弱味噌の師範
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翌朝、みんなで朝餉の前に周辺で走り込みと柔軟体操を終え、蝶屋敷へと戻る。この毎日の習慣には、今朝は清治も一緒について来た。
「師範も走るのが速いんですね!」
「……まぁね。有り難い事に」
この時点では善逸が一番足が速いのでは……と平隊士は誰もが思っていたが、上には上がいる事をまだ知らない。そのうち清治も知る事になるだろう。
朝餉ではお手伝い三人娘がせっせと白飯のお代わりを勧めている。伊之助はもちろんの事、炭治郎も二杯目を食べ始め、清治も同様、善逸だけが要らないと断った。
そんな師範の姿を見て、やはり食が細いのかと思う清治だったが、それを口に出してはまた嫌がられると思って黙っていた。
(体重を気にしてるのか……? 確かに雷の呼吸の使い手には太っている人はいない。やはり俊敏な動きを保つ為には、脂肪はもちろん、余計な筋肉すらも付けられないと言うのか……? 俺はただ、筋肉はあればあるほどいいと思っていたけど。そうか、盲点だったな。それも桑島さんの教えなのかな)
紅鮭の塩焼きと白飯を咀嚼しながら、清治は善逸の様子を観察する。鬼殺隊士というもの、一度なってしまえば体の管理は全て自己責任である。体形が変わってしまえば具合が変わってしまうのも納得がいく。
「皇さん、お代わりは?」
三杯目はどうかと聞かれるが、清治は断った。まだ皿には塩辛い紅鮭が少し残っていて、もう一杯くらい食べればちょうどいいほどなのだが。
「……ご馳走様でした」
善逸は早々に手を合わせ、箱膳を持つ。
「あっ、置いておいてください、善逸さん」
きよは廊下を行く善逸を追いかけた。清治も師範が食べ終わってしまったのを見て、慌てて残りのおかずを食べ、味噌汁をグイっと飲み干す。
「ご馳走様でした!」
師範に倣って箱膳を下げようとするが、なほがそれを止めた。
「どうぞそのままで。お茶はいかがですか?」
なほは湯呑に茶を淹れて、清治に飲むように促す。
「あっ、これはどうも……。オッ、オエッ~、何ですかこのお茶! 苦くて甘くてしょっぱくて何か舌がピリピリして……うわっ、大量に渋柿を口に突っ込まれたみたいな感じになってきた! あーっ、胃が燃えるようにカッカするー! これ本当に飲んでいいヤツですか⁉」
「健康茶です。八十八種類の生薬が入ったお茶です」
「はぁ……八十八種類ですか。……多すぎだろ」
「……何か仰いましたか?」
「いえっ、複雑な味わいってやつですか。複雑すぎて俺には理解できませんが。まだ舌はお子ちゃまなんで」
「まぁそのうち慣れますよ。毎日飲んでくださいね。体がと~っても丈夫になりますから」
なほたち三人娘は涼しい顔をして蝶屋敷に来る隊士に飲ませているが、自分たちでは決して飲むことはない。なぜか。
「それより、皇さんはこれからどうされるんですか? 善逸さんが師範になってくださったとは言え、まだ怪我も万全な状態ではないのでしばらくここに滞在になると思いますけど、皇さんの住居はどちらになりますか? ここへ通われますか?」
「はぁ……。いや、それなんですけどね、前まではボロ長屋を格安で借りてちょっとの間住んでたんですけど、選別を受ける時に思い切って引き払っちゃったんですよ、ヘヘッ。いや、俺の家族は関西にいて遠いですし、万が一藤襲山で俺が死んだら大家さんにも迷惑かけるだろうからって思って。選別後はしばらく藤の家紋の家を転々として泊まらせてもらってたんですけど、やっぱそろそろ家を借りなきゃまずいですよね。あの……ここだけの話ですけど、入隊祝い金みたいな感じでお館様から幾らか出ないんですかね? 俺、あんま手持ちもなくて……ヘヘヘッ」
清治はバツが悪そうに頭を掻く。実は「死ぬはずがない」と思いながら入隊審査に申し込んだわけだが「やっぱり死ぬかもしれない」と思い直し、どうせならと散財していたのだ。
実際そういう隊士は多かった。合格後は無一文なので、しばらく藤の家紋の家に世話になるのである。それだけ死を覚悟して藤襲山へ向かったのだろう。
そんな話の要因としては、やはり最終選別での「良くない噂」が流れているせいだろう。
その時にもよるが、三十人山に入ったとして、七日後には二人になっていたという話もある。また、バカに強い志願者と一緒になれば運よく助けてもらえる場合もあり、その後も一緒に行動するなりして何とか生き永らえる者もいる。十人近くで徒党を組んで行動し、みんなで仲良く合格するという小狡ずるい作戦で挑む者たちもいる。
大抵そういう者たちはその後の任務であっけなく命を落とすことになるのだが、噂というのは悪い物ばかりがよく伝わるもので、もれなく尾ひれも付き、清治の耳にも「ほとんどが死んだらしい」という表面だけを掬ったような噂ばかりが入って来ていたのだ。
「そうですか。本来なら善逸さんのお宅に居候させてもらえればいいんでしょうけど、善逸さんもずっとお怪我続きで。入隊した頃は借家に住んでらしたんですが、長期入院もあってほとんど帰れず、思い切って引き払ってしまったようで、最近はずっとこの蝶屋敷で皆さんと住んでおられます」
「……ですよね~。いやぁ、どうしよっかな。実家に無心したくても住所がないと送りようがないだろうし、師範に金借りるわけにもいかないし」
「ケッ、あの紋逸が男なんかに金貸すわけねぇだろ」
膝を立ててのけ反りながら、爪楊枝でシーシーする伊之助が口を挟む。
「あのぉ、昨日も気になってたんですけど、何で師範のことを紋逸って言うんですか?」
「ああん? 別に理由なんてねぇけどよ、名前がすぐに出て来ねぇから、出てきたそれっぽい呼び方で呼ぶんだ俺は、フハハハハ! まぁ、分かればいいだろ?」
「伊之助はいつもそうなんだ。俺の事もよく言い間違える。権八郎とか勘三郎とか」
炭治郎は「伊之助名前呼び間違え被害者の会」の名誉会長である。
「権八郎に勘三郎って……どこがそれっぽい呼び方なんですか!」
「だろ? まぁもう慣れたけどね……」
ならば伊之助はそのうち自分の名前も呼び間違えるのだろうか……と清治は思った。
「それはそうと、もしよろしければ善逸さんが出て行かれるまで、蝶屋敷に滞在されてはいかがですか? その間、ちょうどいい空き家を探しつつ、お金は任務で頑張って稼ぐ。ここでの治療はもちろん、食費も何もかもが無償ですし、藤の家紋の家を転々とされるよりは落ち着いて鍛錬に励めるのではないでしょうか」
アオイの提案に感動を覚えた清治は、スリスリ手を擦り合わせて拝みながら何度も何度も礼を言う。まるでアオイの言葉が阿弥陀如来様の尊い御言葉に聞こえたかのようだ。
「よしッ、しばらくいんならこの俺様もお前に手ほどきしてやる! 俺の鍛錬は強者とやり合うのみ! 後で庭へ来い! チビらしてやんぜ!」
「はぁ、それは嬉しいんですけど、おたくは……伊之助さん? でしたっけ? 一体何の呼吸を使うんですか?」
「俺か? 俺様は、俺様が俺様の為に生み出した唯一無二の呼吸法……山の王に相応しい呼吸、その名も『獣の呼吸』だッ!」
伊之助はいつも片身離さず持ち歩いている猪の被り物をスポッと被ると、妙な姿態で見得みえを切った。本人は格好良くキメたつもりだろうが、猪頭が邪魔をしてどうも間抜けに見える。
「……ケダモノの呼吸って……。えっ? 山の王って猪がっすか? 熊じゃないんですか?」
「はぁぁぁぁんッ!? てめぇ、猪をバカにすんのか!?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「表へ出ろ! 今すぐギッチョンギッチョンのズッタンズッタンのボッキボキにしてやる! 最強で最高の無敵の山の王の強さとは何かを見せつけてやんぜ!」
「いやっ、えっ? 参ったなぁ、俺はてっきり熊かな~って思っただけで。猪なら猪でいいんですよ? ……俺は熊かなとは思うけど」
思った事をそのまま言えばいいと言うわけではない。鬼殺隊には沸点が著しく低い者が多い事を清治はまだ知らない。
清治はそのまま縁側から庭へと引きずり出され、裸足のままで伊之助と手合わせする事になった。
「師範も走るのが速いんですね!」
「……まぁね。有り難い事に」
この時点では善逸が一番足が速いのでは……と平隊士は誰もが思っていたが、上には上がいる事をまだ知らない。そのうち清治も知る事になるだろう。
朝餉ではお手伝い三人娘がせっせと白飯のお代わりを勧めている。伊之助はもちろんの事、炭治郎も二杯目を食べ始め、清治も同様、善逸だけが要らないと断った。
そんな師範の姿を見て、やはり食が細いのかと思う清治だったが、それを口に出してはまた嫌がられると思って黙っていた。
(体重を気にしてるのか……? 確かに雷の呼吸の使い手には太っている人はいない。やはり俊敏な動きを保つ為には、脂肪はもちろん、余計な筋肉すらも付けられないと言うのか……? 俺はただ、筋肉はあればあるほどいいと思っていたけど。そうか、盲点だったな。それも桑島さんの教えなのかな)
紅鮭の塩焼きと白飯を咀嚼しながら、清治は善逸の様子を観察する。鬼殺隊士というもの、一度なってしまえば体の管理は全て自己責任である。体形が変わってしまえば具合が変わってしまうのも納得がいく。
「皇さん、お代わりは?」
三杯目はどうかと聞かれるが、清治は断った。まだ皿には塩辛い紅鮭が少し残っていて、もう一杯くらい食べればちょうどいいほどなのだが。
「……ご馳走様でした」
善逸は早々に手を合わせ、箱膳を持つ。
「あっ、置いておいてください、善逸さん」
きよは廊下を行く善逸を追いかけた。清治も師範が食べ終わってしまったのを見て、慌てて残りのおかずを食べ、味噌汁をグイっと飲み干す。
「ご馳走様でした!」
師範に倣って箱膳を下げようとするが、なほがそれを止めた。
「どうぞそのままで。お茶はいかがですか?」
なほは湯呑に茶を淹れて、清治に飲むように促す。
「あっ、これはどうも……。オッ、オエッ~、何ですかこのお茶! 苦くて甘くてしょっぱくて何か舌がピリピリして……うわっ、大量に渋柿を口に突っ込まれたみたいな感じになってきた! あーっ、胃が燃えるようにカッカするー! これ本当に飲んでいいヤツですか⁉」
「健康茶です。八十八種類の生薬が入ったお茶です」
「はぁ……八十八種類ですか。……多すぎだろ」
「……何か仰いましたか?」
「いえっ、複雑な味わいってやつですか。複雑すぎて俺には理解できませんが。まだ舌はお子ちゃまなんで」
「まぁそのうち慣れますよ。毎日飲んでくださいね。体がと~っても丈夫になりますから」
なほたち三人娘は涼しい顔をして蝶屋敷に来る隊士に飲ませているが、自分たちでは決して飲むことはない。なぜか。
「それより、皇さんはこれからどうされるんですか? 善逸さんが師範になってくださったとは言え、まだ怪我も万全な状態ではないのでしばらくここに滞在になると思いますけど、皇さんの住居はどちらになりますか? ここへ通われますか?」
「はぁ……。いや、それなんですけどね、前まではボロ長屋を格安で借りてちょっとの間住んでたんですけど、選別を受ける時に思い切って引き払っちゃったんですよ、ヘヘッ。いや、俺の家族は関西にいて遠いですし、万が一藤襲山で俺が死んだら大家さんにも迷惑かけるだろうからって思って。選別後はしばらく藤の家紋の家を転々として泊まらせてもらってたんですけど、やっぱそろそろ家を借りなきゃまずいですよね。あの……ここだけの話ですけど、入隊祝い金みたいな感じでお館様から幾らか出ないんですかね? 俺、あんま手持ちもなくて……ヘヘヘッ」
清治はバツが悪そうに頭を掻く。実は「死ぬはずがない」と思いながら入隊審査に申し込んだわけだが「やっぱり死ぬかもしれない」と思い直し、どうせならと散財していたのだ。
実際そういう隊士は多かった。合格後は無一文なので、しばらく藤の家紋の家に世話になるのである。それだけ死を覚悟して藤襲山へ向かったのだろう。
そんな話の要因としては、やはり最終選別での「良くない噂」が流れているせいだろう。
その時にもよるが、三十人山に入ったとして、七日後には二人になっていたという話もある。また、バカに強い志願者と一緒になれば運よく助けてもらえる場合もあり、その後も一緒に行動するなりして何とか生き永らえる者もいる。十人近くで徒党を組んで行動し、みんなで仲良く合格するという小狡ずるい作戦で挑む者たちもいる。
大抵そういう者たちはその後の任務であっけなく命を落とすことになるのだが、噂というのは悪い物ばかりがよく伝わるもので、もれなく尾ひれも付き、清治の耳にも「ほとんどが死んだらしい」という表面だけを掬ったような噂ばかりが入って来ていたのだ。
「そうですか。本来なら善逸さんのお宅に居候させてもらえればいいんでしょうけど、善逸さんもずっとお怪我続きで。入隊した頃は借家に住んでらしたんですが、長期入院もあってほとんど帰れず、思い切って引き払ってしまったようで、最近はずっとこの蝶屋敷で皆さんと住んでおられます」
「……ですよね~。いやぁ、どうしよっかな。実家に無心したくても住所がないと送りようがないだろうし、師範に金借りるわけにもいかないし」
「ケッ、あの紋逸が男なんかに金貸すわけねぇだろ」
膝を立ててのけ反りながら、爪楊枝でシーシーする伊之助が口を挟む。
「あのぉ、昨日も気になってたんですけど、何で師範のことを紋逸って言うんですか?」
「ああん? 別に理由なんてねぇけどよ、名前がすぐに出て来ねぇから、出てきたそれっぽい呼び方で呼ぶんだ俺は、フハハハハ! まぁ、分かればいいだろ?」
「伊之助はいつもそうなんだ。俺の事もよく言い間違える。権八郎とか勘三郎とか」
炭治郎は「伊之助名前呼び間違え被害者の会」の名誉会長である。
「権八郎に勘三郎って……どこがそれっぽい呼び方なんですか!」
「だろ? まぁもう慣れたけどね……」
ならば伊之助はそのうち自分の名前も呼び間違えるのだろうか……と清治は思った。
「それはそうと、もしよろしければ善逸さんが出て行かれるまで、蝶屋敷に滞在されてはいかがですか? その間、ちょうどいい空き家を探しつつ、お金は任務で頑張って稼ぐ。ここでの治療はもちろん、食費も何もかもが無償ですし、藤の家紋の家を転々とされるよりは落ち着いて鍛錬に励めるのではないでしょうか」
アオイの提案に感動を覚えた清治は、スリスリ手を擦り合わせて拝みながら何度も何度も礼を言う。まるでアオイの言葉が阿弥陀如来様の尊い御言葉に聞こえたかのようだ。
「よしッ、しばらくいんならこの俺様もお前に手ほどきしてやる! 俺の鍛錬は強者とやり合うのみ! 後で庭へ来い! チビらしてやんぜ!」
「はぁ、それは嬉しいんですけど、おたくは……伊之助さん? でしたっけ? 一体何の呼吸を使うんですか?」
「俺か? 俺様は、俺様が俺様の為に生み出した唯一無二の呼吸法……山の王に相応しい呼吸、その名も『獣の呼吸』だッ!」
伊之助はいつも片身離さず持ち歩いている猪の被り物をスポッと被ると、妙な姿態で見得みえを切った。本人は格好良くキメたつもりだろうが、猪頭が邪魔をしてどうも間抜けに見える。
「……ケダモノの呼吸って……。えっ? 山の王って猪がっすか? 熊じゃないんですか?」
「はぁぁぁぁんッ!? てめぇ、猪をバカにすんのか!?」
「いや、そういうわけじゃ……」
「表へ出ろ! 今すぐギッチョンギッチョンのズッタンズッタンのボッキボキにしてやる! 最強で最高の無敵の山の王の強さとは何かを見せつけてやんぜ!」
「いやっ、えっ? 参ったなぁ、俺はてっきり熊かな~って思っただけで。猪なら猪でいいんですよ? ……俺は熊かなとは思うけど」
思った事をそのまま言えばいいと言うわけではない。鬼殺隊には沸点が著しく低い者が多い事を清治はまだ知らない。
清治はそのまま縁側から庭へと引きずり出され、裸足のままで伊之助と手合わせする事になった。
