寄り道、脇道、回り道
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夕餉を終え、アオイと三人娘たちは食器の洗い物をしながら炭治郎たちの身を案じていた。彼らが自分たちの身代わりに連れていかれたので、その後どうなったのか心配でならない。
「アオイさん、先程隠の方がいらして話して行かれたんですが、炭治郎さんたちはどうやら吉原の方へ行ったみたいですよ」
「……」
きよの話にアオイは何も返事をしなかったが、すみとなほがそれに興味を持つ。
「なほちゃん、吉原って?」
「吉原ってどの辺かしら?」
「……さぁ。私も分からなくて尋ねてみたんだけど、隠の方が言うには浅草の方だって」
「へぇ浅草ねぇ……。吉原ってどんな所かしら」
「何でも、吉原ってのは大人の男の人たちが遊ぶ所らしいわよ」
「遊ぶって言えば、浅草には花屋敷があるけど、そこじゃないものね。大人の男の人が遊ぶって一体何をするのかな?」
際どいところまで疑問が飛び交うと、アオイは大きく咳払いをした。純真無垢な三人娘たちは吉原がどういう場所か分かっていない。
「そうだ、皇さんに訊いてみようよ。物知りだし、きっと知ってると思うわ」
「そうね」
「賛成!」
「じゃあ誰が訊く? じゃんけんで決めない?」
「もちろん勝った人が訊くんだよね? よーし、絶対に私が勝つんだから!」
「あー、すみちゃんったら気合い入ってる~!」
美男子で明るく、お喋り上手な清治は、三人娘たちに好かれている。用事がある時に誰が清治を呼びに行くかという事は、平等にじゃんけんで決めているのだ。
「せーのー……じゃんけんポンッ‼ あいこでしょ!」
「お喋りばかりしていないで、早くお皿を拭いて順番に湯浴みに行って! 明日も早いんですから!」
「「「はっ、はぁぁい、ごめんなさ~い‼」」」
アオイに叱られた三人は目を合わせ、バツが悪そうに舌を出して声を堪えて笑い合う。機嫌が悪くなったアオイにビクビクしつつも、その理由が単なるお喋りだけとは思えない。三人はお喋りしながらも器用にちゃんと手を動かしていたからだ。
今日はいつもよりもアオイが不機嫌なのはきっと……。それは三人のうちでも暗黙の了解の事だった。
「神崎さん、ちょっといいっすか?」
台所の暖簾をめくって顔を出し、清治がアオイを呼ぶ。何か話があるようだ。アオイは手拭いで手を拭くと、呼ばれるまま台所を出て行った。
「何でしょう?」
「師範の……善逸さんの雀ですが、しばらく俺と一緒にいさせてもらえないですかね」
「……は?」
忙しいのに突然何を言い出すのかと思い、アオイは眉間にしわを寄せた。
「そんな事を私に訊かれても」
「それと明日の朝、数日間ですがここを離れます。なので、もしお手数でなければ昼餉用に握り飯でも持たせてもらえませんか。行き先は山の方ですし、途中に飯屋があるか分からないので」
清治の目は真剣だ。背丈の高い清治に、背丈の小さいアオイ。それが台所を出てすぐの壁際に立ったアオイの目の前に立つ。
無意識に身を引き、アオイの背中は壁についた。
「そっ、それは構いませんが。どこへ行かれるのですか?」
「師範の育手の元へ行こうと思います。いや、もちろん道中も鍛錬しつつですけど、やっぱり稽古をつけてくれる人が必要ですし、何よりも師範を育てた方にどうしてもお会いして、師範がどんな鍛錬をしてきたかを訊いてみたいんです。俺も他の育手の元で今までやって来たんですけど、そこの教えとはどう違うかを知りたいという欲もあります。まだ入隊したばっかであまり任務が回ってこない今なら行けるかなって」
蝶屋敷でしばらく羽を休めているチュン太郎には悪いが、明日の朝に桑島慈悟郎の元へと案内してもらう事になった。チュン太郎はたまに桑島へ文を届ける事があると言うので、居場所を知っていた(というなほの解釈)。以前「桃の木がたくさん生えた山」だという話を善逸が言っていたので、ここからはかなり遠いのではと予想している。当たりをつけてその方面行きの汽車に乗れば昼過ぎには着くかもしれないが、足だけなら早くとも日暮れ頃になるだろう。
「そうですか。私が止める理由はありませんのでお好きに。お弁当はちゃんと用意いたします」
「助かります。師範たちが吉原で今頃何をやっているか心配ですが、俺たちは俺たちでやらなければならない事をしましょう。神崎さん、きっと大丈夫ですよ」
「はっ?」
「ずっと心配そうな顔をしています」
宇髄にあの三人が連れられて行ってしまってから、アオイの表情には微妙な変化があったようだ。それを目ざとく気付いた清治は、アオイが特別な感情を持っている人物にも何となく察しがついている。
「伊之助さんなら大丈夫ですよ。手合わせをしましたが、かなり強い方です。あの方はどんな鬼が相手でも不死身ですよ、きっと」
アオイは震えながら顔を真っ赤にした。
「なっ、何を言ってるんですか! 私は別に……ッ!」
「安心してください、誰にも言いませんよ」
「もうっ、用事が済んだのなら早くお休みの支度をして寝た方がいいんじゃないですか⁉ フンッ!」
アオイは清治をひと睨みすると、台所へ戻って行った。
「アオイさん、どうされたんですか? 顔真っ赤にしちゃって……。はぁぁぁっ‼ もしかして……愛の告白をされたんじゃないですよねぇぇぇぇぇっ⁉」
きよが泣きそうな顔になっている。
「えぇぇぇぇーっ‼ そんなぁぁぁ!」
「嘘っ!? 皇さんはアオイさんが好きなの!?」
「違います!」
「ホントですかぁぁぁ? 皇さんはみんなの皇さんなんですよぉぉぉ? 抜け駆け禁止ですぅ~‼」
「ですからっ、違うって言ってるんです! 明日、おにぎりを持たせてくれって‼ それだけです!」
清治は暖簾の向こうから女の子たちの様子を見てクスっと笑った。蝶屋敷──。居心地がいい場所だが、ここはただの療養所。本来なら、ここへ来る用事もないほど五体満足で健康な隊士であるべきである。
こうして悠々といつまでも世話になっている場合ではない。
(俺にはいつ任務が来るんやろ。どんどん鬼を斬らんと生活もできへんのに)
任務への期待と内に秘めた恐怖。何人もの隊士に稽古をつけてもらって感じた力の差、鬼との戦いに経験豊富な隊士であっても苦戦する現実……。それらを肌で感じてだんだん自信がなくなってきている。
憧れていた隊士像と、現実の自分がかけ離れてきているようで、焦りと苛立ちが増すばかりだ。
経験不足は仕方ないにしても、圧倒的に刺激が少なすぎる。今はまだ井の中の蛙であり、積極的に色々な人やものに触れていかなければならない。きっとその刺激こそが心に宿す火に注ぐ油となるだろう。
清治は元々の運動神経の良さもあり、育手の元では伸び悩む事はなかった。言われた通りにすればできるようになったからだ。育手も「できればそれでいい」という人だった。鬼殺隊の中で突出した弟子へと育て上げると言うよりも、実戦で使える弟子を育てるという事が主だったのだろう。
育手の元では他の兄弟弟子もおらず、育手と一対一だった。だから何の刺激もなかった。焦りもなかった。綺麗に作られた型通りの隊士になってしまっていた。
最終選別も通過し、その通りに育ったわけだが、基本しか知らないままの自分なのに「俺は強い」と思い込んでいた節がある。
もっと見聞を広げ、いろんな角度から自分を見直さなければならない。本当の鍛錬は隊士となったここからなのだと、清治は自分に強く言い聞かせた。
「アオイさん、先程隠の方がいらして話して行かれたんですが、炭治郎さんたちはどうやら吉原の方へ行ったみたいですよ」
「……」
きよの話にアオイは何も返事をしなかったが、すみとなほがそれに興味を持つ。
「なほちゃん、吉原って?」
「吉原ってどの辺かしら?」
「……さぁ。私も分からなくて尋ねてみたんだけど、隠の方が言うには浅草の方だって」
「へぇ浅草ねぇ……。吉原ってどんな所かしら」
「何でも、吉原ってのは大人の男の人たちが遊ぶ所らしいわよ」
「遊ぶって言えば、浅草には花屋敷があるけど、そこじゃないものね。大人の男の人が遊ぶって一体何をするのかな?」
際どいところまで疑問が飛び交うと、アオイは大きく咳払いをした。純真無垢な三人娘たちは吉原がどういう場所か分かっていない。
「そうだ、皇さんに訊いてみようよ。物知りだし、きっと知ってると思うわ」
「そうね」
「賛成!」
「じゃあ誰が訊く? じゃんけんで決めない?」
「もちろん勝った人が訊くんだよね? よーし、絶対に私が勝つんだから!」
「あー、すみちゃんったら気合い入ってる~!」
美男子で明るく、お喋り上手な清治は、三人娘たちに好かれている。用事がある時に誰が清治を呼びに行くかという事は、平等にじゃんけんで決めているのだ。
「せーのー……じゃんけんポンッ‼ あいこでしょ!」
「お喋りばかりしていないで、早くお皿を拭いて順番に湯浴みに行って! 明日も早いんですから!」
「「「はっ、はぁぁい、ごめんなさ~い‼」」」
アオイに叱られた三人は目を合わせ、バツが悪そうに舌を出して声を堪えて笑い合う。機嫌が悪くなったアオイにビクビクしつつも、その理由が単なるお喋りだけとは思えない。三人はお喋りしながらも器用にちゃんと手を動かしていたからだ。
今日はいつもよりもアオイが不機嫌なのはきっと……。それは三人のうちでも暗黙の了解の事だった。
「神崎さん、ちょっといいっすか?」
台所の暖簾をめくって顔を出し、清治がアオイを呼ぶ。何か話があるようだ。アオイは手拭いで手を拭くと、呼ばれるまま台所を出て行った。
「何でしょう?」
「師範の……善逸さんの雀ですが、しばらく俺と一緒にいさせてもらえないですかね」
「……は?」
忙しいのに突然何を言い出すのかと思い、アオイは眉間にしわを寄せた。
「そんな事を私に訊かれても」
「それと明日の朝、数日間ですがここを離れます。なので、もしお手数でなければ昼餉用に握り飯でも持たせてもらえませんか。行き先は山の方ですし、途中に飯屋があるか分からないので」
清治の目は真剣だ。背丈の高い清治に、背丈の小さいアオイ。それが台所を出てすぐの壁際に立ったアオイの目の前に立つ。
無意識に身を引き、アオイの背中は壁についた。
「そっ、それは構いませんが。どこへ行かれるのですか?」
「師範の育手の元へ行こうと思います。いや、もちろん道中も鍛錬しつつですけど、やっぱり稽古をつけてくれる人が必要ですし、何よりも師範を育てた方にどうしてもお会いして、師範がどんな鍛錬をしてきたかを訊いてみたいんです。俺も他の育手の元で今までやって来たんですけど、そこの教えとはどう違うかを知りたいという欲もあります。まだ入隊したばっかであまり任務が回ってこない今なら行けるかなって」
蝶屋敷でしばらく羽を休めているチュン太郎には悪いが、明日の朝に桑島慈悟郎の元へと案内してもらう事になった。チュン太郎はたまに桑島へ文を届ける事があると言うので、居場所を知っていた(というなほの解釈)。以前「桃の木がたくさん生えた山」だという話を善逸が言っていたので、ここからはかなり遠いのではと予想している。当たりをつけてその方面行きの汽車に乗れば昼過ぎには着くかもしれないが、足だけなら早くとも日暮れ頃になるだろう。
「そうですか。私が止める理由はありませんのでお好きに。お弁当はちゃんと用意いたします」
「助かります。師範たちが吉原で今頃何をやっているか心配ですが、俺たちは俺たちでやらなければならない事をしましょう。神崎さん、きっと大丈夫ですよ」
「はっ?」
「ずっと心配そうな顔をしています」
宇髄にあの三人が連れられて行ってしまってから、アオイの表情には微妙な変化があったようだ。それを目ざとく気付いた清治は、アオイが特別な感情を持っている人物にも何となく察しがついている。
「伊之助さんなら大丈夫ですよ。手合わせをしましたが、かなり強い方です。あの方はどんな鬼が相手でも不死身ですよ、きっと」
アオイは震えながら顔を真っ赤にした。
「なっ、何を言ってるんですか! 私は別に……ッ!」
「安心してください、誰にも言いませんよ」
「もうっ、用事が済んだのなら早くお休みの支度をして寝た方がいいんじゃないですか⁉ フンッ!」
アオイは清治をひと睨みすると、台所へ戻って行った。
「アオイさん、どうされたんですか? 顔真っ赤にしちゃって……。はぁぁぁっ‼ もしかして……愛の告白をされたんじゃないですよねぇぇぇぇぇっ⁉」
きよが泣きそうな顔になっている。
「えぇぇぇぇーっ‼ そんなぁぁぁ!」
「嘘っ!? 皇さんはアオイさんが好きなの!?」
「違います!」
「ホントですかぁぁぁ? 皇さんはみんなの皇さんなんですよぉぉぉ? 抜け駆け禁止ですぅ~‼」
「ですからっ、違うって言ってるんです! 明日、おにぎりを持たせてくれって‼ それだけです!」
清治は暖簾の向こうから女の子たちの様子を見てクスっと笑った。蝶屋敷──。居心地がいい場所だが、ここはただの療養所。本来なら、ここへ来る用事もないほど五体満足で健康な隊士であるべきである。
こうして悠々といつまでも世話になっている場合ではない。
(俺にはいつ任務が来るんやろ。どんどん鬼を斬らんと生活もできへんのに)
任務への期待と内に秘めた恐怖。何人もの隊士に稽古をつけてもらって感じた力の差、鬼との戦いに経験豊富な隊士であっても苦戦する現実……。それらを肌で感じてだんだん自信がなくなってきている。
憧れていた隊士像と、現実の自分がかけ離れてきているようで、焦りと苛立ちが増すばかりだ。
経験不足は仕方ないにしても、圧倒的に刺激が少なすぎる。今はまだ井の中の蛙であり、積極的に色々な人やものに触れていかなければならない。きっとその刺激こそが心に宿す火に注ぐ油となるだろう。
清治は元々の運動神経の良さもあり、育手の元では伸び悩む事はなかった。言われた通りにすればできるようになったからだ。育手も「できればそれでいい」という人だった。鬼殺隊の中で突出した弟子へと育て上げると言うよりも、実戦で使える弟子を育てるという事が主だったのだろう。
育手の元では他の兄弟弟子もおらず、育手と一対一だった。だから何の刺激もなかった。焦りもなかった。綺麗に作られた型通りの隊士になってしまっていた。
最終選別も通過し、その通りに育ったわけだが、基本しか知らないままの自分なのに「俺は強い」と思い込んでいた節がある。
もっと見聞を広げ、いろんな角度から自分を見直さなければならない。本当の鍛錬は隊士となったここからなのだと、清治は自分に強く言い聞かせた。
