暗殺教室
じんじんと熱を持ち始めた腕の痛みに歯を食いしばり、処方された薬を押しこむように飲む。
水と共に流し込まれた錠剤が溶けて鎮静してくれるのを待ち願いながら床に座り込んだ。
誤魔化して、すべて誤魔化して。
包帯の上から腕をさすって一つ息をこぼした。
『彼』は、「彼」は、無事だろうか
早く「あの子」を…―
もう僕にはどうすることもできないところまできてしまった。
だから、
水色、赤色、金色、茶色、黒、鶯…囚われない光を放つ彼らに託すしかできてない
お願いだからどうか早く、
気づいてあげてくれないか
「俺があの子を見たことがあるのは以前に清水が一緒にいるのを見たことがあるからだ」
仲間はずれを嫌がり泣いて情報を求めスーツに涙をつけた殺せんせーへ鉄拳を落とした烏間先生はため息まじりに言った。
眉間の皺が深い。
「いつだったか…たしか期末テストの時、挨拶を交わした程度。それ以降は特に会っていない」
まるで事情聴取のようにみんなに囲まれイトナくんと僕に言葉をメモられ居心地がどこか悪そうにも見える。
俺の話は終わりだと囲ってきてるみんなを解散させた烏間先生。
「俺は会議中に五英傑を口で負かせてるのを見たことがある」
「浅野とよく一緒にいたかな」
「あの子って総会とかで予算案とか読んでる子だよね?」
「清水と無駄に仲がいい?」
「よく一人でいるような…」
「たしか、二年の成績一位じゃなかったかな?」
「体育祭!抜かれて俺二位だった!」
「五英傑と仲いいってことしか…」
風評、実体験、みんなが口々に小林くんについて知ってることを言ってネタがつきた。
清水くんと浅野くんだけではなく五英傑とも仲が良く、運動も勉強もできる。当たり障りのない事実。
みんなは、次に標的を移した。
「…アタシはあの子のこと知ってるわけじゃないわ」
ぷいっと顔を逸らしたのは二番目に回されたからかそれとも違う意味があったのか
ビッチ先生の声色はどこか沈んでる。
「名前もさっき初めて知ったの」
「けどビッチ先生アンタって言ってたよね?」
矢田さんの問いかけにビッチ先生は息を吐いた。
どこか重い空気。
みんなが首をひねったり眉をひそめたりしている。
状況を動かしたのはやっぱりビッチ先生だ。
ヒールの音をかつかつと響かせて教壇に上がるとチョークをとった。
「私が聞いたのは登場人物が三人の話しよ」
唐突に切りだされた言葉にみんなは反応できず続きを待った。
「あの子は彼と彼ともう一人なんて言ってたけどわかりづらいからA、B、Cとするわね」
黒板に書かれた3つのアルファベット。
僕たちは椅子に座って黒板を真剣に見つめる。
ビッチ先生は思い出す人特有の左側に視線を向けてから口を開いた。
「彼はひとりひとりの説明…なんていうのかしら、彼から見たその子たちについて語っていたわ」
順当に行きましょうかしら。
ビッチ先生はまずはAと口にした。
「Aは昔、色白で可愛らしい女の子のような子でコンプレックスになるほど間違えられていたそうよ。性格は、支配者というよりツンデレ?って言ってたかしら」
がたっと音を立てたのは竹林くん。
先生!一重にツンデレといっても種類があります!どんなツンデレなんですか!?
ビッチ先生は目を一瞬向けてから何事もなかったかのように僕たちを見る。
「今は目つきが悪くて小難しい顔をしてるらしいわよ」
「なにその劇的ビフォーアフター」
真顔の杉野の一言にみんなは頷いて僕やイトナくんはメモを取る。
このAについてわかったのは男であることと、目つきが悪いことくらいだ。
昔のことは予備知識程度だけど、昔それだけかわいい顔をしてたなら、今も面影はある人なのかもしれないと端にメモる。
ビッチ先生は僕とイトナくんがシャーペンを止めたことで次ねと零した
ただ、その顔色は少し悪い。
中々話し出さないビッチ先生に神崎さんが声をかけた。
「…そうね、話さないと。……Bについて、私は予想してるけど、先入観は良くないわね」
「先生?」
「……Bは昔、くせっけな髪を短めにしてる無表情で不器用な偏食家だったの」
誰だろうかと僕たちは首を傾げ、続きを待つ。
観念したかのように吐いた息にまじり、先生は濁した先を口にした。
「今は、はりつけた笑顔に管を巻くような話し方のやつですって」
「え」
ばっと顔を上げた何人かにやっぱり、そうよねと持ったチョークでBの下に清水と書き足した。
「小林くん、清水くんについてはそれ以上何も言ってなかったの?」
茅野の質問にビッチ先生はまた視線を左にして、そういえばと零す。
「思い出したみたいにつけたして、少し、おかしい?子だったって。なにがおかしいかはわからなかったけど…本人は自覚ありだったらしいわ。あと、小林くんにとってはよく合う相手だったとかなんとか…」
「なにそれ?意味わからん」
「いきなり自己紹介もされないでこんなこと聞かされた私のが意味わからなかったわよ!」
ふんっと鼻を鳴らしてそっぽ向いた先生はなんで私がこんなことをしなきゃならないのよと怒ってた。
矛先は小林くんにか、それとも清水くんにかな
「まぁ、いいわ。ただ、次はちょっと…
結構ややこしくて、他とは違う説明をしてたのよね」
少し悩んでから、後々出てくるからとチョークで黒板にDと付け足した。
「登場人物増えんの?」
「え?ええ、一応、説明するのにこっちのが楽だと思うし…」
書き終わったチョークを置いて先生は僕達を見た。
顔色は悪くないけど表情はBのことを語った時とはまた別の意味で難しそうだ。
「Cについて、小林?は嫌い、苦手と最初から隠すことなく言い切ってたの。それは話が進むにつれて、AやBも普通なら関り合いにならないような子だとも」
どれだけ嫌われるような人なんだろう
Aが誰なのかわからないけど、清水くんとあの小林くん…といっても表面的にしか彼を知らないんだけど、交友関係がよくわからない小林くんが嫌いになるなんてよっぽどな気がした。
「Cはいつでもにこにことしていて、誰からも愛されるように仕向けてる、それでいて周りに愛されている子。それを小林はとても歪んでいる子だって表現してたわ」
少し前にもあった、がたっと音がして、立ったのは不破さんだった。
なにそれどこの王道転入生?!ktkr!
なにかの呪文を吐いた不破さんを僕達も先生も流すことにしたらしい。
けど、そんな子が本当にいたのなら、他の人はどうかわからないけど僕は嫌いとは言わないけど苦手くらいには思ったかもしれない。
それも実際にあってみなきゃわからないし、僕もその愛してる周りの人の一部になっちゃうかもしれないけど
「そんなCと出会った小林、A、Cは最初にいったとおり、関わりたくなかったけど事情により関わることを余儀なくされた」
「事情って?」
原さんの質問にビッチ先生は困ったような顔をして私も聞いたんだけどと眉をひそめた。
「濁されたのよ。なんだったかしら、…私が気づいたら…違うわ、“貴方達が気づいたまたその時に、話すから”って。」
今思うと、まるでこうなることがわかってたみたいで気味が悪いわね。
まったくだとたまってたつばを飲んだのは僕だけじゃなくて大きく音が聞こえた。
「話を戻すけど…そんなCは、みんなに愛されていたけど、Dに恋をしたの。」
「ラブコメ?」
「まぁ聞きなさいって。CがDに恋をしたことを周りは気づかなかったけど、小林はその視線の意味に気づいた。Dのことを小林も好きだったから」
「三角関係wktk」
「わく…え?あ、ええと、けどそのDには別に好きな人がいて」
「四角関係だとおおお?!も・え・て・きましたぁぁぁぁ!!!」
荒ぶる不破さんに周りは一歩引いて、ただ恋愛話ってことに女子は少なからずとも喰い付き殺せんせーはにやにやしながらメモを取ってた。
「そうよね、やっぱりこう反応したくなるわよね」
「続きは!続きは!?」
「ないわ。そこで小林は話を終わらせたから」
落ちがないよおお!言い出しっぺの法則!!!と崩れた不破さんを見てから僕は手元のノートを見る。
ABCDと出てきた人たち。
なんとなく、本当になんとなくだけど、Cと、Cに好かれてるDが、重要人物な気がした。
「さて、色々と気になる言葉がたくさん出てきましたね」
殺せんせーは黒板を眺めて笑う。
「まず、敵を倒すには敵を知ることから!」
ふにょんっと黒板を叩いた触手に示しがつかないのはいつものことで、何班かに分かれて行動することになった。
期限は二日。緊急報告は律を通して。
捜索内容は大きく分けて
A、B、ひいては清水くん、C、Dについて。小林くんについて。
僕達は、どこまでやれるだろう
いない、いない。いない。いない、いない、いない。いない、いない。いない。いない、いない、
いない。
僕の―さんがいない。
どこ、どこだ。どこに隠した。
僕の邪魔をする奴は×したはずなのに、―…ああ、まだ、逃げ隠れてる奴がいるのかな?
誰だ?どいつだ?×しないと
昔から僕の邪魔をする無力な薄紫は姿をくらませて、薄緑はすでに手負い。あとから仲間になった四人のうちの二人はまだ目が覚めてない。残りの二人、こいつらに出来ることなんて無い
新しいあの人のクラスのやつら?
なら、残りは明白
早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、早く、
―さんを×したい
そのためには、
邪魔する奴を、全員×さなくちゃ
そうしたら、貴方は僕を見てくれるでしょ?
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