暗殺教室
「あれ?清水くん今日何持ってるの?」
『ああ、これのことかい?』
ふと隣を歩く清水くんがいつもはない紙袋を持ってるのに気づいた。
清水くんは笑って紙袋を開いてみせる。
中にはかわいい布袋とその上に箸箱が入ってた。
「え、お弁当?」
その通りとでも言いたげに頷いた清水くんは紙袋を下ろした。
「袋、かわいい柄だね」
隣にいたカルマくんがにこり?と笑う。
『君もそう思うかい?実は僕も同じことを思っていたところだ。
一応弁解をしておくと全くもってこれは僕の趣味ではないからね?たしかにこういったものを可愛いとは思うけど好んで、というか日用品として利用しようとは思わない。僕はそこまで一般的に可愛いといわれる物が好きなわけではないからね。』
カルマくんの茶化しをあっさりと笑顔で全否定した清水くん。
なんだろう、笑顔が怖いよ
「そ、そうなんだ?」
清水くんの圧力に僕は苦笑いをしてればひょいと赤い髪が覗いた。
「そしたらそれ誰の?」
笑顔で背筋がぞっとするこれは、ろくなことないこと考えてない気がする。
清水くんは何時も通り笑った。
『なんでも朝食を多めに作ってしまって余ったから、目についた僕に残飯処理の役目を押し付けたんだそうだよ。誰の?と問われれば知人のもの。とだけ言っておこうかな』
知人?
首を傾げた僕とは対照的に、カルマくんはなにかに納得したような微妙な顔をした。
「ちょ、それ清水の手作り?!」
まさかとでも言いたげに目を丸くしたのは隣から中を覗きこんだ松村くんで、その大きな声に僕も含めクラスにいる皆が振り返った。
松村くんより横にはいつもとは違ってお弁当箱を開き食事をしてる清水くんがいて、必然的に皆はお弁当箱の中を覗きこんだ。
「…………可愛すぎか!?」
男子中学生が持つにしては少し小さめのお弁当箱はどちらかというと茅野たちが持つような大きさで、中には小さめのおにぎりが二つとその周りを彩るようなおかずが並んでた。
先を切って綺麗に丸まるように焼かれたタコさんウィンナー、細長めのプチトマトを斜めに切ってくっつけハート形に整えて、真ん中にアスパラ、周りに小さいウィンナーをお肉で巻いて花に、隣の輪切り人参も花に型抜きされてるし、
いや、それより何よりはいってるおにぎりだ。
「なにこれ超かわいい!」
「リ●ックマ!リラッ●マだね!」
周りの女子は我先にと写真を撮って松村くんを除いて感嘆してる。
「清水くんキャラ弁好きなの?」
写真を撮りおえたのか神崎さんが清水くんに問いかけた。
『………―、あぁ、ごめんね、なにか言ったかい?神崎由希子。申し訳ないんだけど話なら後にしてもらえると助かるよ。今は考え事をしていてね、少し君と話せそうにない』
「ちょ、清水くんがなんかめっちゃ遠い目してる!」
「こんな清水くんみたことないんだけど!」
どこか遠くを見てる清水くんは何を見てるのか全くわからないけど、ふと見た右手に小さく折りたたまれた紙があって少し気になる。
「清水くんの家は可愛もの好きなの?」
『ああ、そういうわけでは決してないけど…可愛い物は嫌いではないと思うよ。僕も、恐らく、僕の家もね』
目を逸らした清水くんに違和感を覚えたものの、可愛いお弁当に注目を取られた殺せんせーと物珍しさにビッチ先生が乱入してきてそれどころじゃなかった。
inside
眠気を堪えて目を擦る。
通学路で学生も多いからあまり目立たないように短く俯いて欠伸をこぼしてから前を見た。
片手に普段はない手提げ袋を揺らしながらいつもの道筋を通って一つ手前の角で曲がる。
開けた視界にすでに来ていた二人は片方はもたれ掛かっていた壁から離れ、片方はしゃがみこんでた足を伸ばした。
「昴、眠たそうだね」
「清水くん夜ふかし?」
『それを君たちが聞くのかい?僕がどうしてこんなにも眠そうにしているのかは君たちがよく知っているだろう?』
ふふっと笑う浅野学秀にころころと笑う小林兼治両名に息を吐いてからそれぞれの目の色と同じ袋を差し出す。
『まぁ、別に怒っているわけではないよ、ただ少し、一時間ばかり睡眠時間を削られただけだからね。ああ、言っておくけれど見栄えも味も保証はしないよ?当日ではなく前もって言ってくれたのはまだ有難いけれど、欲を言うのならば下校前に言っておいてくれれば良かったのに。帰り道にスーパーマーケットによることも出来たというのに君たちは何を考えているのかもうどこの店も閉まっているであろう八時過ぎにそんなことを言い出すんだから。コンビニエンスストアの材料だけで作れだなんて、これを無茶ぶりと言うんだよ』
「だってー」
頬をふくらませながら紙袋を受け取った小林兼治に寝不足のせいかほんの少々頭に痛みを感じた。
『いつも言っているだろう?“だって”は言ってはいけないよ、小林兼治。』
「うー、…清水くんの作ったご飯食べたかったんだもーん」
紙袋を大事そうに両手で抱え笑う様子にそれ以上なにかをいう気にもなれず息を吐く。
吐いたところですっかり黙っている浅野学秀に不自然さを感じて顔を上げれば目があったあとに紙袋をつきつけられた。
さっき僕が渡した薄紫色ではなくて藍色の袋に首を傾げ受け取る。
言葉の先を促すように見つめればぷいっと顔を背けられた。
「どうせ僕達の分だけで自分の分は作ってないんだろ?」
「わー、珍しい、浅野くんが作ったの?」
「ち、違う、…これはその、朝ごはんが余って勿体無いから、昴はどうせ昼ご飯持ってないだろうし、そう、残飯処理を命じよう!」
朝一で慣れないことをしたらしい浅野学秀はテンションが高いようで随分とキャラがブレている。
「浅野くんどーしたの?」
まぁ、それを言ったら小林兼治も若干作るのを忘れているようだからお互い様なんだろうが。
時間を忘れて喋っていたせいか一本向こうの通りからは集まり始めた生徒たちの声が聞こえはじめてる。
『……―二人とも、大丈夫かい?』
思わずかけてしまった言葉に浅野学秀は目を丸くしてから眉間にしわを寄せ、小林兼治は逆に細めていた目を丸くした。
「…大丈夫に決まってるだろ、僕を誰だと思ってる」
「あ!帰りは一緒に冷たいもの食べいこうね!」
「また冷たいものばかり食べて…。僕はもう行くけど、昴、小林、遅刻したら承知しないからね」
ため息をつき、すたすたと先を歩きはじめてしまった浅野学秀に苦笑を浮かべれば小林兼治も笑い、渡した紙袋を持って駆け出す。
二人を見送ってからまた出てきた欠伸を噛み殺してから歩きだした。
ああ、
お昼時に弁当箱を開けた時の彼らの反応を直接見られないことを少し残念に思うよ。
(ただでは転ばない清水くんと考えることが似てる浅野くんの話。withE組。二年前の書きかけをリメイク
清水くんが持ってた紙の内容は想像にお任せします。
ヒント:小林はその裏をかいていく愉快犯)
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