いざ、初任務へ!
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午後六時、隊服でない格好で東京駅にやって来た隊士たちは、藤の家紋の小旗を持った隠と思われる女性の元に集結した。一見ただの団体旅行客である。と言っても、この頃は観光旅行へ行くという概念はなく、あるとすればお伊勢参りなどの神社仏閣などへの参拝旅行であった。彼らもおそらくそのように見られていただろう。
それぞれの武器は思い思いの風呂敷やらお手製の筒などに入れられ、それとは分からないように所持している。
話を聞いている限り、どうも集められたのは比較的階級の低い者たちで、それでは心許ないのでまぁまぁ年季の入った隊士たちも含まれているようだ。捨て駒でない事を祈りたい。
清治も白のワイシャツの上に桑島からもらった羽織を羽織り、黒っぽい袴を履いてやって来た。
「では点呼を取りまーす。芦田さん、江田さん、川島さん……ちょっと静かにしてください! 次、小林さん、篠原さん……」
隠はまるで旅行の添乗員だ。
「こう……あれっ、違うな。さ行まで来てるし……さっきは篠原さんでしょ? この後は曽田さんだから……えーっと、何て読むんだろう?」
「もしかしてスメラギですか? 俺、皇と書いてスメラギです」
「すっ、すめらぎ? この字でそう読むんですか?」
隠の女性は一緒になって名簿を覗き込む清治に見惚れてしまったのか、顔を真っ赤にしている。
「すみません、珍しい読み方ですよね」
「いえっ、謝る必要はありません! 読めなかった私が悪いんです!」
清治はよくモテる。そりゃあハッと目を引くほどの美男子なのだからしょうがない。爽やかな笑顔を見せる清治を見れば、女だけとは言わず男だってきっと……。
「では、みなさんお弁当は車内で配りますので! 長旅ですので、食べたら早めに就寝してくださいね」
藤色の家紋旗を掲げた隠を先頭に、東京発大阪行きの夜汽車にぞろぞろと隊士たちが乗り込んで行く。この鬼殺隊御一行様は、まずは大阪へ行き、乗り換えて奈良入りする。そこからは徒歩での移動となるらしい。
先頭車両は貸し切りという事で、とりあえず窓際の席に座った清治は、他に知った顔がないか探した。最終選別で出会った煉獄槇寿郎や天童紗雪という女性もいるかと思ったが、どうも見かける事はなかった。
「おい、ここ空いてるか?」
息を切らして訊いて来たのは、胸元をガバっと開いた黒の着物と袴姿の男。どうやら集合時間に遅れたらしい。
「えっ、ああどうぞ」
「悪ぃな」
男が向かいで前屈みになって座った時、その胸元に揺れる勾玉が視界に入る。
「あっ、アンタは!」
「おっ、お前は!」
お互い指を指して口をパクパクさせている。
「獪岳!」
「えーっと、なんだっけ……ヒイラギじゃねぇし、キサラギでもねぇし」
「スメラギです! 良かったら清治って呼んでください」
「チッ、長ったらしいな。キヨでいいだろキヨで」
いちいち一言多いが、カス呼ばわり以外好きに呼んでくれという事で、清治はキヨと呼ばれるようになった。
「うわー。やった! 牛鍋弁当だぁ」
車内では弁当の蓋を開けた途端に歓声が上がる。清治は先日も食べたばかりだが、こういう美味しい物は何度食べても良い。何なら明日も食べたい。
夜汽車に揺られ、最初は街の夜景を楽しんで食べていたが、とうとう田んぼや畑地帯に入って真っ暗で何も見えなくなり、唯一の楽しみの弁当も食い終えたら、窓に映る退屈な顔ばかりが目に入る。
「獪岳さん、アンタの鴉、あれ何なんですか」
悪徳鴉・電光丸の事である。後にも先にもあんな鎹鴉は出てこないだろう。
「知らねぇよ。あの鴉、何度も隊士が替わってるんだってよ」
「でしょうね。俺だったらあんな鴉、すぐに替えてもらいますよ」
「まぁあれはあれでちゃんとしっかりしてるからな。連絡がちゃんとできれば何だっていいだろ。たかが鴉だ」
「師範のはかわいい雀だって言うのに……」
「雀? 今、雀って言ったか? お前の師範の雀?」
「ええ。善逸さんは鎹雀でしょ? ご存じですよね?」
獪岳は「はぁ?」という顔で清治を見る。
「それはどうでもいいけどよ、お前の師範は善逸だって事か?」
「はい、そうですけど」
「ぶっ……ブアーッハッハッハッハーッ!」
突然獪岳は大笑いし始め、その声が静かな車両に響き渡る。幸い隊士だけの貸し切りだとしても、多くがもう寝息を立て始めていたので迷惑がられた。
「うっせーなー。何笑ってんだよ。気でもおかしくなったか?」
「ヒャアーッハハハハッ! だって、だってよぉ! ヒィィーッ、笑い死ぬ~ッ!」
「そこっ、お静かに!」
腹がちぎれそうなほど笑った獪岳は、ハァハァと荒い呼吸をしながらもまだニヤついている。
「アンタ、失礼じゃないですか?」
「何がだよ。俺は何も言ってねぇぜ?」
「善逸さんに弟子入りした俺を笑うのはいいですけど、俺に弟子入りされた善逸さんを笑うのは許せません」
「同じ事だろうが」
「いろいろ聞いて知ってるんですよ。獪岳さん、アンタ善逸さんの事バカにしてますけどね、まともに技を見た事があるんですか?」
「まともに? まずはアイツがまともな技を見せてくれるのかどうかってところだろうが」
「見た事ないんですね。アンタがそうやって馬鹿にしてる善逸さんですけどね、つい先日上弦の陸を倒して階級が上がりましたよ。アンタ、こんな癸の俺と一緒に招集されて、自分の立場が分かってるんでしょうね」
「ああっ? 何だとテメェ!」
獪岳は清治の胸倉を掴む。
「殴りたければ殴ればいいでしょう? でも隊士同士の喧嘩はご法度だって知ってますよね? こんなつまらない事で追放されたら、他に働き口はあるんですか?」
「くそっ……この野郎……!」
「アンタ、自分の事をもっとよく知ったらどうですか。自分が思う自分と、他人から見える自分は違います。俺はこうだからお前らもこう思えって言い張るのは簡単ですけどね、見た目や言動がそれに伴ってないんじゃ、それじゃあただの駄々っ子じゃないですか」
獪岳の手にはさらに力が入る。怒りでプルプルと震えているが、清治は全く動じない。
「もっと自分を知る事です。できるようになったからって、それで終わりではないんです。知っていますか? 善逸さんの霹靂一閃の種類。普通のものでも凄いのに、六連、八連、そして最近では神速というものが生まれたんですよ。神速ですよ、神速。もうそれは雷神の域ですよ。あなたは自分ができる型でそこまで極められますか? あの人は一つしか型ができない中でも、上弦を倒せるようなこれだけのものを生み出しているんです」
弟子が付くのにはそれなりの理由がある。獪岳はそんな善逸が羨ましくもあった。元来人とつるまない性格だが、心のどこかでは繋がれる仲間が欲しいと思っているのだ。そして慕われたい。いや、実のところは後輩にすごいすごいと持ち上げられたいだけかもしれない。
「……っせーな」
獪岳はドンっと押して手を離すと、座席から立ち上がる。
「どこへ?」
「厠だっ‼」
プンプン怒りながら車両を出て行く。清治は車窓に映る自分の顔を見た。桑島に剣士として精進する為の心構えを教えてもらったばかりなのに、偉そうに説いてしまった。きっと獪岳も以前に同じ話を聞いているはずなのに、それをまるで無知な者に言うかのように言ってしまった。
許せなかったのだ。善逸の事をバカにするのを。
善逸はきっと言われっぱなしで何も言い返さなかったに違いない。いや、確かにそうだと納得して、不甲斐ない自分を責めていたのかもしれない。
これでは善逸の気持ちを代弁したようなものだ。頼まれたわけでもないのに。
(師範は優しい人やから。やから言い返さんかったんやろう。あん人にとってはこんな兄弟子でも家族やったんや。せっかくできた家族や、壊したくなかったんや)
厠に行った獪岳は待てど暮らせど戻って来ない。荷物も刀も置きっぱなし、どこかの駅で途中下車をする事もないだろう。
(俺もすぐ頭に血が昇るさかい……。謝らな。俺にとっても家族なんやし)
夜汽車は汽笛を鳴らして隧道 に入る。清治は獪岳の帰りを待つうちに、いつの間にか眠ってしまった。
それぞれの武器は思い思いの風呂敷やらお手製の筒などに入れられ、それとは分からないように所持している。
話を聞いている限り、どうも集められたのは比較的階級の低い者たちで、それでは心許ないのでまぁまぁ年季の入った隊士たちも含まれているようだ。捨て駒でない事を祈りたい。
清治も白のワイシャツの上に桑島からもらった羽織を羽織り、黒っぽい袴を履いてやって来た。
「では点呼を取りまーす。芦田さん、江田さん、川島さん……ちょっと静かにしてください! 次、小林さん、篠原さん……」
隠はまるで旅行の添乗員だ。
「こう……あれっ、違うな。さ行まで来てるし……さっきは篠原さんでしょ? この後は曽田さんだから……えーっと、何て読むんだろう?」
「もしかしてスメラギですか? 俺、皇と書いてスメラギです」
「すっ、すめらぎ? この字でそう読むんですか?」
隠の女性は一緒になって名簿を覗き込む清治に見惚れてしまったのか、顔を真っ赤にしている。
「すみません、珍しい読み方ですよね」
「いえっ、謝る必要はありません! 読めなかった私が悪いんです!」
清治はよくモテる。そりゃあハッと目を引くほどの美男子なのだからしょうがない。爽やかな笑顔を見せる清治を見れば、女だけとは言わず男だってきっと……。
「では、みなさんお弁当は車内で配りますので! 長旅ですので、食べたら早めに就寝してくださいね」
藤色の家紋旗を掲げた隠を先頭に、東京発大阪行きの夜汽車にぞろぞろと隊士たちが乗り込んで行く。この鬼殺隊御一行様は、まずは大阪へ行き、乗り換えて奈良入りする。そこからは徒歩での移動となるらしい。
先頭車両は貸し切りという事で、とりあえず窓際の席に座った清治は、他に知った顔がないか探した。最終選別で出会った煉獄槇寿郎や天童紗雪という女性もいるかと思ったが、どうも見かける事はなかった。
「おい、ここ空いてるか?」
息を切らして訊いて来たのは、胸元をガバっと開いた黒の着物と袴姿の男。どうやら集合時間に遅れたらしい。
「えっ、ああどうぞ」
「悪ぃな」
男が向かいで前屈みになって座った時、その胸元に揺れる勾玉が視界に入る。
「あっ、アンタは!」
「おっ、お前は!」
お互い指を指して口をパクパクさせている。
「獪岳!」
「えーっと、なんだっけ……ヒイラギじゃねぇし、キサラギでもねぇし」
「スメラギです! 良かったら清治って呼んでください」
「チッ、長ったらしいな。キヨでいいだろキヨで」
いちいち一言多いが、カス呼ばわり以外好きに呼んでくれという事で、清治はキヨと呼ばれるようになった。
「うわー。やった! 牛鍋弁当だぁ」
車内では弁当の蓋を開けた途端に歓声が上がる。清治は先日も食べたばかりだが、こういう美味しい物は何度食べても良い。何なら明日も食べたい。
夜汽車に揺られ、最初は街の夜景を楽しんで食べていたが、とうとう田んぼや畑地帯に入って真っ暗で何も見えなくなり、唯一の楽しみの弁当も食い終えたら、窓に映る退屈な顔ばかりが目に入る。
「獪岳さん、アンタの鴉、あれ何なんですか」
悪徳鴉・電光丸の事である。後にも先にもあんな鎹鴉は出てこないだろう。
「知らねぇよ。あの鴉、何度も隊士が替わってるんだってよ」
「でしょうね。俺だったらあんな鴉、すぐに替えてもらいますよ」
「まぁあれはあれでちゃんとしっかりしてるからな。連絡がちゃんとできれば何だっていいだろ。たかが鴉だ」
「師範のはかわいい雀だって言うのに……」
「雀? 今、雀って言ったか? お前の師範の雀?」
「ええ。善逸さんは鎹雀でしょ? ご存じですよね?」
獪岳は「はぁ?」という顔で清治を見る。
「それはどうでもいいけどよ、お前の師範は善逸だって事か?」
「はい、そうですけど」
「ぶっ……ブアーッハッハッハッハーッ!」
突然獪岳は大笑いし始め、その声が静かな車両に響き渡る。幸い隊士だけの貸し切りだとしても、多くがもう寝息を立て始めていたので迷惑がられた。
「うっせーなー。何笑ってんだよ。気でもおかしくなったか?」
「ヒャアーッハハハハッ! だって、だってよぉ! ヒィィーッ、笑い死ぬ~ッ!」
「そこっ、お静かに!」
腹がちぎれそうなほど笑った獪岳は、ハァハァと荒い呼吸をしながらもまだニヤついている。
「アンタ、失礼じゃないですか?」
「何がだよ。俺は何も言ってねぇぜ?」
「善逸さんに弟子入りした俺を笑うのはいいですけど、俺に弟子入りされた善逸さんを笑うのは許せません」
「同じ事だろうが」
「いろいろ聞いて知ってるんですよ。獪岳さん、アンタ善逸さんの事バカにしてますけどね、まともに技を見た事があるんですか?」
「まともに? まずはアイツがまともな技を見せてくれるのかどうかってところだろうが」
「見た事ないんですね。アンタがそうやって馬鹿にしてる善逸さんですけどね、つい先日上弦の陸を倒して階級が上がりましたよ。アンタ、こんな癸の俺と一緒に招集されて、自分の立場が分かってるんでしょうね」
「ああっ? 何だとテメェ!」
獪岳は清治の胸倉を掴む。
「殴りたければ殴ればいいでしょう? でも隊士同士の喧嘩はご法度だって知ってますよね? こんなつまらない事で追放されたら、他に働き口はあるんですか?」
「くそっ……この野郎……!」
「アンタ、自分の事をもっとよく知ったらどうですか。自分が思う自分と、他人から見える自分は違います。俺はこうだからお前らもこう思えって言い張るのは簡単ですけどね、見た目や言動がそれに伴ってないんじゃ、それじゃあただの駄々っ子じゃないですか」
獪岳の手にはさらに力が入る。怒りでプルプルと震えているが、清治は全く動じない。
「もっと自分を知る事です。できるようになったからって、それで終わりではないんです。知っていますか? 善逸さんの霹靂一閃の種類。普通のものでも凄いのに、六連、八連、そして最近では神速というものが生まれたんですよ。神速ですよ、神速。もうそれは雷神の域ですよ。あなたは自分ができる型でそこまで極められますか? あの人は一つしか型ができない中でも、上弦を倒せるようなこれだけのものを生み出しているんです」
弟子が付くのにはそれなりの理由がある。獪岳はそんな善逸が羨ましくもあった。元来人とつるまない性格だが、心のどこかでは繋がれる仲間が欲しいと思っているのだ。そして慕われたい。いや、実のところは後輩にすごいすごいと持ち上げられたいだけかもしれない。
「……っせーな」
獪岳はドンっと押して手を離すと、座席から立ち上がる。
「どこへ?」
「厠だっ‼」
プンプン怒りながら車両を出て行く。清治は車窓に映る自分の顔を見た。桑島に剣士として精進する為の心構えを教えてもらったばかりなのに、偉そうに説いてしまった。きっと獪岳も以前に同じ話を聞いているはずなのに、それをまるで無知な者に言うかのように言ってしまった。
許せなかったのだ。善逸の事をバカにするのを。
善逸はきっと言われっぱなしで何も言い返さなかったに違いない。いや、確かにそうだと納得して、不甲斐ない自分を責めていたのかもしれない。
これでは善逸の気持ちを代弁したようなものだ。頼まれたわけでもないのに。
(師範は優しい人やから。やから言い返さんかったんやろう。あん人にとってはこんな兄弟子でも家族やったんや。せっかくできた家族や、壊したくなかったんや)
厠に行った獪岳は待てど暮らせど戻って来ない。荷物も刀も置きっぱなし、どこかの駅で途中下車をする事もないだろう。
(俺もすぐ頭に血が昇るさかい……。謝らな。俺にとっても家族なんやし)
夜汽車は汽笛を鳴らして
