長次の姉は時に優しく時に厳しい
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新学期から早三ヶ月が経過した。
週末の三連休を使い、壱華は長次と共に自宅に帰ろうと町を歩いていた。
「父上と母上にお土産を買って行こうよ。何がいいかなー」
物色しながら歩けば、長次が卵屋の前で足を止める。
「長次? 卵を買うの?」
「ボーロを作ろうと思う。小麦粉と砂糖も買いたい」
「それいい! 二人ともまだ食べたことないんだもんね。じゃあ私は砂糖を買うから、小麦粉もお願いしていい?」
壱華の提案に頷いた長次は、早速卵を購入し小麦粉の店へ移動した。
あとは砂糖だが、この時代は高級品でいくらか値が張る。
果たして手持ちは間に合うのか、長次は姉をうかがう。
すると壱華は彼の心配をよそにすんなり代金を支払い、砂糖を手に入れた。
少々驚く長次を見て、口角を持ち上げる。
「先月の実習場所、すごく繁盛してる店でね。給金も結構貰えたの。長次は何か欲しいのない?」
何でも言ってね、と弟に買ってあげる気満々だ。
昔からではあるが、さすがにこの歳で姉に購入してもらうのは恥ずかしい。
「特にないから大丈夫だ」
「そう?」
「そこの兄さん、妹さんに何か買ってやらないかい?」
目当ての物を買えた二人に、反対側の露店から声がかかる。
振り返るも、今何と言われたのか。
壱華は怪訝な顔でつつつ、と露店の店主に近付く。
「あの、今何とおっしゃいました?」
「何か買ってやらないかって声かけたんだ。近くで見るとなかなか別嬪な妹さんだね」
店主は様々あるから見るだけ見て行ってよと告げる。
やはり聞き間違いではないと確信した彼女は、胸に手を当て訴えた。
「私はこの子の姉です! 妹じゃなく姉! 私の方が大人びて見えるでしょう?」
首を縦に振らせようと圧力をかけるので、長次は慌てて止める。
「姉さん落ち着け。店主に圧力をかけるな」
「いやいやすまん。てっきりこちらが兄さんかと思ったよ」
苦笑する店主だが、壱華はまだ不満げだ。
「私たちは手持ちが底を尽きたので失礼します」
間違えられたのが納得いかないのか、足早にその場を去る。
実はこんなこともしょっちゅうで、長次はまたかと後を追おうとした。
「あれ中在家先輩? 奇遇っすね」
「もそ…きり丸。土井先生も」
背後から呼ばれた長次は、振り返り図書委員会の後輩であるきり丸と教師・土井半助に軽く頭を下げた。
「私たちは長屋に帰るところなんだが、長次もか?…壱華は一緒じゃないのか?」
半助はいつも長次と共に帰っているはずの壱華の姿が見えず、辺りに目を向ける。
すると前方からその彼女が走ってきた。
「長次! ああよかった。後ろを見たらいないんだもの。迷子になったかと思って焦ったじゃない。あれ、土井先生ときり丸。奇遇ですね」
六年生の長次が迷子になるわけはないのだが、彼女は何歳になろうと弟を心配する過保護な姉である。
「迷子って…」
きり丸はえー、と若干引き気味だが半助と長次は慣れているので流してしまう。
「買い出しも終わったから、これからきり丸と長屋に帰るところなんだ」
「そうなんすよ。土井先生は二週間前にも一人で帰ったんですけどね。ぼくはバイトと委員会があったから残ったので、ちょっと心配なんですよ」
二週間前の連休、図書委員会は在庫の入れ替えを行ったのだ。
年に数回やるこの作業は、壱華や他のくのたまも手伝うことがある。
それはいいとして、きり丸の言う心配とはなんなのか。
壱華は思い立ったことに、まさかと視線を半助に向ける。
すると明後日の方を向くではないか。
「土井先生……どうして目を逸らすんですか? 何かやましいことでも?」
「え? いやそんなことはないよ。ハハ」
明らかに様子のおかしい半助を見て、壱華は確信した。
「私たちも土井先生の家にお供します」
「「えっ!?」」
半助ときり丸の声が被る。
「いいよね、長次。じゃあ行きましょう」
壱華は土井半助の長屋へ、勝手知ったるが如く一人さっさと向かうではないか。
彼女が半助の長屋を訪れるのは実は今回で二度目になる。
一度目は壱華と長次がまだ一年生の頃で、その時受けた衝撃を二人は忘れていない。
唖然とする三人を置いて、壱華はずんずん先を行く。
長次は参ったと額に手を当てたあと、半助に詫びた。
「…土井先生、すみません」
「ハハ…仕方ないな。壱華は一年生の頃から世話焼きだからね。私の家のことは気になるんだろう」
半助は町で壱華と会った時点で予感はしていたので、あまり動じていない。
「え、じゃあ壱華さんて土井先生が壊滅的に片付けできないことを知ってるんですか?」
「ああ。五年も前にな。あの時も…」
半助は再び歩き始めると五年前を思い出す。
週末の三連休を使い、壱華は長次と共に自宅に帰ろうと町を歩いていた。
「父上と母上にお土産を買って行こうよ。何がいいかなー」
物色しながら歩けば、長次が卵屋の前で足を止める。
「長次? 卵を買うの?」
「ボーロを作ろうと思う。小麦粉と砂糖も買いたい」
「それいい! 二人ともまだ食べたことないんだもんね。じゃあ私は砂糖を買うから、小麦粉もお願いしていい?」
壱華の提案に頷いた長次は、早速卵を購入し小麦粉の店へ移動した。
あとは砂糖だが、この時代は高級品でいくらか値が張る。
果たして手持ちは間に合うのか、長次は姉をうかがう。
すると壱華は彼の心配をよそにすんなり代金を支払い、砂糖を手に入れた。
少々驚く長次を見て、口角を持ち上げる。
「先月の実習場所、すごく繁盛してる店でね。給金も結構貰えたの。長次は何か欲しいのない?」
何でも言ってね、と弟に買ってあげる気満々だ。
昔からではあるが、さすがにこの歳で姉に購入してもらうのは恥ずかしい。
「特にないから大丈夫だ」
「そう?」
「そこの兄さん、妹さんに何か買ってやらないかい?」
目当ての物を買えた二人に、反対側の露店から声がかかる。
振り返るも、今何と言われたのか。
壱華は怪訝な顔でつつつ、と露店の店主に近付く。
「あの、今何とおっしゃいました?」
「何か買ってやらないかって声かけたんだ。近くで見るとなかなか別嬪な妹さんだね」
店主は様々あるから見るだけ見て行ってよと告げる。
やはり聞き間違いではないと確信した彼女は、胸に手を当て訴えた。
「私はこの子の姉です! 妹じゃなく姉! 私の方が大人びて見えるでしょう?」
首を縦に振らせようと圧力をかけるので、長次は慌てて止める。
「姉さん落ち着け。店主に圧力をかけるな」
「いやいやすまん。てっきりこちらが兄さんかと思ったよ」
苦笑する店主だが、壱華はまだ不満げだ。
「私たちは手持ちが底を尽きたので失礼します」
間違えられたのが納得いかないのか、足早にその場を去る。
実はこんなこともしょっちゅうで、長次はまたかと後を追おうとした。
「あれ中在家先輩? 奇遇っすね」
「もそ…きり丸。土井先生も」
背後から呼ばれた長次は、振り返り図書委員会の後輩であるきり丸と教師・土井半助に軽く頭を下げた。
「私たちは長屋に帰るところなんだが、長次もか?…壱華は一緒じゃないのか?」
半助はいつも長次と共に帰っているはずの壱華の姿が見えず、辺りに目を向ける。
すると前方からその彼女が走ってきた。
「長次! ああよかった。後ろを見たらいないんだもの。迷子になったかと思って焦ったじゃない。あれ、土井先生ときり丸。奇遇ですね」
六年生の長次が迷子になるわけはないのだが、彼女は何歳になろうと弟を心配する過保護な姉である。
「迷子って…」
きり丸はえー、と若干引き気味だが半助と長次は慣れているので流してしまう。
「買い出しも終わったから、これからきり丸と長屋に帰るところなんだ」
「そうなんすよ。土井先生は二週間前にも一人で帰ったんですけどね。ぼくはバイトと委員会があったから残ったので、ちょっと心配なんですよ」
二週間前の連休、図書委員会は在庫の入れ替えを行ったのだ。
年に数回やるこの作業は、壱華や他のくのたまも手伝うことがある。
それはいいとして、きり丸の言う心配とはなんなのか。
壱華は思い立ったことに、まさかと視線を半助に向ける。
すると明後日の方を向くではないか。
「土井先生……どうして目を逸らすんですか? 何かやましいことでも?」
「え? いやそんなことはないよ。ハハ」
明らかに様子のおかしい半助を見て、壱華は確信した。
「私たちも土井先生の家にお供します」
「「えっ!?」」
半助ときり丸の声が被る。
「いいよね、長次。じゃあ行きましょう」
壱華は土井半助の長屋へ、勝手知ったるが如く一人さっさと向かうではないか。
彼女が半助の長屋を訪れるのは実は今回で二度目になる。
一度目は壱華と長次がまだ一年生の頃で、その時受けた衝撃を二人は忘れていない。
唖然とする三人を置いて、壱華はずんずん先を行く。
長次は参ったと額に手を当てたあと、半助に詫びた。
「…土井先生、すみません」
「ハハ…仕方ないな。壱華は一年生の頃から世話焼きだからね。私の家のことは気になるんだろう」
半助は町で壱華と会った時点で予感はしていたので、あまり動じていない。
「え、じゃあ壱華さんて土井先生が壊滅的に片付けできないことを知ってるんですか?」
「ああ。五年も前にな。あの時も…」
半助は再び歩き始めると五年前を思い出す。
