吉野山
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「ほうほう、兄ちゃんも寺の子かいな」
「そうなんですよ。やけど兄貴が継ぐって決まっとるさかい、ボクはこんな風に自由にしとれるんですわ」
「ハッハッハ、次男っちゅうのは気楽でええもんやなぁ」
七十三になるというこの寺の住職。まん丸のぽっちゃり顔に、肩まで届くほどの福耳である。笑えば目尻が垂れ、まるで恵比寿様のような顔になる。
「何、十四やと? ほぇ~、ワシは二十歳くらいやと思っとったわ。いやぁ、鬼殺隊っちゅうのはそんな若いモンがやっとるんか」
「でもボクが一番年下じゃないですかね。ほとんどは十代後半から二十代ほどで……。あっ、でもたまにもっと上の人もおりますよ」
最終選別で出会った槇寿郎 ・紗雪 の事だろうか。はっきりとした年齢を聞いたわけではないが、清治にとっては誰も彼もが年上である。
「そりゃ体がえらいこっちゃな、ハッハッハ」
「そうやろうと思いますわ、ハハハハ」
すぐに誰とでも仲良くなる清治を見て、獪岳の頬はピクピクと動いていた。
(早く本題に入れや! いつまでこの坊主とどうでもいい話してんだよ! このお喋り野郎)
よく喋る奴は嫌いなのである。獪岳には「雑談をする」という頭がまるでない。
さっさと済ませたいという獪岳の意思も虚しく、清治ら八名は無事に任務を全うできるよう、住職の計らいでまずは護摩祈祷をしてもらえる事になった。
(フンッ、別に加護なんてどうでもいいんだよ! 俺は神も仏も信じてねぇんだからな!)
終始獪岳は苛ついている。祈祷中、清治は実家と宗派が違うとは言えど、神妙な顔つきで不動明王に加護を求めていた。手を合わせて一緒になってブツブツ何か唱えている。さっきもあれだけ喋っていたと言うのに、まだ喋ると言うのか。
(チッ、馬鹿らしいぜ。板切れ燃やしてるだけだろ。焚き火と何が違うんだ)
それにしても炎が燃え盛る様は、見つめているとボーっとして吸い込まれてしまいそうになる。まるで地獄の業火のようだ。
「獪岳さん、護摩木を焚くべてください」
清治から小声で渡された護摩木には、鬼殺隊勝利の願いが書かれている。それを班長である獪岳が護摩壇の炎の中へ投げ込む事になっていた。
延々と続く真言と太鼓の音の中、獪岳は戸惑いながら清治の顔を見る。清治は身振り手振り、口をパクパクさせながら投げ込むよう指示するが、獪岳はなかなか焚べようとしない。
(これでいいのか? 本当にこれを?)
(いいんですよ! 早く入れて!)
(本当に入れるのか?)
(いいって言ってんでしょうが! じれったいなぁ!)
暑い中、二人は額に汗を噴き出しながら、声なき声での会話をする。
あまりに戸惑うので、清治は獪岳に持たせた護摩木を一緒に掴んでポイと火の中に投げ込んだ。
(あーっ‼ おいっテメェ! 本当に燃やしていいのか!? 願い事書いてあんだぞ! 叶わなくなったらどうする!)
(そういう儀式なんですよ! さっき説明受けたでしょ!)
(これで何かあったらテメェのせいだからな! テメェが代表して罰を食らえ!)
(大丈夫ですよ! これで不動明王様は俺たちの味方なんで。あとは頑張るだけです!)
視線だけで行う無言の会話。獪岳は神仏の類は信じていないと言いながらも、やたらと作法の是非に不安を持っているあたり、完全なる無神論者ではないようだ。汽車の中でも気になっていたが、獪岳の首には勾玉の飾りが巻きついている。後生大事そうなそれは、単なる洒落込みではないのではないか。
護摩祈祷が終わり、寺の住職は他の僧侶たちを全員集め、柏班の隊士たちと対面で座る。ようやく獪岳の待ち望んだ瞬間だ。
「ではお話を伺いますが、どなたかその山伏の格好をした鬼を見た方はいらっしゃいますか? 天狗でも構いません」
清治の問いかけに、寺の者たちはお互いに顔を見合わせる。首を横に振ったり、何も言わずにうつむくので、見た者はいないという事か。
「……あの、実は──」
気の弱そうな若い僧侶がボソッと声を出した。
「何や優玄 、また漢法螺 を吹くつもりやな?」
「ほっ、法螺やなんて……。僕はいつもホンマの事しか──」
「黙れ、この嘘つきめ‼」
数いる僧侶の中でも、一番年上のような浅黒い肌の男が声を荒げる。眉は太く釣り上がり、目もギョロッとしてきつい顔つきだ。
「鬼殺隊の皆さん、コイツは目が悪くて、よう何でも見間違えるんです。それにいつもとろっこくてどんくさい頓馬なんですわ。どうせ見間違いやから、真に受けんでください。ねぇ、和尚 はん。コイツ、すぐに気を引こうとしてありもせん事を言うとるんですわ」
「まぁまぁ蓮峰 、そんな言い方はあかんで。何や優玄、言うてみぃ」
住職はニコニコと笑いかけながら促した。
「いっ、いえ……。やっぱり僕の見間違いかもしれへんですから……」
「違っとったら違っとったでええんやで。鬼殺隊はんらは何でもええから情報が欲しいんや」
「そうですよ。どんな事でも構いません。優玄さん、何でしょう?」
優玄は、おどおどしながら結局うつむいた。
「ほれ、言わんか」
「早よ言うてみい‼ 隊士はんらを待たせんのかっ! わざわざ東京から来はったんやで!」
正座した膝の上に握られた拳が震えている。相当に気が弱いのか、強く言われて委縮している様子が伺える。
「すっ、すんまへん! やっぱええです」
優玄は深々と頭を下げると、逃げるようにお堂から出て行った。
「おい待てや、どこ行くんや!」
「ええねん、ええねん。後でわしが訊くさかい。……皇はん、すんまへんなぁ。あいつは気が小さい男でしてなぁ。自分の口で物を言うのが何と言うか……まぁ苦手なんですわ」
「…………」
清治は獪岳と顔を見合わせた。寺の内部事情はよく分からないが、あまり良くない雰囲気である事は確かだった。
「そうなんですよ。やけど兄貴が継ぐって決まっとるさかい、ボクはこんな風に自由にしとれるんですわ」
「ハッハッハ、次男っちゅうのは気楽でええもんやなぁ」
七十三になるというこの寺の住職。まん丸のぽっちゃり顔に、肩まで届くほどの福耳である。笑えば目尻が垂れ、まるで恵比寿様のような顔になる。
「何、十四やと? ほぇ~、ワシは二十歳くらいやと思っとったわ。いやぁ、鬼殺隊っちゅうのはそんな若いモンがやっとるんか」
「でもボクが一番年下じゃないですかね。ほとんどは十代後半から二十代ほどで……。あっ、でもたまにもっと上の人もおりますよ」
最終選別で出会った
「そりゃ体がえらいこっちゃな、ハッハッハ」
「そうやろうと思いますわ、ハハハハ」
すぐに誰とでも仲良くなる清治を見て、獪岳の頬はピクピクと動いていた。
(早く本題に入れや! いつまでこの坊主とどうでもいい話してんだよ! このお喋り野郎)
よく喋る奴は嫌いなのである。獪岳には「雑談をする」という頭がまるでない。
さっさと済ませたいという獪岳の意思も虚しく、清治ら八名は無事に任務を全うできるよう、住職の計らいでまずは護摩祈祷をしてもらえる事になった。
(フンッ、別に加護なんてどうでもいいんだよ! 俺は神も仏も信じてねぇんだからな!)
終始獪岳は苛ついている。祈祷中、清治は実家と宗派が違うとは言えど、神妙な顔つきで不動明王に加護を求めていた。手を合わせて一緒になってブツブツ何か唱えている。さっきもあれだけ喋っていたと言うのに、まだ喋ると言うのか。
(チッ、馬鹿らしいぜ。板切れ燃やしてるだけだろ。焚き火と何が違うんだ)
それにしても炎が燃え盛る様は、見つめているとボーっとして吸い込まれてしまいそうになる。まるで地獄の業火のようだ。
「獪岳さん、護摩木を焚くべてください」
清治から小声で渡された護摩木には、鬼殺隊勝利の願いが書かれている。それを班長である獪岳が護摩壇の炎の中へ投げ込む事になっていた。
延々と続く真言と太鼓の音の中、獪岳は戸惑いながら清治の顔を見る。清治は身振り手振り、口をパクパクさせながら投げ込むよう指示するが、獪岳はなかなか焚べようとしない。
(これでいいのか? 本当にこれを?)
(いいんですよ! 早く入れて!)
(本当に入れるのか?)
(いいって言ってんでしょうが! じれったいなぁ!)
暑い中、二人は額に汗を噴き出しながら、声なき声での会話をする。
あまりに戸惑うので、清治は獪岳に持たせた護摩木を一緒に掴んでポイと火の中に投げ込んだ。
(あーっ‼ おいっテメェ! 本当に燃やしていいのか!? 願い事書いてあんだぞ! 叶わなくなったらどうする!)
(そういう儀式なんですよ! さっき説明受けたでしょ!)
(これで何かあったらテメェのせいだからな! テメェが代表して罰を食らえ!)
(大丈夫ですよ! これで不動明王様は俺たちの味方なんで。あとは頑張るだけです!)
視線だけで行う無言の会話。獪岳は神仏の類は信じていないと言いながらも、やたらと作法の是非に不安を持っているあたり、完全なる無神論者ではないようだ。汽車の中でも気になっていたが、獪岳の首には勾玉の飾りが巻きついている。後生大事そうなそれは、単なる洒落込みではないのではないか。
護摩祈祷が終わり、寺の住職は他の僧侶たちを全員集め、柏班の隊士たちと対面で座る。ようやく獪岳の待ち望んだ瞬間だ。
「ではお話を伺いますが、どなたかその山伏の格好をした鬼を見た方はいらっしゃいますか? 天狗でも構いません」
清治の問いかけに、寺の者たちはお互いに顔を見合わせる。首を横に振ったり、何も言わずにうつむくので、見た者はいないという事か。
「……あの、実は──」
気の弱そうな若い僧侶がボソッと声を出した。
「何や
「ほっ、法螺やなんて……。僕はいつもホンマの事しか──」
「黙れ、この嘘つきめ‼」
数いる僧侶の中でも、一番年上のような浅黒い肌の男が声を荒げる。眉は太く釣り上がり、目もギョロッとしてきつい顔つきだ。
「鬼殺隊の皆さん、コイツは目が悪くて、よう何でも見間違えるんです。それにいつもとろっこくてどんくさい頓馬なんですわ。どうせ見間違いやから、真に受けんでください。ねぇ、
「まぁまぁ
住職はニコニコと笑いかけながら促した。
「いっ、いえ……。やっぱり僕の見間違いかもしれへんですから……」
「違っとったら違っとったでええんやで。鬼殺隊はんらは何でもええから情報が欲しいんや」
「そうですよ。どんな事でも構いません。優玄さん、何でしょう?」
優玄は、おどおどしながら結局うつむいた。
「ほれ、言わんか」
「早よ言うてみい‼ 隊士はんらを待たせんのかっ! わざわざ東京から来はったんやで!」
正座した膝の上に握られた拳が震えている。相当に気が弱いのか、強く言われて委縮している様子が伺える。
「すっ、すんまへん! やっぱええです」
優玄は深々と頭を下げると、逃げるようにお堂から出て行った。
「おい待てや、どこ行くんや!」
「ええねん、ええねん。後でわしが訊くさかい。……皇はん、すんまへんなぁ。あいつは気が小さい男でしてなぁ。自分の口で物を言うのが何と言うか……まぁ苦手なんですわ」
「…………」
清治は獪岳と顔を見合わせた。寺の内部事情はよく分からないが、あまり良くない雰囲気である事は確かだった。
