暗殺教室



一学期の総仕上げとして、この椚ヶ丘中学校に限ったことではなく大多数の学校では期末テストが行われる。

そしてそれは迫害されているE組も勿論例外などではなく試験が実施されるのだが、今回総合、五教科において一位を取った者がいた場合、その分殺せんせーの触手を一本破壊する権利を獲られる。

そのこともありトップランカー達は勉強へ熱をいれていた。

僕も殺せんせーから期待を持たれているようだ。

参ったね






A組が全員集結して自主勉強会を開いてるんだ

こんなの初めて見る

音頭を取る中心メンバーは“五英傑”と言われる椚ヶ丘が誇る天才達だ

中間テスト総合2位
放送部部長・荒木鉄平

中間テスト総合3位
生徒会書記・榊原蓮

中間テスト総合5位
生物部部長・小山夏彦

中間テスト総合6位
生徒会議長・瀬尾智也

そして…
中間テスト1位
全国模試1位
俺達の学年で生徒の頂点に君臨するのが
生徒会長・浅野学秀


会議室を覗きながら杉野との連絡を行う。

集まったA組生達は五英傑の面々と勉強を始めていた。

教師よりも優秀な五人がいればA組の生徒の成績はどこまでもあがるだろう

「心配してくれてんだろ?でも大丈夫。見ててくれ頑張るから」

そのわりに自信に満ち迷いのない杉野の返事に口元が緩んだ。

「勝手にしろ。E組の頑張りなんて知ったことか……なっ」

嘘だろ、なんで彼奴がここにいるんだ

「進藤?」

電話の向こうで不思議そうな杉野の声が聞こえてきている。

「…五英傑よりも…ヤバイ奴が来たぞ」

「は?」

そいつは会議室の扉を開け中に入った。

A組生達の歓喜の声が聞こえる。

呆けたそいつは浅野の姿を見つけ息を吐き嵌められたみたいだと笑う。

「誰が来たのかしんないけど…切るぞ?」

「ああ…気を付けろよ」

「ん?おう?」

通話を切った電話をポケットへしまい中を盗み見見る。

まさか、もうA組生じゃない―――が来るなんてな






やっと会議室へ来たのは指定した時間から3分程経ってからだった。

手にはストローのさされたコーヒー牛乳があってどうせ購買に寄り道してたんだろう

周りを視界にいれ一度動きが止まり、僕を見て嵌められたみたいだと笑った。

『僕は個人的な勉強会をしたいと聞いたから来たわけなんだけどまさかA組の皆がいるなんてね。まだ半年も経っていないけど毎日のように合わせていた顔を少しの間見ていなかったから久しく感じる。元気なようで嬉しいよ。しかし何故歓声が上がったのか不思議でならないね、僕はそんなに人気が高かったのかな?自惚れるわけではないけどそう思ってしまう。
それはそうと結局のところこれは僕は嵌められたってことでいいのかな?僕を呼び出した張本人である浅野学秀?』

「嵌めただなんて人聞きが悪いな。言ったよね勉強会って」

笑ってみせればそうだったねと昴は笑んだ。

「久し振りー」

「清水くん!」

クラスメイト達は突然登場した昴に表情を明るくし挨拶を交わす。

E組生徒を差別し侮辱している彼らだが、現E組生徒の昴にはそんな感情はない。

「清水ここ教えてー」

『君は相変わらず関数が苦手みたいだね。ああ、でもこれは応用かな。僕でいいのならば解くのを手伝うよ』

「次、私に和歌の解説して?」

『構わないけど…待たせてしまうのはなんだか忍びない上に僕じゃなくても榊原蓮や浅野学秀でも解説してくれるとは思うけど』

「その間に違う問題解いて待ってるね!」

昴の人気は衰えていないようでひっきりなしに声がかけられる。

たしかにこのクラスは勉強一番でありその勉強だけを究めるために少し性格がひねくれていたり人付き合いが苦手な奴もいる。
でもそれなりにクラス内には友情なんてものに似たものがあり、それは中心を昴としていた。

僕達もただの中学生で、友達だってほしい年頃だからな

「清水、こっちも」

今回勉強会だなんていって呼んだがそれは口実にしか過ぎない。

『どうして君まで僕に聞くのかな?たしかに君の分野は国語で今行っているのは理科だけどね?理科ならば小山夏彦に聞いた方が確実だと思うよ榊原蓮』

「いいからいいから」

「じゃ、俺ここ」

「清水これなにー」

「ここってさー」

教える側のはずの彼ら五英傑も昴の周りに集まり教材を開く。

ほらね、ただの久し振りに友達に会って盛り上がる中学生だ。

呼び出した本当の理由はもう昴にバレているだろうけど彼に隠し事なんてできないから別に問題はない。

「君たちまで教わってたら進まないだろ?」

苦笑した僕に昴も同じように笑み、四人は不貞腐れるかのように眉間に皺を寄せて見せた。

「そうそう」

「清水くん教えてー!」

クラスメイト達も笑い手招く。

昴は僕と視線を合わせると唇を動かしてから呼んだ生徒の方へと向かう。

やっぱり昴がいなければこのクラスは駄目になりそうな気がした。






浅野学秀に嵌められるぎりぎりのラインで呼び出された勉強会は一時間ほどで終わった。

久々に彼らと会って話をしたけれど二年、三年同じクラスだった人もいるわけだから少し僕自身も楽しかったよ。

榊原蓮達に図書室で勉強するから一緒にどうかと聞かれたけれど丁重にお断りし、浅野学秀が理事長室に行くというからより丁寧に辞退した。

僕にはやることがあるからね

事前に教えてもらっていた住所と店名を頼りに歩いていくと看板と階段があり一段ずつ登っていく。

「おっせーよ清水」

「その遅刻癖直しなよ」

「またコンビニ寄ってたんだろー」

上がりきった場所にある扉を潜りこれまた事前に伝えられていた部屋番号を店員さんに教えるまでもなく丁度飲み物を取りに来ていた狭間綺羅々、吉田大成、村松拓哉に出会った。

『遅れてしまって申し訳ないね。これでも寄り道せずに急いで来たんだよ?ただ思っていた以上に呼び出された内容が長引いてしまって中々終わらなかったんだ。それはそうといきなり誘われて驚いたよ。てっきり君達は僕のことを嫌っていると思っていたから校舎の裏に呼ばれた時は痣の一つくらいは覚悟したなんていうのは冗談だけど腹を決めたところだ。それが僕に勉強を手伝って―…』

「バレる!バレるから!」

「言うなよ!ダメだ!」

「まぁ、今は誰もいないからいいけどね」

吉田大成と村松拓哉に口を塞がれ狭間綺羅々にため息をつかれる。

今日僕が浅野学秀に呼び出され遅れた理由は購買によっていたからなんて理由のひとつだが、一番は彼らに呼ばれ話をしていたからだ。

村松拓哉が僕の分の飲み物、何故かはわからないけれどカルピスを注ぎ吉田大成に背中を押され個室に入った。

「清水おせーぞ」

小さなテーブルの上に人数分のノートとほぼ使っていないのか綺麗な教科書が二冊開かれており、床には寺坂竜馬が座っていた。

「時間ないし早く座りなさいよ」

狭間綺羅々に急かされ寺坂竜馬と村松拓哉の間に腰を下ろし鞄の中からルーズリーフを纏めたものを取り出す。

ぱらぱらと中身を確認してからそれを足元に置いた。

「お、なにそれ」

『最終兵器のようなものかな?今は秘密だよ』

これを今の彼らに見せてしまってもきっとわからないだろうからね

『まず最初に確認をしておくけれど今日僕が呼ばれたのは君達が期末テストにおいて家庭科科目で学年一位を取るための勉強を見るということでいいんだよね?』

「ああ、一泡吹かせてやりてーんだよあのタコに」

彼らの着眼点は中々だと思う。

返事に笑んでから自前の4月に受け取った時のままの教科書を手に取り開いた。

『少し蛇足になってしまうんだけどね、まず本校舎の家庭科担当教師である安井直道の試験出題傾向は全ての範囲隈無く出すのではなくどちらかというと基礎より応用、それも少々マイナーな部分を出すことが多いってことかな。今回の試験範囲は調理とミシン縫いあたりだね、ミシン縫いにおいては教科書の重要語を暗記さえ出来ればなんとでもなる。けれど問題は調理の方だ。彼はオリーブオイルを多用するんだが実習においても教科書通りの料理よりもオリーブオイルを使う料理を優先的に作る。また、最後の問ではオリーブオイルを使った料理について聞いてくることやレシピ案を聞いてくることがある、厄介なのはやはり調理の分野だね』

「ふーん、そうなの?」

狭間綺羅々はもっとも早く理解したようで頬杖をついていた。

僕はミシンの分野と調理の分野の始まりのページに折り目をつけ別に用意していた二冊の本を取り出しテーブルの上に置く。

『僕が用意できたのは今この二冊だけでとても申し訳ないんだけど少しは役立つと思うよ。これは君達に渡しておくね』

「オリーブオイル尽くしじゃねーか」

渡した料理本はオリーブオイルを使った料理についての本で、あの家庭科教師が使っている物とまったく同じものだ。

先程確認もしておいたから確実でもあるよ






「つか、清水って家庭科できんのか?」

勉強を始めてノート11枚分使ったところでコーラを飲んでいた吉田大成が話題を振った。

飽きてしまったのかな

『その質問ではさまざまな意味合いに取れるんだけど、授業においてでかい?授業でならば僕は普通じゃないかな。可もなく不可もなく、4人一組で実習を行っているんだけれど何においても僕は出来上がるのも見映えも4人の内で二番手三番手だ。全て人並みだよ』

笑っていえば松村拓哉も顔を上げた。

「へー、清水が普通か」

「意外って言ったらいいのかしら」

狭間綺羅々の言葉に寺坂竜馬以外は頷き、僕はまた笑む。

普通、大多数、そんな平均で普遍な存在というのははっきりと言えば存在するようでしていない。

平均も最大と最小があるから出せるものであり、最初から真ん中なんて存在しない。つまるところ、普通なんていうものは全てが出揃い順番に並べた真ん中、もしくは真ん中から決められた範囲内の物を指すため“僕は普通だ”なんていう表現は厳密に言えば間違いだ。

レッテルなんてすべてを見てきた他者が勝手に決める物だと思うからね

けれど普通という響きは嫌いではない。

「あ、もうそろ時間」

松村拓哉の言葉に時計を確認している三人。

僕も時間を確認すれば僕がここに来てから既に二時間以上経っていた。

僕が来る前からいたことを考えれば三時間パックという料金の安いコースで入ったから時間なんだろう。

広げていた教材を片付けたりまだグラスに残っている飲み物を飲み干したりと慌てる四人を僕はみつめていた。






『どうかしたのかい?』

「………」

彼ら四人と別れた後に掛かってきていた電話を折り返してみればどうやら近くにいたらしく合流し自宅に連れ込まれた。

彼は自室のベッドに座り抱きついてきている。

先程から声をかけてみるが無言しか返ってこず困っていた。

僕はなにかしてしまったのかな

抱きついてきている彼の綺麗な髪を指先に絡めていれば僕の腹に押し付けていた顔をあげた。

「昴、今回の試験どうする気」

気丈な紫石の瞳は真っ直ぐ僕を捉えていて再度彼の髪をすく。

『どうするか…僕もまだ考えていてね。最近ではE組にいると落ち着きを感じることも増えてきた。けれど同時に、A組が恋しく感じることもないとは言えない。どちらも素敵なクラスだから出ていくにしても戻るにしても辛いね』

「…僕は、まだ許せないけど、皆多分待ってるよ。」

『……そうだね、僕もそう思っているよ。何時かはまたちゃんと君達と勉強がしたいし何よりも話がしたい。勿論君にも許してもらいたいけどね』

睨むようで泣くのを我慢しているようにも見える表情をする浅野学秀の目元にかかる髪を撫で退かせば、彼はゆっくりと瞼を下ろし顔を僕の胸に押し付けた。

「……まだ当分許さない。でも待っててあげるよ」

『それはとても嬉しいね。ありがとう』

ベッドに背中から寝転がり布団に体を預ければ抱きついていた彼も同じように寝転び、気づけば二人で眠りについていた。



前期期末テストはただでは終わらないような気がした。




.
15/34ページ
更新促進!