弱味噌の師範
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
蝶屋敷では病室に当たるが、部屋へ戻った三人はそれぞれの寝台に横になる。腹いっぱいになった伊之助はもう高いびきだ。
「良い子だな、清治 は」
「さぁね。最初だけだろ。俺のダメさ加減が分かったら、さっさと俺の元から去って行くさ」
炭治郎は気に入ったようだが、善逸はそうではないらしい。多少敬語などは不慣れなところがあるようだが、決して悪い隊士ではない。前向きで、明確な目標も持っている。そういう隊士は海綿のように技を吸収し、どんどん強くなるものだ。
「あんなキラキラした奴、見てるだけでやる気が失せるよ」
「そんな。俺には善逸だってキラキラして見えるよ。あの電光石火の技、善逸はいつだって光になってるじゃないか」
「何言ってんだよ、炭治郎。そんなにおだてたって、何も礼はしねぇからな、俺」
善逸はモゾモゾと掛布団をめくって起き上がり、寝台から下りた。
「どこか行くのか?」
「ちょっとションベン。そういや行ってなかったから」
「一人で行けるか? ついて行こうか?」
「ばっ‼ バカなこと言うなよ、ガキじゃないんだし。何か出たら、俺のションベンかけてやるよッ!」
今日の善逸はいつもより逞しい。そんな風に思った炭治郎は、クスクスと布団の中で笑った。弟子の鑑にならなければと思っているのだろう。
蝶屋敷の厠 は外にある。一晩中ぼんやりと薄明かりがついているが、夜風が冷たく、何となくおどろおどろしい。
厠は男女共用で、入ると一段高い所に蓋の付いた和式の便器があり、男性は立ったままで用を足す事ができる。善逸はキョロキョロしながら厠へ入ると、さっさとズボンを下ろして用を足す。すると外から「コンコン」と戸を叩かれた。
「ちょっ! はっ、入ってますけど!?」
「……」
「だ、誰? 何か答えてよ! 俺、今入ってるんだってば!」
怖くなって、すぐに扉の外を確認したいが、尿はすぐには止まらない。一体扉の向こうには誰がいるのだろう。気配と微かな呼吸音はするが、全く得体が知れない。
(おっ、オバケ……? まさかな。今まで一度も会った事ないし。いやっ、今が初めて出会う瞬間って事もあるぞ!)
さっき炭治郎に威勢よく「ションベンかけてやるよッ!」と豪語した事を思い出す。マズい、尿はもう膀胱の中に残っていない。
善逸はズボンを上げてすっかり縮こまったイチモツをしまい、厠の扉に耳を当てた。
(確かにコンコンってやられたよな……?)
外からは音がない。でも確かに気配がある。
(……外に出たいんですけど!? でも怖い! 人がいてもいなくても怖い! あ~、マジで炭治郎について来てもらえば良かった! せっかく声掛けてくれたのに、何でカッコつけちゃって断っちゃったんだろう。大体おしっこなんかかけて何とかなるわけないじゃん‼ バカだろ俺‼ 刀は置いてきちゃったし、武器がおしっこだけなんて俺の頭どうかしてるだろ!)
帰って来るのが遅いと炭治郎が様子を見に来てくれないか。そんなことを願いながら閉じこもったままでいるが、厠という所に長居するのは決していい気分ではない。そろそろ鼻が限界だ。
(えーい! こんなことくらいでビビってたら鬼なんて倒せないぞ! 頑張れ俺、禰豆子ちゃんもきっとそう言ってる! よーし、俺は今から厠の扉を開ける! 開けるんだーッ!)
スンっと鼻から厠の臭いを含んだ空気を吸い込み、息継ぎも兼ねて思いっきり扉を開けた。
──が、誰もいない。
「……あれ? なぁんだ、やっぱ俺の勘違いかな? 入ってるって言ったから、後で来る事にしたって事だよな? そうだ、きっとそうだ」
ホッと安心するのも束の間、物陰からヌルッと黒い影が出てきた。
「ギッ……ギィィィィィィィヤァァァァァァァッ‼」
その驚声、夜の蝶屋敷に響き渡る──。
庭木で眠っていた野鳥たちは驚いて、バサバサと一斉に飛び去った。
「し……師範……声デカすぎっす……」
あまりの大声に、耳を押さえた清治がヨロヨロしながら姿を現す。
「はっ!? あっ、その声は‼」
さっきの憎き美男子! と言わんばかりに善逸は指を指し、涙目で睨んだ。
「お前かーッ!? 俺をビビらせたのは! 俺が用を足している時にコンコンって戸を叩いたのはお前なのかーッ!?」
「は……はぁ、本当スンマセン。いや、ちょっと驚かせてみよっかなって」
「何でそんな事しようと思ったんだよ! バカなの!? 俺を驚かせて何がしたいんだよ!」
「いや~、別に何がしたいってわけでもなかったんすけど、何か面白そうだったんで、ハハッ、ハハハ……!」
清治の耳では未だにキーンと耳鳴りが続き、善逸の声も自分の声も膜が張ったように遠く聞こえる。
「俺は毎日精一杯生きてんだよ! 毎分毎秒死ぬ可能性があんの! だからふざけないでもらえる⁉ もう心臓が口からまろび出そうになんのは御免なんだよ!」
「はぁ、スンマセン。そうか、師範は悔いのないよう精一杯毎日を過ごしているんですね! 俺も見習わなきゃ。そうですよね、下手したら一瞬で死んじゃうような毎日ですもんね。一瞬一瞬を自分の人生と向き合って過ごす……これってなかなかできない事ですよ。さすが俺の師範、言う事が違うなぁ」
そんな大層なつもりで言ったわけではないが、何だか高尚な事を言ったように捉えられてしまって良いんだか悪いんだか。それともおちょくられているだけなのか。
「っていうか、厠入りたいんなら入れば? 俺はもう寝る!」
「あっ、待ってくださいよ」
「一人で用足せるだろ!? 俺でもできた・・・・・・んだから!」
「それは全然平気なんですけどね。あの~実は俺、師範とちょっと話をしたいなって。今から少しどうですか?」
「嫌だよ! せっかく今日は任務もないんだし寝ときたいんだよ! お前も明日には任務に出なきゃいけないかもしれないぞ⁉ 寝といた方がいいんじゃない!?」
ギャアギャア騒いでいると、寝間着姿のアオイが蝋燭の火を持ってやって来た。それはそれはもう、明らかに怒っている音がする。
「何を騒いでいるんですか!? もうみなさん寝る時間なんです!」
「あっ、アオイちゃん……! ご、ごめんなさい」
「皇 さんも早くお休みください。隊士になったばかりで慣れてないかもしれませんけど、休める時は休む事が大事ですよ。疲れた体では集中力を欠く戦いになってしまうかもしれません。いつでも万全な体調で挑む事が怪我を防ぐ一番の方法です! では、私は朝早いのでこれで休ませていただきます! フンッ」
アオイはひと睨みするとプンスコプンスコ音を立てて戻って行った。
「良い子だな、
「さぁね。最初だけだろ。俺のダメさ加減が分かったら、さっさと俺の元から去って行くさ」
炭治郎は気に入ったようだが、善逸はそうではないらしい。多少敬語などは不慣れなところがあるようだが、決して悪い隊士ではない。前向きで、明確な目標も持っている。そういう隊士は海綿のように技を吸収し、どんどん強くなるものだ。
「あんなキラキラした奴、見てるだけでやる気が失せるよ」
「そんな。俺には善逸だってキラキラして見えるよ。あの電光石火の技、善逸はいつだって光になってるじゃないか」
「何言ってんだよ、炭治郎。そんなにおだてたって、何も礼はしねぇからな、俺」
善逸はモゾモゾと掛布団をめくって起き上がり、寝台から下りた。
「どこか行くのか?」
「ちょっとションベン。そういや行ってなかったから」
「一人で行けるか? ついて行こうか?」
「ばっ‼ バカなこと言うなよ、ガキじゃないんだし。何か出たら、俺のションベンかけてやるよッ!」
今日の善逸はいつもより逞しい。そんな風に思った炭治郎は、クスクスと布団の中で笑った。弟子の鑑にならなければと思っているのだろう。
蝶屋敷の
厠は男女共用で、入ると一段高い所に蓋の付いた和式の便器があり、男性は立ったままで用を足す事ができる。善逸はキョロキョロしながら厠へ入ると、さっさとズボンを下ろして用を足す。すると外から「コンコン」と戸を叩かれた。
「ちょっ! はっ、入ってますけど!?」
「……」
「だ、誰? 何か答えてよ! 俺、今入ってるんだってば!」
怖くなって、すぐに扉の外を確認したいが、尿はすぐには止まらない。一体扉の向こうには誰がいるのだろう。気配と微かな呼吸音はするが、全く得体が知れない。
(おっ、オバケ……? まさかな。今まで一度も会った事ないし。いやっ、今が初めて出会う瞬間って事もあるぞ!)
さっき炭治郎に威勢よく「ションベンかけてやるよッ!」と豪語した事を思い出す。マズい、尿はもう膀胱の中に残っていない。
善逸はズボンを上げてすっかり縮こまったイチモツをしまい、厠の扉に耳を当てた。
(確かにコンコンってやられたよな……?)
外からは音がない。でも確かに気配がある。
(……外に出たいんですけど!? でも怖い! 人がいてもいなくても怖い! あ~、マジで炭治郎について来てもらえば良かった! せっかく声掛けてくれたのに、何でカッコつけちゃって断っちゃったんだろう。大体おしっこなんかかけて何とかなるわけないじゃん‼ バカだろ俺‼ 刀は置いてきちゃったし、武器がおしっこだけなんて俺の頭どうかしてるだろ!)
帰って来るのが遅いと炭治郎が様子を見に来てくれないか。そんなことを願いながら閉じこもったままでいるが、厠という所に長居するのは決していい気分ではない。そろそろ鼻が限界だ。
(えーい! こんなことくらいでビビってたら鬼なんて倒せないぞ! 頑張れ俺、禰豆子ちゃんもきっとそう言ってる! よーし、俺は今から厠の扉を開ける! 開けるんだーッ!)
スンっと鼻から厠の臭いを含んだ空気を吸い込み、息継ぎも兼ねて思いっきり扉を開けた。
──が、誰もいない。
「……あれ? なぁんだ、やっぱ俺の勘違いかな? 入ってるって言ったから、後で来る事にしたって事だよな? そうだ、きっとそうだ」
ホッと安心するのも束の間、物陰からヌルッと黒い影が出てきた。
「ギッ……ギィィィィィィィヤァァァァァァァッ‼」
その驚声、夜の蝶屋敷に響き渡る──。
庭木で眠っていた野鳥たちは驚いて、バサバサと一斉に飛び去った。
「し……師範……声デカすぎっす……」
あまりの大声に、耳を押さえた清治がヨロヨロしながら姿を現す。
「はっ!? あっ、その声は‼」
さっきの憎き美男子! と言わんばかりに善逸は指を指し、涙目で睨んだ。
「お前かーッ!? 俺をビビらせたのは! 俺が用を足している時にコンコンって戸を叩いたのはお前なのかーッ!?」
「は……はぁ、本当スンマセン。いや、ちょっと驚かせてみよっかなって」
「何でそんな事しようと思ったんだよ! バカなの!? 俺を驚かせて何がしたいんだよ!」
「いや~、別に何がしたいってわけでもなかったんすけど、何か面白そうだったんで、ハハッ、ハハハ……!」
清治の耳では未だにキーンと耳鳴りが続き、善逸の声も自分の声も膜が張ったように遠く聞こえる。
「俺は毎日精一杯生きてんだよ! 毎分毎秒死ぬ可能性があんの! だからふざけないでもらえる⁉ もう心臓が口からまろび出そうになんのは御免なんだよ!」
「はぁ、スンマセン。そうか、師範は悔いのないよう精一杯毎日を過ごしているんですね! 俺も見習わなきゃ。そうですよね、下手したら一瞬で死んじゃうような毎日ですもんね。一瞬一瞬を自分の人生と向き合って過ごす……これってなかなかできない事ですよ。さすが俺の師範、言う事が違うなぁ」
そんな大層なつもりで言ったわけではないが、何だか高尚な事を言ったように捉えられてしまって良いんだか悪いんだか。それともおちょくられているだけなのか。
「っていうか、厠入りたいんなら入れば? 俺はもう寝る!」
「あっ、待ってくださいよ」
「一人で用足せるだろ!? 俺でもできた・・・・・・んだから!」
「それは全然平気なんですけどね。あの~実は俺、師範とちょっと話をしたいなって。今から少しどうですか?」
「嫌だよ! せっかく今日は任務もないんだし寝ときたいんだよ! お前も明日には任務に出なきゃいけないかもしれないぞ⁉ 寝といた方がいいんじゃない!?」
ギャアギャア騒いでいると、寝間着姿のアオイが蝋燭の火を持ってやって来た。それはそれはもう、明らかに怒っている音がする。
「何を騒いでいるんですか!? もうみなさん寝る時間なんです!」
「あっ、アオイちゃん……! ご、ごめんなさい」
「
アオイはひと睨みするとプンスコプンスコ音を立てて戻って行った。
