生きてさえいれば
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「クソッ‼」
ガックリと膝をついた獪岳は、肩を上下させながら刀を杖代わりにして立ち上がった。頬には切り傷、口の端からは血が流れている。
「兄貴、何で壱ノ型ができないのか自分で原因が分かってんの?」
「……偉そうにほざくなよ、蓮峰。鬼のくせに、テメェこそ何で壱ノ型ができるんだよ、クソが」
「ククク……。質問に質問で返すって事は、分かんないって事だな。今、頭ん中で必死に言い訳を考えてるんだろ? じれったいからもう教えてあげるよ」
「……あぁ?」
「兄貴は臆病 だからだ」
臆病──。
完全に心外だ。獪岳は、込み上げた嘲笑 いを噴出するように、口内に溜まった血をペッと勢いよく吐く。
「……笑わせんなよ、蓮峰。臆病でどうやって鬼狩りをすんだよ、あぁッ?」
獪岳は口元を拭きながら馬鹿馬鹿しいと一蹴した。
「兄貴はさ、刀を抜かずに相手の懐に飛び込める? 死ぬかもしれないっていう恐怖に打ち勝たなければ、到底壱ノ型はできない。アンタにはそれができない。だから臆病だって言ってんだよ!」
「……この野郎‼」
獪岳は刀を構えた。
────シィィィィィィィ……
────雷の呼吸 参ノ型聚蚊成雷
獪岳は、目障りにもヒラヒラと羽織をなびかせ躱しながら逃げる善逸を追い回すように何度も斬りつけ、さらに先回りしては退路を断つように立ちはだかる。
「まだ抜かねぇのかよ、オッサン。オラァッ、頸を出せッ!」
────雷の呼吸 陸ノ型電轟雷轟
斬撃の勢いは増し、二重三重にも体を斬りつけていくが、肝心の頸に刃が食い込もうとした時、猛烈な光が獪岳の視力を奪った。
「──ッ⁉」
光の中で微かに見えた鯉口を切る瞬間。鞘の中から漏れ出る強烈な光に圧倒され、獪岳は刀を臍 の前で固く握りしめながら、迫り来る一閃に身構えた。
「……来るッ‼」
────雷の呼吸 壱ノ型霹靂一閃
十字に交わる刀、弾けるように飛び散る火花。獪岳は勢いに押されてのけ反る。
(くっ……刀が折れる!)
激突した衝撃は凄まじく、ビリビリと電撃が走るように刀を持つ手が痺れる。
「ウォァアアアアアッ!」
そのまま刀ごと吹き飛ばされた獪岳は、勢い余ってゴロゴロと転がって行った。
(かっ、刀!)
いつの間にか手からこぼれていた刀は、視界には入るが伸ばした手には届かない。
「……『壱ノ型』こそ至高…………だと思わない?」
「クソが……ッ」
ビクビクと痙攣する手。獪岳は刀に手を伸ばしながら、ズルズルと匍匐 する。
「臆病じゃないなら、証明してよ」
「俺は……ッ、臆病じゃねぇッ‼」
「吠えヅラはいいからさ、壱ノ型をやってみろって言ってんだよ。アンタ、じいちゃんに何を教わったんだよ。あの人は唯一無二の鳴柱だぞ。アンタには確かに雷の呼吸の才能がある。でもさ、アンタの口が悪いのは、臆病な自分を隠すためなんじゃないのか?」
「うるせぇっ‼ 壱ノ型しかできねぇ奴が偉そうに言ってんじゃねぇッ‼」
「…………俺は善逸じゃねぇよ? 忘れたのか」
「‼」
善逸は獪岳の髪をグイと掴んだ。そして顔を覗き込む。
「あの桑島慈悟郎を師に持っときながら、何やその体たらくは。あの人もあの人や。歳とって丸くなったか、こないなろくでもない弟子を二人も抱えるなんてな。ワシがどんなに頼み込んでも継子にはしてくれへんかったんに、こないな出来損ないを……ッ」
「グフッ!」
髪を掴まれたまま、獪岳は顔面を地面に打ちつけられた。鼻を打ち、血が噴き出す。そこへ腹を蹴られ、仰向けにされた。
「お前の弟弟子もそうや。いくら隊士が足りひんからって、ろくに技もできんような半端な奴に選別を受けさせるなんてなぁ。今の鬼殺隊は欠陥品だらけや。甘っちょろい、ホンマ甘っちょろいで」
善逸は獪岳の首を片手で掴むと、グイと力を入れた。親指が舌骨を圧迫し、獪岳は呼吸もできず手足をばたつかせる。
「お前らのようなクズは、所詮鬼の腹に収まるのが世の為や。この勾玉、ワシがもろといてやる。そんで桑島慈悟郎にお前の髑髏 と一緒に送ってやるかのう。フッ……ワシはあん時の事、忘れとらんぞっちゅうてな」
いつも身に着けていた勾玉の首飾りを、善逸は何の躊躇いもなく引きちぎる。だが大切なそれを奪われても、今の獪岳はそれどころではない。
「……! くっ……離……離せ……ッ」
「お前もかわいそうなやっちゃ。親っちゅうのはな、出来の悪い子供の方がかわええんやで? それが親心っちゅうもんや」
焦れば焦るほど、もがけばもがくほど苦しくなる。獪岳は首を絞める善逸の腕に爪を立てた。
「ちゃあんと教えてもらえへんかったんやろ? そりゃ育手の怠慢やなぁ、そう思わんか? 脚が棒やからっちゅう理由なら、そら育手なんかしたらあかんわ。そのせいでかわええ弟子が死んだらどないするんや、なぁ? お前、ワシを師にせんか? 壱から陸まで、みっちり叩き直してやるぞ? えろう強うなるで?」
「グ……誰……がっおま……ッ」
「死ぬのが怖いんやろ? でもな、鬼になったら死ぬ怖さもなくなるで? 天上天下怖いもん知らずや」
「クッ……!」
「シーッ。誰も見とらん。あの皇とかいう小僧もここにはおらん。ハハッ、鬼は自由でええで? 何しろ歳も取らんし、死にもせん。喰いもんならそこら中にある。そうや、まずは紅般若 でも飲んでみっか? ちょいと味見してみいや。旨くて堪らんで、ククク……」
意識が朦朧とする獪岳。目の前が真っ暗になる中、鬼の気味の悪い笑い声だけが耳に響く。
「鬼に喰われるか、鬼になって生き延びるか。どっちがええか?」
「いっ……き……て」
「ハッハッハ‼ 何やて? ちゃんと言うてみい」
「いっ…………生きてさ……え……カハッ!」
ゴキッと鈍い音が弾ける。獪岳は口から血の混ざった泡を吹き、白目を剥いた。
ガックリと膝をついた獪岳は、肩を上下させながら刀を杖代わりにして立ち上がった。頬には切り傷、口の端からは血が流れている。
「兄貴、何で壱ノ型ができないのか自分で原因が分かってんの?」
「……偉そうにほざくなよ、蓮峰。鬼のくせに、テメェこそ何で壱ノ型ができるんだよ、クソが」
「ククク……。質問に質問で返すって事は、分かんないって事だな。今、頭ん中で必死に言い訳を考えてるんだろ? じれったいからもう教えてあげるよ」
「……あぁ?」
「兄貴は
臆病──。
完全に心外だ。獪岳は、込み上げた
「……笑わせんなよ、蓮峰。臆病でどうやって鬼狩りをすんだよ、あぁッ?」
獪岳は口元を拭きながら馬鹿馬鹿しいと一蹴した。
「兄貴はさ、刀を抜かずに相手の懐に飛び込める? 死ぬかもしれないっていう恐怖に打ち勝たなければ、到底壱ノ型はできない。アンタにはそれができない。だから臆病だって言ってんだよ!」
「……この野郎‼」
獪岳は刀を構えた。
────シィィィィィィィ……
────雷の呼吸 参ノ型
獪岳は、目障りにもヒラヒラと羽織をなびかせ躱しながら逃げる善逸を追い回すように何度も斬りつけ、さらに先回りしては退路を断つように立ちはだかる。
「まだ抜かねぇのかよ、オッサン。オラァッ、頸を出せッ!」
────雷の呼吸 陸ノ型
斬撃の勢いは増し、二重三重にも体を斬りつけていくが、肝心の頸に刃が食い込もうとした時、猛烈な光が獪岳の視力を奪った。
「──ッ⁉」
光の中で微かに見えた鯉口を切る瞬間。鞘の中から漏れ出る強烈な光に圧倒され、獪岳は刀を
「……来るッ‼」
────雷の呼吸 壱ノ型
十字に交わる刀、弾けるように飛び散る火花。獪岳は勢いに押されてのけ反る。
(くっ……刀が折れる!)
激突した衝撃は凄まじく、ビリビリと電撃が走るように刀を持つ手が痺れる。
「ウォァアアアアアッ!」
そのまま刀ごと吹き飛ばされた獪岳は、勢い余ってゴロゴロと転がって行った。
(かっ、刀!)
いつの間にか手からこぼれていた刀は、視界には入るが伸ばした手には届かない。
「……『壱ノ型』こそ至高…………だと思わない?」
「クソが……ッ」
ビクビクと痙攣する手。獪岳は刀に手を伸ばしながら、ズルズルと
「臆病じゃないなら、証明してよ」
「俺は……ッ、臆病じゃねぇッ‼」
「吠えヅラはいいからさ、壱ノ型をやってみろって言ってんだよ。アンタ、じいちゃんに何を教わったんだよ。あの人は唯一無二の鳴柱だぞ。アンタには確かに雷の呼吸の才能がある。でもさ、アンタの口が悪いのは、臆病な自分を隠すためなんじゃないのか?」
「うるせぇっ‼ 壱ノ型しかできねぇ奴が偉そうに言ってんじゃねぇッ‼」
「…………俺は善逸じゃねぇよ? 忘れたのか」
「‼」
善逸は獪岳の髪をグイと掴んだ。そして顔を覗き込む。
「あの桑島慈悟郎を師に持っときながら、何やその体たらくは。あの人もあの人や。歳とって丸くなったか、こないなろくでもない弟子を二人も抱えるなんてな。ワシがどんなに頼み込んでも継子にはしてくれへんかったんに、こないな出来損ないを……ッ」
「グフッ!」
髪を掴まれたまま、獪岳は顔面を地面に打ちつけられた。鼻を打ち、血が噴き出す。そこへ腹を蹴られ、仰向けにされた。
「お前の弟弟子もそうや。いくら隊士が足りひんからって、ろくに技もできんような半端な奴に選別を受けさせるなんてなぁ。今の鬼殺隊は欠陥品だらけや。甘っちょろい、ホンマ甘っちょろいで」
善逸は獪岳の首を片手で掴むと、グイと力を入れた。親指が舌骨を圧迫し、獪岳は呼吸もできず手足をばたつかせる。
「お前らのようなクズは、所詮鬼の腹に収まるのが世の為や。この勾玉、ワシがもろといてやる。そんで桑島慈悟郎にお前の
いつも身に着けていた勾玉の首飾りを、善逸は何の躊躇いもなく引きちぎる。だが大切なそれを奪われても、今の獪岳はそれどころではない。
「……! くっ……離……離せ……ッ」
「お前もかわいそうなやっちゃ。親っちゅうのはな、出来の悪い子供の方がかわええんやで? それが親心っちゅうもんや」
焦れば焦るほど、もがけばもがくほど苦しくなる。獪岳は首を絞める善逸の腕に爪を立てた。
「ちゃあんと教えてもらえへんかったんやろ? そりゃ育手の怠慢やなぁ、そう思わんか? 脚が棒やからっちゅう理由なら、そら育手なんかしたらあかんわ。そのせいでかわええ弟子が死んだらどないするんや、なぁ? お前、ワシを師にせんか? 壱から陸まで、みっちり叩き直してやるぞ? えろう強うなるで?」
「グ……誰……がっおま……ッ」
「死ぬのが怖いんやろ? でもな、鬼になったら死ぬ怖さもなくなるで? 天上天下怖いもん知らずや」
「クッ……!」
「シーッ。誰も見とらん。あの皇とかいう小僧もここにはおらん。ハハッ、鬼は自由でええで? 何しろ歳も取らんし、死にもせん。喰いもんならそこら中にある。そうや、まずは
意識が朦朧とする獪岳。目の前が真っ暗になる中、鬼の気味の悪い笑い声だけが耳に響く。
「鬼に喰われるか、鬼になって生き延びるか。どっちがええか?」
「いっ……き……て」
「ハッハッハ‼ 何やて? ちゃんと言うてみい」
「いっ…………生きてさ……え……カハッ!」
ゴキッと鈍い音が弾ける。獪岳は口から血の混ざった泡を吹き、白目を剥いた。
