突然の来訪者
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第一部 輝きわたる一閃
林道に轟音が響き渡る。老翁 はポカンと口を開けて佇んでいた。
「はいよ、じいさん。これで通れるだろ?」
呼びかけられても、背中に重そうな引き出し箪笥を担いだ老翁──おそらく行商人──は反応しない。
「おい、とんだ阿呆ヅラだな。どうしたんだよ、そんなに驚く事か?」
「……はぇぇぇぇぇ~。何とまぁ……」
老翁が所々歯の抜けた口を開けて感心しているのは、大の大人が三人手を繋いでようやく囲えるほどの太さの大木を、目の前の少年が一瞬で斬り倒したからである。それも日本刀一本で。
「いやいやいやいや……はーはーはー……。ほぅ……すげぇもんだべなぁ」
老翁は、鉋 でもかけたかのように平滑になった切り株の周りを、ゆっくりゆっくりと回りながら見て感嘆する。切り倒した木は他の木を巻き込み、崖の下へと落ちて行った。
この山際の林道では、かつて大雨による土砂崩れがあった。整備されないまま月日が流れて藪 が広がるようになり、旅人たちは遠くに迂回しながら時間をかけて先を目指すしかなかった。
中でも旅人たちを悩ませていたのは、土砂崩れで斜面からそのままずり落ちて来た一本の大木が、細い林道の真ん中にそのまま地に根を張って、行く手を阻むかのように立ってしまっていた事である。藪は刈りながら進めば何とかなるが、崖も近くて非常に危険な為、旅人たちには迷惑な存在になっていた。
「おい、急いでんじゃねぇのか? アンタのその弱った足腰じゃ遠回りは大変だって言うから、この木を片付けてやったんだぞ? 早く行かなきゃ得意先から雷が落ちるんだろうが」
「お前さん、何でこんな事ができるんだべ?」
「ヘヘヘッ! そりゃあ俺は鬼殺……いや、何でもねぇよ。ほら、気をつけてさっさと行きな! 他のお仲間にも、この道が通れるようになったって言っといてやれよ。みんな喜ぶぞ」
「へぇへぇ、ありがたい事で。助かりましただ」
「じゃあな、じいさん。気をつけて行けよ。特に夜は危ねぇからちゃんと宿を取って、用もねぇのにブラブラ出歩いたりなんかすんなよ!」
ゆっくりと林道を進んで行く老翁の背中を見届けながら、少年はニンマリ笑った。
「どうだい、こんな細い刀一本で、こんなデケェ大木を一瞬で斬っちまうんだぜ、俺。木こりもびっくりして腰抜かすだろうな。やっぱ最終選別で生き残っただけあるぜ」
少年は誇らしげに鼻の下を擦った。
「カァッ、カァッ!」
頭上から鴉の鳴き声がする。少年は「ん?」と空を見上げた。
鴉は鳴きながらクルクルと何回か周回し、やがて少年の足元へと下り立った。
「……皇 清治 カ?」
「えっ⁉ 何で俺の名前を知ってんだよ!」
「煉󠄁獄槇寿郎様カラノ文ダ」
鴉は右足をひょいと上げて清治に見せつけた。その黒い足には細く折りたたまれた紙が括 りつけられている。
「煉󠄁獄……? ああ、あの金髪のオッサンか!」
最終選別で共に生き残った仲間である。父親でもおかしくないくらい歳が離れていたが、歳を感じさせない動きをしていた人だった。
「どれどれ、ふんふん……。蝶屋敷? どこだ? なぁ、蝶屋敷ってどこだ?」
「蝶屋敷ハ、ココカラ三里ホド先ニ行ッタ所ダ」
鴉は頭をブンと振り、嘴で指し示した。ちょうど黒い矢印のようである。
「三里⁉ ……まぁ走って行けばちょうどいい鍛錬になるか。で? 三里先に行って、それからどう行くんだよ」
「…………」
「おい、何か言えよ」
「…………文ハ届ケタ。仕事ハ終ワリ。帰ル」
鴉は突然バッと羽を広げ、そそくさと飛び去った。
「ったく何だよあの鴉。随分ざっくりとした事だけ言いやがって。ま、人に訊けば何とかなるだろ。よし、善は急げだ!」
皇 清治 、十四歳。晴れて鬼殺隊士となった雷の剣士である──。
清治は、若さ溢れるその逞しい脚で颯爽と林道を駆け上がった。
林道に轟音が響き渡る。
「はいよ、じいさん。これで通れるだろ?」
呼びかけられても、背中に重そうな引き出し箪笥を担いだ老翁──おそらく行商人──は反応しない。
「おい、とんだ阿呆ヅラだな。どうしたんだよ、そんなに驚く事か?」
「……はぇぇぇぇぇ~。何とまぁ……」
老翁が所々歯の抜けた口を開けて感心しているのは、大の大人が三人手を繋いでようやく囲えるほどの太さの大木を、目の前の少年が一瞬で斬り倒したからである。それも日本刀一本で。
「いやいやいやいや……はーはーはー……。ほぅ……すげぇもんだべなぁ」
老翁は、
この山際の林道では、かつて大雨による土砂崩れがあった。整備されないまま月日が流れて
中でも旅人たちを悩ませていたのは、土砂崩れで斜面からそのままずり落ちて来た一本の大木が、細い林道の真ん中にそのまま地に根を張って、行く手を阻むかのように立ってしまっていた事である。藪は刈りながら進めば何とかなるが、崖も近くて非常に危険な為、旅人たちには迷惑な存在になっていた。
「おい、急いでんじゃねぇのか? アンタのその弱った足腰じゃ遠回りは大変だって言うから、この木を片付けてやったんだぞ? 早く行かなきゃ得意先から雷が落ちるんだろうが」
「お前さん、何でこんな事ができるんだべ?」
「ヘヘヘッ! そりゃあ俺は鬼殺……いや、何でもねぇよ。ほら、気をつけてさっさと行きな! 他のお仲間にも、この道が通れるようになったって言っといてやれよ。みんな喜ぶぞ」
「へぇへぇ、ありがたい事で。助かりましただ」
「じゃあな、じいさん。気をつけて行けよ。特に夜は危ねぇからちゃんと宿を取って、用もねぇのにブラブラ出歩いたりなんかすんなよ!」
ゆっくりと林道を進んで行く老翁の背中を見届けながら、少年はニンマリ笑った。
「どうだい、こんな細い刀一本で、こんなデケェ大木を一瞬で斬っちまうんだぜ、俺。木こりもびっくりして腰抜かすだろうな。やっぱ最終選別で生き残っただけあるぜ」
少年は誇らしげに鼻の下を擦った。
「カァッ、カァッ!」
頭上から鴉の鳴き声がする。少年は「ん?」と空を見上げた。
鴉は鳴きながらクルクルと何回か周回し、やがて少年の足元へと下り立った。
「……
「えっ⁉ 何で俺の名前を知ってんだよ!」
「煉󠄁獄槇寿郎様カラノ文ダ」
鴉は右足をひょいと上げて清治に見せつけた。その黒い足には細く折りたたまれた紙が
「煉󠄁獄……? ああ、あの金髪のオッサンか!」
最終選別で共に生き残った仲間である。父親でもおかしくないくらい歳が離れていたが、歳を感じさせない動きをしていた人だった。
「どれどれ、ふんふん……。蝶屋敷? どこだ? なぁ、蝶屋敷ってどこだ?」
「蝶屋敷ハ、ココカラ三里ホド先ニ行ッタ所ダ」
鴉は頭をブンと振り、嘴で指し示した。ちょうど黒い矢印のようである。
「三里⁉ ……まぁ走って行けばちょうどいい鍛錬になるか。で? 三里先に行って、それからどう行くんだよ」
「…………」
「おい、何か言えよ」
「…………文ハ届ケタ。仕事ハ終ワリ。帰ル」
鴉は突然バッと羽を広げ、そそくさと飛び去った。
「ったく何だよあの鴉。随分ざっくりとした事だけ言いやがって。ま、人に訊けば何とかなるだろ。よし、善は急げだ!」
清治は、若さ溢れるその逞しい脚で颯爽と林道を駆け上がった。
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