長次の姉は時に優しく時に厳しい
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話し終えた半助はやはり呑気に笑っている。
あの時片付けを教えられたものの、全く身につかず今に至る。
「土井先生、五年前から何も変わってないんすね。目に浮かびますよ」
きり丸は当時の光景が目に浮かび、今と何一つ変わっていないのを確信した。
そして中在家壱華はやはりすごい。
長次に過保護なのは知っていたが、大人である半助のだめなところも物怖じせず指摘する度胸がある。
しかも十歳にして半助に嫁が来るのかの心配までしているし、恐れ入ってしまう。
「それにしても、壱華さんは中在家先輩のこととなるとすごい変わりようですね。普段は冷静なのに、とんでもなく心配性になるし過保護だし」
「…もそ。あの心配性も一年生頃までだと思っていた。だが今も全く変わらない」
少し困っている、と続けなかったのは壱華の想いを汲んでいるからだ。
過保護で心配性になる理由はきっと、幼い頃に長次が熱を出し十日以上も起き上がれなかったことだろう。
回復せず一時はどうなるかと危ぶまれ、壱華は毎日泣いて長次の側を離れなかった。
片割れがいなくなるかもしれない恐怖は幼い彼女には酷な心労だった。
元々世話焼きなところはあったが、回復してからは輪をかけて過保護になったのだと両親は言う。
そんな経緯があるので、長次は姉の想いを無碍にはできないのだ。
しかし何歳か離れた姉弟ならばまだわかるが、双子の姉に六年生にもなって心配されるのは正直きまりが悪い。
自分はもう守られなくても大丈夫だと見せれば、壱華は変わるかもしれない。
長次は密かに決意した。
半助の長屋に着いた三人は、井戸端で隣のおばちゃんと大家と話す壱華を見つける。
何を話しているのか想像はつくが、何度も頭を下げているので妻のようにも母のようにも見えてくる。
大家たちと別れた壱華は、部屋の前に来ると半助を呼ぶ。
「土井先生。再来週はドブ掃除だそうですよ。男手が必要なんですから忘れないように、きり丸も悪いけどお願いします」
「えーお願いされると…」
お願いが嫌いなきり丸は渋るので、壱華は今度バイトを手伝うから声をかけてと言う。
「了解っす!」
すぐに態度を変えるのは何度見ても面白い。
さて本題はと、視線の先、半助は部屋の戸を開けた。
もはやここに来るまで諦めたのか、躊躇いも誤魔化しもしない。
「「「……」」」
半助以外の三人はわかっていたかのように固まる。
二週間前に一人で帰り、使った部屋がそのまま放置されていた。
「土井先生…」
壱華の顔が般若のように変化していく。
「どうしても片付けられなくて。でも今回はそんなに汚れていないだろう?」
半助は全く懲りていなかった。
「やっぱりこんなことだろうと思いました。もういい加減にしてください! きり丸が真似をしたら…」
始まった、と長次と半助は額に手を当てるが、そこにカラッとしたきり丸の声が挟まる。
「大丈夫、真似しないっす。これ片付けてるの僕ですからね。慣れてますよ」
壱華はハッと息を呑みきり丸を見つめ思わず抱き締めた。
「うわっ! ちょ、壱華さん?」
「なんて健気な子…! 土井先生! 毎回教え子に片付けさせてそれでよしとしてはいけません。そもそも先生は私たちより歳上の大人なんです。それに教師たるもの生徒を導く存在として……」
五年前にも同じような光景があったが、成長した壱華の迫力にはさすがの半助もたじたじだ。
長くなりそうな説教を尻目に、きり丸と長次はさっさと片付けに移るのだった。
.
.
.
土井家の掃除を終えた壱華と長次は、今度こそ自宅へと向かう。
五年前と外見も中身も全く変わらない半助は、きっと今後もこのままなのだろう。
優しくて強い、生徒みんなが慕う教師にも苦手分野がある。
それもまた人間らしくていいのだが、壱華は性格上許容できないようだ。
「長次、いつか一人暮らしをしてもあんな汚部屋になったらだめだからね」
「…もそ。大丈夫だ、ならない」
中在家姉弟はボーロの材料を抱え、仲良く歩いて行った。
あの時片付けを教えられたものの、全く身につかず今に至る。
「土井先生、五年前から何も変わってないんすね。目に浮かびますよ」
きり丸は当時の光景が目に浮かび、今と何一つ変わっていないのを確信した。
そして中在家壱華はやはりすごい。
長次に過保護なのは知っていたが、大人である半助のだめなところも物怖じせず指摘する度胸がある。
しかも十歳にして半助に嫁が来るのかの心配までしているし、恐れ入ってしまう。
「それにしても、壱華さんは中在家先輩のこととなるとすごい変わりようですね。普段は冷静なのに、とんでもなく心配性になるし過保護だし」
「…もそ。あの心配性も一年生頃までだと思っていた。だが今も全く変わらない」
少し困っている、と続けなかったのは壱華の想いを汲んでいるからだ。
過保護で心配性になる理由はきっと、幼い頃に長次が熱を出し十日以上も起き上がれなかったことだろう。
回復せず一時はどうなるかと危ぶまれ、壱華は毎日泣いて長次の側を離れなかった。
片割れがいなくなるかもしれない恐怖は幼い彼女には酷な心労だった。
元々世話焼きなところはあったが、回復してからは輪をかけて過保護になったのだと両親は言う。
そんな経緯があるので、長次は姉の想いを無碍にはできないのだ。
しかし何歳か離れた姉弟ならばまだわかるが、双子の姉に六年生にもなって心配されるのは正直きまりが悪い。
自分はもう守られなくても大丈夫だと見せれば、壱華は変わるかもしれない。
長次は密かに決意した。
半助の長屋に着いた三人は、井戸端で隣のおばちゃんと大家と話す壱華を見つける。
何を話しているのか想像はつくが、何度も頭を下げているので妻のようにも母のようにも見えてくる。
大家たちと別れた壱華は、部屋の前に来ると半助を呼ぶ。
「土井先生。再来週はドブ掃除だそうですよ。男手が必要なんですから忘れないように、きり丸も悪いけどお願いします」
「えーお願いされると…」
お願いが嫌いなきり丸は渋るので、壱華は今度バイトを手伝うから声をかけてと言う。
「了解っす!」
すぐに態度を変えるのは何度見ても面白い。
さて本題はと、視線の先、半助は部屋の戸を開けた。
もはやここに来るまで諦めたのか、躊躇いも誤魔化しもしない。
「「「……」」」
半助以外の三人はわかっていたかのように固まる。
二週間前に一人で帰り、使った部屋がそのまま放置されていた。
「土井先生…」
壱華の顔が般若のように変化していく。
「どうしても片付けられなくて。でも今回はそんなに汚れていないだろう?」
半助は全く懲りていなかった。
「やっぱりこんなことだろうと思いました。もういい加減にしてください! きり丸が真似をしたら…」
始まった、と長次と半助は額に手を当てるが、そこにカラッとしたきり丸の声が挟まる。
「大丈夫、真似しないっす。これ片付けてるの僕ですからね。慣れてますよ」
壱華はハッと息を呑みきり丸を見つめ思わず抱き締めた。
「うわっ! ちょ、壱華さん?」
「なんて健気な子…! 土井先生! 毎回教え子に片付けさせてそれでよしとしてはいけません。そもそも先生は私たちより歳上の大人なんです。それに教師たるもの生徒を導く存在として……」
五年前にも同じような光景があったが、成長した壱華の迫力にはさすがの半助もたじたじだ。
長くなりそうな説教を尻目に、きり丸と長次はさっさと片付けに移るのだった。
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土井家の掃除を終えた壱華と長次は、今度こそ自宅へと向かう。
五年前と外見も中身も全く変わらない半助は、きっと今後もこのままなのだろう。
優しくて強い、生徒みんなが慕う教師にも苦手分野がある。
それもまた人間らしくていいのだが、壱華は性格上許容できないようだ。
「長次、いつか一人暮らしをしてもあんな汚部屋になったらだめだからね」
「…もそ。大丈夫だ、ならない」
中在家姉弟はボーロの材料を抱え、仲良く歩いて行った。
