あんスタ(過去編)

その男は俗物ではなかった。

僕の目から見ても整っていると認識する人間はこの学園ないで少なくはなかったけれど、あれはそう、常に手入れされて最高の音がでるように調整された楽器のようなイメージ。

あれが楽器で、僕が目指すものが綻び一つない人形だから、きっと波長が合ったのだと思う。


【紅紫一年・春】


新入生が入ってくる四月にはどう足掻こうとも部活動見学が行われていて、ぞろぞろと喧しさを覚えるレベルで部外者が入ってくる。青葉はもてなそうとお茶を出す傍らで同じく新入生ではあるけど既に在籍を決めている影片がわたわたとそれを手伝っていた。

見学に来た新入生は十数人。はたしてこの中の何人が在籍するのかはわからない。

部活どころか今のこの学園で一年保つかどうかも怪しい新入生から意識をずらし、手元の衣装に針をさし、糸を通す。

不意に視線を感じて、大袈裟に見えない程度視線を上げて元を探す。ばちりと赤色の瞳と目があった。

深く澄んだ瞳はなにかの宝石のようで最奥には闇を感じさせる仄暗さ。僕が何か言うよりも早く、人好きさせるような柔らかな笑みを浮かべたそれは小さく頭を下げてきたから目を逸らした。そんな僕の行動やそれの行動に気づいた者はおらず、故に誰一人として咎める者なんていない。

事前に指示していた通り作品を並べた後、もしよければ好きに使ってくださいと針や布を広げる。僕も手元の衣装に視線を落として、針をさした。



「たくさん見にきてくださりましたね!何人入部してくれるんでしょう!」

「ふん、ただの冷やかしに決まっているだろう。残りはしないだろうし、籍を置かれるだけというのも目障りだ」

「うんん、たしかに部活はたくさんありますから仕方ない部分はあると思いますが…」

新入生に見せる為広げた作品たちを丁寧に畳みしまう青葉は息を吐く。

くだらないと吐いて視線を落とし、仮縫い状態の衣装にミスがないか視線をなぞらせる。

「――くんはご自身で巾着や手提げ袋を作っているそうですし、――くんもぬいぐるみを作成されるのがお好きなんだとか!」

全く聞き覚えのない名前をぽいぽいと出していくが脳は認識する必要がないと感じたらしく抜けて落ちていく。仮縫いは問題ないから明日にでもミシンにかけよう。

「明日にはご自身で繕われた物をお持ちしてくれるみたいですし、僕達も負けていられませんね!」

「……はぁ。全く、喧しいね」

「ええ!なんでですか!?」

大袈裟なくらいに声を上げて動揺するから息を吐いて衣装をしまった。

そういえば、あれは明日も来るのだろうか
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