寄り道、脇道、回り道
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結局、清治は当初の予定通り桑島の元を訪ねる事にした。
(桃の花の話、師範に訊けずに来てもうたな)
桃には鬼を退けるという言い伝えがある。また、鬼退治で有名な桃太郎も桃の名が付いている。更にはイザナギが黄泉の国から脱出する時に追いかけて来た鬼女に桃を投げつけて撃退したという話もある。
桑島が住む山に桃の木がたくさん生えていると言う話なら、ちょうど今の時期が桃の花が満開なのではないか。清治は歩きながら桃色で満たされている場所がないか、注意深く景色を見ていた。
飛び疲れたチュン太郎は、時折清治の肩で休む。
「疲れたか? 日もすっかり真上だし、腹も減ったな。よし、そこの祠の横で少し昼休憩としよう」
竹藪の入り口にある少々気味の悪い祠の苔生 した石垣に腰かけ、清治は竹筒の水を飲んだ。チュン太郎は近くを流れる小川で水浴びをしている。
「はぁ……。師範たち、どうしてるかな」
潜入捜査はまだ始まったばかりのようだが、上手く男とバレずにやっていけるだろうか。
(あの宇髄って柱、結構強引やったけど大丈夫かな。あの人、柱に上り詰めたわりにどこにも傷がなくてかなりの美男子やし、あの身のこなしから見ても相当の手練れやろうけど、ああいう失敗した事のなさそうな人ってのは、人にまで自分と同等の能力があるって思って人使いが荒くなるもんや)
偏見かもしれないが、第一印象はそんな感じだった。粗暴な輩。柱でなければ言動からはそのように感じただろう。
(俺様が一番やって言うくせに、何で俺ができる事をおめーらはできへんのやとかって無茶苦茶な事を言いそうやな。一緒におるとえろう鬱憤溜まりそうやで……)
清治はアオイが握ったおにぎりの包みを開ける。持たせてくれたのはおにぎりだけでなく、卵焼きやメザシ、筑前煮などもある。もちろん、すみが漬けたたくあんもある。
育ちざかりを考えてか、おにぎりは三つだ。それも大きい。夜の事も考えて、一つは残しておこうと思ったが、暖かい今日では痛んでしまうか。
清治には甘い卵焼きが珍しかった。関西では京風の出汁巻き卵が一般的だったので、関東に来てこういった甘い卵焼きを食べて驚いたものだ。
今ではすっかり慣れてしまい、むしろ好きになっている。歩き疲れた今は、こうして甘い物を口にするとほっとする。
チュン太郎は土の中からミミズを捕まえて食べている。かわいい顔をしてえげつない物を食べているのだが、鳥には食べ物の見た目で食欲が失せるという心配はないようだ。
(旨いな。神崎はん、ホンマ料理上手やで。でもあん人何で隊服着とるのに任務に行かへんのやろ。隠でもないみたいやし……何や気になるけど訊けへんな)
いつもムスッとしたアオイの顔を思い浮かべ、清治は肩をすくめる。三人娘はよく仕事の合間に話をしているのに、アオイはいつも暇な時間などはないように黙々と忙しなく仕事をしている印象だ。年頃で気難しい時期なのかもしれないが、せっかくみんなで楽しい話をしている中、話を振っても全く乗って来ず「いけずやなぁ」と思う事もある。
(苛ついとるのは伊之助はんが気持ちに全然気付かんからちゃうか? あん人も鈍感そうやもんなぁ。肌で敵の事を感じるから無敵や言うて裸で過ごしてはるけど、さすがに女の子の気持ちまでは感じんか)
隊士である以上、色恋に現 を抜かしている場合ではないのだが、年頃の男女が入り混じる隊士たちの中ではそうなる事もあるようだ。中には隊士同士で結婚したという人もいる。
(師範も誰か想う人はおるんやろか。まぁあの師範やからなぁ……。女の子に執着しとるんは分かるけど、数打ちゃ当たるの精神ではあかんで。優しくしてくれたから言うてイチイチ好きになっとったらあかん。男なら、追うより追わせんと)
弁当を食べ終わった清治は、うーんと背伸びをして深呼吸をした。またこれからひたすら歩くのである。
「あっ、ちょっといいですか?」
たまたま通りかかった男に声をかけた。男はタケノコ掘りの帰りのようで、背中の籠にはいっぱいのタケノコが入っている。
「この先にある、桃の木がたくさんあるっていう山に行こうとしているんですけど、道合ってますかね?」
「桃の木だって?」
男は首を傾げた。この先と言っても、どのくらい先か分からない。
「さぁ……オイラにはよく分かんねぇけど、桃源山って言う山があるのは確かだな」
「桃源山?」
「ああ。夏になったら、行商の兄ちゃんがオラっちの村に桃を売りに来るんだよ。こーんなでけぇ大八車に乗せてな。どっから来てんだって訊いたら、東京の外れの桃源山だって言ってたなぁ。何だか仙人でも住んでそうな大層な名前の山だよな、ハッハッハ」
清治は男に礼を言うと、チュン太郎を呼んで出発する事にした。
(桃源山か。チュン太郎が目指しているのはそこか分からんけど、桃を売るくらいやからたくさん穫れるんやろう。確か昔、甲州街道を通った時に、ここらは桃の栽培が盛んやから東京にも売りに行くって宿屋のおっちゃんが言うてたな。桃は東京では滅多に穫れんからよう売れるんやって。やから東京で桃と言ったら、桃源山以外そうないんちゃうか? もしかして桃源山の仙人 ちゅうのは桑島慈悟郎かもしれへんな)
期待しつつ、清治は歩く。チュン太郎はこの小さな体でこの距離を文の為に行き来するのかと思うと、相当大変なのではないかと思った。
健気にも雀の身で鬼殺隊に協力するとは、一体どんな理由があっての事だろう。いろいろとチュン太郎に話を聞きながら道中を行きたいものだが、清治には一方的に話しかけるしかできない。
竹藪を抜け、田畑が広がる中をただひたすら歩く。やがて山道へと入り込み、登って行く頃には日が傾いていた。
(桃の花の話、師範に訊けずに来てもうたな)
桃には鬼を退けるという言い伝えがある。また、鬼退治で有名な桃太郎も桃の名が付いている。更にはイザナギが黄泉の国から脱出する時に追いかけて来た鬼女に桃を投げつけて撃退したという話もある。
桑島が住む山に桃の木がたくさん生えていると言う話なら、ちょうど今の時期が桃の花が満開なのではないか。清治は歩きながら桃色で満たされている場所がないか、注意深く景色を見ていた。
飛び疲れたチュン太郎は、時折清治の肩で休む。
「疲れたか? 日もすっかり真上だし、腹も減ったな。よし、そこの祠の横で少し昼休憩としよう」
竹藪の入り口にある少々気味の悪い祠の苔
「はぁ……。師範たち、どうしてるかな」
潜入捜査はまだ始まったばかりのようだが、上手く男とバレずにやっていけるだろうか。
(あの宇髄って柱、結構強引やったけど大丈夫かな。あの人、柱に上り詰めたわりにどこにも傷がなくてかなりの美男子やし、あの身のこなしから見ても相当の手練れやろうけど、ああいう失敗した事のなさそうな人ってのは、人にまで自分と同等の能力があるって思って人使いが荒くなるもんや)
偏見かもしれないが、第一印象はそんな感じだった。粗暴な輩。柱でなければ言動からはそのように感じただろう。
(俺様が一番やって言うくせに、何で俺ができる事をおめーらはできへんのやとかって無茶苦茶な事を言いそうやな。一緒におるとえろう鬱憤溜まりそうやで……)
清治はアオイが握ったおにぎりの包みを開ける。持たせてくれたのはおにぎりだけでなく、卵焼きやメザシ、筑前煮などもある。もちろん、すみが漬けたたくあんもある。
育ちざかりを考えてか、おにぎりは三つだ。それも大きい。夜の事も考えて、一つは残しておこうと思ったが、暖かい今日では痛んでしまうか。
清治には甘い卵焼きが珍しかった。関西では京風の出汁巻き卵が一般的だったので、関東に来てこういった甘い卵焼きを食べて驚いたものだ。
今ではすっかり慣れてしまい、むしろ好きになっている。歩き疲れた今は、こうして甘い物を口にするとほっとする。
チュン太郎は土の中からミミズを捕まえて食べている。かわいい顔をしてえげつない物を食べているのだが、鳥には食べ物の見た目で食欲が失せるという心配はないようだ。
(旨いな。神崎はん、ホンマ料理上手やで。でもあん人何で隊服着とるのに任務に行かへんのやろ。隠でもないみたいやし……何や気になるけど訊けへんな)
いつもムスッとしたアオイの顔を思い浮かべ、清治は肩をすくめる。三人娘はよく仕事の合間に話をしているのに、アオイはいつも暇な時間などはないように黙々と忙しなく仕事をしている印象だ。年頃で気難しい時期なのかもしれないが、せっかくみんなで楽しい話をしている中、話を振っても全く乗って来ず「いけずやなぁ」と思う事もある。
(苛ついとるのは伊之助はんが気持ちに全然気付かんからちゃうか? あん人も鈍感そうやもんなぁ。肌で敵の事を感じるから無敵や言うて裸で過ごしてはるけど、さすがに女の子の気持ちまでは感じんか)
隊士である以上、色恋に
(師範も誰か想う人はおるんやろか。まぁあの師範やからなぁ……。女の子に執着しとるんは分かるけど、数打ちゃ当たるの精神ではあかんで。優しくしてくれたから言うてイチイチ好きになっとったらあかん。男なら、追うより追わせんと)
弁当を食べ終わった清治は、うーんと背伸びをして深呼吸をした。またこれからひたすら歩くのである。
「あっ、ちょっといいですか?」
たまたま通りかかった男に声をかけた。男はタケノコ掘りの帰りのようで、背中の籠にはいっぱいのタケノコが入っている。
「この先にある、桃の木がたくさんあるっていう山に行こうとしているんですけど、道合ってますかね?」
「桃の木だって?」
男は首を傾げた。この先と言っても、どのくらい先か分からない。
「さぁ……オイラにはよく分かんねぇけど、桃源山って言う山があるのは確かだな」
「桃源山?」
「ああ。夏になったら、行商の兄ちゃんがオラっちの村に桃を売りに来るんだよ。こーんなでけぇ大八車に乗せてな。どっから来てんだって訊いたら、東京の外れの桃源山だって言ってたなぁ。何だか仙人でも住んでそうな大層な名前の山だよな、ハッハッハ」
清治は男に礼を言うと、チュン太郎を呼んで出発する事にした。
(桃源山か。チュン太郎が目指しているのはそこか分からんけど、桃を売るくらいやからたくさん穫れるんやろう。確か昔、甲州街道を通った時に、ここらは桃の栽培が盛んやから東京にも売りに行くって宿屋のおっちゃんが言うてたな。桃は東京では滅多に穫れんからよう売れるんやって。やから東京で桃と言ったら、桃源山以外そうないんちゃうか? もしかして桃源山の
期待しつつ、清治は歩く。チュン太郎はこの小さな体でこの距離を文の為に行き来するのかと思うと、相当大変なのではないかと思った。
健気にも雀の身で鬼殺隊に協力するとは、一体どんな理由があっての事だろう。いろいろとチュン太郎に話を聞きながら道中を行きたいものだが、清治には一方的に話しかけるしかできない。
竹藪を抜け、田畑が広がる中をただひたすら歩く。やがて山道へと入り込み、登って行く頃には日が傾いていた。
