騙された者
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「う、う……ん」
横になっていた優玄が微かな声を出して手足をモゾっと動かす。薄っすらと開く目の焦点はまだ合っていないようだ。
「優玄さん!」
すぐに枕元に座った清治は、優玄の肩に触れ、頬に触れ、何度も呼びかけた。
「皇さん……? 何でここに……」
「良かった、体はどうもないですか? ちょっと強く抑えたさかい、どこか痛いとこないですか?」
「……?」
優玄は何の事か分からない様子だったが、虚ろな目でしばらく天井の方を見てハッとした。
「僕っ、僕っ……!」
飛び起きてまた錯乱し始めた。清治はすぐに抱え込み、見ていた獪岳もばたつく足を押さえた。
「落ち着いてください! 一旦落ち着きましょう! さぁ、息を吐いて‼ ゆっくりゆっくり……!」
「蓮峰さんが鬼なんです‼ 鬼天狗はホンマに蓮峰さんなんです‼ あの人を殺してください! 僕の親を殺して喰ったんはあの人や! あの人なんやーっ‼」
「分かっとります!」
「……えっ?」
「せやから俺たちに任してください‼ その為にここへ来たんですから!」
ピタリと騒ぐのをやめた優玄に、清治は優しく微笑みかけた。そして優玄が懐剣を懐に入れていた事を知っていたと教える。その懐剣を何に使うのかと心配していたが、まさか鬼を殺そうとしていたとは思わなかった事も。
しかしながらおかしな事がある。優玄は自ら蓮峰を殺すつもりだったようだが、刺そうとした相手はなぜか住職である。その理由がどうも分からない。
「えっ、僕が刺そうとしたのは和尚 さんやったんですか?」
「はい。厠の帰りに、優玄さんが突然背後から走って来て、いきなり襲って来たと」
「そんな……。僕は蓮峰さんを追いかけて……」
また見間違ってしまったのか。いや、あれは確かに憎い蓮峰の後ろ姿だった。背中の大きな、筋肉質の体。目が悪くても、腰の曲がりかけた背丈の低い住職と間違えるはずもない。優玄はそう思ったが、記憶は曖昧である。そして自分の視力に自信がない。
「見間違いやったんでしょうか……。目もよう見えへんから本当はどうやったか分からんのです。間違っとったんなら、和尚さんに謝らな。ホンマに申し訳ない事をしてしまいました」
「昔から目が悪かったんですか?」
「いいえ。昔はどうもなかったんですが、ここへ来るようになってしばらくしてからです」
「他に何か変わった事は?」
「そうですね、そう言えば少し痩せたせいか、体力がなくなりました。ちょっと動いただけで息切れがするのと、足に力が入らんのです」
桶の水を運んでいる時も、ヨタヨタと歩いてこぼしていたのが印象的だった。桶の大きさも大した物ではないのに若い男が運べないなど、ちょっと首を傾げるものだったが、痩せた優玄ならばしょうがない事だと清治は思っていた。
「おい、ちょっと目を見せろ」
獪岳は優玄の下まぶたをめくった。
「口を大きく開けて舌を出せ」
言われるまま、獪岳の要求に従っている。最後に手足の爪も確認され、何を確認されているのか分からない優玄は、だんだん心配そうな顔になってくる。
「体に湿疹は?」
「あっ、あります! 腰骨やあばらの皮が薄いような所に」
獪岳は清治をチラっと見た。何か分かったと言うのか。
「俺は医者じゃねぇから分からねぇが、俺がガキの頃に似たような症状の奴がいた。ソイツも身寄りがなくてな、料理屋の台所に夜な夜な忍び込んでは、腐ってようが何だろうが、食えそうなもんなら何でも盗んで食ってたんだ」
「ぼっ、僕は腐ったもんなんて食べとらんです……!」
「聞けよ。でな、そいつは何を食ったか、だんだん歩けねぇくらいにやせ細って、最後には盲目 になったんだよ」
しばらく世話をしてやっていたが、朝起きると死んでいた。町の人の話では、殺鼠 剤の入った団子でも食ったのではという事だった。
「殺鼠……ネズミを殺す毒ですか?」
「俺はそれがどういう毒なのかは知らねぇ。だけど、料理屋みたいな食いもんを扱う所にはネズミがよく出るって言うから、どの店も置いている物らしい。ソイツも血色がやたら悪くて、皮膚にできものがあったし、歯茎からもよく血が出てた。爪も生え際が紫っぽくてよ」
優玄は自分の爪を見る。指先があかぎれやさかむけでボロボロなのは、冷たい水で洗濯や掃除をしているからだと思って気にした事はなかったが、よく見れば爪がおかしな色をしていた。
「同じ物とは限らねぇが、何かの毒でも盛られてんじゃねぇか?」
「‼」
同じものを食べているのに、他の僧侶たちは住職も含め皆元気そうであり、調子が悪そうなのは優玄だけである。
「心当りはありますか?」
「……ないです、全然」
「蓮峰さんはみんなと一緒に食事は?」
「あの人は修行の為に度々断食をする事もあるし、粥のようなもんは避けて山で採る薬草や木の実みたいな物を食べてるっちゅうので、毎日ちゃんとした食事は用意しとらんはずです」
そんな偏った物だけでは人は生きられない。ましてやあんなにがっしりとした体を保てるわけがない。
「優玄さん、蓮峰さんの房へ案内してください」
清治はすくっと立ち上がった。
横になっていた優玄が微かな声を出して手足をモゾっと動かす。薄っすらと開く目の焦点はまだ合っていないようだ。
「優玄さん!」
すぐに枕元に座った清治は、優玄の肩に触れ、頬に触れ、何度も呼びかけた。
「皇さん……? 何でここに……」
「良かった、体はどうもないですか? ちょっと強く抑えたさかい、どこか痛いとこないですか?」
「……?」
優玄は何の事か分からない様子だったが、虚ろな目でしばらく天井の方を見てハッとした。
「僕っ、僕っ……!」
飛び起きてまた錯乱し始めた。清治はすぐに抱え込み、見ていた獪岳もばたつく足を押さえた。
「落ち着いてください! 一旦落ち着きましょう! さぁ、息を吐いて‼ ゆっくりゆっくり……!」
「蓮峰さんが鬼なんです‼ 鬼天狗はホンマに蓮峰さんなんです‼ あの人を殺してください! 僕の親を殺して喰ったんはあの人や! あの人なんやーっ‼」
「分かっとります!」
「……えっ?」
「せやから俺たちに任してください‼ その為にここへ来たんですから!」
ピタリと騒ぐのをやめた優玄に、清治は優しく微笑みかけた。そして優玄が懐剣を懐に入れていた事を知っていたと教える。その懐剣を何に使うのかと心配していたが、まさか鬼を殺そうとしていたとは思わなかった事も。
しかしながらおかしな事がある。優玄は自ら蓮峰を殺すつもりだったようだが、刺そうとした相手はなぜか住職である。その理由がどうも分からない。
「えっ、僕が刺そうとしたのは
「はい。厠の帰りに、優玄さんが突然背後から走って来て、いきなり襲って来たと」
「そんな……。僕は蓮峰さんを追いかけて……」
また見間違ってしまったのか。いや、あれは確かに憎い蓮峰の後ろ姿だった。背中の大きな、筋肉質の体。目が悪くても、腰の曲がりかけた背丈の低い住職と間違えるはずもない。優玄はそう思ったが、記憶は曖昧である。そして自分の視力に自信がない。
「見間違いやったんでしょうか……。目もよう見えへんから本当はどうやったか分からんのです。間違っとったんなら、和尚さんに謝らな。ホンマに申し訳ない事をしてしまいました」
「昔から目が悪かったんですか?」
「いいえ。昔はどうもなかったんですが、ここへ来るようになってしばらくしてからです」
「他に何か変わった事は?」
「そうですね、そう言えば少し痩せたせいか、体力がなくなりました。ちょっと動いただけで息切れがするのと、足に力が入らんのです」
桶の水を運んでいる時も、ヨタヨタと歩いてこぼしていたのが印象的だった。桶の大きさも大した物ではないのに若い男が運べないなど、ちょっと首を傾げるものだったが、痩せた優玄ならばしょうがない事だと清治は思っていた。
「おい、ちょっと目を見せろ」
獪岳は優玄の下まぶたをめくった。
「口を大きく開けて舌を出せ」
言われるまま、獪岳の要求に従っている。最後に手足の爪も確認され、何を確認されているのか分からない優玄は、だんだん心配そうな顔になってくる。
「体に湿疹は?」
「あっ、あります! 腰骨やあばらの皮が薄いような所に」
獪岳は清治をチラっと見た。何か分かったと言うのか。
「俺は医者じゃねぇから分からねぇが、俺がガキの頃に似たような症状の奴がいた。ソイツも身寄りがなくてな、料理屋の台所に夜な夜な忍び込んでは、腐ってようが何だろうが、食えそうなもんなら何でも盗んで食ってたんだ」
「ぼっ、僕は腐ったもんなんて食べとらんです……!」
「聞けよ。でな、そいつは何を食ったか、だんだん歩けねぇくらいにやせ細って、最後には
しばらく世話をしてやっていたが、朝起きると死んでいた。町の人の話では、
「殺鼠……ネズミを殺す毒ですか?」
「俺はそれがどういう毒なのかは知らねぇ。だけど、料理屋みたいな食いもんを扱う所にはネズミがよく出るって言うから、どの店も置いている物らしい。ソイツも血色がやたら悪くて、皮膚にできものがあったし、歯茎からもよく血が出てた。爪も生え際が紫っぽくてよ」
優玄は自分の爪を見る。指先があかぎれやさかむけでボロボロなのは、冷たい水で洗濯や掃除をしているからだと思って気にした事はなかったが、よく見れば爪がおかしな色をしていた。
「同じ物とは限らねぇが、何かの毒でも盛られてんじゃねぇか?」
「‼」
同じものを食べているのに、他の僧侶たちは住職も含め皆元気そうであり、調子が悪そうなのは優玄だけである。
「心当りはありますか?」
「……ないです、全然」
「蓮峰さんはみんなと一緒に食事は?」
「あの人は修行の為に度々断食をする事もあるし、粥のようなもんは避けて山で採る薬草や木の実みたいな物を食べてるっちゅうので、毎日ちゃんとした食事は用意しとらんはずです」
そんな偏った物だけでは人は生きられない。ましてやあんなにがっしりとした体を保てるわけがない。
「優玄さん、蓮峰さんの房へ案内してください」
清治はすくっと立ち上がった。
