騙された者
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山の夜は静かだ。何の鳥か分からないが夜行性のものか、さっきからずっと気味悪く鳴いている。鳥はなぜ暗闇でも怖くないのだろうか、人はなぜ暗闇を怖がるのだろうかと清治は考えていた。
「また警備とやらか? ご苦労なこったな」
背後から声をかけられ、清治はハッとして振り返った。
「……蓮峰さん!」
「どうや、鬼の情報はあったんか?」
剃り上げられた坊主頭に、小さく丸い頭襟 を載せ、真白い装束に身を包んだ蓮峰は、その浅黒い顔に白い歯を見せて清治に笑いかけた。
「……いえ、残念ながら」
清治は強張った笑みをこぼす。
「そうか。なら退屈やな。鬼殺隊に入っとるくらいやし、たまには暴れたくてしゃあなくなるんやないか?」
「いえ、俺はそんな……」
「兄ちゃん、まだ十四や言うとったな。しっかし若いのう。まだガキやないか。鬼っちゅうよう分からんもんを相手にするより、お国の為に帝国軍人にでもなればええんちゃうか? 日本は海に囲まれとるからな、敵は四方八方におって退屈せぇへんで」
蓮峰は腰にぶら下げた瓢箪 の栓をスポンと抜き、口元にやるとグイっと傾けた。
「あーっ、甘露甘露ッ!」
旨そうにグビグビと飲んでいる。
「酒ですか?」
「この吉野山の恵みや」
「水……ですか?」
「お前も飲んでみるか? 精がつくぞ。昼も夜も眠らんで女抱けるくらいにな。ハッハッハ、冗談や。兄ちゃんにはまだどギツかったな。堪忍しいや」
清治は揶揄 われて黙り込んだ。蓮峰はニヤニヤと笑いながら、また瓢箪に口をつけている。
「その格好、今から修行に行かれるんですか?」
「ああ、そうや」
「……怖くないんですか? 鬼がいるのに」
清治の目は真剣に訊く。それが可笑 しかったのか、蓮峰は笑い出した。
「アッハッハ! ぜーんぜん。怖くなんかあらへん」
「なぜですか?」
「……何でやろなぁ。やけどそんなもんイチイチ気にしとったら何もできんやろ。なぁ鬼殺隊さんよ、さっさと鬼退治してくれや。どんだけ時間かかっとんねん。一丁前に刀持っといて、どんだけ死んどるんや。お前らのカシラ も大した事ないのう。何や鬼殺隊は戦国時代から続いとるそうやないか。カシラは何百年も呆け茄子集めて武器持たしとるだけか?」
清治は蓮峰の死角で静かに作った拳を震わせている。奥歯がギリギリと音を立て、微かに呼吸が乱れた。
「お館様を侮辱しないでいただきたい。俺たちを罵るのはいいが、お館様への侮辱は撤回していただきたい」
「何でや。ホンマの事やろ」
「……たとえ本当の事であっても、部外者にお館様の事をそんな風に言われたくない」
「おうおう、見上げた忠誠心やな。そういや何や呪われとるらしいな? 当主は代々病気になって長生きせぇへんのやろ? 今まで殺して来た鬼の呪いっちゅう事か? そりゃ難儀なこっちゃ、ハーッハッハ! フンッ…………病気に勝てんもんが鬼に勝てるわけないやろが」
清治は気が短い。理性が働くよりも先に、刀の柄 に手が伸びた。
「おう? やるんか?」
「……クッ」
「こりゃ驚いたで。鬼殺隊は人をも殺そうとすんのやな。恐ろしいこっちゃやで」
「……さっさと行け。任務の邪魔をするな」
「わーっとるわい。……殺されでもしたら堪らんしな。ほな、せいぜい頑張ってくれや、きれいな顔の兄ちゃん」
蓮峰はさっと身を翻すと、真っ暗な藪の中へと消えて行った。
(クソっ……!)
ニタニタと笑いながら話す蓮峰の顔が目に焼き付いている。腹が立って仕方がないが、世間からそう思われていてもおかしくはない事実に、清治は何も言い返せなかった。
結果を出さなければ、ただの役立たずとしか思われない。このままではわざわざ東京から殺されに来た愚かな軍団になってしまう。
この吉野の人は口に出さないだけで、皆同じように思っているのかも知れない。あまり協力を得られないのも、今度もまた駄目なのではないかと期待されていないせいではないのか。
「また警備とやらか? ご苦労なこったな」
背後から声をかけられ、清治はハッとして振り返った。
「……蓮峰さん!」
「どうや、鬼の情報はあったんか?」
剃り上げられた坊主頭に、小さく丸い
「……いえ、残念ながら」
清治は強張った笑みをこぼす。
「そうか。なら退屈やな。鬼殺隊に入っとるくらいやし、たまには暴れたくてしゃあなくなるんやないか?」
「いえ、俺はそんな……」
「兄ちゃん、まだ十四や言うとったな。しっかし若いのう。まだガキやないか。鬼っちゅうよう分からんもんを相手にするより、お国の為に帝国軍人にでもなればええんちゃうか? 日本は海に囲まれとるからな、敵は四方八方におって退屈せぇへんで」
蓮峰は腰にぶら下げた
「あーっ、甘露甘露ッ!」
旨そうにグビグビと飲んでいる。
「酒ですか?」
「この吉野山の恵みや」
「水……ですか?」
「お前も飲んでみるか? 精がつくぞ。昼も夜も眠らんで女抱けるくらいにな。ハッハッハ、冗談や。兄ちゃんにはまだどギツかったな。堪忍しいや」
清治は
「その格好、今から修行に行かれるんですか?」
「ああ、そうや」
「……怖くないんですか? 鬼がいるのに」
清治の目は真剣に訊く。それが
「アッハッハ! ぜーんぜん。怖くなんかあらへん」
「なぜですか?」
「……何でやろなぁ。やけどそんなもんイチイチ気にしとったら何もできんやろ。なぁ鬼殺隊さんよ、さっさと鬼退治してくれや。どんだけ時間かかっとんねん。一丁前に刀持っといて、どんだけ死んどるんや。お前らの
清治は蓮峰の死角で静かに作った拳を震わせている。奥歯がギリギリと音を立て、微かに呼吸が乱れた。
「お館様を侮辱しないでいただきたい。俺たちを罵るのはいいが、お館様への侮辱は撤回していただきたい」
「何でや。ホンマの事やろ」
「……たとえ本当の事であっても、部外者にお館様の事をそんな風に言われたくない」
「おうおう、見上げた忠誠心やな。そういや何や呪われとるらしいな? 当主は代々病気になって長生きせぇへんのやろ? 今まで殺して来た鬼の呪いっちゅう事か? そりゃ難儀なこっちゃ、ハーッハッハ! フンッ…………病気に勝てんもんが鬼に勝てるわけないやろが」
清治は気が短い。理性が働くよりも先に、刀の
「おう? やるんか?」
「……クッ」
「こりゃ驚いたで。鬼殺隊は人をも殺そうとすんのやな。恐ろしいこっちゃやで」
「……さっさと行け。任務の邪魔をするな」
「わーっとるわい。……殺されでもしたら堪らんしな。ほな、せいぜい頑張ってくれや、きれいな顔の兄ちゃん」
蓮峰はさっと身を翻すと、真っ暗な藪の中へと消えて行った。
(クソっ……!)
ニタニタと笑いながら話す蓮峰の顔が目に焼き付いている。腹が立って仕方がないが、世間からそう思われていてもおかしくはない事実に、清治は何も言い返せなかった。
結果を出さなければ、ただの役立たずとしか思われない。このままではわざわざ東京から殺されに来た愚かな軍団になってしまう。
この吉野の人は口に出さないだけで、皆同じように思っているのかも知れない。あまり協力を得られないのも、今度もまた駄目なのではないかと期待されていないせいではないのか。
