騙された者
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三人はひときわ静かな離れにある蓮峰の房へと向かった。蓮峰はこの寺の中では客人のような扱いで、僧侶たちが生活する庫裏から渡り廊下を行った所にある北側の房を与えられていた。ここはかなり昔に僧侶の房として使われていた場所だが、日当たりや風通しが悪いのと、近くにある沼地の湿気でカビが生えやすく、使われなくなっていた場所だった。
襖は黄ばんでいて、黒い引手の周りは手垢で茶色くなっている。ひんやりとした、何とも言えない雰囲気の漂う房だ。鬼であるとの前提においては、まさに鬼の巣窟と言っていいほどである。
「勝手に入っていいのか?」
獪岳は心配そうに訊く。
「蓮峰さんは決して人をここへ近づかせへんのです。和尚さんでさえもです。僕はたまに用事を頼まれてここへ来ますけど、着いた時に廊下から呼びかけるだけです。中を覗いた事はないです」
「修行に出たのに、実は中にいるとかねぇだろうな。本当に出て行ったんだよな、キヨ」
「はい。でも……こうなった以上、戻って来ないんじゃないですか? 今夜の事は全てあの人が裏で何かした事でしょ。どの面 下げて帰って来るんですか」
あの人ならどんな面 でも下げる事ができるのではないか。何しろ清治に化けたという疑惑がある。鬼天狗は天狗の面を着けている。もし面を使って人のフリをする事ができるのなら、この寺の誰かになって忍び込む事もできるのではないか。獪岳はそう思ったが、口をつぐんだ。
「とにかく、あの人は何者なのか、みんなで調べてみませんか」
「……俺は嫌だね。どうせ鬼なんだから、調べる意味なんてねぇよ。殺すだけだ」
「獪岳さん、まだ分からないじゃないですか。鬼である証拠を掴まなきゃ、俺たちが斬ってしまった後にただの人間だったってなったら大事 ですよ」
「だけどこんな所に入って何が分かるんだよ」
「知りませんよそんなの。でも俺は入ってみます‼」
清治は腰の刀をスッと抜いて構えながら、左手でそーっと襖を開けた。中は真っ暗、優玄は持っていた提灯を見やすいように掲げて部屋を照らしてやる。
「……この臭 い」
清治は顔をしかめる。獪岳も優玄も袖で鼻を覆った。
「……肉が腐ったような臭いがする。これって死臭じゃねぇのか?」
「……そうですね。確かに」
清治は優玄から提灯を借りて中へと進む。獪岳と優玄は廊下で待ち、入ろうとしなかった。
「着物、数珠……。それに帯。筆と紙……。一見普通の物だらけだけど、この臭いはどこから……?」
思い切って一番臭い押入れを開けた。
「うっ、うわぁぁぁぁ~‼」
「どうした!」
清治は腰を抜かして尻もちをついた。押入れの中には大量の頭蓋骨が山積みになっていたのだ。
廊下で見ていた二人も慌てて中へ入り、その人骨を見て驚愕する。
「何やこれ‼ こんな仰山 ‼」
思わずお国言葉が出た清治は、毛髪が付いたまま向こうを見て並んでいる頭があるのに気が付いた。
「ちょっと……まさかこれってまだ肉が付いてるままのヤツ……?」
「にっ、肉が付いてるって言うんじゃねぇよ。……やたら生々しいだろうが」
「だってほら、髪の毛……。えっ、ちょっ、これ獪岳さんと同じ髪型じゃないですか!?」
「はぁぁぁっ⁉ んなわけねぇだろうが!」
「だって……このゲジゲジっとしたぶっといもみあげ……。ほら、見てくださいよ。この、手元が狂った床屋が切ったようなザンバラなボサボサ頭……! そっくりですよ!?」
「てっ、テメェ‼ こっ、こんな時に‼ ……ふっ、ふざけんじゃねぇっ‼」
清治と獪岳はお互い顔を見合わせた。確かにこの頭は自分にそっくりであると獪岳自身も思ったようで、刀の柄でそ~っとそれの向きを変えてみた。
ゆっくりと全貌が明らかになる。
「おっ……⁉ 俺じゃねぇか~ッ‼」
「ギャァァァァァッ‼ 獪岳さんの生首ィィィィィィ‼」
清治は獪岳に抱きつき、ふと獪岳の顔を見上げてまたギャーと叫んで慌てて離れた。そして優玄に抱きつき、オエオエとえずいている。
ムスッとした獪岳は提灯を奪い、よく照らしてそれを見る。するとどうやらそれは本物の生首ではなく、蝋のような物で作られているのだと分かった。髪だけは本物の人毛のようである。
「作り物だ」
「ええっ、本当ですか!? どう見ても本物でしょう!? こんなにも生々しいのに⁉」
「作り物に決まってんだろ! だいたい俺はまだ生きてんだろうが!」
獪岳はそれを抱えながら清治たちに見せつけた。同じような顔が二つ並んでいる。何とも奇妙な光景だ。
「どうやらこれは人骨に蝋を使って肉付けしたみたいだな。ほら、頸の切り口見てみろよ。中は骨だ」
「オエェェェッ。似すぎて気持ち悪い。よく触れますね、そんなもん」
「いつまでえずいてんだよ! えずきてぇのはこっちの方だ! チッ、何なんだよ、コレ‼ 気持ち悪ィ顔のモン作りやがって」
「皇さん、この方自分でこないな事言ってはりますねェ。自分の顔が気持ち悪いやと……プフフ」
「プッ……ホンマですねェ」
「ああ゛んッ!? 何だァテメェら‼ お前らも蝋人形にしてやろうかーッ!?」
獪岳の悪魔のような凄み。これは誰にも真似できない。
「コイツはガイコツ収集家か? 悪趣味にも程があるぜ。どんだけ人喰ったんだよ」
「あれ? 何でしょう、頭頂部の骨が切り取られている物がある」
「はぁ? ああ、これか」
「ここの部分って、火葬して骨壺に入れる時に、最後に蓋をするように被せて入れる部分の大事な骨のはずですよ」
「どうでもいいだろ。それにしても、これだけ見ればもうキマリだな。あのムカつくオッサンは鬼だ。これ以上気持ち悪いモンは見たくねぇし、さっさとずらかるぞ」
三人はこの事を住職に話す事にして、そそくさと撤退した。
実は押入れの下段には、人肉が漬けられた甕かめがあった。もしそれの蓋を開けて中を見ようものなら、三人はきっといい歳をして母親を呼び、誰彼構わず助けを求め、挙句に失……いや、本人たちの名誉の為に想像しないでおこう──。
襖は黄ばんでいて、黒い引手の周りは手垢で茶色くなっている。ひんやりとした、何とも言えない雰囲気の漂う房だ。鬼であるとの前提においては、まさに鬼の巣窟と言っていいほどである。
「勝手に入っていいのか?」
獪岳は心配そうに訊く。
「蓮峰さんは決して人をここへ近づかせへんのです。和尚さんでさえもです。僕はたまに用事を頼まれてここへ来ますけど、着いた時に廊下から呼びかけるだけです。中を覗いた事はないです」
「修行に出たのに、実は中にいるとかねぇだろうな。本当に出て行ったんだよな、キヨ」
「はい。でも……こうなった以上、戻って来ないんじゃないですか? 今夜の事は全てあの人が裏で何かした事でしょ。どの
あの人ならどんな
「とにかく、あの人は何者なのか、みんなで調べてみませんか」
「……俺は嫌だね。どうせ鬼なんだから、調べる意味なんてねぇよ。殺すだけだ」
「獪岳さん、まだ分からないじゃないですか。鬼である証拠を掴まなきゃ、俺たちが斬ってしまった後にただの人間だったってなったら
「だけどこんな所に入って何が分かるんだよ」
「知りませんよそんなの。でも俺は入ってみます‼」
清治は腰の刀をスッと抜いて構えながら、左手でそーっと襖を開けた。中は真っ暗、優玄は持っていた提灯を見やすいように掲げて部屋を照らしてやる。
「……この
清治は顔をしかめる。獪岳も優玄も袖で鼻を覆った。
「……肉が腐ったような臭いがする。これって死臭じゃねぇのか?」
「……そうですね。確かに」
清治は優玄から提灯を借りて中へと進む。獪岳と優玄は廊下で待ち、入ろうとしなかった。
「着物、数珠……。それに帯。筆と紙……。一見普通の物だらけだけど、この臭いはどこから……?」
思い切って一番臭い押入れを開けた。
「うっ、うわぁぁぁぁ~‼」
「どうした!」
清治は腰を抜かして尻もちをついた。押入れの中には大量の頭蓋骨が山積みになっていたのだ。
廊下で見ていた二人も慌てて中へ入り、その人骨を見て驚愕する。
「何やこれ‼ こんな
思わずお国言葉が出た清治は、毛髪が付いたまま向こうを見て並んでいる頭があるのに気が付いた。
「ちょっと……まさかこれってまだ肉が付いてるままのヤツ……?」
「にっ、肉が付いてるって言うんじゃねぇよ。……やたら生々しいだろうが」
「だってほら、髪の毛……。えっ、ちょっ、これ獪岳さんと同じ髪型じゃないですか!?」
「はぁぁぁっ⁉ んなわけねぇだろうが!」
「だって……このゲジゲジっとしたぶっといもみあげ……。ほら、見てくださいよ。この、手元が狂った床屋が切ったようなザンバラなボサボサ頭……! そっくりですよ!?」
「てっ、テメェ‼ こっ、こんな時に‼ ……ふっ、ふざけんじゃねぇっ‼」
清治と獪岳はお互い顔を見合わせた。確かにこの頭は自分にそっくりであると獪岳自身も思ったようで、刀の柄でそ~っとそれの向きを変えてみた。
ゆっくりと全貌が明らかになる。
「おっ……⁉ 俺じゃねぇか~ッ‼」
「ギャァァァァァッ‼ 獪岳さんの生首ィィィィィィ‼」
清治は獪岳に抱きつき、ふと獪岳の顔を見上げてまたギャーと叫んで慌てて離れた。そして優玄に抱きつき、オエオエとえずいている。
ムスッとした獪岳は提灯を奪い、よく照らしてそれを見る。するとどうやらそれは本物の生首ではなく、蝋のような物で作られているのだと分かった。髪だけは本物の人毛のようである。
「作り物だ」
「ええっ、本当ですか!? どう見ても本物でしょう!? こんなにも生々しいのに⁉」
「作り物に決まってんだろ! だいたい俺はまだ生きてんだろうが!」
獪岳はそれを抱えながら清治たちに見せつけた。同じような顔が二つ並んでいる。何とも奇妙な光景だ。
「どうやらこれは人骨に蝋を使って肉付けしたみたいだな。ほら、頸の切り口見てみろよ。中は骨だ」
「オエェェェッ。似すぎて気持ち悪い。よく触れますね、そんなもん」
「いつまでえずいてんだよ! えずきてぇのはこっちの方だ! チッ、何なんだよ、コレ‼ 気持ち悪ィ顔のモン作りやがって」
「皇さん、この方自分でこないな事言ってはりますねェ。自分の顔が気持ち悪いやと……プフフ」
「プッ……ホンマですねェ」
「ああ゛んッ!? 何だァテメェら‼ お前らも蝋人形にしてやろうかーッ!?」
獪岳の悪魔のような凄み。これは誰にも真似できない。
「コイツはガイコツ収集家か? 悪趣味にも程があるぜ。どんだけ人喰ったんだよ」
「あれ? 何でしょう、頭頂部の骨が切り取られている物がある」
「はぁ? ああ、これか」
「ここの部分って、火葬して骨壺に入れる時に、最後に蓋をするように被せて入れる部分の大事な骨のはずですよ」
「どうでもいいだろ。それにしても、これだけ見ればもうキマリだな。あのムカつくオッサンは鬼だ。これ以上気持ち悪いモンは見たくねぇし、さっさとずらかるぞ」
三人はこの事を住職に話す事にして、そそくさと撤退した。
実は押入れの下段には、人肉が漬けられた甕かめがあった。もしそれの蓋を開けて中を見ようものなら、三人はきっといい歳をして母親を呼び、誰彼構わず助けを求め、挙句に失……いや、本人たちの名誉の為に想像しないでおこう──。
