隠滅の炎
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「そんで、その親を殺して喰っとったっちゅうのが、蓮峰 や言うんか?」
住職の声は震えている。
「……はい。居場所を知ったのは偶然です。たまたま泥濘 で足を挫いた時、托鉢をしていた山伏の方に助けられ、何やかんやと話すうちに、この絵の男を知っとると言われたんです。よく吉野山で見かけると。その人、何度も話した事もあるし、温泉でも一緒になったから間違いないと言うたんです。背中に火傷の跡があるとも言ってました」
優玄はすぐさま吉野山に向かい、蓮峰がこの寺にいると調べ上げ、裏付けを取った。同時に、山に出ると言う鬼の話も耳にした。確信した優玄は、適当な嘘の身の上話をしてこの寺へ潜り込みながら、仇討ちの機会を窺っていたという事である。
「和尚さん、堪忍してください! 僕はっ、僕はどうしても親の仇を討ちたくて、嘘をついてここに入れてもろて……!」
「ええ、ええ。わしは責めはせん。大変な思いやったやろうに、解かってやらんですまんかった。やけど、もっと詳しい事聞かせなはれ」
「はい。就寝前、僕の房に蓮峰さんが来はって、いつも持ち歩いていた懐剣の事がバレてしまったんです。それでいろいろ言われて殴られて……。僕はもう我慢ならんくなって、廊下を歩く蓮峰さんを後ろから刺そうと思って背中を追いかけたんです。でも実際僕が刺そうとしたのは、どういうわけか蓮峰さんやなかったっちゅう事で……」
優玄はわんわん泣き、何度も何度も謝った。住職に恩こそあれ、決して殺意はなく、自分でもなぜこうなったのか理解できないと訴えた。住職も優玄の背中をさすり「ええ、ええ」となだめている。
たまたま住職が小便に立った事が重なっただけなのだろう。あるいは蓮峰はそれを知っていて、わざとこうなるように仕向けたか。
「住職、蓮峰さんの房を今すぐみんなで調べてください。押入れには大量の頭蓋骨があります。それと吐き気を催すほどの腐敗臭が……。房のどこかに人間の死体があるかもしれません。できれば床下もくまなく調べてください。今は信じられないかもしれませんが、きっと俺たちの言う事を信用していただけるでしょう」
「……死体やと?」
「……おそらく行方知れずの人たちのものではないかと」
「…………。ほな、みんなを集めェ。ええな?」
住職は僧侶たちに指示し、すぐに蓮峰の房がある離れが調べられる事になった。清治たちも次の行動に出る。
「獪岳さん、班員にこの事を伝えてもらえますか。俺はすぐに下山して隠に伝えに行きます」
「それはいいけどよ、どうすんだ? 全員こっちに呼んで鬼天狗をやんのか?」
「いや、それも含めて一旦事情を話して相談を──」
清治と獪岳が話していると、大声で遠くから叫ぶ声が聞こえた。
「火が出たぞーッ‼」
二人はハッとし、住職の房を飛び出した。庫裏内はドタドタと走り回る音が響き、すでに騒ぎになっている。
「火事だーッ! 離れから火が出たぞー!」
(離れ……⁉ 蓮峰の房か!)
自然発火はあり得ないと直感で思った。これはきっと、蓮峰自らが火をつけたに違いない。
「優玄さん、住職を連れてすぐに逃げてください! 俺たちはすぐに隊士全員を呼んで消火に当たります!」
「ええっ、僕がですか⁉」
「はいっ、お願いしますよ!」
「で、でも……! どこへ逃げたらええんですか……?」
「山道の入り口に『隠』と背中に書いた黒頭巾の人たちがいます。すぐに鴉を知らせにやって事情を伝えるので、そこで匿ってもらってください! 優玄さんは体の具合も悪いようですし、住職だって逃げ遅れたら大変ですから! 火は俺たちが消します!」
「山道を……? 鴉って……?」
優玄はおどおどしながら訊いた。すると獪岳がドンと肩を弾いた。
「うるせぇッ‼ つべこべ言ってねぇでこのじいさん連れて早く逃げろや! オラ、さっさと行けっ‼」
苛立つ獪岳に圧倒され、優玄は住職を連れてそそくさと出て行った。
「キヨ、向こうには俺たちの動きが丸見えのようだな。とっとと証拠隠滅とはな」
「ええ。せっかく蝋で作った獪岳さんの首、溶けてなくなっちゃいますね。善逸さんへのお土産にしたかったのに」
「チッ、ふざけろ。とにかくお前は鴉に伝えて全員をここへ招集させろ。俺は先に離れへ向かって消火を手伝う。油断するな、奴はシラっと化けて出るぞ」
「分かってますって。そっちこそもう騙されないでくださいよ。じゃあまた後で」
清治は外に出て烏龍 を呼び、山道入り口の広場にいる隠と仲間の鴉に優玄たちの事と、急いで消火活動に加わるよう伝えてもらうよう頼んだ。
歴史ある寺の本堂まで火が及ぶと大惨事になる。そして火の粉が飛んで山火事にでも発展すれば、それこそ消火の目途は立たなくなる。
(蓮峰のオッサンめ。絶対俺がその太い頸ぶった斬ってやっからな)
清治は炊事場に行くと、その辺に置かれていた適当な桶を幾つも掴んで井戸へと急いだ。
住職の声は震えている。
「……はい。居場所を知ったのは偶然です。たまたま
優玄はすぐさま吉野山に向かい、蓮峰がこの寺にいると調べ上げ、裏付けを取った。同時に、山に出ると言う鬼の話も耳にした。確信した優玄は、適当な嘘の身の上話をしてこの寺へ潜り込みながら、仇討ちの機会を窺っていたという事である。
「和尚さん、堪忍してください! 僕はっ、僕はどうしても親の仇を討ちたくて、嘘をついてここに入れてもろて……!」
「ええ、ええ。わしは責めはせん。大変な思いやったやろうに、解かってやらんですまんかった。やけど、もっと詳しい事聞かせなはれ」
「はい。就寝前、僕の房に蓮峰さんが来はって、いつも持ち歩いていた懐剣の事がバレてしまったんです。それでいろいろ言われて殴られて……。僕はもう我慢ならんくなって、廊下を歩く蓮峰さんを後ろから刺そうと思って背中を追いかけたんです。でも実際僕が刺そうとしたのは、どういうわけか蓮峰さんやなかったっちゅう事で……」
優玄はわんわん泣き、何度も何度も謝った。住職に恩こそあれ、決して殺意はなく、自分でもなぜこうなったのか理解できないと訴えた。住職も優玄の背中をさすり「ええ、ええ」となだめている。
たまたま住職が小便に立った事が重なっただけなのだろう。あるいは蓮峰はそれを知っていて、わざとこうなるように仕向けたか。
「住職、蓮峰さんの房を今すぐみんなで調べてください。押入れには大量の頭蓋骨があります。それと吐き気を催すほどの腐敗臭が……。房のどこかに人間の死体があるかもしれません。できれば床下もくまなく調べてください。今は信じられないかもしれませんが、きっと俺たちの言う事を信用していただけるでしょう」
「……死体やと?」
「……おそらく行方知れずの人たちのものではないかと」
「…………。ほな、みんなを集めェ。ええな?」
住職は僧侶たちに指示し、すぐに蓮峰の房がある離れが調べられる事になった。清治たちも次の行動に出る。
「獪岳さん、班員にこの事を伝えてもらえますか。俺はすぐに下山して隠に伝えに行きます」
「それはいいけどよ、どうすんだ? 全員こっちに呼んで鬼天狗をやんのか?」
「いや、それも含めて一旦事情を話して相談を──」
清治と獪岳が話していると、大声で遠くから叫ぶ声が聞こえた。
「火が出たぞーッ‼」
二人はハッとし、住職の房を飛び出した。庫裏内はドタドタと走り回る音が響き、すでに騒ぎになっている。
「火事だーッ! 離れから火が出たぞー!」
(離れ……⁉ 蓮峰の房か!)
自然発火はあり得ないと直感で思った。これはきっと、蓮峰自らが火をつけたに違いない。
「優玄さん、住職を連れてすぐに逃げてください! 俺たちはすぐに隊士全員を呼んで消火に当たります!」
「ええっ、僕がですか⁉」
「はいっ、お願いしますよ!」
「で、でも……! どこへ逃げたらええんですか……?」
「山道の入り口に『隠』と背中に書いた黒頭巾の人たちがいます。すぐに鴉を知らせにやって事情を伝えるので、そこで匿ってもらってください! 優玄さんは体の具合も悪いようですし、住職だって逃げ遅れたら大変ですから! 火は俺たちが消します!」
「山道を……? 鴉って……?」
優玄はおどおどしながら訊いた。すると獪岳がドンと肩を弾いた。
「うるせぇッ‼ つべこべ言ってねぇでこのじいさん連れて早く逃げろや! オラ、さっさと行けっ‼」
苛立つ獪岳に圧倒され、優玄は住職を連れてそそくさと出て行った。
「キヨ、向こうには俺たちの動きが丸見えのようだな。とっとと証拠隠滅とはな」
「ええ。せっかく蝋で作った獪岳さんの首、溶けてなくなっちゃいますね。善逸さんへのお土産にしたかったのに」
「チッ、ふざけろ。とにかくお前は鴉に伝えて全員をここへ招集させろ。俺は先に離れへ向かって消火を手伝う。油断するな、奴はシラっと化けて出るぞ」
「分かってますって。そっちこそもう騙されないでくださいよ。じゃあまた後で」
清治は外に出て
歴史ある寺の本堂まで火が及ぶと大惨事になる。そして火の粉が飛んで山火事にでも発展すれば、それこそ消火の目途は立たなくなる。
(蓮峰のオッサンめ。絶対俺がその太い頸ぶった斬ってやっからな)
清治は炊事場に行くと、その辺に置かれていた適当な桶を幾つも掴んで井戸へと急いだ。
