長次の姉は学びたい
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ある日、食堂から出た壱華は五年い組の久々知兵助とすれ違った。
これから昼食のようで、隣には五年ろ組の不破雷蔵がいた。
雷蔵と共にいるのは殆どが同じろ組の鉢屋三郎なので、珍しい組み合わせである。
「お疲れ様。もう昼時間終わりがけだけど、授業が長引いたの?」
声をかけた壱華は、他の三人の姿が見えないのも不思議だった。
「「お疲れ様です」」
二人の声が揃ってすぐ、兵助が頷く。
「さっきまで得意武器を互いに交換した上で手合わせをしていたんです。俺は印地打ちで、雷蔵は寸鉄」
「手元に仲間の武器しかなかった場合の対処法を学ぶ…って木下先生は言うんですけど、これが本当に難しいんです。兵助の寸鉄は超至近距離武器だし、僕はそもそも近接戦闘型じゃないから特に…いざとなればそれを使わなきゃならないけど、あぁ困った! 僕にそんな高度なことができるのか…」
どうしようどうしようと悩む雷蔵は、合格がもらえなかったようで落ち込んでいる。
「雷蔵、それはお互いさまだろ。俺だって印地打ちで三郎の尻に当てちゃってしこたま怒られたし」
「フフッ、三郎のお尻に?」
壱華は想像して笑ってしまう。
そこでふと兵助の得意武器が自分と同じ寸鉄なのを思い出す。
当然彼女も近距離戦闘型だ。
これまで苦無を得意武器とする小平太としか手合わせしてこなかったが、せっかくなのだからもっと兵助と手合わせすべきだろう。
実は昨年一度しているが負けており、このままというわけにもいかない。
苦無と寸鉄を得意と自負しているならば、同じ武器を使う後輩には勝ちたい。
「兵助。もしよければ近いうちに私と手合わせしてくれない?」
「いいですよ。来週までは実習が入ってないのでいつでも応じます」
特に嫌がる素振りも見せない兵助に、壱華はならばと提案した。
「じゃあ明日、委員会活動が終わる頃に焔硝蔵 に行くからよろしくね」
「明日は火薬委員会の活動はないのですぐでいいですよ」
兵助はそう言うと、雷蔵と共に軽く頭を下げ食堂へ入って行った。
.
.
.
そして翌日、焔硝蔵 に行くと既に兵助が待っていた。
「お待たせ。じゃあ鍛錬場に移動しようか」
「待ってください。今日は鍛錬場、一年生全員で使ってるみたいですから裏山に行きましょう」
「わかった」
裏山はよく使う鍛錬場の一つで、あちこちに生徒や教師の姿がある。
高確率で見かけるのは体育委員会だ。
上級生ともなると裏山まではすぐで、二人は手合わせの挨拶をすると構える。
二人の得意武器・寸鉄とは、手のひらに隠れるほどの極めて小さな隠し武器で護身具だ。その名前は「一寸(約3cm)の鉄」という意味に由来しており、基本的には金属製の細い棒に、指を通すための輪が取り付けられた構造をしている。
手から離さず使用するので、苦無よりもさらに超近接武器だ。
先手必勝、壱華は瞬時に兵助の懐に入り込む。
右手にある寸鉄の先を押し付けようとしたが、彼の左手の寸鉄がそれを弾く。
(速い!)
ならば反対をと左手を脇腹目掛けるも、兵助は仰け反り躱す。
空振りで隙が出来たことで、壱華は勢いのまま半回転し、回し蹴りを繰り出す。
腕でガードされ、今度はしゃがむと怪我に至らないよう先の丸い方で上に打撃を繰り出す。
右手が腹に入ったものの、左は止められてしまう。
握った寸鉄ごと兵助の大きな手に包まれ、その場から動けない。
「っ!」
彼の寸鉄が指に食い込み痛みが走る。
引けないならばもう一度刺突しとつで叩くしかないが、それは勢いよく弾かれた。
手のひらでくるりと回転する寸鉄が今度は壱華を狙う。
片手が拘束されていて逃げ道がない。
「ハッ!」
防御の構えを取るも、それよりも速く兵助の刺突が顎先を狙う。
「っ、、」
恐る恐る目を開ければ、寸鉄の先がキラリと光るのが見えた。
顎先まで迫ったそれを兵助はゆっくり下ろす。
「…勝負ありですね」
左手も解放した彼は、軽く手首を振ると壱華を見て苦笑いした。
「壱華さんは体術も組み合わせてくるからちょっと焦ります」
全くもって焦っていない様子が少々癪に障る。
だが認めなければならない事実が判明した。
この一年で、兵助は寸鉄捌きを一段も二段も上げている。
速さもあちらが上で、技の繋ぎに隙がなく判断力も高い。
そして何より抑え込まれた場合の力で敵わなかった。
学年が上がるにつれ、男女差は如実に現れてくる。
これは避けられない事実だ。
「…やっぱり手合わせはやめる」
「え?」
何を言い出すのか。
「兵助、私に寸鉄捌きを教えて欲しい。特に一手目から二手、三手と続ける繋ぎを重点的にお願い」
壱華は真剣そのものだ。
普段は比較的柔らかい表情が多い彼女が、きつく口を結び兵助を一身に見つめている。
「……」
彼女はこんな顔もするのかと、一歳上の異性が知らない人に思えた。
しかし同じ寸鉄を得意武器にする先輩に指導などできるのか。
自分の持てる技術を伝えることはできるだろうが、いかんせんやりにくい。
先輩でしかも異性なのだ。
迷いを見せる兵助に、壱華は詰め寄る。
「…時間が限られてるの。私がここで学べるのはあと一年足らず…。卒業までに兵助に勝ちたい。じゃなきゃ得意武器とは言えないよ。だから厳しくお願いします!」
「壱華さん…」
一年ぶりの手合わせでまた 負けたのが悔しかったのか。
それとも後輩が明らかに 自分より上だとわかり余程悔しかったのか。
───ああ、どちらもか
兵助はほんの僅か口角を持ち上げた。
先輩が頭を下げて頼み込んでいるならば、応えないわけにいかない。
「わかりました。ではさっきの動きをもう一度してください。指導中は敬語を省きますよ」
「はい」
壱華は逆に兵助に対し自然と敬語になる。
構えと動きがほぼ同時、壱華は先ほどより速く兵助の懐に入り込む。
当然だが刺突の構えをした右手は止められた。
「初手に必要なのは視線の分散」
「!」
冷静な声が壱華を制し、思わず羞恥で顔に熱が集中した。
最初から指摘されるとは思わなかったからだ。
「俺があなたの初手を止めたのは視線の先を追ったからだ。こうして先に右を狙うなら……」
「!」
兵助は壱華と全く同じ動きをし、右手で彼女の腹に寸鉄を軽く当てた。
「さっきと同じ動きをするとわかっていても、どちらから来るか一瞬迷っただろ? 俺の視線は上向き、構えているのは両手。惑わされたはずだ」
「…その通りです」
悔し気な声だ。
「寸鉄は至近距離特化武器。間合いの中に入らなければ当てるのは不可能。初手で弾かれるとどうしても次に繋げる隙ができる。相手はそこを狙う」
兵助はもう一度構えると初手で躱されたように動き、そこから詰めるにはどうするか一つずつ教えていく。
「あなたは苦無も両手持ちだから、左手も遊ぶことなく全体的な動きはいい。ただ右に比べたら差がありすぎる。利き腕と同等で捌くのは困難だけど、せめてもっと速く手の中で回して次の攻撃に繋げるんだ」
「はい!」
壱華は言われた通り、右で攻撃と同時に左手の寸鉄を回転させほぼ同時に脇を打ち込んだ。
要は攻撃から攻撃の隙を作らないことである。
「よし。次は躱された場合、その体勢のまま両手を前に突いたら一旦離れる…と見せかて下半身を裂く! ここまでもう一度やってみて」
「はい!」
壱華は動きを繰り返し、流れを体に落とし込む。
そのうちに新たな攻撃パターンも組み込み、うまく繋げられなければ兵助の指導が入る。
さらに体術も入れると相当な運動量だ。
兵助はそれに全て応戦してくるので、至近距離での息つく暇もない猛攻に、体力はある方だと思っていても瞬く間に息は上がる。
「ハァッ、ゲホッ、っ…」
小平太との苦無での手合わせともまた違う疲労が襲いかかる。
寸鉄は速さ重視の武器で、どちらかと言えば護身用で咄嗟に使う方が適している。
最初から寸鉄のみで戦うのは自信がなければ相当厳しい。
長く戦えば相当に体力を削られるので、くのいちではこれを得意武器としてる者は少ない。
くのたまでは壱華のみで、だからこそ彼女は男と対等に渡り合うべく寸鉄を選んだ。
だがやはり、幼少期より豆腐片手に寸鉄を自在に回していた兵助には敵わない。
汗が幾筋も額から頬を伝う中、兵助は両手を前に掲げた。
「それまで!」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
荒い呼吸が支配する。
「今日はここまでにしましょう。壱華さん、本当に体力ありますね」
「あり、がとう…ございました」
頭を下げた壱華は、そのまま座り込み仰向けに寝転がった。
「ハァ──…久しぶりに寸鉄だけでここまで動いた。兵助は流れるように動くよね。私はなんかカクカクしてるような、だから止められるのかな」
「うーん…それはたぶん練習始めから豆腐片手にやったからですよ。振動を最小限に、手のひらの中で回しながらこう……この動きが染み付いてるからだと思います」
兵助は豆腐を片手に持つポーズをしながら、左手で寸鉄をぐるぐる回し壱華の周囲を素速く一回りしてみせた。
鍛錬の年季があまりに違いすぎるこの男を超えることはできるのか。
壱華は苦虫を噛み潰したような顔で起き上がる。
苦無では小平太に敵わず、寸鉄でも兵助に敵わない。
せめて、せめて───
ぐるぐると焦りが増していく。
"戦闘技術で男に劣るならば、他を磨けばいい"
くのいち教室教師・山本シナから何度も言われている言葉だ。
わかっている
わかっている
だけどどうしたらいいかわからない
「……さん。壱華さん! 壱華さん!」
「わっ何!?」
目の前に兵助の整った顔があり、壱華は仰け反った。
「だから、そろそろ戻りましょう。動いてお腹、減ってますよね?」
この台詞、そして妙に笑顔の兵助を見れば誰しもわかる。
肯定したら最後、絶対にのってやるものか。
壱華は真顔になり兵助を見据えた。
「俺の作った豆腐…「豆乳が飲みたい」
言いかけた先を遮りねじ込んでやる。
「ちょっと、壱華さん?」
「動いて喉が渇いたから豆乳が飲みたい! 豆乳しか受け付けませーん!」
「ここは豆腐の流れでしょ!?」
抗議する兵助を尻目に、壱華はさっさと学園へ戻って行った。
くのたま六年生・中在家壱華は、豆腐よりも豆乳が好きである。
これから昼食のようで、隣には五年ろ組の不破雷蔵がいた。
雷蔵と共にいるのは殆どが同じろ組の鉢屋三郎なので、珍しい組み合わせである。
「お疲れ様。もう昼時間終わりがけだけど、授業が長引いたの?」
声をかけた壱華は、他の三人の姿が見えないのも不思議だった。
「「お疲れ様です」」
二人の声が揃ってすぐ、兵助が頷く。
「さっきまで得意武器を互いに交換した上で手合わせをしていたんです。俺は印地打ちで、雷蔵は寸鉄」
「手元に仲間の武器しかなかった場合の対処法を学ぶ…って木下先生は言うんですけど、これが本当に難しいんです。兵助の寸鉄は超至近距離武器だし、僕はそもそも近接戦闘型じゃないから特に…いざとなればそれを使わなきゃならないけど、あぁ困った! 僕にそんな高度なことができるのか…」
どうしようどうしようと悩む雷蔵は、合格がもらえなかったようで落ち込んでいる。
「雷蔵、それはお互いさまだろ。俺だって印地打ちで三郎の尻に当てちゃってしこたま怒られたし」
「フフッ、三郎のお尻に?」
壱華は想像して笑ってしまう。
そこでふと兵助の得意武器が自分と同じ寸鉄なのを思い出す。
当然彼女も近距離戦闘型だ。
これまで苦無を得意武器とする小平太としか手合わせしてこなかったが、せっかくなのだからもっと兵助と手合わせすべきだろう。
実は昨年一度しているが負けており、このままというわけにもいかない。
苦無と寸鉄を得意と自負しているならば、同じ武器を使う後輩には勝ちたい。
「兵助。もしよければ近いうちに私と手合わせしてくれない?」
「いいですよ。来週までは実習が入ってないのでいつでも応じます」
特に嫌がる素振りも見せない兵助に、壱華はならばと提案した。
「じゃあ明日、委員会活動が終わる頃に
「明日は火薬委員会の活動はないのですぐでいいですよ」
兵助はそう言うと、雷蔵と共に軽く頭を下げ食堂へ入って行った。
.
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そして翌日、
「お待たせ。じゃあ鍛錬場に移動しようか」
「待ってください。今日は鍛錬場、一年生全員で使ってるみたいですから裏山に行きましょう」
「わかった」
裏山はよく使う鍛錬場の一つで、あちこちに生徒や教師の姿がある。
高確率で見かけるのは体育委員会だ。
上級生ともなると裏山まではすぐで、二人は手合わせの挨拶をすると構える。
二人の得意武器・寸鉄とは、手のひらに隠れるほどの極めて小さな隠し武器で護身具だ。その名前は「一寸(約3cm)の鉄」という意味に由来しており、基本的には金属製の細い棒に、指を通すための輪が取り付けられた構造をしている。
手から離さず使用するので、苦無よりもさらに超近接武器だ。
先手必勝、壱華は瞬時に兵助の懐に入り込む。
右手にある寸鉄の先を押し付けようとしたが、彼の左手の寸鉄がそれを弾く。
(速い!)
ならば反対をと左手を脇腹目掛けるも、兵助は仰け反り躱す。
空振りで隙が出来たことで、壱華は勢いのまま半回転し、回し蹴りを繰り出す。
腕でガードされ、今度はしゃがむと怪我に至らないよう先の丸い方で上に打撃を繰り出す。
右手が腹に入ったものの、左は止められてしまう。
握った寸鉄ごと兵助の大きな手に包まれ、その場から動けない。
「っ!」
彼の寸鉄が指に食い込み痛みが走る。
引けないならばもう一度刺突しとつで叩くしかないが、それは勢いよく弾かれた。
手のひらでくるりと回転する寸鉄が今度は壱華を狙う。
片手が拘束されていて逃げ道がない。
「ハッ!」
防御の構えを取るも、それよりも速く兵助の刺突が顎先を狙う。
「っ、、」
恐る恐る目を開ければ、寸鉄の先がキラリと光るのが見えた。
顎先まで迫ったそれを兵助はゆっくり下ろす。
「…勝負ありですね」
左手も解放した彼は、軽く手首を振ると壱華を見て苦笑いした。
「壱華さんは体術も組み合わせてくるからちょっと焦ります」
全くもって焦っていない様子が少々癪に障る。
だが認めなければならない事実が判明した。
この一年で、兵助は寸鉄捌きを一段も二段も上げている。
速さもあちらが上で、技の繋ぎに隙がなく判断力も高い。
そして何より抑え込まれた場合の力で敵わなかった。
学年が上がるにつれ、男女差は如実に現れてくる。
これは避けられない事実だ。
「…やっぱり手合わせはやめる」
「え?」
何を言い出すのか。
「兵助、私に寸鉄捌きを教えて欲しい。特に一手目から二手、三手と続ける繋ぎを重点的にお願い」
壱華は真剣そのものだ。
普段は比較的柔らかい表情が多い彼女が、きつく口を結び兵助を一身に見つめている。
「……」
彼女はこんな顔もするのかと、一歳上の異性が知らない人に思えた。
しかし同じ寸鉄を得意武器にする先輩に指導などできるのか。
自分の持てる技術を伝えることはできるだろうが、いかんせんやりにくい。
先輩でしかも異性なのだ。
迷いを見せる兵助に、壱華は詰め寄る。
「…時間が限られてるの。私がここで学べるのはあと一年足らず…。卒業までに兵助に勝ちたい。じゃなきゃ得意武器とは言えないよ。だから厳しくお願いします!」
「壱華さん…」
一年ぶりの手合わせで
それとも後輩が
───ああ、どちらもか
兵助はほんの僅か口角を持ち上げた。
先輩が頭を下げて頼み込んでいるならば、応えないわけにいかない。
「わかりました。ではさっきの動きをもう一度してください。指導中は敬語を省きますよ」
「はい」
壱華は逆に兵助に対し自然と敬語になる。
構えと動きがほぼ同時、壱華は先ほどより速く兵助の懐に入り込む。
当然だが刺突の構えをした右手は止められた。
「初手に必要なのは視線の分散」
「!」
冷静な声が壱華を制し、思わず羞恥で顔に熱が集中した。
最初から指摘されるとは思わなかったからだ。
「俺があなたの初手を止めたのは視線の先を追ったからだ。こうして先に右を狙うなら……」
「!」
兵助は壱華と全く同じ動きをし、右手で彼女の腹に寸鉄を軽く当てた。
「さっきと同じ動きをするとわかっていても、どちらから来るか一瞬迷っただろ? 俺の視線は上向き、構えているのは両手。惑わされたはずだ」
「…その通りです」
悔し気な声だ。
「寸鉄は至近距離特化武器。間合いの中に入らなければ当てるのは不可能。初手で弾かれるとどうしても次に繋げる隙ができる。相手はそこを狙う」
兵助はもう一度構えると初手で躱されたように動き、そこから詰めるにはどうするか一つずつ教えていく。
「あなたは苦無も両手持ちだから、左手も遊ぶことなく全体的な動きはいい。ただ右に比べたら差がありすぎる。利き腕と同等で捌くのは困難だけど、せめてもっと速く手の中で回して次の攻撃に繋げるんだ」
「はい!」
壱華は言われた通り、右で攻撃と同時に左手の寸鉄を回転させほぼ同時に脇を打ち込んだ。
要は攻撃から攻撃の隙を作らないことである。
「よし。次は躱された場合、その体勢のまま両手を前に突いたら一旦離れる…と見せかて下半身を裂く! ここまでもう一度やってみて」
「はい!」
壱華は動きを繰り返し、流れを体に落とし込む。
そのうちに新たな攻撃パターンも組み込み、うまく繋げられなければ兵助の指導が入る。
さらに体術も入れると相当な運動量だ。
兵助はそれに全て応戦してくるので、至近距離での息つく暇もない猛攻に、体力はある方だと思っていても瞬く間に息は上がる。
「ハァッ、ゲホッ、っ…」
小平太との苦無での手合わせともまた違う疲労が襲いかかる。
寸鉄は速さ重視の武器で、どちらかと言えば護身用で咄嗟に使う方が適している。
最初から寸鉄のみで戦うのは自信がなければ相当厳しい。
長く戦えば相当に体力を削られるので、くのいちではこれを得意武器としてる者は少ない。
くのたまでは壱華のみで、だからこそ彼女は男と対等に渡り合うべく寸鉄を選んだ。
だがやはり、幼少期より豆腐片手に寸鉄を自在に回していた兵助には敵わない。
汗が幾筋も額から頬を伝う中、兵助は両手を前に掲げた。
「それまで!」
「ハァ、ハァ、ハァ…」
荒い呼吸が支配する。
「今日はここまでにしましょう。壱華さん、本当に体力ありますね」
「あり、がとう…ございました」
頭を下げた壱華は、そのまま座り込み仰向けに寝転がった。
「ハァ──…久しぶりに寸鉄だけでここまで動いた。兵助は流れるように動くよね。私はなんかカクカクしてるような、だから止められるのかな」
「うーん…それはたぶん練習始めから豆腐片手にやったからですよ。振動を最小限に、手のひらの中で回しながらこう……この動きが染み付いてるからだと思います」
兵助は豆腐を片手に持つポーズをしながら、左手で寸鉄をぐるぐる回し壱華の周囲を素速く一回りしてみせた。
鍛錬の年季があまりに違いすぎるこの男を超えることはできるのか。
壱華は苦虫を噛み潰したような顔で起き上がる。
苦無では小平太に敵わず、寸鉄でも兵助に敵わない。
せめて、せめて───
ぐるぐると焦りが増していく。
"戦闘技術で男に劣るならば、他を磨けばいい"
くのいち教室教師・山本シナから何度も言われている言葉だ。
わかっている
わかっている
だけどどうしたらいいかわからない
「……さん。壱華さん! 壱華さん!」
「わっ何!?」
目の前に兵助の整った顔があり、壱華は仰け反った。
「だから、そろそろ戻りましょう。動いてお腹、減ってますよね?」
この台詞、そして妙に笑顔の兵助を見れば誰しもわかる。
肯定したら最後、絶対にのってやるものか。
壱華は真顔になり兵助を見据えた。
「俺の作った豆腐…「豆乳が飲みたい」
言いかけた先を遮りねじ込んでやる。
「ちょっと、壱華さん?」
「動いて喉が渇いたから豆乳が飲みたい! 豆乳しか受け付けませーん!」
「ここは豆腐の流れでしょ!?」
抗議する兵助を尻目に、壱華はさっさと学園へ戻って行った。
くのたま六年生・中在家壱華は、豆腐よりも豆乳が好きである。
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