観天望気の作戦
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正午の鐘が鳴り、寝ていた隊士たちはボチボチ起き始めた。熟睡していた獪岳も周りの物音で目が覚めて、布団の中でうーんと伸びをする。もう少し寝ていたいところだが、昼餉の時間は十二時半となっているので起きなければならない。
「あれ? 皇は?」
一つだけぽっかりと空いた布団。班の隊士たちは清治の姿がない事に気が付いた。
「もう起きたんだろ。厠でも行ってんじゃねーの?」
「そっか。ま、いいや。じゃあ布団を上げるか」
隊士たちは布団を畳み、押し入れへ運んだ。獪岳も一緒になって布団をしまうが、清治のだけがポツンと残っている。
(クソっ、仕方ねぇな)
まだ戻って来ない清治の布団を代わりに片付けてやる。この後は昼餉をとって山歩きをする予定だが、一人で宿坊を抜け出した事がバレる前に清治は帰って来なければならない。獪岳は「まだかまだか」と心の中で帰りを待っていた。
食堂に集まった隊士たちは昼餉のかけ蕎麦を前に目を輝かせている。食事しか楽しみがないのだ。
「では、皆さん席に着きましたか? あれっ? 柏班の方、その空いた席はどなたの……?」
清治の席がぽっかりと空いている。
(おいーっ‼ 何やってんだよ、キヨ‼ 昼には戻るって言ってただろうが‼)
獪岳は青筋を立てながら白々しく「腹の調子が悪いから、厠へ行っている」と苦しい言い訳をした。ありがたい事に隠はすんなりとそれを信じ、なら蕎麦が伸びちゃうので先にいただいていましょうと合掌した。
「わぁぁぁっ! 遅れてすみません!」
みんなが蕎麦を啜り始めると同時に、食堂の障子戸をスパーンと勢いよく開けた汗だくの清治。誰もが口から蕎麦を垂らしながら注目した。
「皇さん、お腹の調子はいかがですか?」
「はいっ? 腹ですか? 絶好調です! っていうかめちゃくちゃ腹が減ってます‼ まだ俺の分残ってますよね!?」
「はぁ、もちろんありますけど……。今食べ始めたばかりです。そうですか、でしたらどうぞどうぞ、召し上がってください」
隠は首を傾げつつ、清治を席まで案内した。
「おい皇、お前クソしに行ってたんだって?」
柏班の隊士がニヤニヤしながら訊く。
「クソ? 俺が?」
「それ、冷や汗か? すげぇ汗だな」
「ピーピーで厠に籠城してたんだってな、ハハハハハ。出すモン出したら、腹が減ったか?」
何の話か分からなかったが、向かいに座る獪岳が卓の下で清治の足をツンと蹴る。
「あっ、ああ! まぁ……そうみたいですね、アハハハハ」
「お前みたいな色男でもクソをするんだな。信じらんね」
「おい、飯食ってる時に汚ねぇ話なんかすんじゃねぇよ!」
獪岳が睨みを効かせて凄むと、隊士たちは皆黙り込んだ。
「ちょっと獪岳さん、色男の話のどこが汚ぇ話になるんですか!」
「…………?」
みんなが清治を見る。
「えっ? だってそうでしょ?」
「……お前はバカか。俺ァクソの事を言ってんだよ。そんくらい分かるだろうが!」
「えっ? ああ、そういう事か。まぁ、そう声を荒げず、食事の時くらいは楽しく話をしましょうよ。ね? そうでなくちゃ、いざとなったら連携取れないでしょう? いっ、いやぁ~、蕎麦旨いっすね! みなさん蕎麦派ですか? うどん派ですか? 俺は東京に来てからすっかり蕎麦派になりましてね~」
獪岳のせいで悪くなりがちな雰囲気を何とか盛り上げようとするが、どうも空回りのようだ。協調性がなく、一匹狼的な獪岳が班長を務めるなんて、本来は相応しくない事である。階級が高い者が仕切るのは命に関わる任務だからしょうがないが、その長の采配一つで運命は大きく変わってしまうかもしれない。清治がいなかったら、きっとこの班はバラバラになってしまっていただろう。
「……どんだけ自分が色男だっていう自覚持ってんだよ。どこが色男だ、こんなのが。男は黙ってんのが一番だろうが」
獪岳は黙々と蕎麦をすすりながらボソッと呟く。班員とのおしゃべりに花が咲いている清治の耳には届いていないようだ。獪岳はその後は何も話さずに蕎麦を食べきった。彼の基本は黙食だ。そう言えばあんパンも静かに食べ終えていた。旨いとも言わずに。
「あれ? 皇は?」
一つだけぽっかりと空いた布団。班の隊士たちは清治の姿がない事に気が付いた。
「もう起きたんだろ。厠でも行ってんじゃねーの?」
「そっか。ま、いいや。じゃあ布団を上げるか」
隊士たちは布団を畳み、押し入れへ運んだ。獪岳も一緒になって布団をしまうが、清治のだけがポツンと残っている。
(クソっ、仕方ねぇな)
まだ戻って来ない清治の布団を代わりに片付けてやる。この後は昼餉をとって山歩きをする予定だが、一人で宿坊を抜け出した事がバレる前に清治は帰って来なければならない。獪岳は「まだかまだか」と心の中で帰りを待っていた。
食堂に集まった隊士たちは昼餉のかけ蕎麦を前に目を輝かせている。食事しか楽しみがないのだ。
「では、皆さん席に着きましたか? あれっ? 柏班の方、その空いた席はどなたの……?」
清治の席がぽっかりと空いている。
(おいーっ‼ 何やってんだよ、キヨ‼ 昼には戻るって言ってただろうが‼)
獪岳は青筋を立てながら白々しく「腹の調子が悪いから、厠へ行っている」と苦しい言い訳をした。ありがたい事に隠はすんなりとそれを信じ、なら蕎麦が伸びちゃうので先にいただいていましょうと合掌した。
「わぁぁぁっ! 遅れてすみません!」
みんなが蕎麦を啜り始めると同時に、食堂の障子戸をスパーンと勢いよく開けた汗だくの清治。誰もが口から蕎麦を垂らしながら注目した。
「皇さん、お腹の調子はいかがですか?」
「はいっ? 腹ですか? 絶好調です! っていうかめちゃくちゃ腹が減ってます‼ まだ俺の分残ってますよね!?」
「はぁ、もちろんありますけど……。今食べ始めたばかりです。そうですか、でしたらどうぞどうぞ、召し上がってください」
隠は首を傾げつつ、清治を席まで案内した。
「おい皇、お前クソしに行ってたんだって?」
柏班の隊士がニヤニヤしながら訊く。
「クソ? 俺が?」
「それ、冷や汗か? すげぇ汗だな」
「ピーピーで厠に籠城してたんだってな、ハハハハハ。出すモン出したら、腹が減ったか?」
何の話か分からなかったが、向かいに座る獪岳が卓の下で清治の足をツンと蹴る。
「あっ、ああ! まぁ……そうみたいですね、アハハハハ」
「お前みたいな色男でもクソをするんだな。信じらんね」
「おい、飯食ってる時に汚ねぇ話なんかすんじゃねぇよ!」
獪岳が睨みを効かせて凄むと、隊士たちは皆黙り込んだ。
「ちょっと獪岳さん、色男の話のどこが汚ぇ話になるんですか!」
「…………?」
みんなが清治を見る。
「えっ? だってそうでしょ?」
「……お前はバカか。俺ァクソの事を言ってんだよ。そんくらい分かるだろうが!」
「えっ? ああ、そういう事か。まぁ、そう声を荒げず、食事の時くらいは楽しく話をしましょうよ。ね? そうでなくちゃ、いざとなったら連携取れないでしょう? いっ、いやぁ~、蕎麦旨いっすね! みなさん蕎麦派ですか? うどん派ですか? 俺は東京に来てからすっかり蕎麦派になりましてね~」
獪岳のせいで悪くなりがちな雰囲気を何とか盛り上げようとするが、どうも空回りのようだ。協調性がなく、一匹狼的な獪岳が班長を務めるなんて、本来は相応しくない事である。階級が高い者が仕切るのは命に関わる任務だからしょうがないが、その長の采配一つで運命は大きく変わってしまうかもしれない。清治がいなかったら、きっとこの班はバラバラになってしまっていただろう。
「……どんだけ自分が色男だっていう自覚持ってんだよ。どこが色男だ、こんなのが。男は黙ってんのが一番だろうが」
獪岳は黙々と蕎麦をすすりながらボソッと呟く。班員とのおしゃべりに花が咲いている清治の耳には届いていないようだ。獪岳はその後は何も話さずに蕎麦を食べきった。彼の基本は黙食だ。そう言えばあんパンも静かに食べ終えていた。旨いとも言わずに。
