吉野山
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隠から再度集合がかかり、この吉野山に出現する鬼についての説明が始まった。
吉野山とは、奈良の中央に位置し、桜の名所として古くから名が知られている場所であるとさっきも触れたが、山のあちこちには多くの寺社が点在している事でも知られている。また、熊野三山へと続く霊場と参詣道の北端であり、この辺りは修験道の山伏などが多い場所でもある。
そんな吉野山では数年前から、山を訪れた人が忽然と姿を消すという話が飛び交うようになった。
他には、大きな羽のついた天狗が人を抱えて吉野山の上空を飛んでいたとか、夜に麓の宿の露天風呂に入っていると天狗面の男が覗いていた、泊まった宿の女将が振り返ると天狗の顔だったなど、嘘か真かよく分からないような話もある。
そこで、噂の検証の為に先に調査に入った数人の隠たちが襲われ、命からがら逃げ出して助かった一人の隠の証言から天狗が鬼だと判明し、すぐに討伐に向かったがことごとくやられ、在奈良の鬼殺隊はほぼ全滅に近くなり、周辺の関西圏の鬼殺隊から応援に来てもらったが、それもやられてしまったというわけだ。
再度討伐隊を組みたいと願うも、それぞれの地域でもう手一杯だと断られ、もう援軍を送ってくれなくなってしまい、隊士が多い関東に助けを求めたという事である。
「何しろ鬼天狗と遭遇した隊士が生き残っていないので詳しくは分かりませんが、その鬼は隊士たちに同士討ちをさせるというもののようです。」
この旨は召集の文にも書かれていたが、隊士たちは一斉にざわつく。
「おい、ちょっといいか?」
獪岳は説明する隠に尋ねる。
「隊士は生き残ってねぇんだろ? だったら何でそんな話が出てくんだよ。誰から聞いたんだよ」
「そっ……それは。私も文で知っただけなので……」
「ずいぶんいい加減だな。同士討ちをさせるってどういう意味だよ」
「……すみません。実際よく分かりません……」
「お前なぁ、俺たちをわざわざこんな遠くまで来させて、さあ行け、殺して来いって、そんな適当な事でいいのかよ。隠ってのはただ俺たちの世話をするだけでいいのか? 使える情報持って来んのも仕事じゃねぇのか!? 俺たちを使い捨てにするつもりか!? 関西の奴らがみんな死んでるんだったら、何かもっと対処の仕方があんだろ! 同じ轍を踏ませるつもりか!」
獪岳の言い分はもっともである。今まで何度も討伐に失敗したからと言って、その反省点も挙げず、作戦も練らないまま隊士を投入しても、同じ事の繰り返しになる。
だが、獪岳の言い方は女性の隠には相当に堪えたようで、隠は涙目になって謝り続けた。
「泣けばいいって問題じゃねぇだろ。俺はな、すぐ泣く奴を見ると虫唾が走るんだよ!」
青筋を立てて怒る獪岳を見て、清治は慌てて間に入る。
「刀も振れねぇから隠なんかやってんだろ‼ 鬼を殺せねぇんなら、もっとそれなりに──」
「ちょっと獪岳さん、アンタ言い過ぎでしょう? 隠だって重要な仕事ですよ。いてくれないと困りますし、誰にでもできる仕事ではありませんよ。それに、この方だって上から任務を言いつけられて来ているんです。ろくな情報もないまま、俺たちはみんな、隊士も隠もみんな、いきなり派遣されたんです。この方を責めるのは間違っていますよ」
「……んだと?」
「分からないなら、まずは俺たちで手分けして、数日間は情報収集だけをしましょう。そしてこれまでの敗因を考えて、それから作戦を練るんです」
「そんな事してたら何日も掛かっちまうだろうが!」
「きちんと勝つためには仕方ありませんよ。だってここにいるみんなは東京での大切な仲間じゃないですか。みんな揃って無事に東京に帰る。鬼を倒す事も大事ですが、その事も目標にしませんか? ねぇ、皆さんだって東京に無事に帰りたいでしょう?」
清治が問いかけると、隊士たちは口々に「そうだそうだ」と反応する。挙句には拍手まで巻き起こった。
「焦らず行きましょうよ、獪岳さん」
「……チッ、とことんムカつく野郎だぜ」
「隠さんもどうか気にしないでください。一緒に頑張りましょう」
「……はいっ‼」
隠は涙を拭い、笑顔になる。清治もその笑顔を見て同じように微笑んだ。
「では……続きですが、今晩はどうしましょうか。皆さんの意見を伺います」
「そうですね、山の地形は明日の昼間に班ごとで山歩きをして確認するとして、今夜は各班で担当場所を決めて神社や寺、麓の宿や宿坊を警備するというのはどうでしょう? 鬼の目的は人を襲う事。ですから人がいる場所に現れるはずです」
「要するに、やみくもに捜すんじゃなくて、鬼の方から来てもらうって事か?」
「そういう事です、獪岳さん。もうそろそろ日は落ちますし、土地勘のない俺たちが山中をうろつくのは危険です。日が落ちる前に担当場所へ移動して、単独行動は避け、班員全員が必ず一緒に揃っていましょう。その間、そこの管理者に鬼天狗の話を聞き出し、明日の朝までに調査内容をまとめておく。明日の朝にみんなで報告し合って改めて作戦を考えるのはどうですか?」
清治の案に誰からも異論はなかった。話し合いの結果、獪岳率いる柏班はとある真言宗の寺の警護をする事になった。ここには僧侶二十人ほどがおり、彼らから鬼天狗の話を聞く事になった。
吉野山とは、奈良の中央に位置し、桜の名所として古くから名が知られている場所であるとさっきも触れたが、山のあちこちには多くの寺社が点在している事でも知られている。また、熊野三山へと続く霊場と参詣道の北端であり、この辺りは修験道の山伏などが多い場所でもある。
そんな吉野山では数年前から、山を訪れた人が忽然と姿を消すという話が飛び交うようになった。
他には、大きな羽のついた天狗が人を抱えて吉野山の上空を飛んでいたとか、夜に麓の宿の露天風呂に入っていると天狗面の男が覗いていた、泊まった宿の女将が振り返ると天狗の顔だったなど、嘘か真かよく分からないような話もある。
そこで、噂の検証の為に先に調査に入った数人の隠たちが襲われ、命からがら逃げ出して助かった一人の隠の証言から天狗が鬼だと判明し、すぐに討伐に向かったがことごとくやられ、在奈良の鬼殺隊はほぼ全滅に近くなり、周辺の関西圏の鬼殺隊から応援に来てもらったが、それもやられてしまったというわけだ。
再度討伐隊を組みたいと願うも、それぞれの地域でもう手一杯だと断られ、もう援軍を送ってくれなくなってしまい、隊士が多い関東に助けを求めたという事である。
「何しろ鬼天狗と遭遇した隊士が生き残っていないので詳しくは分かりませんが、その鬼は隊士たちに同士討ちをさせるというもののようです。」
この旨は召集の文にも書かれていたが、隊士たちは一斉にざわつく。
「おい、ちょっといいか?」
獪岳は説明する隠に尋ねる。
「隊士は生き残ってねぇんだろ? だったら何でそんな話が出てくんだよ。誰から聞いたんだよ」
「そっ……それは。私も文で知っただけなので……」
「ずいぶんいい加減だな。同士討ちをさせるってどういう意味だよ」
「……すみません。実際よく分かりません……」
「お前なぁ、俺たちをわざわざこんな遠くまで来させて、さあ行け、殺して来いって、そんな適当な事でいいのかよ。隠ってのはただ俺たちの世話をするだけでいいのか? 使える情報持って来んのも仕事じゃねぇのか!? 俺たちを使い捨てにするつもりか!? 関西の奴らがみんな死んでるんだったら、何かもっと対処の仕方があんだろ! 同じ轍を踏ませるつもりか!」
獪岳の言い分はもっともである。今まで何度も討伐に失敗したからと言って、その反省点も挙げず、作戦も練らないまま隊士を投入しても、同じ事の繰り返しになる。
だが、獪岳の言い方は女性の隠には相当に堪えたようで、隠は涙目になって謝り続けた。
「泣けばいいって問題じゃねぇだろ。俺はな、すぐ泣く奴を見ると虫唾が走るんだよ!」
青筋を立てて怒る獪岳を見て、清治は慌てて間に入る。
「刀も振れねぇから隠なんかやってんだろ‼ 鬼を殺せねぇんなら、もっとそれなりに──」
「ちょっと獪岳さん、アンタ言い過ぎでしょう? 隠だって重要な仕事ですよ。いてくれないと困りますし、誰にでもできる仕事ではありませんよ。それに、この方だって上から任務を言いつけられて来ているんです。ろくな情報もないまま、俺たちはみんな、隊士も隠もみんな、いきなり派遣されたんです。この方を責めるのは間違っていますよ」
「……んだと?」
「分からないなら、まずは俺たちで手分けして、数日間は情報収集だけをしましょう。そしてこれまでの敗因を考えて、それから作戦を練るんです」
「そんな事してたら何日も掛かっちまうだろうが!」
「きちんと勝つためには仕方ありませんよ。だってここにいるみんなは東京での大切な仲間じゃないですか。みんな揃って無事に東京に帰る。鬼を倒す事も大事ですが、その事も目標にしませんか? ねぇ、皆さんだって東京に無事に帰りたいでしょう?」
清治が問いかけると、隊士たちは口々に「そうだそうだ」と反応する。挙句には拍手まで巻き起こった。
「焦らず行きましょうよ、獪岳さん」
「……チッ、とことんムカつく野郎だぜ」
「隠さんもどうか気にしないでください。一緒に頑張りましょう」
「……はいっ‼」
隠は涙を拭い、笑顔になる。清治もその笑顔を見て同じように微笑んだ。
「では……続きですが、今晩はどうしましょうか。皆さんの意見を伺います」
「そうですね、山の地形は明日の昼間に班ごとで山歩きをして確認するとして、今夜は各班で担当場所を決めて神社や寺、麓の宿や宿坊を警備するというのはどうでしょう? 鬼の目的は人を襲う事。ですから人がいる場所に現れるはずです」
「要するに、やみくもに捜すんじゃなくて、鬼の方から来てもらうって事か?」
「そういう事です、獪岳さん。もうそろそろ日は落ちますし、土地勘のない俺たちが山中をうろつくのは危険です。日が落ちる前に担当場所へ移動して、単独行動は避け、班員全員が必ず一緒に揃っていましょう。その間、そこの管理者に鬼天狗の話を聞き出し、明日の朝までに調査内容をまとめておく。明日の朝にみんなで報告し合って改めて作戦を考えるのはどうですか?」
清治の案に誰からも異論はなかった。話し合いの結果、獪岳率いる柏班はとある真言宗の寺の警護をする事になった。ここには僧侶二十人ほどがおり、彼らから鬼天狗の話を聞く事になった。
