道也はじっとフィールドにいる選手を眉間の皺を濃くしながら見つめ、不動は眉をひそめた。
風に煽られて口の周りがべたべたになる。
『監督ー、トイレいってきまぁーす』
返事を待たずに歩き出してフィールドから背を向けた。
×
ガムのせいでべたつく口元を綺麗にゆすぐ。ついでに顔も洗って、顔を上げた。鏡があって何時も以上に冷たい目をした自分の顔が映る。
『…やっぱり、駄目か』
息を吐いてからトイレを後にする。
廊下に出て歩いていれば観客のわいた声が聞こえてきて、大方あっちのチームが点をいれたとかそんなとこだろう。適当に考えていると間違えて違う出口にきていた。
観客席の出入口。高いそこから見下ろせる緑のフィールド。
なんで俺はこんなところにいるのか、そうとうきちまってる。
痛む頭を押さえ歩き出した。
とにかく、戻ろう。
「―どこに?」
声に反射的に振り返って周りを見渡す。
勿論そこには誰もいるわけがなく、廊下にいるのは俺だけだった。
無駄に煩い心臓にまた気づかない振りをしてベンチへと戻った。
×
ベンチに戻れば前半戦がもうすぐで終わるところだった。
様子から見るに選手達はやっぱり昨日までの練習の意味がわかってないようでしっかりと苦戦してる。
またガムを口に含む。
気のせいじゃなきゃ、道也がため息をついた。
ガムを噛んでほどよく柔らかくなったら風船を作り膨らまして割る。それを繰り返しながら試合を眺める。
つまるところ、ボックスロックディフエンスが例え発揮されずに抜いたとしても、弱いシュートのせいで得点できない。
今日何度目になるかわからない風船が割れる音。
『飽きた』
いろんな意味のこもった俺の一人言を聞いていたようで、不動がまた訝しげな目を向けてくる。道也は諦めたのか息を吐いて、近づいてきた鬼道になにか言ってた。
戻ってきた道也に笑う。
『抑えがきかなかったんだなァ』
隣にきた道也にからかうように聞いてみれば溜め息をつかれた。
「お前は…」
だからなんだよその残念そうな顔は。
×
ボックスロックディフェンスを破ったイナズジャパンは快進撃というほどのものではないが着実に攻めはじめていて、イナジャパが一点返したところで前半戦が終わった。
ちょうどよく割れて口の周りについたガムを指先でつまみとる。肩で息をしてる選手らは音に一度こちらへ目をやったものの、すぐに逸らした。
ガムを包みに捨て、首もとに手をやるけど、何時もあるはずのそれがなくて息を吐く。
そうだ、さっき道也にイヤホンとられたんだった。
数少ない俺の娯楽を奪ったりして、俺に一体、どうしろっていうのか。
得点までは覚えてないけれどイナジャパはとにかく勝ったらしい。
今回の試合で選手たちは道也への不信感を拭って監督だと認めて、それから豪炎寺は宇都宮?に何か思うところが出来たみたいだ。けれどまぁ結局のところ俺には関係ないことだからバスに乗り込む。
行き道と同様に道也の隣に座れば、イヤホンが返されたから、つけなおして眠りについた。
×
ガタンとおそらくバスが止まった揺れに目を覚ます。
イヤホンを片耳だけ外し、窓から外を覗けば騒いでバスからかけ降りていってる選手その他の後ろ姿が見えた。
「やっと起きたのか」
隣の道也が息を吐く。バスの中には他の奴らはもういない。
『…起きたァ』
俺が首を回して伸びてる間に隣に座ってた道也が立ち上がった。俺も腰を上げる。
『今日は晩飯いらねぇ』
バスから降り宿舎に向かって歩いてる道也に声をかける。
「早く帰ってこい」
『約束しかねんなァ』
適当にはぐらかして歩き出した。
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