雷親父
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そんなわけで手分けして用意した朝餉だったが、清治は箱膳を前にして固まっていた。
「すみませんが……俺、これだけはちょっと食えないんです」
小鉢に入れられた異臭を放つ糸を引く豆。清治は顔をしかめて匂いを嗅ぐと、納豆の小鉢を膳からそっと下ろした。
「ほう、納豆が嫌いとはな」
「嫌いというわけではないんですが、周りがみんな食わなかったんですよ。臭いって。だから食った事はないんですがね、ちょっと怖くて」
「その臭さがいいもんじゃがなぁ」
清治は関西出身なので納豆を食べる機会はほぼなかった。関東に出てきてから出された事はあったものの、箸をつける事はなかった。
「これはわしが作ったんじゃがなぁ……。百姓から譲ってもらった稲藁で藁苞 をこしらえてのぅ……」
何となく寂しそうに納豆を混ぜる桑島を見て、清治はドキリとした。手作りの納豆を食わぬ先から拒否されたのだ、もしかして胸を痛めたかもしれない。
(いやぁ……ここは無理してでも食うべきやな! ……にしても、こりゃあ汗かいて一日履いた足袋の……いや、それ以上言ったらアカンで。余計食えんようになるわ。よ、よーし……)
清治はグルグルかき混ぜながら、それを口に運ぶ時機を窺っていた。混ぜれば混ぜるほど危険な香りがする。ニッチャニッチャと音が響き、もくもくと糸がどんどん出てきて豆と豆を絡め合う。どの程度まで混ぜればいいのか分からない。
向かいを見れば桑島は旨そうに食べている。
(これ、ホンマはえらい旨いんちゃうか? アカンのはこの匂いと粘りや。これがきっと人間の本能に危険やと訴えてきとるんや。ああ~ッ、こんなんあっちではよう食わんで)
清治は炊き立ての真っ白な飯に思い切って納豆をかけた。もう後戻りはできない。
(い、いくでぇぇ……)
息を止め、箸で飯ごと掬い上げ、口へ押し込む。
(うっぷ……いや、何やこれ。案外いけるんちゃうか?)
味を確かめる為にもう一口、そしてもう一口。気付けば飯椀が空になっていた。
「ほれ、食えたじゃろうが」
「……は、はぁ。飯、お代わりしてもいいっすか?」
「ハハハハハ、早速口直しか。いいぞ、存分に食え」
「いえっ、できれば納豆もお代わりしたいくらいです。何ですかこれ、めちゃくちゃおいしいじゃないですか!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。たくさん食え。清治、お前のこしらえた味噌汁も旨いぞ。それにしても、豆腐と納豆は字が逆のような気もせんか? 豆腐こそが納豆を表しとるようじゃ。わしはいつも首を傾げながらそう思って食っとる」
たった一人で暮らすようになってから滅多に町へ行く事もなくなり、蛋白源が保存の効く豆くらいしかなくなっていた。たまに魚を持って来てくれる知り合いもいるが、ほぼ毎日のように桑島は豆腐を作ったり、おからを炊いたり、呉汁を作ったり、色々な方法で食べていたが、最近になって納豆の作り方を覚えた。
放っておくだけなので簡単な物だが、その出来具合は大変満足なもので、獪岳や善逸にも食わせてやりたいと思っていたところだった。食えないと言っていた清治が箸をつけ、お代わりまでしてくれた事で嬉しくなった桑島は、洗濯が終わったら稽古を見てやると約束した。
「すみませんが……俺、これだけはちょっと食えないんです」
小鉢に入れられた異臭を放つ糸を引く豆。清治は顔をしかめて匂いを嗅ぐと、納豆の小鉢を膳からそっと下ろした。
「ほう、納豆が嫌いとはな」
「嫌いというわけではないんですが、周りがみんな食わなかったんですよ。臭いって。だから食った事はないんですがね、ちょっと怖くて」
「その臭さがいいもんじゃがなぁ」
清治は関西出身なので納豆を食べる機会はほぼなかった。関東に出てきてから出された事はあったものの、箸をつける事はなかった。
「これはわしが作ったんじゃがなぁ……。百姓から譲ってもらった稲藁で
何となく寂しそうに納豆を混ぜる桑島を見て、清治はドキリとした。手作りの納豆を食わぬ先から拒否されたのだ、もしかして胸を痛めたかもしれない。
(いやぁ……ここは無理してでも食うべきやな! ……にしても、こりゃあ汗かいて一日履いた足袋の……いや、それ以上言ったらアカンで。余計食えんようになるわ。よ、よーし……)
清治はグルグルかき混ぜながら、それを口に運ぶ時機を窺っていた。混ぜれば混ぜるほど危険な香りがする。ニッチャニッチャと音が響き、もくもくと糸がどんどん出てきて豆と豆を絡め合う。どの程度まで混ぜればいいのか分からない。
向かいを見れば桑島は旨そうに食べている。
(これ、ホンマはえらい旨いんちゃうか? アカンのはこの匂いと粘りや。これがきっと人間の本能に危険やと訴えてきとるんや。ああ~ッ、こんなんあっちではよう食わんで)
清治は炊き立ての真っ白な飯に思い切って納豆をかけた。もう後戻りはできない。
(い、いくでぇぇ……)
息を止め、箸で飯ごと掬い上げ、口へ押し込む。
(うっぷ……いや、何やこれ。案外いけるんちゃうか?)
味を確かめる為にもう一口、そしてもう一口。気付けば飯椀が空になっていた。
「ほれ、食えたじゃろうが」
「……は、はぁ。飯、お代わりしてもいいっすか?」
「ハハハハハ、早速口直しか。いいぞ、存分に食え」
「いえっ、できれば納豆もお代わりしたいくらいです。何ですかこれ、めちゃくちゃおいしいじゃないですか!」
「そうじゃろう、そうじゃろう。たくさん食え。清治、お前のこしらえた味噌汁も旨いぞ。それにしても、豆腐と納豆は字が逆のような気もせんか? 豆腐こそが納豆を表しとるようじゃ。わしはいつも首を傾げながらそう思って食っとる」
たった一人で暮らすようになってから滅多に町へ行く事もなくなり、蛋白源が保存の効く豆くらいしかなくなっていた。たまに魚を持って来てくれる知り合いもいるが、ほぼ毎日のように桑島は豆腐を作ったり、おからを炊いたり、呉汁を作ったり、色々な方法で食べていたが、最近になって納豆の作り方を覚えた。
放っておくだけなので簡単な物だが、その出来具合は大変満足なもので、獪岳や善逸にも食わせてやりたいと思っていたところだった。食えないと言っていた清治が箸をつけ、お代わりまでしてくれた事で嬉しくなった桑島は、洗濯が終わったら稽古を見てやると約束した。
