騙された者
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優玄は房 に敷かれた布団の上で正座をして枕を見つめていた。房は僧侶一人に一つずつ与えられている。かつては皆同じ場所で寝ていたが、過去に揉め事が起きて以来、こうなったらしい。
明日も夜明け前に誰よりも早く起きなければならない。もう寝ていなければ体がもたない時間なのだが、目が冴えたままで眠れずにいた。
(……やっぱり皇さんに相談すれば良かった)
太ももに置かれた拳が二つ、震えている。
(でも、違っとったら迷惑をかけてしまうしな)
優玄はボロくさい蕎麦殻の枕の下に手を入れた。掴んで抜き取ったのは、いつも懐に入れている懐剣である。寝る時は毎晩こうして枕の下に入れているのだ。その鞘をゆっくりと抜き、ぬらりと光る刀身に自らの顔を映し出した。
ぼんやりと歪んで見えるそれに、優玄は顔を近づける。大きく映し出される両の瞳を覗き込んだ。
(……この目、これからどうなってくんや)
日に日に視力が低下しているようで、最近では月や星も二重にも三重にも重なって見え、やたらと大きく見えるようになった。
(何でや。ここへ来てから何でこないに目が……)
環境の変化と人間関係のせいで神経が参っているのか。一度医者に診てもらった方がいいのだろうが、言い出せないし、何より金がない。
「おい優玄。いつまで起きとんのや」
廊下から声がする。
「はっ、すんません! ちょっと片付け物をしとりまして」
慌てて懐剣を鞘に納め、枕の下へ入れる。すると襖がスッと開いた。
「れ、蓮峰さん!?」
「……何や、わしやと悪いか?」
「いえっ。そやけどいつもは……」
「せや。いつもは この時間、外におるよなぁ」
「…………」
懐剣を隠すのを見られたか。優玄は蓮峰の顔を恐る恐る見た。
「何や、枕の下に見られたらマズイもんでも隠しとるんか」
「そんなっ! そんな事は…」
「そんなもん枕の下に入れて、今宵は忠肝義胆の赤穂浪士になった夢でも見るつもりなんか? 誰ぞの仇でも討とうと思とんのかのう。ハハッ……そんなもんで鬼は殺せへんで」
「なっ、何の事ですか⁉ ぼ、僕はそんな……!」
蓮峰はドスドスと中に入って来ると、枕を蹴り上げた。
「ほれ見い! チンケな刀なんか隠しやがって! 何するつもりや我ェ!」
「こっ、これは……!」
「お前、まさかわしを殺そうとしとるんやなかろうな?」
「……」
ギロリと覗くように睨んでくる蓮峰の目は、なぜか優玄の視力の悪い目にもはっきりと見えた。それは心まで見透かされているかのようだった。
「……日輪刀か?」
「にち……りん、とう?」
「フンッ、何も知らんのやな。愚か者めが」
蓮峰は懐剣を掴んで鞘を抜く。そしてジロジロとくまなくそれを見た。
「フンッ。どんな高名な刀鍛冶が打った刀かと思えば、無銘の安物か。こりゃ山菜でも採るのにちょうどええのう」
「返してください!」
「ええで? せやけど自分で取り返してみい。お前も男やろ」
意地悪な笑みを浮かべて、蓮峰は懐剣を頭上高く掲げる。優玄は泣きそうな顔で跳ねて取り返そうとするが、体躯の良い蓮峰の手には届かない。
「かっ、返してください!」
「大人しそうな奴ほど何考えとるかわからんな」
「蓮峰さんかて……ひっ、人を殺して喰っとるやないかーッ!」
「……あん?」
蓮峰は血走った目でギロリと睨んだ。優玄は声を震わせながら続ける。
「鬼天狗は蓮峰さんと……ちゃいますか!?」
「ハッハッハ、こりゃとんだ勘違いをされたもんやのう。おいおい、頭は大丈夫か? 気でもおかしくなっとるんちゃうか。わしのどこが鬼やねん」
「……僕の……僕の……家ぞ……くっ、ううう~ッ‼」
泣き出した優玄を見て、蓮峰はゲラゲラ笑い出した。そして一通り笑い飛ばすと、優玄の胸倉を掴んでそのまま壁まで押しやり、ズドンと顔の真横に懐剣を突き立てた。
「ヒッ‼」
「……わしのどこが鬼やねん。おう?」
「…………」
「証拠もないんやったら滅多な事言うんやないぞ。また法螺吹きや言われるで」
「ウグッ!」
蓮峰は優玄のみぞおちを一突きして睨みつけると房を出て行った。
へなへなと座り込む優玄。拳で突かれた痛みのせいでだんだん胃が気持ち悪くなり、慌てて窓を開けた。ゲェゲェ吐ききってから、涙と口元を拭く。
「……鬼め。絶対に許さへんぞ」
何かを決心した優玄は、壁に突き刺さったままの懐剣を引っこ抜き、廊下に飛び出した。
明日も夜明け前に誰よりも早く起きなければならない。もう寝ていなければ体がもたない時間なのだが、目が冴えたままで眠れずにいた。
(……やっぱり皇さんに相談すれば良かった)
太ももに置かれた拳が二つ、震えている。
(でも、違っとったら迷惑をかけてしまうしな)
優玄はボロくさい蕎麦殻の枕の下に手を入れた。掴んで抜き取ったのは、いつも懐に入れている懐剣である。寝る時は毎晩こうして枕の下に入れているのだ。その鞘をゆっくりと抜き、ぬらりと光る刀身に自らの顔を映し出した。
ぼんやりと歪んで見えるそれに、優玄は顔を近づける。大きく映し出される両の瞳を覗き込んだ。
(……この目、これからどうなってくんや)
日に日に視力が低下しているようで、最近では月や星も二重にも三重にも重なって見え、やたらと大きく見えるようになった。
(何でや。ここへ来てから何でこないに目が……)
環境の変化と人間関係のせいで神経が参っているのか。一度医者に診てもらった方がいいのだろうが、言い出せないし、何より金がない。
「おい優玄。いつまで起きとんのや」
廊下から声がする。
「はっ、すんません! ちょっと片付け物をしとりまして」
慌てて懐剣を鞘に納め、枕の下へ入れる。すると襖がスッと開いた。
「れ、蓮峰さん!?」
「……何や、わしやと悪いか?」
「いえっ。そやけどいつもは……」
「せや。
「…………」
懐剣を隠すのを見られたか。優玄は蓮峰の顔を恐る恐る見た。
「何や、枕の下に見られたらマズイもんでも隠しとるんか」
「そんなっ! そんな事は…」
「そんなもん枕の下に入れて、今宵は忠肝義胆の赤穂浪士になった夢でも見るつもりなんか? 誰ぞの仇でも討とうと思とんのかのう。ハハッ……そんなもんで鬼は殺せへんで」
「なっ、何の事ですか⁉ ぼ、僕はそんな……!」
蓮峰はドスドスと中に入って来ると、枕を蹴り上げた。
「ほれ見い! チンケな刀なんか隠しやがって! 何するつもりや我ェ!」
「こっ、これは……!」
「お前、まさかわしを殺そうとしとるんやなかろうな?」
「……」
ギロリと覗くように睨んでくる蓮峰の目は、なぜか優玄の視力の悪い目にもはっきりと見えた。それは心まで見透かされているかのようだった。
「……日輪刀か?」
「にち……りん、とう?」
「フンッ、何も知らんのやな。愚か者めが」
蓮峰は懐剣を掴んで鞘を抜く。そしてジロジロとくまなくそれを見た。
「フンッ。どんな高名な刀鍛冶が打った刀かと思えば、無銘の安物か。こりゃ山菜でも採るのにちょうどええのう」
「返してください!」
「ええで? せやけど自分で取り返してみい。お前も男やろ」
意地悪な笑みを浮かべて、蓮峰は懐剣を頭上高く掲げる。優玄は泣きそうな顔で跳ねて取り返そうとするが、体躯の良い蓮峰の手には届かない。
「かっ、返してください!」
「大人しそうな奴ほど何考えとるかわからんな」
「蓮峰さんかて……ひっ、人を殺して喰っとるやないかーッ!」
「……あん?」
蓮峰は血走った目でギロリと睨んだ。優玄は声を震わせながら続ける。
「鬼天狗は蓮峰さんと……ちゃいますか!?」
「ハッハッハ、こりゃとんだ勘違いをされたもんやのう。おいおい、頭は大丈夫か? 気でもおかしくなっとるんちゃうか。わしのどこが鬼やねん」
「……僕の……僕の……家ぞ……くっ、ううう~ッ‼」
泣き出した優玄を見て、蓮峰はゲラゲラ笑い出した。そして一通り笑い飛ばすと、優玄の胸倉を掴んでそのまま壁まで押しやり、ズドンと顔の真横に懐剣を突き立てた。
「ヒッ‼」
「……わしのどこが鬼やねん。おう?」
「…………」
「証拠もないんやったら滅多な事言うんやないぞ。また法螺吹きや言われるで」
「ウグッ!」
蓮峰は優玄のみぞおちを一突きして睨みつけると房を出て行った。
へなへなと座り込む優玄。拳で突かれた痛みのせいでだんだん胃が気持ち悪くなり、慌てて窓を開けた。ゲェゲェ吐ききってから、涙と口元を拭く。
「……鬼め。絶対に許さへんぞ」
何かを決心した優玄は、壁に突き刺さったままの懐剣を引っこ抜き、廊下に飛び出した。
