観天望気の作戦
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蕎麦なのでみんな食べ終わるのが早い。夕餉は何だろうなとどこかで呑気に話す声もある。宿坊の食事は生臭物が出ないので、そのうち不満が出てきてもおかしくない。体力が勝負の隊士たるもの、魚や肉を食わねば力が出ないものだ。ましてや若い隊士たちは育ち盛りで食欲旺盛な者も多く、任務が長引けば長引くほど士気に影響を及ぼすだろう。
「それでは支度をして表に集合してください。全員揃ったら出発します」
各自どんぶりを片付け、食堂を出て行く。今から行う山歩きの目的は地形などの確認なのにも拘かかわらず、花見気分の輩もいる。そんな様子を見ながら、清治は苛つくように短いため息をついた。
「どうした、キヨ」
「……いえ。たくさんで来たのは間違いだったかもしれないと思っただけです」
「何でだよ」
「奈良の鬼殺隊は全滅、他の関西混合隊もやられている事実があるのに、みんなはまるで他人事です。明日の我が身かもしれないのに。これだけ仲間が多いからこそ、みんな『誰かがやってくれるだろう』と思ってる。そんな気がするんですよ」
どこを見ても美しい山の景色に緩んだ隊士の心を、誰かが引き締めなければならない。一人一人が「自分こそが鬼の頸を取ってみせる」と意気込まなければ、逆に命を取られてしまうのではないかと思うのだ。
「丁 の獪岳さんが、この集団全体の中でも一番の格上でしょ? 何とかしてくださいよ。檄でも飛ばしてください」
「嫌だね。これ以上憎まれ役をするのは御免だ」
「憎まれ役をする ? いやいや、実際もう憎まれてるでしょ」
「……テメェ、そのうるせぇ口にウルシでも擦りつけてやろうか? 喋れないくらいにブッ細工に腫れ上がって見ものだぞ」
「残念ながら、俺はウルシが平気なんですよね~。いや、かえって唇に雅な光沢が出ちゃったりして、塗り物みたいにハハハ」
獪岳は清治の胸倉を掴んで癇癪と戦って唸っているが、清治はふざけた笑い顔をパッと消して真顔になった。
「──って、冗談はここまでですよ、獪岳さん。ちょっと来てください」
「……? ああ」
清治と獪岳は班の部屋には戻らず、誰もいない空き部屋を見つけてこっそり入り込んだ。
「とうとう聞き出しましたよ、あの話」
「……は? 誰からだよ」
「優玄さんですよ。昨日俺たちに何か言おうとして、邪魔されたでしょ。彼、初めて寺に来た日に鬼天狗を見たらしいんですよ」
清治は獪岳たちが寝ている間、宿坊を抜け出して聞き出して来た事を話した。優玄から話を聞いた後、頼み込んで寺の中の間取りを書いてもらい、僧侶たちの大まかな日課や割り振られている仕事も教えてもらった。
「ここに記してあります」
清治は懐から帳面を取り出す。例のいつも持ち歩いているあれだ。
「間取りは優玄さんに描いてもらいました。あの人、どうやら絵が得意なようで。本人はそんな事ないって言ってましたけどね。大体一年前に見たという鬼天狗の姿も思い出してもらいながら、描いてもらいましたよ」
頁 をパラっとめくり、山伏の格好に天狗の面を着けた絵を見せる。想像通りと言ったら何だが、獪岳は大して驚かなかった。
「──で、次を見てください。この面を取った顔がこれです。面を取った瞬間を見たそうですよ」
獪岳の顔の前に突き付けた瞬間、獪岳はカッと目を見開いた。
「おっ、おい……。キヨ、コイツは……」
「……ええ。知ってますよね、この人」
「マジか……」
「確実にあの人だって言えませんけどね。実はこれも面の可能性もありますし。どうやら優玄さんの過去にも色々あるようなんですよ」
優玄の過去──。それはこれまで聞き出した以外にも、まだまだ聞いていない事があるのではないか。清治にはどうしても引っかかっている事がある。それは優玄が隠し持っている懐剣の事だった。
「それでは支度をして表に集合してください。全員揃ったら出発します」
各自どんぶりを片付け、食堂を出て行く。今から行う山歩きの目的は地形などの確認なのにも拘かかわらず、花見気分の輩もいる。そんな様子を見ながら、清治は苛つくように短いため息をついた。
「どうした、キヨ」
「……いえ。たくさんで来たのは間違いだったかもしれないと思っただけです」
「何でだよ」
「奈良の鬼殺隊は全滅、他の関西混合隊もやられている事実があるのに、みんなはまるで他人事です。明日の我が身かもしれないのに。これだけ仲間が多いからこそ、みんな『誰かがやってくれるだろう』と思ってる。そんな気がするんですよ」
どこを見ても美しい山の景色に緩んだ隊士の心を、誰かが引き締めなければならない。一人一人が「自分こそが鬼の頸を取ってみせる」と意気込まなければ、逆に命を取られてしまうのではないかと思うのだ。
「
「嫌だね。これ以上憎まれ役をするのは御免だ」
「憎まれ役を
「……テメェ、そのうるせぇ口にウルシでも擦りつけてやろうか? 喋れないくらいにブッ細工に腫れ上がって見ものだぞ」
「残念ながら、俺はウルシが平気なんですよね~。いや、かえって唇に雅な光沢が出ちゃったりして、塗り物みたいにハハハ」
獪岳は清治の胸倉を掴んで癇癪と戦って唸っているが、清治はふざけた笑い顔をパッと消して真顔になった。
「──って、冗談はここまでですよ、獪岳さん。ちょっと来てください」
「……? ああ」
清治と獪岳は班の部屋には戻らず、誰もいない空き部屋を見つけてこっそり入り込んだ。
「とうとう聞き出しましたよ、あの話」
「……は? 誰からだよ」
「優玄さんですよ。昨日俺たちに何か言おうとして、邪魔されたでしょ。彼、初めて寺に来た日に鬼天狗を見たらしいんですよ」
清治は獪岳たちが寝ている間、宿坊を抜け出して聞き出して来た事を話した。優玄から話を聞いた後、頼み込んで寺の中の間取りを書いてもらい、僧侶たちの大まかな日課や割り振られている仕事も教えてもらった。
「ここに記してあります」
清治は懐から帳面を取り出す。例のいつも持ち歩いているあれだ。
「間取りは優玄さんに描いてもらいました。あの人、どうやら絵が得意なようで。本人はそんな事ないって言ってましたけどね。大体一年前に見たという鬼天狗の姿も思い出してもらいながら、描いてもらいましたよ」
「──で、次を見てください。この面を取った顔がこれです。面を取った瞬間を見たそうですよ」
獪岳の顔の前に突き付けた瞬間、獪岳はカッと目を見開いた。
「おっ、おい……。キヨ、コイツは……」
「……ええ。知ってますよね、この人」
「マジか……」
「確実にあの人だって言えませんけどね。実はこれも面の可能性もありますし。どうやら優玄さんの過去にも色々あるようなんですよ」
優玄の過去──。それはこれまで聞き出した以外にも、まだまだ聞いていない事があるのではないか。清治にはどうしても引っかかっている事がある。それは優玄が隠し持っている懐剣の事だった。
