人さらいの男
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ほっかほかの炊き立ての白飯にそ~っと卵を割り入れ、醤油を少し垂らす。プリプリ、ツヤツヤとしたきんかんのはちみつ漬けのようなまん丸の卵黄に、清治はプスっと箸を挿し入れる。
トロ~リ垂れてくる黄身が白飯を橙色に染めた時、伊之助はゴクリと唾を呑んだ。
「……近いですって。食いにくいじゃないですか」
伊之助は清治の隣を陣取り、箱膳をぴったりと清治のそれにくっつけている。そして舐めるような目つきで清治の飯椀に顔を近づけ、卵の行く先を見届けていた。
「うるせぇ。続けろ」
「は、はぁ……。じゃあいただきますよ?」
「…………」
圧が凄い。執念も凄い。いよいよ可哀想になってきたので、清治は一口食わせてやることにした。
「……あの、すみませんが、匙 はありますか? 少し伊之助さんに分けてあげようと思って」
清治が訊くと、あると答えたきよが立ち上がって台所へ向かった。
「あっ、一番小さいのでいいですからね! 耳かきくらい小さいので!」
「はぁぁぁぁん!? 何でだよ! お玉くらいデケェやつ持って来い!」
「それじゃごっそり持って行かれるでしょうが!」
「マジでケチな奴だな、お前は! 地獄へ落ちるぞ」
「卵くらいでそんなことになるんだったら、地獄は罪人だらけになって裁きどころじゃなくなります! 閻魔様だって過重労働でたまったもんじゃないですよ!」
綺麗な顔の男が二人、おでこを突き合わせて睨み合っている。これが卵かけご飯の攻防戦でなければ、一見すると艶本 の熱い一幕、見つめ合って愛を囁き、口を吸い合うような光景にも見えただろう。
「炭治郎、俺と半分こしようよ。先に食ってくれ」
善逸はまだ箸をつけていない卵かけご飯を炭治郎の箱膳に置いた。炭治郎が欲しがっているわけではないが、何となく自分だけ食べるのは気が引けるのだ。戸惑う炭治郎をよそに、善逸はすみが用意しておくと言っていたうんと甘いかぼちゃの煮物を嬉しそうにヒョイと口に入れる。
「えっ? いや、俺はいいよ。これは善逸が人を助けてもらった物だ。善逸が食べるべきだよ」
「いや、これは清治が鬼を倒したからもらえたんだよ。俺は何もしてないんだ。また気を失ってたみたいでさ」
「いえ、それは違いますよ!」
清治が割って入った。
「鬼を倒したのは師範です。俺はこの目で見ました。俺でもあんなに手こずった姥鬼を、師範はたった一撃で倒したんですからね。でもすぐに師範は倒れてしまって。何かあったのかと思って駆け寄ったら、スースー寝息を立てて寝てるんですよ! もうわけ分かんなくって……!」
毎度おなじみの善逸の戦い方である。もはや誰も驚きもしない事だが、初めて見たら思考が追いつかないのも無理はない。
昨夜の事を思えば、今でも清治は半信半疑。「こんな奴おらんやろ……」──こう思ったものだが、実際見てしまったのだから夢だろうが幻だろうが信じなければなるまい。
「寝ながら戦ってるんだもの、そりゃあ自分がやったって思わないでしょうよ。でも師範、あの鬼をやったのは師範で間違いないですからね! 寝ながらあんなに強いなんて、何てお人だ……!」
「善逸はいつもそうなんだよな。いつも必要以上におどおどするくせに、気を失ったら最強になる。この原理は誰にも説明できないだろう」
炭治郎にも褒められたのに、善逸は他人事のように味噌汁を啜っている。全く自覚がないようだ。兎にも角にも何だかよく分からない人物に弟子入りしてしまった清治だが、その師範の技のキレには目を見張るものがあった。はっきりと自分が目標とする姿を見つけたのである。良い物は見て学び、自分のものにしなければならない。それが父親、そして育手から教わった事だ。
結局二つの卵を四人で分けた形で賞味し、それがあまりに旨かったのか、伊之助は蝶屋敷で軍鶏を飼いたいと言い出したが「これ以上世話をする相手を増やしたくない」とアオイに却下され、朝餉の後は各々やるべき事をやって過ごした。
トロ~リ垂れてくる黄身が白飯を橙色に染めた時、伊之助はゴクリと唾を呑んだ。
「……近いですって。食いにくいじゃないですか」
伊之助は清治の隣を陣取り、箱膳をぴったりと清治のそれにくっつけている。そして舐めるような目つきで清治の飯椀に顔を近づけ、卵の行く先を見届けていた。
「うるせぇ。続けろ」
「は、はぁ……。じゃあいただきますよ?」
「…………」
圧が凄い。執念も凄い。いよいよ可哀想になってきたので、清治は一口食わせてやることにした。
「……あの、すみませんが、
清治が訊くと、あると答えたきよが立ち上がって台所へ向かった。
「あっ、一番小さいのでいいですからね! 耳かきくらい小さいので!」
「はぁぁぁぁん!? 何でだよ! お玉くらいデケェやつ持って来い!」
「それじゃごっそり持って行かれるでしょうが!」
「マジでケチな奴だな、お前は! 地獄へ落ちるぞ」
「卵くらいでそんなことになるんだったら、地獄は罪人だらけになって裁きどころじゃなくなります! 閻魔様だって過重労働でたまったもんじゃないですよ!」
綺麗な顔の男が二人、おでこを突き合わせて睨み合っている。これが卵かけご飯の攻防戦でなければ、一見すると
「炭治郎、俺と半分こしようよ。先に食ってくれ」
善逸はまだ箸をつけていない卵かけご飯を炭治郎の箱膳に置いた。炭治郎が欲しがっているわけではないが、何となく自分だけ食べるのは気が引けるのだ。戸惑う炭治郎をよそに、善逸はすみが用意しておくと言っていたうんと甘いかぼちゃの煮物を嬉しそうにヒョイと口に入れる。
「えっ? いや、俺はいいよ。これは善逸が人を助けてもらった物だ。善逸が食べるべきだよ」
「いや、これは清治が鬼を倒したからもらえたんだよ。俺は何もしてないんだ。また気を失ってたみたいでさ」
「いえ、それは違いますよ!」
清治が割って入った。
「鬼を倒したのは師範です。俺はこの目で見ました。俺でもあんなに手こずった姥鬼を、師範はたった一撃で倒したんですからね。でもすぐに師範は倒れてしまって。何かあったのかと思って駆け寄ったら、スースー寝息を立てて寝てるんですよ! もうわけ分かんなくって……!」
毎度おなじみの善逸の戦い方である。もはや誰も驚きもしない事だが、初めて見たら思考が追いつかないのも無理はない。
昨夜の事を思えば、今でも清治は半信半疑。「こんな奴おらんやろ……」──こう思ったものだが、実際見てしまったのだから夢だろうが幻だろうが信じなければなるまい。
「寝ながら戦ってるんだもの、そりゃあ自分がやったって思わないでしょうよ。でも師範、あの鬼をやったのは師範で間違いないですからね! 寝ながらあんなに強いなんて、何てお人だ……!」
「善逸はいつもそうなんだよな。いつも必要以上におどおどするくせに、気を失ったら最強になる。この原理は誰にも説明できないだろう」
炭治郎にも褒められたのに、善逸は他人事のように味噌汁を啜っている。全く自覚がないようだ。兎にも角にも何だかよく分からない人物に弟子入りしてしまった清治だが、その師範の技のキレには目を見張るものがあった。はっきりと自分が目標とする姿を見つけたのである。良い物は見て学び、自分のものにしなければならない。それが父親、そして育手から教わった事だ。
結局二つの卵を四人で分けた形で賞味し、それがあまりに旨かったのか、伊之助は蝶屋敷で軍鶏を飼いたいと言い出したが「これ以上世話をする相手を増やしたくない」とアオイに却下され、朝餉の後は各々やるべき事をやって過ごした。
