生きてさえいれば
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青い羽織を宿坊の軒先に干させてもらった隠の女性は、清治の包帯を取り替えようと大広間の仮設救護所に向かった。
広間には、次々と治療を終えた隊士たちが並んで布団の上に寝かされている。
「あれ? 皇さんがいない」
キョロキョロと見渡すが姿がない。
「あの、ここにいらっしゃった皇さんは?」
忙しく歩き回っている現地の隠に尋ねる。
「えっ? さっきまでいてはりましたけど。おらんのやったら厠やないですかね?」
「厠? でも、皇さんは足が……」
「言うても隊士でっせ? 少しくらい怪我してはっても動けるんとちゃいますか」
「動けるって……。でも頭も怪我してましたし……」
「とにかく僕は分からんですわ。ほな、急ぎますから」
誰も知らないようだ。隠の女性は厠へと急いだ。妙な胸騒ぎが止まらない。
「皇さん‼ おいででしたらお返事してください!」
厠の前で叫ぶが、何の返事もない。女なので入るわけにもいかず、何度も呼びかけるが結果は同じだ。
(そうだ、履物……)
玄関へ向かったが、それが誰のものかも見当がつかず、宿坊の中にいるのかいないのかも分からなかった。
(まさか山へ……?)
走って大広間へ戻ると、布団の傍らに置いてあったはずの刀がない。隠の女性は慌てて宿坊を飛び出した。
その頃、刀を杖代わりにして足を引きずりながら、清治は山道を歩いていた。
(獪岳さんを助けんと。さっき隠に聞いたら、他の班と合流してあそこに残るっちゅう話やった。さっきの桑島先生は蓮峰。きっとまた姿を変えて出てくるはずや)
なぜあの桑島の姿は若い頃のものだったのだろう。蓮峰は、最近の桑島の姿を知らないと言うのか。そして若い頃の姿を知っているという事は……。
(呼吸を使えた。それに鱗滝がどうとかも言っとった。鱗滝っちゅうのは、元・水柱やった人やよな。確か炭治郎さんの育手や。みんなが戦ったのはその鱗滝やったんか? どう言う事や。蓮峰は何でそんなに昔の隊士を知っとるんや。……過去に戦った事があるんか?)
鬼には寿命がない。歳をとらない彼らは、長い者で何百年と生きている者もいると聞く。蓮峰も、優玄ゆうげんよりも少し前にふらりと吉野山に現れた男のようだが、実際のところ鬼になったのがいつかは分からない。
長く生きていれば生きているほど、かつての隊士の事も知っている可能性がある。活躍していた時代を語れる生き証人のようなものだ。
あれこれ考えながらうつむいて歩いていると、足元に鴉の羽根が落ちているのに気が付いた。それも何枚も。
「……何やこれ」
夜目を凝らしながらキョロキョロと見渡すと、山肌から突き出た小枝に鴉の首が引っかかっているのに気が付いた。
「こっ……これは……!」
鴉の首には、楠の字が書かれた前掛けが血に染まってぶら下がっている。首から下は目視では見当たらず、すでに死んでしまっているようである。
「なんちゅう事や……鴉まで殺すとは。えっ……⁉」
崖の下を覗くと、斜面に沿って何人もの人間が転がっていた。
(……楠班か? 確か西側の道を警備していたな。鬼に襲われたっちゅう事か!)
突然木々の枝がザワザワと激しく揺れ、清治はすぐに刀を構えて上を見る。
「誰だっ‼」
すると、ドスンと黒い塊が落ちて来た。見るとそれは鴉だった。
「カァ~ッ‼ ココニオッタンカ‼ 捜シタデーッ‼」
どうやら烏龍のようである。よく見ればちゃんと柏の前掛けをしていた。
「班長ガ鬼ト戦ットルゾ! 早ヨ行ケ‼」
「分かっとる! 今行くんや! それよりも見てくれ、楠の鴉が殺されとるし、そこの崖に隊士らが倒れとる!」
「何ヤト⁉ 隊士ハ生キトルンカ⁉」
「知らん! すぐに人を呼んで運び出してやってくれ! 俺は寺に行く!」
「カァーッ‼ エライコッチャ~ッ!」
烏龍は羽をばたつかせて飛んで行く。清治は急ぎ足で寺の跡地へと向かった。
広間には、次々と治療を終えた隊士たちが並んで布団の上に寝かされている。
「あれ? 皇さんがいない」
キョロキョロと見渡すが姿がない。
「あの、ここにいらっしゃった皇さんは?」
忙しく歩き回っている現地の隠に尋ねる。
「えっ? さっきまでいてはりましたけど。おらんのやったら厠やないですかね?」
「厠? でも、皇さんは足が……」
「言うても隊士でっせ? 少しくらい怪我してはっても動けるんとちゃいますか」
「動けるって……。でも頭も怪我してましたし……」
「とにかく僕は分からんですわ。ほな、急ぎますから」
誰も知らないようだ。隠の女性は厠へと急いだ。妙な胸騒ぎが止まらない。
「皇さん‼ おいででしたらお返事してください!」
厠の前で叫ぶが、何の返事もない。女なので入るわけにもいかず、何度も呼びかけるが結果は同じだ。
(そうだ、履物……)
玄関へ向かったが、それが誰のものかも見当がつかず、宿坊の中にいるのかいないのかも分からなかった。
(まさか山へ……?)
走って大広間へ戻ると、布団の傍らに置いてあったはずの刀がない。隠の女性は慌てて宿坊を飛び出した。
その頃、刀を杖代わりにして足を引きずりながら、清治は山道を歩いていた。
(獪岳さんを助けんと。さっき隠に聞いたら、他の班と合流してあそこに残るっちゅう話やった。さっきの桑島先生は蓮峰。きっとまた姿を変えて出てくるはずや)
なぜあの桑島の姿は若い頃のものだったのだろう。蓮峰は、最近の桑島の姿を知らないと言うのか。そして若い頃の姿を知っているという事は……。
(呼吸を使えた。それに鱗滝がどうとかも言っとった。鱗滝っちゅうのは、元・水柱やった人やよな。確か炭治郎さんの育手や。みんなが戦ったのはその鱗滝やったんか? どう言う事や。蓮峰は何でそんなに昔の隊士を知っとるんや。……過去に戦った事があるんか?)
鬼には寿命がない。歳をとらない彼らは、長い者で何百年と生きている者もいると聞く。蓮峰も、優玄ゆうげんよりも少し前にふらりと吉野山に現れた男のようだが、実際のところ鬼になったのがいつかは分からない。
長く生きていれば生きているほど、かつての隊士の事も知っている可能性がある。活躍していた時代を語れる生き証人のようなものだ。
あれこれ考えながらうつむいて歩いていると、足元に鴉の羽根が落ちているのに気が付いた。それも何枚も。
「……何やこれ」
夜目を凝らしながらキョロキョロと見渡すと、山肌から突き出た小枝に鴉の首が引っかかっているのに気が付いた。
「こっ……これは……!」
鴉の首には、楠の字が書かれた前掛けが血に染まってぶら下がっている。首から下は目視では見当たらず、すでに死んでしまっているようである。
「なんちゅう事や……鴉まで殺すとは。えっ……⁉」
崖の下を覗くと、斜面に沿って何人もの人間が転がっていた。
(……楠班か? 確か西側の道を警備していたな。鬼に襲われたっちゅう事か!)
突然木々の枝がザワザワと激しく揺れ、清治はすぐに刀を構えて上を見る。
「誰だっ‼」
すると、ドスンと黒い塊が落ちて来た。見るとそれは鴉だった。
「カァ~ッ‼ ココニオッタンカ‼ 捜シタデーッ‼」
どうやら烏龍のようである。よく見ればちゃんと柏の前掛けをしていた。
「班長ガ鬼ト戦ットルゾ! 早ヨ行ケ‼」
「分かっとる! 今行くんや! それよりも見てくれ、楠の鴉が殺されとるし、そこの崖に隊士らが倒れとる!」
「何ヤト⁉ 隊士ハ生キトルンカ⁉」
「知らん! すぐに人を呼んで運び出してやってくれ! 俺は寺に行く!」
「カァーッ‼ エライコッチャ~ッ!」
烏龍は羽をばたつかせて飛んで行く。清治は急ぎ足で寺の跡地へと向かった。
