暗殺教室



律を通した緊急連絡もなく二日間、僕達は各自持っているツテを使って情報を集めた。

道徳の時間を丸々使ってその情報交換をするのは今日。

空っぽの清水くんの席を見てから前を向いた。

円形に並べた机にならって僕達も円状に座る。

「順番は俺たちのグループから右にでいいか?」

立ち上がってる磯貝くんが指揮をとって司会を進行するのは学級委員っていうのもある。

グループはたまたま、5月に行った修学旅行の組分けに似通ってた。いなかったイトナくんと律はカルマくんに引きずられて三人グループになってる。

異論は上がらず、磯貝くんと、隣の前原くんが立ってノートを開いた。

「俺たちは本校舎の現状を調べてきた。特に、最近起きた事故について」

事故って言うより事件って言ったほうがいいか。

磯貝くんは少しだけ言い換えるか悩んで事件で通すことにした。

「起きたのは六日前、金曜日。小林くんについて調べてたら関連して出てきた。
時間は2限目の始まる直前、二年のクラスに硬球が投げ込まれた。その際怪我をしたのは窓際の席だった小林くんで右手首を骨折、ガラスの破片で顔、体を切るとかして教室は血だらけになったらしい」

「それじゃあ、うちのクラス来た時のって…」

「ああ、間違いなくその怪我だと思う。」

磯貝くんはノートをめくって次にと口を開く。

前原くんはまだなのか手元のノートと見比べながら話を聞いてた。

「同じ時間、別の場所にも硬球が二球投げ込まれてる。怪我したのは荒木と榊原」

「あの二人も?」

「そう、あの五英傑も。その二人は授業の移動中に投げ込まれたそれぞれの硬球で怪我してる。
二人とも頭にあたり、意識がなくなって救急車に運ばれた。容態まではわからなかったけど、榊原も荒木もその日から学校に来てない」

「それについて補足。俺は本校舎の女子に聞いて回ったんだけど、二人共も頭に直撃して倒れた。その時に駆け寄ったやつがいて、榊原が“浅野が”って言い残してる。真意は不明だけど、俺がわかってる限り三人が同じように聞いてる。
ついでに言えば浅野はその日無断欠席。今も体調不良で休んでるとか」

なんでそこで浅野くんの名前が出たのか

向かいにいたカルマくんが目を細めた気がした。

「じゃ、磯貝とバトンタッチ。俺の方はさっきも言ったけど女子のほうからあたって小林くんについて調べてみた。交友関係は先輩が多いみたいだ、五英傑に清水、あとは生徒会とか。同い年、年下とそこまで絡んではない。部活は入ってなくて帰宅部、成績はだいたい噂通り優秀。ただ、ころころ変わる話題とか、忘れ物、注意力が散漫だったり、ボーッとしてることも多くて先生からは問題児扱い。」

これぐらいかなといって座った前原くん。

初めてあった時の小林くんは今の報告にもあった通り、ころころ話が変わってたのにこの間の小林くんはなんだったんだろう。

いつの間にか癖となってるメモを眺めてればじゃ、次は俺達と隣りの杉野が立ち上がった。

僕たちのグループは杉野と茅野が報告、まとめたのは神崎さんと僕だ。

「俺達も本校舎のことがきになって小林だけに限らずここ最近の本校舎全体について調べた。
磯貝たちの言ってた硬球は連絡のとれた進藤によると野球部のボールだったんだ。救急車で運ばれた二人…そういえば、小林は救急車乗ったないんだな…じゃなかった、B組にまでガラスの割れる音とA組のパニックが聞こえてきたって。次の日使われたボールが野球部のだから顧問と一緒に会議室で先生とみっちり話をさせられてた。もちろん授業直前でクラスにいたから無罪放免だったけど、ボールは間違いなく野球部のもので当面部活動は停止になってる」

「野球部…?」

杉野が進藤くんと連絡をとってたのが幸いした。

おかげで犯人の所属が野球部、もしくは野球部に近い人なのがわかったし。

速水さんがかしげた首に杉野は頷いた。

うちの学校の備品は部活のボール、バット、支給のタオルにもくぬぎどんが書いてあったり椚ヶ丘の紋章があしらってある。

だから野球部のだって特定されたけど、血に濡れたくぬぎどんは恐怖だ。

「じゃ、杉野とバトンタッチするね。私は直接部活の方を覗いてみたよ」

「擬態したのか」

「ちょっとした変装!まぁ、そこでね、野球部の備品管理の問題とかを受けて全部活動の備品点検をしてたの。そしたら色々足りなかったんだって、備品。野球部からはボール数個とバット数本。サッカー部からは貸出用のスパイクっていう感じに。詳しい本数とかまでは聞けなかったんだけど、文化系の部活からもアルコールとかオイルとか絵の具や糸ノコなんてのもなくなってて量も明らかにおかしいから先生たちが首を傾げてた。もしかしたら部員がパクっただけなのかもしれないけど、これが一連してたら、変でしょ?」

潜入は顔のあまり知られてなくてとてつもない演技力を持つ茅野だからできる芸当。

手元にある紙に目を落とす。

茅野が覚えてる限りメモをしたなくなったもののリスト。中にはドライバーや金槌、銅線もなくなってるらしい。

「あと、私なら平気かなって2ーA覗いたんだけど小林くん、月曜から風邪引いたって学校に来てない」

「嘘だな」

「やっぱそうだよね」

私達からはこれくらいと茅野も杉野も座る。

少しのメモタイムをおいて、次は寺坂くんのところだった。

「私達は顔が微妙に知られてて動けないから外を調べたわ。まず、六日前、小林くんと五英傑が怪我した日のことなんだけどその日ってつまり、清水が怪我して遅刻してきた日なのよ」

そういえば、僕達はすっかり懸念してた事項に目を瞬かせ続く言葉を待つ。

そっか…清水くんと小林くんと荒木くんと榊原くんは同じ日に怪我を、した、?

「あいつは事故だって言ってから時間と日付を絞ったら最近なのもあるのかピンポイントですぐ出てきた。椚ヶ丘駅から少し離れた市街地でワゴンのひき逃げ…当て逃げ?事故だ。」

「犯人はまだ捕まってない。っていうのはまず車の車種とナンバーは目撃者が見てたからすぐ車自体は見つかったんだけど盗難車だった。持ち主はその日会社にいたしアリバイはばっちり。残留品もなくて八方ふさがりらしいけど警察は秘密主義だからどこまでわかってんだかな。」

吉田くんは頭を掻いて息を吐く。

政府機関の隠し事は一般人には探りようがないもんね。

経験してるからゆえの歯がゆさってやつなんだろうけど狭間さんがいるから独自調査を進めてそう

「それでたまたま、その目撃者になった二人に話が聞けた。まぁ、知り合いだったんけど…その人が言うには被害者は清水、らしい。」

「らしいって、歯切れ悪いな」

「なんて言うんだ、その人突っ込まれた店の店主で店の中にいたわけだから事故の瞬間は見てないんだと。車がぶつかって割れた窓ガラスの音で気づいて、逃げた車に呆然としてから慌てて外でたらぶっ倒れてる清水がいたんだと。ああ、清水かどうかは写真見して確認したから間違いない。救急車呼ぶか聞いたのもその人で顔合わせて話したけどなんか長々と救急車は止めてくれって語られたとか何とか」

「ああ、清水っぽい」

あんな怪我をしてるのに救急車を嫌がるなんて、少し愉快犯気味なのに目立ちたがらないところが清水くんだとみんな息を吐いた。

でも結局押しが弱いから救急車に乗せられたんだろうな

「で、もう一人の目撃者は俺の昔の知り合い。っても、こいつも事故の瞬間を見てるわけじゃないし、むしろ事故の目撃者って言っていいのかわからない。」

なにそれ?

誰かが上げた声に最後まで聞けと吉田くんが口を開いた。

「イヤホンつけて携帯いじりながら歩いてたら猛スピードで走り去ってく凹んだワゴンとすれ違ったんだ。危うく引かれかけて車の走ってきた方を見ると血だらけの男のそばにいた制服を着たオレンジの髪のやつが別方向に走ってったのを見たって」

「え」

「ちょっと離れたところでは制服姿の浅野がどこかに急いで走っていくのを見てる花屋の店員がいた。浅野はそこの常連らしくて声をかけようかと思う暇もなくどっかいっちまったんだと」

静かになった教室内にみんなの顔はそれぞれ。

ここで終わりと切った吉田くんに次のグループはカルマくんたちだった。

ふぅっと大きな息を吐いたカルマくんに張り詰めてた空気が緩む。

「ほらほら、次は俺達ね。俺達はABC、あとDとか重視して調べることにしたよ」

じゃあよろしくと肩を叩かれたイトナくんはぺらぺらとノートをめくって、律はおまかせくださいとウインクした。

「先ほど磯貝たちのグループからの報告にもあったように小林は交友関係が広くない。だから小林について調べれば確実にABCDに当たる人間がいるだろうと思い至った。ただ、話の内容からして最近のものを知っても意味がないだろうからまずは確定してる小林と清水の過去を漁ってみた。」

「清水さんは剣道と弓道の有段者です。特に剣道では名が通ってる実力者だったようでうちの学校でも一年の頃は剣道部の大会に助っ人として駆り出されてたこともあるようです。小学生時代はかなり強い道場に籍を置いていたようです」

「え、清水くん剣道やってたの?」

「はい。清水さんは大会などにも出ていた記録が残っています。」

律は役割を終えたのか黙り、イトナくんがめくってたノートを止めた。

「俺は出身校のほうを調べてみた。小林は荒木と同じようだ」

「知り合いだったんだあの二人」

「それだけじゃない。調べたら清水と浅野も同じだった。」

「何その学校こわい」

「詳しく時期はわからないが、小林が小学校の途中で転校してこうなったようだな。六年時にはその学校の会長?というものを浅野が、副を清水と小林がして後任は小林。」

「今とあまり変わらない気がするね」

誰が言ったか、わかるとみんなが頷く。

小学校のときの三人の様子が想像しやすい。

「そして揃って三人…荒木も含めると四人はこの中学に上がったようだ。小学校時代の同級生っていうのはあまりこの学校には上がってきてなくて四人だけだった。だから中途半端になってしまうがそこで俺は調べるのを中断した。続きは赤羽だ」

満を持して登場のこの感じ、黒幕思考が強いカルマくんらしい。カルマくんは突然だけどと机を乗り越え円の中に立った。

「時間も惜しいしこれ配りながら説明してくよ」

1グループに二枚配られてく紙は写真みたいだ。

「たまたま、前に会ったことあるやつがその清水くんたちが通ってた小学校だったって思いだしてちょっと学校に押しかけて話聞き入ったんだよ」

情報源が不良釣りの獲物とかそういうのじゃないことを信じてる。

僕達の手元にも写真が二枚来て全部配り終わったカルマくんはまた机を乗り越えて座った。

「それ、そいつが持ってたアルバムの一枚と、律が見つけてきた道場の名前を元に師範の家に行って見せてもらった写真のコピーね。」

一枚はどこかの公園なのか草原を背景に集まってる二十人前後の小学生の写真。
もう一枚は道場で道着を着た人たち。真ん中にはトロフィーと賞状を持った人たちかいた。

「まずは学校のほう。それ今から換算すると六年前だから清水くんと浅野クンが三年生、小林クンが二年生の頃の遠足の写真なんだって。もう一枚は説明したとおりその師範が現役の頃に教え子達が全国一位をとったらしくてその記念写真。ただ、どっちもいろいろとおかしいところがある。よく、写真見てもらってもいい?まず道場のやつから」

夏はとっくに終わったのにホラーテイストなあおりは背筋が寒くなる。

写真を覗きこんだ。

人数の少なくない写真。順番に上段端から眺めていくと癖のある黒髪が目に止まった。隣には僕みたいに髪の多めな短髪。

「気づいたよね、道場で撮ってるそれ、小林が映ってるの。」

「小林くんも剣道してた、ってこと?」

「俺もそうだと思って聞いたら師範二人共キャラが濃いから覚えてたよ。よく喋る子と、無口な子だろって」

「え、?」

もう一度写真を見ると二人共面影がある。

けど、清水くんは賞状で顔が半分隠れて口元が見えない。小林くんは、トロフィーを持って口角を上げていて、どうしてかその表情が清水くんとダブる。

「はい、次の写真」

手を叩いてみんなの注意を引いたカルマくんは指示を出して僕達は写真を変えた。

さっきの倍はいる人数に目を凝らして、一番後ろの段に荒木くんがいて三段目、そのすぐ前に他の子と隙間があるように錯覚するくらいくっついた三人組が映ってた。

黒、藍、オレンジ。

一人ひとりの表情を見て何人かが机を叩き頭を抱えた。

「え、え?!これ、嘘だろ?!」

「さささ詐欺だ!!」

黒髪の小林くんはにたりと仮面をひっつけるみたいに笑ってて、藍色の清水くんは無表情に困ってるのか眉を少しだけ下げ目線を逸し、その二人真ん中に、二人の腕を取り、満開の笑顔を見せてるオレンジの髪をした…浅野くんがいる。

幼さが残ってて髪の少し長い浅野くんは女子と見間違うくらいに可愛らしい。

「さて、これでみんなAはわかったんじゃない?」

カルマくんの声にみんなはああ、と想い出す。

Aは女の子に見間違えるくらいの可愛さで、今は小難しい顔…眉間に皺を寄せるってことかな

ツンデレかどうかはともかく、支配者っていう表現はやけにあってた。

「満場一致?」

「小林の交友関係とこの清水、浅野の顔を見たらそうとしか取れないわね」

速水さんの言葉は的確すぎて僕達の代弁をしてくれた。

メモに新しく付け足す。

Aの?を二重線で消して、浅野くんと。

「まぁ、俺達のグループはこんなんで終わりだけど、一つ、疑問増えたよね」

カルマくんは頬杖をつき空いてる左手の人差し指をくるくると回した。

「なんで三人の表情がまるきり違うのか。」

正反対と言ってもいいかもしれない表情の違い。

写真に視線を落とす。

正反対というより、入れ替えたなんて表現がしっくりくる気がした。

今の小林くんの笑顔が昔の浅野くんに、今の清水くんの表情は昔の小林くんに似てる。

三角形でも作れそうだ

カルマくんもイトナくんも僕と同じなのか難しい顔をしてる。

チャイムが鳴り響き一時間の終わりを告げた。

みんな顔をあげてうわっと声を漏らす。

チャイムの響き終えたスピーカーを眺めてた殺せんせーは僕達を見た。

「おや、思った以上に時間が経ってしまいましたね。あと残っているのは…矢田さんたちのグループですか、……では少しだけ延長いたしましょう」

殺せんせーは見渡して笑い授業の続きを促した。

「よかった、私達の出番なしかと思っちゃったよ」

矢田さんと倉橋さんと原さん、速水さんのこのグループは息を付いて立ち上がった。

寺坂くんのグループから立ってなかったからどこか懐かしさがある。

「延長しちゃってるけどそれに見合うだけの新しい情報掴んできたよ!」

倉橋さんがふわふわと笑う。

矢田さんとぱっと片手ずつあげてなーんとと前置きをした。

「清水くんには弟がいたの!」

「…………………え、清水くん弟いんの?」

一番ぽかんとしたのは参謀、黒幕ポジのカルマくんでやっぱ知らなかったね!と四人が笑った。

「弟くんは一つ年下で、咲夜くんって言うんだってさ!」

「クラスはB組で、聞いたところによると明るくてみんなの人気者らしいよ!」

「特に委員会も部活もしてないみたいだからそこまで有名じゃなかったのかしらね。」

「清水くんも弟がいるなんて言ってなかったし、校内で一緒にいるところも見たことないから妥当かも」

「わかったのが昨日の放課後だったからまだ顔は合わせてないんだけど、その子に聞いたら清水くんのお家も今どこにいるのかもわかるんじゃないかな!」

特に何がわかったわけでもない、なのに清水くんの弟情報は今回の情報交換で一番の衝撃をみんな(特にカルマくん)にもたらしてた。






(一次考察タイム)




渚メモより抜粋

・時間列
木.一日目―清水くんにレンガが投げつけられる
金.二日目―清水くんが事故に遭い遅刻1。
――――――本校舎に硬球が投げ込まれる2
土.三日目
日.四日目
月.五日目―清水くんの移籍報告。
――――――小林くんが荷物を取りに来る。
――――――情報交換1回目
火.六日目―情報収集
水.七日目― 〃
木.八日目―情報交換2回目


・情報交換1.2回目まとめ
ビッチ先生が聞いた話。
A=浅野くん
__昔は女の子っぽかったツンデレ。今は難しい顔の支配者
B=清水くん
__昔は無口で不器用。今は詭弁、笑顔。(少しおかしい?らしい)
C=?(男の子)
__思考が歪んでる。みんなから愛されてる子で小林くんは嫌いで関わりたくない
D=?(女の人?)
__Cと小林くんが好きになった人。


・人物まとめ
清水くん―剣道と弓道の有段者。Bにあたる
浅野くん―小学生の頃も会長。Aにあたる
小林くん―2の事件により骨折中。剣道経験者。火曜から休んでる

荒木くん―上三人と同じ小学校。現在2の事件によって負傷、休んでる。
榊原くん―2の事件によって負傷、休んでる。
―――――五英傑は小林くんと仲いい

咲夜くん―清水くんの弟さん(2B)


・事件について
1 椚ヶ丘駅近く市街地で起きたひき逃げ。
―被害者は清水くん
―ワゴンがお店に突っ込んでる
―目撃者いわくそこから走り去る浅野くんらしき人、少し後の別の場所では焦って走る浅野くんの目撃情報
―犯人は捕まってない

2 本校舎に投げ込まれた硬球による傷害事件
―同時刻に三箇所で起きる。
―時間は2時限目の始まる直前
―被害者は小林くん、榊原くん、荒木くん
―凶器は野球部のボール
―倒れた榊原くんが「浅野が」と言い残す


・そのた
―小学生時代浅野くんが会長、副は清水くんと小林くん
―三人共小学校の頃は表情が違う(?)
―1の事件での浅野くんの目撃情報が変




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