生きてさえいれば
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寺の跡地では、隠が往復して怪我をした隊士たちを順番に運んでいた。そこへ戻って来た獪岳だったが、ちょうど人が足りているとの事で、何もする事がなくなってしまった。
「……っちゅう事は、柏班で動けるのは獪岳さんだけっちゅう事ですね」
「……ああ」
「ほんなら、他の班をこっちに配備させますわ。彼らが来たら獪岳さんも合流してください。烏龍 、連絡頼むで」
「ガッテン! ホナ」
隠たちは山を下り、烏龍は飛び立った。暗い中、獪岳はポツンと佇んで他の班員の到着を待つ。
最初から一人だったのならこんなに心細くはならないだろうが、あんなにいた仲間が全員離脱した。あんなにも煩わしく、面倒な仲間たちだったのに、自分だけが取り残されたような気分だ。
しかし、清治が負傷して動けない今、しっかりと役目を果たさなければならないと改めて獪岳は気を引き締めた。
「おーい、兄貴ーッ! 久しぶりだね~!」
「──ッ⁉」
寺の門の方から境内へと歩いて来る影がある。
真っ暗でもよく見える、金髪に山吹色の派手な羽織姿────。
「善逸……?」
「当たり~。兄貴、元気? 相変わらず怖い顔をしてるんだね」
「……テメェ、怪我して蝶屋敷にぶち込まれてんだろうが。何でこんな所に……。まさか追加の派遣…………フッ、んなわけねぇよなぁ」
ニタリと笑いかける善逸の口から、獣のように尖った歯が顔を出す。
「ヘヘヘへ……。兄貴を殺しに来たんだよ。今から一対一で殺し合おう」
「……善逸じゃねぇな。蓮峰 テメェ、今度は善逸に化けたか。ハッ、上手く化けてんじゃねぇか。その貧相な体つき、元のテメェの方がいい体してんのによォ。あーあー、チビでみすぼらしくて軟弱なツラまでそっくりだ。知ってんのか? アイツはカスだ。鬼の餌にしかならねぇただのカスだ。そんな奴に化けたって、俺を殺せはしねぇぜ」
蓮峰の面影はない。清治に化けていた時と同じで、身長も風体も声までもが本人と同じである。
「俺だって鬼殺隊に入れたんだ。こないだだって上弦を倒したんだぞ。兄貴は上弦……いや、下弦すら倒した事がないだろ。どっちが上か、今ここで決めようよ。もうどっちが先にじいちゃんの弟子になったかなんて関係ない。どっちが上か、力で示す時だ」
「チッ、まだ善逸ごっこ を続けんのかよ。あんなカスを演じたって不利なだけだぜ? 何しろ壱ノ型しか できねぇんだからなァ。アイツは愚図だからそれしか覚えられなかったんだよな、ハハ……」
「壱ノ型だけ 覚えられなかったアンタもマヌケだよな。たった一つだけ。ハハハ……勿体ねぇな、何であと一つだったのに覚えられなかったんだよ。諦めたのか? 兄貴、俺は諦めてねぇよ。他ができなくても、いつか全ての型よりももっと強力な新しい技を編み出してやる」
「ふざけんじゃねぇッ‼ テメェごときにそんな事ができるわけねぇだろ‼」
頭では蓮峰だと分かっていながらも、獪岳はだんだん本気で腹が立ってきた。本当に善逸と話しているような不思議な感覚になる。つい心を乱してもっと暴言を吐いてしまいそうになったが、言うだけ無駄。ギリギリと歯を食いしばって堪えた。
「勝負だ、兄貴」
「フンッ。すぐに他の隊士らが来るぜ」
「フッ……。それはどうかなぁ?」
不敵な笑み──。妖しげに光る琥珀色の眼と狂気じみた尖った歯。ゾワリと獪岳の全身が怖気 立つ。
「……おい、まさか」
「邪魔だったんだよ。だってせっかく兄貴とやり合えるのに。清治もすぐには戻れないだろ? 大丈夫、邪魔なものは全て取っ払ったから。ほら、ここもこんなに広くなって殺し合いにはおあつらえ向きだろ?」
善逸は上半身を屈めて刀の柄を握った。
「……さぁ刀を抜けよ、兄貴。日も落ちたばっかだし、夜明けまでゆっくりやり合おうよ。どっちかが死ぬまで……ね」
────シィィィィィィ……
「クソッ‼」
刀を抜くしかなかった。乗りたくない挑発だったが、何であろうと引き下がるわけにはいかない。
「行くぞ、兄貴‼」
「……来い、善逸‼ テメェの頸は俺が取ってやるぜ! その蝋で作った顔ごとな!」
──吉野山に大きな雷鳴が響き渡る。それはどこかに落ちたのではないかと思うほどの轟きだった。宿坊の外で清治の羽織を洗う隠の女性は空を見上げる。
「雷か……。また雨が降って来るのかな」
日の落ちた空では雨雲があるのかどうかよく分からない。羽織を擦る手が自然と速くなる。
それは獪岳と鬼が刃を交えて戦いを始めた合図だったのだが、そんな事を知る由もない。
「……っちゅう事は、柏班で動けるのは獪岳さんだけっちゅう事ですね」
「……ああ」
「ほんなら、他の班をこっちに配備させますわ。彼らが来たら獪岳さんも合流してください。
「ガッテン! ホナ」
隠たちは山を下り、烏龍は飛び立った。暗い中、獪岳はポツンと佇んで他の班員の到着を待つ。
最初から一人だったのならこんなに心細くはならないだろうが、あんなにいた仲間が全員離脱した。あんなにも煩わしく、面倒な仲間たちだったのに、自分だけが取り残されたような気分だ。
しかし、清治が負傷して動けない今、しっかりと役目を果たさなければならないと改めて獪岳は気を引き締めた。
「おーい、兄貴ーッ! 久しぶりだね~!」
「──ッ⁉」
寺の門の方から境内へと歩いて来る影がある。
真っ暗でもよく見える、金髪に山吹色の派手な羽織姿────。
「善逸……?」
「当たり~。兄貴、元気? 相変わらず怖い顔をしてるんだね」
「……テメェ、怪我して蝶屋敷にぶち込まれてんだろうが。何でこんな所に……。まさか追加の派遣…………フッ、んなわけねぇよなぁ」
ニタリと笑いかける善逸の口から、獣のように尖った歯が顔を出す。
「ヘヘヘへ……。兄貴を殺しに来たんだよ。今から一対一で殺し合おう」
「……善逸じゃねぇな。
蓮峰の面影はない。清治に化けていた時と同じで、身長も風体も声までもが本人と同じである。
「俺だって鬼殺隊に入れたんだ。こないだだって上弦を倒したんだぞ。兄貴は上弦……いや、下弦すら倒した事がないだろ。どっちが上か、今ここで決めようよ。もうどっちが先にじいちゃんの弟子になったかなんて関係ない。どっちが上か、力で示す時だ」
「チッ、まだ善逸
「壱ノ型
「ふざけんじゃねぇッ‼ テメェごときにそんな事ができるわけねぇだろ‼」
頭では蓮峰だと分かっていながらも、獪岳はだんだん本気で腹が立ってきた。本当に善逸と話しているような不思議な感覚になる。つい心を乱してもっと暴言を吐いてしまいそうになったが、言うだけ無駄。ギリギリと歯を食いしばって堪えた。
「勝負だ、兄貴」
「フンッ。すぐに他の隊士らが来るぜ」
「フッ……。それはどうかなぁ?」
不敵な笑み──。妖しげに光る琥珀色の眼と狂気じみた尖った歯。ゾワリと獪岳の全身が
「……おい、まさか」
「邪魔だったんだよ。だってせっかく兄貴とやり合えるのに。清治もすぐには戻れないだろ? 大丈夫、邪魔なものは全て取っ払ったから。ほら、ここもこんなに広くなって殺し合いにはおあつらえ向きだろ?」
善逸は上半身を屈めて刀の柄を握った。
「……さぁ刀を抜けよ、兄貴。日も落ちたばっかだし、夜明けまでゆっくりやり合おうよ。どっちかが死ぬまで……ね」
────シィィィィィィ……
「クソッ‼」
刀を抜くしかなかった。乗りたくない挑発だったが、何であろうと引き下がるわけにはいかない。
「行くぞ、兄貴‼」
「……来い、善逸‼ テメェの頸は俺が取ってやるぜ! その蝋で作った顔ごとな!」
──吉野山に大きな雷鳴が響き渡る。それはどこかに落ちたのではないかと思うほどの轟きだった。宿坊の外で清治の羽織を洗う隠の女性は空を見上げる。
「雷か……。また雨が降って来るのかな」
日の落ちた空では雨雲があるのかどうかよく分からない。羽織を擦る手が自然と速くなる。
それは獪岳と鬼が刃を交えて戦いを始めた合図だったのだが、そんな事を知る由もない。
