柱たちの胸
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焼け跡に残った柏班の班員はなぜかそわそわしている。
「あのぉ班長、ちょっとションベン行って来ていいっすか? 汗かいて体が冷えてそれでちょっと……」
「あっ、俺も!」
「俺も行きます!」
柏班の隊士たちはおかしな空色のせいで一人で行くのが心細いのか、みなこぞって連れションを所望した。
「……チッ、さっさと行けよ。用が済んだらすぐ戻れよ」
厠も焼けてしまったので、憚 と言ってもちょっと奥の草むらの方で立ちションをするだけである。
柏班の隊士たちは草むらに六人一列に並んで用を足す。ここは寺の調理場があった裏山側の方で、石垣の向こう側に回ればいくら敷地内が見通しが良くなったとは言え、獪岳や清治らからは死角の場所である。
「あーあ、何でこんな所に派遣されたんだろ。俺たちは鬼を狩りに来たんだぜ? なのに何で火事なんか……」
「俺たちは何でも屋じゃねぇってんだよな。皇 は何か張り切って面倒くせぇし、班長もイライラしてばっかで言葉もキツいし」
「ホント、俺あの人苦手だわ。たまにああいう人と任務あたると最悪なんだよな。意思疎通もできねぇし」
「俺さ、まだ鬼殺隊に入って一年くらいだけど、何だか嫌になってきたな。何となく任務こなしてるだけで給金がいいから辞めたくねぇけど、死んじまったらこれまでに貯めた金もパァっと使えねぇし」
「せいぜい自分の葬儀代に使うくらいだな。まぁ、葬儀出してくれる家族はみんな殺されていねぇけど」
「そこそこの金が貯まったら辞めようかな。家族の仇とっても、家族が帰って来るわけじゃねぇし。仇討ちなんか時代じゃねぇよ。もうさ、たまに歌劇や活動寫眞観て、旨い洋食食って、かふぇに行って女中口説いて……そんな普通の楽な生き方で良くねぇか?」
用を足し終わるとぶるっと身を震わせ、ガチャガチャと慌ただしくバックルにベルトを通す。
「あー寒っ。何も食ってねぇからかな、やたら寒いぜ」
「飯、風呂、布団、それと……やっぱ女が恋しいぜ。女は温 けぇからな」
「ハハハハお前、女なんてこれっぽっちも知らねぇくせによく言うよ。母ちゃんの乳が恋しいってか?」
「バカッ‼ そんなわけねぇだろうが‼」
「でもさ、あの隠の女の人、頭巾取った顔見たら結構かわいいよな。ありゃきっと、元はいいとこのお嬢だぜ」
「お前ああいう大人しそうなのが好みなのか? ダメダメ。あの人、多分だけど皇の事が好きだよ」
「はっ!? マジかよ! くっそー、皇の奴モテそうだもんな。顔も体格もいいし性格も……。チキショー‼」
戻ろうとした班員たちがクルリと振り返ると、背後に真っ赤な天狗面の男がいつの間にか立っていた。
水色の青海波に瑞雲の柄の羽織を纏い、への字に結んだ口の天狗面が、無言で六人を睨んで立っている。
「うわぁあああっ⁉」
天狗の面を着けている事で、六人の頭にはすぐさま「鬼天狗」という文字が浮かんだ。
「ヤベェ、おっ、鬼だぞみんな!」
「刀! 刀を抜けっ‼」
────水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
「わぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」
先に攻撃を仕掛けてきたのは、天狗面の男だった。突然の大きな一振りに、隊士たちはのけ反ったりしゃがみ込んだりして、てんでに難を逃れる。
「水の呼吸!? 何で鬼が‼」
────ヒュゥゥゥゥゥ……
水の呼吸の隊士たちにとって「よく知っている呼吸音」であるが、なぜ鬼天狗が自分たちと同じ水の呼吸を使うのか理解できない。
「怯むな! 呼吸使いの鬼がいたっておかしくない! 戦うぞ!」
「おっ、応!」
「ちょっと待ってくれよ! この羽織の柄に天狗面……。まさか、元柱の鱗滝左近次様かもしれない!」
以前、自分の育手と一緒に狭霧山の鱗滝を訪ねた事のある隊士が騒ぎ出した。
「えっ……? じゃあ何だよ、元柱が鬼になったって事か?」
「まっ、まさかそんな事があるわけ……おい、よく見てみてくれよ。勘違いじゃねぇのか?」
「そうだよ、鱗滝様って言ったら、もうそれなりの歳で白髪頭なんだって言ってただろ? この天狗面は黒髪じゃねえか!」
「……いや、間違いない。この羽織、そしてこの技のキレ──。鱗滝様だ!」
「そんな……! どういう事だよ‼ 勝てっこねぇだろ! 最強の水柱だった人だぞ!」
清治と獪岳は、鬼天狗が「誰かに成りすます」事を知っていたが、六人の水の呼吸の隊士たちは詳しい事を聞いていない。なので誰かが「鱗滝だ」と言い出せば、疑いつつも鬼になったのだと思ってしまった。
その鱗滝だと言われた天狗面を着けた男は、動揺する隊士たちを見て肩を震わせて笑い出した。
「フンッ……愚かな。お前らのような腰抜けどもがよく鬼殺隊士になれたものだな。それで水の呼吸の使い手だと言うか」
「⁉」
「とうとう産屋敷も寝たきりで耄碌し始めたようだな。いやいや、厄介者を捨て駒にするつもりか。有象無象の欲な人間の馬鹿どもが、給金目当てで集まりすぎて手に負えんからなぁ、ハッハッハッハッハ」
男は、半べそ顔の隊士たちの顔を見て笑いが止まらない。
「違う! 俺たちは家族を鬼に殺されたから、その仇を討つために隊士に志願したんだ!」
「ほう? ならば給金は遠慮していると言うわけだな。見上げたものだ……。さっき、そこそこの金を稼いだら隊を抜けようと話していたのは大法螺か?」
「「「「「「‼」」」」」」
「クソッ! 元・柱だろうが何だろうがコイツは鬼だ! 怖気づくな! みんな、頸を取るぞ!」
「そうだ! みんなで力を合わせれば勝てる! 行くぞ!」
隊士たちはわーわーと声を上げながら、一斉に鱗滝のような 鬼に飛びかかった。
「あのぉ班長、ちょっとションベン行って来ていいっすか? 汗かいて体が冷えてそれでちょっと……」
「あっ、俺も!」
「俺も行きます!」
柏班の隊士たちはおかしな空色のせいで一人で行くのが心細いのか、みなこぞって連れションを所望した。
「……チッ、さっさと行けよ。用が済んだらすぐ戻れよ」
厠も焼けてしまったので、
柏班の隊士たちは草むらに六人一列に並んで用を足す。ここは寺の調理場があった裏山側の方で、石垣の向こう側に回ればいくら敷地内が見通しが良くなったとは言え、獪岳や清治らからは死角の場所である。
「あーあ、何でこんな所に派遣されたんだろ。俺たちは鬼を狩りに来たんだぜ? なのに何で火事なんか……」
「俺たちは何でも屋じゃねぇってんだよな。
「ホント、俺あの人苦手だわ。たまにああいう人と任務あたると最悪なんだよな。意思疎通もできねぇし」
「俺さ、まだ鬼殺隊に入って一年くらいだけど、何だか嫌になってきたな。何となく任務こなしてるだけで給金がいいから辞めたくねぇけど、死んじまったらこれまでに貯めた金もパァっと使えねぇし」
「せいぜい自分の葬儀代に使うくらいだな。まぁ、葬儀出してくれる家族はみんな殺されていねぇけど」
「そこそこの金が貯まったら辞めようかな。家族の仇とっても、家族が帰って来るわけじゃねぇし。仇討ちなんか時代じゃねぇよ。もうさ、たまに歌劇や活動寫眞観て、旨い洋食食って、かふぇに行って女中口説いて……そんな普通の楽な生き方で良くねぇか?」
用を足し終わるとぶるっと身を震わせ、ガチャガチャと慌ただしくバックルにベルトを通す。
「あー寒っ。何も食ってねぇからかな、やたら寒いぜ」
「飯、風呂、布団、それと……やっぱ女が恋しいぜ。女は
「ハハハハお前、女なんてこれっぽっちも知らねぇくせによく言うよ。母ちゃんの乳が恋しいってか?」
「バカッ‼ そんなわけねぇだろうが‼」
「でもさ、あの隠の女の人、頭巾取った顔見たら結構かわいいよな。ありゃきっと、元はいいとこのお嬢だぜ」
「お前ああいう大人しそうなのが好みなのか? ダメダメ。あの人、多分だけど皇の事が好きだよ」
「はっ!? マジかよ! くっそー、皇の奴モテそうだもんな。顔も体格もいいし性格も……。チキショー‼」
戻ろうとした班員たちがクルリと振り返ると、背後に真っ赤な天狗面の男がいつの間にか立っていた。
水色の青海波に瑞雲の柄の羽織を纏い、への字に結んだ口の天狗面が、無言で六人を睨んで立っている。
「うわぁあああっ⁉」
天狗の面を着けている事で、六人の頭にはすぐさま「鬼天狗」という文字が浮かんだ。
「ヤベェ、おっ、鬼だぞみんな!」
「刀! 刀を抜けっ‼」
────水の呼吸 壱ノ型 水面斬り
「わぁぁぁぁぁぁぁっ⁉」
先に攻撃を仕掛けてきたのは、天狗面の男だった。突然の大きな一振りに、隊士たちはのけ反ったりしゃがみ込んだりして、てんでに難を逃れる。
「水の呼吸!? 何で鬼が‼」
────ヒュゥゥゥゥゥ……
水の呼吸の隊士たちにとって「よく知っている呼吸音」であるが、なぜ鬼天狗が自分たちと同じ水の呼吸を使うのか理解できない。
「怯むな! 呼吸使いの鬼がいたっておかしくない! 戦うぞ!」
「おっ、応!」
「ちょっと待ってくれよ! この羽織の柄に天狗面……。まさか、元柱の鱗滝左近次様かもしれない!」
以前、自分の育手と一緒に狭霧山の鱗滝を訪ねた事のある隊士が騒ぎ出した。
「えっ……? じゃあ何だよ、元柱が鬼になったって事か?」
「まっ、まさかそんな事があるわけ……おい、よく見てみてくれよ。勘違いじゃねぇのか?」
「そうだよ、鱗滝様って言ったら、もうそれなりの歳で白髪頭なんだって言ってただろ? この天狗面は黒髪じゃねえか!」
「……いや、間違いない。この羽織、そしてこの技のキレ──。鱗滝様だ!」
「そんな……! どういう事だよ‼ 勝てっこねぇだろ! 最強の水柱だった人だぞ!」
清治と獪岳は、鬼天狗が「誰かに成りすます」事を知っていたが、六人の水の呼吸の隊士たちは詳しい事を聞いていない。なので誰かが「鱗滝だ」と言い出せば、疑いつつも鬼になったのだと思ってしまった。
その鱗滝だと言われた天狗面を着けた男は、動揺する隊士たちを見て肩を震わせて笑い出した。
「フンッ……愚かな。お前らのような腰抜けどもがよく鬼殺隊士になれたものだな。それで水の呼吸の使い手だと言うか」
「⁉」
「とうとう産屋敷も寝たきりで耄碌し始めたようだな。いやいや、厄介者を捨て駒にするつもりか。有象無象の欲な人間の馬鹿どもが、給金目当てで集まりすぎて手に負えんからなぁ、ハッハッハッハッハ」
男は、半べそ顔の隊士たちの顔を見て笑いが止まらない。
「違う! 俺たちは家族を鬼に殺されたから、その仇を討つために隊士に志願したんだ!」
「ほう? ならば給金は遠慮していると言うわけだな。見上げたものだ……。さっき、そこそこの金を稼いだら隊を抜けようと話していたのは大法螺か?」
「「「「「「‼」」」」」」
「クソッ! 元・柱だろうが何だろうがコイツは鬼だ! 怖気づくな! みんな、頸を取るぞ!」
「そうだ! みんなで力を合わせれば勝てる! 行くぞ!」
隊士たちはわーわーと声を上げながら、一斉に鱗滝の
