雷親父
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朝餉の片付けや洗濯も終え、いよいよ稽古の時間となる。清治は腰に刀を差し、桑島の家の前で待っていた。
(どんな事するんやろ……。まずは全部の型を見せてみろっちゅう話になるかもな)
元・柱からの指導はどのような具合なのか分からず緊張する。きっと和やかな朝餉の雰囲気とは打って変わっての厳しいものになるだろうと思うと、そわそわしっぱなしだった。
全部の型ができると言ってもまだ十四歳。その速さも威力もまだまだ発展途上だ。これまでは多少鼻にかけて自信満々でいたが、今は全く自信がない。
「待たせたの」
「いえっ、とんでもないです。お忙しいのに申し訳ありません」
桑島は杖をついて出て来た。
「まぁ見てやると言ってもな、わしはこの通り脚が棒じゃから手取り足取りというわけにはいかんが。獪岳や善逸もそういうわけで口だけで教えて来た」
「獪岳……。我妻さんの兄弟子ですね?」
「そうじゃ。奴は強くなりたいと言ってわしの所に来た。お前もそうじゃろう」
「は、はぁ」
「善逸はの、お前の師範──、あいつは少し違うんじゃよ」
善逸が桑島の元へ来た経緯は本人から聞いて知っている。どら猫からいじめられていたところを助けてもらったやせ細った野良猫が、爺さんに拾われてここまで連れて来られたというような話だ。
「獪岳はとにかく強くなりたいと、何から何まで真剣じゃった。まるで、強くないと生きていけんのではないかと焦っておるようじゃった。弱い者を嫌い、強い者には敵愾心を持つ。強くなれさえすれば何もいらん、仲間もいらん、そんな奴じゃった。じゃがな、善逸はそうではなかった。あいつが目指したのは、鬼殺隊の本懐である『人を守る事』。己の強さを突き詰めるよりも、誰かの役に立てる強さを望んだのじゃ」
桑島は顔に少し寂しい影を落としながらも、懐かしそうに話す。
「努力をせんだわけではない。獪岳とは違うやり方で懸命にやっておったが、人には適性というものがある。わしもなまじ自分が全部の型をできるもんじゃから、初めは何が何でもやらせたいと思っておった。じゃから相当厳しく教え込んでな。あいつは耐え切れずによく逃げ出した。ほれ、見えるか? あの木じゃよ、枯れ木。……ちょっと来い」
ここへやって来た時からずっと気になっていた枯れ木。今朝チュン太郎と競走した時に目印にした木だ。
家の前から真っ直ぐに行くとそれはある。ぽっきりと太い幹が折れてしまっているが、こうなる前は背の高い木だったのだろう。
「善逸は泣きながらここへ登ったきり降りて来んでな、𠮟りつけておったんじゃ。そしたら何と、雷が落ちてな。わしが見とる前で善逸は雷に打たれて木から落ち、何と頭の色があんな風に黄色に変わってしまったんじゃ」
「えっ⁉ 生まれつきじゃないんですか!?」
「それまでは普通の黒髪じゃった。信じられんじゃろ? 雷に打たれて生きとるだけでも奇跡じゃが。まあその御利益か、壱ノ型ができるようになったんじゃ」
木が折れて枯れていたのは雷に打たれたせいか。清治はその事実を知ると恐ろしくなった。木でさえもこんな風に折れて枯れてしまうのに、髪の色が変わるだけで普通に生きていられたとは。
桑島は朽ちかけている幹を大切そうに撫でながら話す。
「この木は柏の木でな。気に入っておった木じゃった。清治、知っとるか。柏の木は冬になっても葉が落ちん。そのまま冬を越し、春になって新しい葉が出て来た頃にようやく落葉する。わしはな、清治よ、もうこの世にそう長くはおらんじゃろう。義足であっても、まだいくばくか若い頃は体を動かせた。じゃが今は杖なしでは毛頭歩けんようになった。体が言う事を聞かんのじゃ。老いぼれはそろそろ死に支度をせんといかん。余生を過ごすうちに新芽を二つ見届け、鬼殺隊へと送り、わしはもう十分満足じゃ。どちらももう立派な青い葉を広げておる。わしは古い柏の葉のように、自然と落ちるのを待つだけじゃ」
清治も柏の木に触れ、言葉を探す。「まだまだ人生は長いですよ」と励まそうと思ったが、ありきたり過ぎて言えずにいた。本来はこんなに後ろ向きな事を言う人物ではないのだろうが、今は生き甲斐も張り合いもないのだろう。だからこんな風に自身と柏の木を重ね合わせて、老いを理由に自分を納得させようとしているのだ。
「つまらぬ話をしてしまったようじゃのう。年寄りのボヤキなど、若者に聞かせる話じゃなかったの、ハッハッハ」
「いえ……そんな」
「どれ、型を見てみるとしよう。お前の育手の腕前を拝見じゃな、ハッハッハ」
結局何も言えずに、清治と桑島は家の前の広場へと戻り、清治は一通り型をやって見せた。
(どんな事するんやろ……。まずは全部の型を見せてみろっちゅう話になるかもな)
元・柱からの指導はどのような具合なのか分からず緊張する。きっと和やかな朝餉の雰囲気とは打って変わっての厳しいものになるだろうと思うと、そわそわしっぱなしだった。
全部の型ができると言ってもまだ十四歳。その速さも威力もまだまだ発展途上だ。これまでは多少鼻にかけて自信満々でいたが、今は全く自信がない。
「待たせたの」
「いえっ、とんでもないです。お忙しいのに申し訳ありません」
桑島は杖をついて出て来た。
「まぁ見てやると言ってもな、わしはこの通り脚が棒じゃから手取り足取りというわけにはいかんが。獪岳や善逸もそういうわけで口だけで教えて来た」
「獪岳……。我妻さんの兄弟子ですね?」
「そうじゃ。奴は強くなりたいと言ってわしの所に来た。お前もそうじゃろう」
「は、はぁ」
「善逸はの、お前の師範──、あいつは少し違うんじゃよ」
善逸が桑島の元へ来た経緯は本人から聞いて知っている。どら猫からいじめられていたところを助けてもらったやせ細った野良猫が、爺さんに拾われてここまで連れて来られたというような話だ。
「獪岳はとにかく強くなりたいと、何から何まで真剣じゃった。まるで、強くないと生きていけんのではないかと焦っておるようじゃった。弱い者を嫌い、強い者には敵愾心を持つ。強くなれさえすれば何もいらん、仲間もいらん、そんな奴じゃった。じゃがな、善逸はそうではなかった。あいつが目指したのは、鬼殺隊の本懐である『人を守る事』。己の強さを突き詰めるよりも、誰かの役に立てる強さを望んだのじゃ」
桑島は顔に少し寂しい影を落としながらも、懐かしそうに話す。
「努力をせんだわけではない。獪岳とは違うやり方で懸命にやっておったが、人には適性というものがある。わしもなまじ自分が全部の型をできるもんじゃから、初めは何が何でもやらせたいと思っておった。じゃから相当厳しく教え込んでな。あいつは耐え切れずによく逃げ出した。ほれ、見えるか? あの木じゃよ、枯れ木。……ちょっと来い」
ここへやって来た時からずっと気になっていた枯れ木。今朝チュン太郎と競走した時に目印にした木だ。
家の前から真っ直ぐに行くとそれはある。ぽっきりと太い幹が折れてしまっているが、こうなる前は背の高い木だったのだろう。
「善逸は泣きながらここへ登ったきり降りて来んでな、𠮟りつけておったんじゃ。そしたら何と、雷が落ちてな。わしが見とる前で善逸は雷に打たれて木から落ち、何と頭の色があんな風に黄色に変わってしまったんじゃ」
「えっ⁉ 生まれつきじゃないんですか!?」
「それまでは普通の黒髪じゃった。信じられんじゃろ? 雷に打たれて生きとるだけでも奇跡じゃが。まあその御利益か、壱ノ型ができるようになったんじゃ」
木が折れて枯れていたのは雷に打たれたせいか。清治はその事実を知ると恐ろしくなった。木でさえもこんな風に折れて枯れてしまうのに、髪の色が変わるだけで普通に生きていられたとは。
桑島は朽ちかけている幹を大切そうに撫でながら話す。
「この木は柏の木でな。気に入っておった木じゃった。清治、知っとるか。柏の木は冬になっても葉が落ちん。そのまま冬を越し、春になって新しい葉が出て来た頃にようやく落葉する。わしはな、清治よ、もうこの世にそう長くはおらんじゃろう。義足であっても、まだいくばくか若い頃は体を動かせた。じゃが今は杖なしでは毛頭歩けんようになった。体が言う事を聞かんのじゃ。老いぼれはそろそろ死に支度をせんといかん。余生を過ごすうちに新芽を二つ見届け、鬼殺隊へと送り、わしはもう十分満足じゃ。どちらももう立派な青い葉を広げておる。わしは古い柏の葉のように、自然と落ちるのを待つだけじゃ」
清治も柏の木に触れ、言葉を探す。「まだまだ人生は長いですよ」と励まそうと思ったが、ありきたり過ぎて言えずにいた。本来はこんなに後ろ向きな事を言う人物ではないのだろうが、今は生き甲斐も張り合いもないのだろう。だからこんな風に自身と柏の木を重ね合わせて、老いを理由に自分を納得させようとしているのだ。
「つまらぬ話をしてしまったようじゃのう。年寄りのボヤキなど、若者に聞かせる話じゃなかったの、ハッハッハ」
「いえ……そんな」
「どれ、型を見てみるとしよう。お前の育手の腕前を拝見じゃな、ハッハッハ」
結局何も言えずに、清治と桑島は家の前の広場へと戻り、清治は一通り型をやって見せた。
