師範の一閃
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真夜中の道中、蝶屋敷へと戻る二人は休息がてら道祖神の傍に座り込んだ。木にもたれてぐったりとする善逸は、さすがに疲れた顔をしている。
「師範、向こうにキレイな小川があります。そこで水でも飲みませんか」
「ああ、そうだな」
よろよろと立ち上がる善逸に、清治は肩を貸した。二人は田んぼの畔あぜにある小川で手と顔を洗い、口をすすぐ。
「師範、軍鶏 の卵ですって。普通の卵よりちょっと大きいですね。食った事あります?」
「ないね。軍鶏 の肉ならこの間、蝶屋敷で食べたけど」
「うわ~豪華っすね。そういやあそこの飯、相当旨いですよね。あの変な健康茶は最悪ですけど。あれを調合した人はかなりの味音痴か、じわじわと人を痛めつけるのが好きなとんでもない人ですよ、きっと。へへっ、この卵、帰ったら朝餉で食いましょう。あ~久しぶりだな、卵かけご飯」
清治の腹からぐぅ~っと音が鳴る。昼餉を食べたきり、何も食べていない。
「ったくしょうがねぇな。ほら、すみちゃん特製の握り飯でも食おうぜ」
善逸は懐に入れていたおにぎりを取り出した。
「やば……。せっかくの物が台無しだ」
何やかんやでぺっちゃんこに潰れたおにぎり。梅干しが無残にもはみ出している。どうやら四つ入っていたらしい。
「こんなだけど、食うか? 一応炊き立てご飯だよ」
「いいんですか?」
「ああ。清治が鬼を倒してくれたお陰で、俺は助かったんだからな。あの子、あんなにお前に感謝してたじゃん」
「だから違いますって! あれはあの子の勘違いですよ! 師範も勘違いしてます!」
善逸は形の崩れた握り飯を手に取り、パクっと齧った。
「ほら、塩が効いていておいしいよ。漬物も食えよ、おいしいから。漬物はすみちゃんがいつも漬けてるんだって。亡くなったお母さんの味らしいよ」
清治にはすみ、きよ、なほの区別がまだついていない。どの子がすみなのか分からないが、どの子も自分と同じほどの歳だと思った。やはりみんな家族を殺された子ばかりなのかと思うと、心中切なくて仕方がない。
母の味は、すみにとっては思い出の味なのだろう。清治もまた父の教えを大事にし、思い出は心の栄養としている。きっと誰もの父母が子の心に蒔いた記憶の種は、いつか芽が出て花が咲く。そうして親から子へと受け継がれていくのだ。
「そうですか……。ではすみちゃんのお母さんの味、ありがたくいただきます……! うん、旨い!」
星空の下、二人は遅い夕餉を共にする。小川のせせらぎが耳に良い。
「清治、俺には鬼を倒す理由なんてないんだ」
「……えっ?」
「鬼殺隊はほとんどが家族を殺された事がある隊士ばかりだ。みんな目的を持って入って来る。でも俺は違うんだ」
善逸は指先に付いた米粒をも丁寧に口に運ぶ。
「俺はもしかして、家族を得る為に鬼殺隊にいるのかもしれない」
「……どういう意味ですか?」
先に全て食べ終わった善逸は、星空を見上げて身の上を語り始めた。
「俺は捨て子でさ、生まれた時から親がいなかった。俺に良くしてくれる奴はどんな奴でも受け入れた。時にはそんな奴を俺からも求めていた。ずっと一人で、誰も俺の事を心配してくれる人もいなくて。繋がっていてほしくてしつこく縋って嫌われてさ。正直、俺に良くしてくれるなら、相手は犬でも猿でも、何なら鬼でも良かった。俺を喰わずにいてくれるなら、鬼だって人間と変わんねぇだろ? 人間だって、人の皮を被っただけの鬼のような奴もいるし」
善逸は話すのをやめ、膝を抱えてうずくまる。
「俺が何したってんだよ。ただ生まれて来ただけなのに。みんなが持ってるもんを欲しがって悪いのかよ、チクショウ」
善逸の表情は前髪で隠れてよく見えなかったが、鼻を啜ったので泣いているように思えた。
「俺もまだまだ子供だから、一人で生きていると不安になります。何度、滋賀に帰ろうかと思った事か。師範は家族がいなかったんですね。でも師範、もう俺は師範の家族です。師範は一人じゃありません。俺の事を弟だと思ってください。俺も師範の事は兄だと思っています」
「兄って……。清治には本当の兄がいるだろ」
「ええ。でも師範も俺の兄です。日本一カッコイイ雷様です」
「かっ、雷様? ちょっと何言ってんの?」
「師範、一緒に家を借りませんか? ちゃんと家賃は折半で払います。一緒にいれば、俺はいつだって師範に教えを請えます。俺は無惨を倒すまで実家に帰るつもりはありませんし、倒した後もこっちにいようかなって思っています。すっかり言葉もこっちの言葉に慣れましたし。俺、江戸弁上手でしょ?」
「ばーか。まだまだ似非えせだよ、似非! そんなんで東京の女の子を口説こうなんて百年早いわ!」
「俺の場合、口説かなくたって寄ってきますけどね」
「はぁぁぁぁぁぁっ!? この女たらしが! 男の敵! 飯返せ! 俺はまだ腹減ってんだよ!」
「嫌ですよ~だ!」
無邪気に笑い合いながら、清治はおにぎりを食べる。ぐちゃりと潰れてしまった不格好なおにぎりだったが、全身に沁みわたるように旨い。これも生きているからこその至福だろう。
「あの、師範の育手ってあの桑島慈悟郎さんですよね? どうやって知り合ったんですか? 自分からお願いしたんですか?」
草むらにゴロンと仰向けになっている善逸は、ふっと笑った。
「いーや。出会ったのはたまたまだよ。でもあの時出会わなければ、俺はきっと今頃は生きてなかったと思う」
「鬼に襲われてたところを助けてもらったんですか?」
「アハハ、鬼ねぇ。まぁ捨て子だった俺が渡って来た所は鬼ばかりだったかもな」
「……鬼ばかり?」
とことん話したくない身の上話。だが、善逸は清治になら全部話してもいいと思った。もし清治がただの寺のボンボンで、ただの道楽で鬼殺隊に入ったのだったら、こんな惨めな事は絶対に言わないだろう。
だが清治もまた鬼の被害者。自分とは違うが、傷ついた人間である事は間違いない。
「師範、向こうにキレイな小川があります。そこで水でも飲みませんか」
「ああ、そうだな」
よろよろと立ち上がる善逸に、清治は肩を貸した。二人は田んぼの畔あぜにある小川で手と顔を洗い、口をすすぐ。
「師範、
「ないね。
「うわ~豪華っすね。そういやあそこの飯、相当旨いですよね。あの変な健康茶は最悪ですけど。あれを調合した人はかなりの味音痴か、じわじわと人を痛めつけるのが好きなとんでもない人ですよ、きっと。へへっ、この卵、帰ったら朝餉で食いましょう。あ~久しぶりだな、卵かけご飯」
清治の腹からぐぅ~っと音が鳴る。昼餉を食べたきり、何も食べていない。
「ったくしょうがねぇな。ほら、すみちゃん特製の握り飯でも食おうぜ」
善逸は懐に入れていたおにぎりを取り出した。
「やば……。せっかくの物が台無しだ」
何やかんやでぺっちゃんこに潰れたおにぎり。梅干しが無残にもはみ出している。どうやら四つ入っていたらしい。
「こんなだけど、食うか? 一応炊き立てご飯だよ」
「いいんですか?」
「ああ。清治が鬼を倒してくれたお陰で、俺は助かったんだからな。あの子、あんなにお前に感謝してたじゃん」
「だから違いますって! あれはあの子の勘違いですよ! 師範も勘違いしてます!」
善逸は形の崩れた握り飯を手に取り、パクっと齧った。
「ほら、塩が効いていておいしいよ。漬物も食えよ、おいしいから。漬物はすみちゃんがいつも漬けてるんだって。亡くなったお母さんの味らしいよ」
清治にはすみ、きよ、なほの区別がまだついていない。どの子がすみなのか分からないが、どの子も自分と同じほどの歳だと思った。やはりみんな家族を殺された子ばかりなのかと思うと、心中切なくて仕方がない。
母の味は、すみにとっては思い出の味なのだろう。清治もまた父の教えを大事にし、思い出は心の栄養としている。きっと誰もの父母が子の心に蒔いた記憶の種は、いつか芽が出て花が咲く。そうして親から子へと受け継がれていくのだ。
「そうですか……。ではすみちゃんのお母さんの味、ありがたくいただきます……! うん、旨い!」
星空の下、二人は遅い夕餉を共にする。小川のせせらぎが耳に良い。
「清治、俺には鬼を倒す理由なんてないんだ」
「……えっ?」
「鬼殺隊はほとんどが家族を殺された事がある隊士ばかりだ。みんな目的を持って入って来る。でも俺は違うんだ」
善逸は指先に付いた米粒をも丁寧に口に運ぶ。
「俺はもしかして、家族を得る為に鬼殺隊にいるのかもしれない」
「……どういう意味ですか?」
先に全て食べ終わった善逸は、星空を見上げて身の上を語り始めた。
「俺は捨て子でさ、生まれた時から親がいなかった。俺に良くしてくれる奴はどんな奴でも受け入れた。時にはそんな奴を俺からも求めていた。ずっと一人で、誰も俺の事を心配してくれる人もいなくて。繋がっていてほしくてしつこく縋って嫌われてさ。正直、俺に良くしてくれるなら、相手は犬でも猿でも、何なら鬼でも良かった。俺を喰わずにいてくれるなら、鬼だって人間と変わんねぇだろ? 人間だって、人の皮を被っただけの鬼のような奴もいるし」
善逸は話すのをやめ、膝を抱えてうずくまる。
「俺が何したってんだよ。ただ生まれて来ただけなのに。みんなが持ってるもんを欲しがって悪いのかよ、チクショウ」
善逸の表情は前髪で隠れてよく見えなかったが、鼻を啜ったので泣いているように思えた。
「俺もまだまだ子供だから、一人で生きていると不安になります。何度、滋賀に帰ろうかと思った事か。師範は家族がいなかったんですね。でも師範、もう俺は師範の家族です。師範は一人じゃありません。俺の事を弟だと思ってください。俺も師範の事は兄だと思っています」
「兄って……。清治には本当の兄がいるだろ」
「ええ。でも師範も俺の兄です。日本一カッコイイ雷様です」
「かっ、雷様? ちょっと何言ってんの?」
「師範、一緒に家を借りませんか? ちゃんと家賃は折半で払います。一緒にいれば、俺はいつだって師範に教えを請えます。俺は無惨を倒すまで実家に帰るつもりはありませんし、倒した後もこっちにいようかなって思っています。すっかり言葉もこっちの言葉に慣れましたし。俺、江戸弁上手でしょ?」
「ばーか。まだまだ似非えせだよ、似非! そんなんで東京の女の子を口説こうなんて百年早いわ!」
「俺の場合、口説かなくたって寄ってきますけどね」
「はぁぁぁぁぁぁっ!? この女たらしが! 男の敵! 飯返せ! 俺はまだ腹減ってんだよ!」
「嫌ですよ~だ!」
無邪気に笑い合いながら、清治はおにぎりを食べる。ぐちゃりと潰れてしまった不格好なおにぎりだったが、全身に沁みわたるように旨い。これも生きているからこその至福だろう。
「あの、師範の育手ってあの桑島慈悟郎さんですよね? どうやって知り合ったんですか? 自分からお願いしたんですか?」
草むらにゴロンと仰向けになっている善逸は、ふっと笑った。
「いーや。出会ったのはたまたまだよ。でもあの時出会わなければ、俺はきっと今頃は生きてなかったと思う」
「鬼に襲われてたところを助けてもらったんですか?」
「アハハ、鬼ねぇ。まぁ捨て子だった俺が渡って来た所は鬼ばかりだったかもな」
「……鬼ばかり?」
とことん話したくない身の上話。だが、善逸は清治になら全部話してもいいと思った。もし清治がただの寺のボンボンで、ただの道楽で鬼殺隊に入ったのだったら、こんな惨めな事は絶対に言わないだろう。
だが清治もまた鬼の被害者。自分とは違うが、傷ついた人間である事は間違いない。
