隠滅の炎
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山道を住職と下る優玄は、途中で背中に「滅」とある何人もの鬼殺隊士たちとすれ違った。清治らと同じ黒詰襟姿の彼らは、提灯の明かりを頼りに急な傾斜も何のその、軽やかに走りながら登って行く。
「見てみい、優玄。さすが鬼殺隊士やな。よう鍛えてはるわ」
「……そうですね」
優玄は横目でチラと見て目を逸らす。
そう自分と歳は変わらない隊士たちだが、みんな凛々しくしっかりとした体つきをしている。鬼は人間離れした怪力を持つというのに、懐剣一つで殺せると思っていた自分が恥ずかしくなった。
住職の房へ伺う前、清治らから鬼を殺すには特殊な刀が必要で、それも頸を斬らないと鬼は死なないのだと聞いた。あとは日光を浴びせる方法があるようだが、力の強い鬼に無理矢理に日光を浴びせる事は容易ではないとの事だった。
だから鬼殺隊が存在するのだという事だが、仇を討つという目的を果たすためには、優玄は本来ならばまず隊士を目指すべきだった。何の訓練も受けていないただの人間が、鬼を殺せるわけがない。鬼殺隊士でさえも命を落とす事がある相手なのだ。
(皇さんも仇を討ちたくて隊士にならはった……。それなのに僕は鬼の事は何も知らんと……)
清治も昔は何も知らずに、ただ鬼を殺そうと思っていたと聞いた。普通の人間が知らないのは当たり前なのだから、決して気にしないようにと言われたが、何と愚かで浅はかな考えだったのかと思うばかりだ。
人にはできる事とできない事がある。優玄はできない事をやろうとして、人に迷惑をかけた。立ち向かう力がある鬼殺隊士が羨ましい。自分の手で両親の仇を討つ力がない事が何と悔しい事か。
(でもこんな事ばっか考えとったらあかん。僕は僕のできる事をやらなあかん。それがきっと皇さんたちの力になるんや)
今は炎に巻かれた寺や鬼の事よりも、住職を安全な場所へと連れて行く事。それが鬼殺隊から託された大事 なのだ。
「足元、気をつけてくださいよ」
優玄に手を引かれて山道を下っていた住職は、突然手を離した。
「優玄、みんな手伝いに駆けつけてくれとるのに、わしだけ逃げるんはやっぱりあかんで。何や若い衆らの事も心配やし、わしは戻るわ」
「危ないですって! 鬼殺隊の方は逃げるよう言ってはったやないですか!」
「せやけど寺には大事なもんも山ほどあるさかい。バタバタと何も持たんと出て来てしもたが、離れだけやなくて全部に火が回ってしもたらどないするんや。仏様が燃えてまうのだけは何とかせんと」
住職は踵を返して下って来た山道をえっちらおっちら登り始めた。
「ああっ、いけませんって!」
「わしはあの寺の住職や! 先代から受け継いだ守らんとあかんもんが仰山あるんや! 身一つで逃げたら笑いもんになるわっ!」
「この世に命より大事なものなんてありませんよ! 物は失っても替えがありますけど、命には替えがないんです! お金を出しても買えんし、売っとりもしません! お願いですさかい、僕と一緒に麓まで逃げてください! でないと僕は……さっきの過ちを償えません! 何としても和尚さんの命は僕が守らなあかんのです!」
「優玄……」
麓にはすでに鴉から隠へと連絡が行っているはずである。そこで二人とも匿ってもらう手筈になっている……。優玄には鴉がどうとかこうとかよく分からない話だったが、清治らの言葉を信じて向かうしかない。
「火事は皇さんたちに任せましょう。きっとすぐに火を消してくれます! さぁ行きますよ! まだ戻る言わはるんなら、僕は和尚さんを背負 ってでも下山させますからね!」
あの何事も自信なさげな優玄が、今は声を張り上げて自分の意思を伝えている。住職はじんわりと心が熱くなり、思わず涙ぐんだ。
「ハッハッハ、何言うとるんや。こーんなヒョロヒョロのお前に背負われたら、坂から一緒に真っ逆さまや。わしはごめんやで。自分の足で歩くわ」
笑い合った二人は、また歩き始めた。
突発的に起きた火事で気が張っていた優玄だったが、山道を下るにしたがって呼吸が乱れ、動悸も激しくなってきていた。毒が蓄積しているせいか度々ひどい眩暈を起こし、時折胸を押さえ歩き続けつつも、高齢の住職の体を気遣って何度も大丈夫かと声をかける。
具合の悪さを見せて、心配させるわけにはいかなかった。
(これが僕の使命や。鬼は鬼殺隊に任せ、僕はこういう形で人の命を守る!)
そうやって自分を励ましながら何とか隠の待機場所に辿り着いて保護されたが、到着した途端に優玄はバタリと倒れて意識を失ってしまった。
「見てみい、優玄。さすが鬼殺隊士やな。よう鍛えてはるわ」
「……そうですね」
優玄は横目でチラと見て目を逸らす。
そう自分と歳は変わらない隊士たちだが、みんな凛々しくしっかりとした体つきをしている。鬼は人間離れした怪力を持つというのに、懐剣一つで殺せると思っていた自分が恥ずかしくなった。
住職の房へ伺う前、清治らから鬼を殺すには特殊な刀が必要で、それも頸を斬らないと鬼は死なないのだと聞いた。あとは日光を浴びせる方法があるようだが、力の強い鬼に無理矢理に日光を浴びせる事は容易ではないとの事だった。
だから鬼殺隊が存在するのだという事だが、仇を討つという目的を果たすためには、優玄は本来ならばまず隊士を目指すべきだった。何の訓練も受けていないただの人間が、鬼を殺せるわけがない。鬼殺隊士でさえも命を落とす事がある相手なのだ。
(皇さんも仇を討ちたくて隊士にならはった……。それなのに僕は鬼の事は何も知らんと……)
清治も昔は何も知らずに、ただ鬼を殺そうと思っていたと聞いた。普通の人間が知らないのは当たり前なのだから、決して気にしないようにと言われたが、何と愚かで浅はかな考えだったのかと思うばかりだ。
人にはできる事とできない事がある。優玄はできない事をやろうとして、人に迷惑をかけた。立ち向かう力がある鬼殺隊士が羨ましい。自分の手で両親の仇を討つ力がない事が何と悔しい事か。
(でもこんな事ばっか考えとったらあかん。僕は僕のできる事をやらなあかん。それがきっと皇さんたちの力になるんや)
今は炎に巻かれた寺や鬼の事よりも、住職を安全な場所へと連れて行く事。それが鬼殺隊から託された
「足元、気をつけてくださいよ」
優玄に手を引かれて山道を下っていた住職は、突然手を離した。
「優玄、みんな手伝いに駆けつけてくれとるのに、わしだけ逃げるんはやっぱりあかんで。何や若い衆らの事も心配やし、わしは戻るわ」
「危ないですって! 鬼殺隊の方は逃げるよう言ってはったやないですか!」
「せやけど寺には大事なもんも山ほどあるさかい。バタバタと何も持たんと出て来てしもたが、離れだけやなくて全部に火が回ってしもたらどないするんや。仏様が燃えてまうのだけは何とかせんと」
住職は踵を返して下って来た山道をえっちらおっちら登り始めた。
「ああっ、いけませんって!」
「わしはあの寺の住職や! 先代から受け継いだ守らんとあかんもんが仰山あるんや! 身一つで逃げたら笑いもんになるわっ!」
「この世に命より大事なものなんてありませんよ! 物は失っても替えがありますけど、命には替えがないんです! お金を出しても買えんし、売っとりもしません! お願いですさかい、僕と一緒に麓まで逃げてください! でないと僕は……さっきの過ちを償えません! 何としても和尚さんの命は僕が守らなあかんのです!」
「優玄……」
麓にはすでに鴉から隠へと連絡が行っているはずである。そこで二人とも匿ってもらう手筈になっている……。優玄には鴉がどうとかこうとかよく分からない話だったが、清治らの言葉を信じて向かうしかない。
「火事は皇さんたちに任せましょう。きっとすぐに火を消してくれます! さぁ行きますよ! まだ戻る言わはるんなら、僕は和尚さんを
あの何事も自信なさげな優玄が、今は声を張り上げて自分の意思を伝えている。住職はじんわりと心が熱くなり、思わず涙ぐんだ。
「ハッハッハ、何言うとるんや。こーんなヒョロヒョロのお前に背負われたら、坂から一緒に真っ逆さまや。わしはごめんやで。自分の足で歩くわ」
笑い合った二人は、また歩き始めた。
突発的に起きた火事で気が張っていた優玄だったが、山道を下るにしたがって呼吸が乱れ、動悸も激しくなってきていた。毒が蓄積しているせいか度々ひどい眩暈を起こし、時折胸を押さえ歩き続けつつも、高齢の住職の体を気遣って何度も大丈夫かと声をかける。
具合の悪さを見せて、心配させるわけにはいかなかった。
(これが僕の使命や。鬼は鬼殺隊に任せ、僕はこういう形で人の命を守る!)
そうやって自分を励ましながら何とか隠の待機場所に辿り着いて保護されたが、到着した途端に優玄はバタリと倒れて意識を失ってしまった。
