師範の一閃
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『清治、正治 と一緒に火の元を見て来てくれへんか』
『はーい』
お堂は通夜や葬式が行われる事もあれば、時に周辺の住民の集いにも利用される事もあり、地域にはなくてはならない場所である。檀家の寄付で建つこの寺では、常々火事だけは起こさないようにと就寝前の確認は特に念入りに行われていた。
清治の父親はその習慣を息子たちにも身につけさせようと、しっかりと自覚と責任感を持たせるような教育をしていた。
活発な清治に、おっとりと大人しい兄・正治。二人は性格の違いはあるものの、非常に仲が良かった。
『兄ちゃん、大蝋燭はちゃんと消えとるわ』
『よし。こっちの香炉も大丈夫や』
真っ暗なお堂で提灯一つを持ちながら、指を指して確認する。だだっ広い空間に子供二人では少々心許ない気もするが、清治は六つ歳の離れた兄が一緒なら何も怖くなかった。
確認を終えて父親に報告に行こうとしたところ、突然ガタンと何かが倒れる音がした。
『にっ、兄ちゃん! 何や倒れたん違うか?』
『ああ、何やろ。ちょっと見てみるわ』
正治は提灯を掲げ、音がした方を照らす。
『ああ、これや、御本尊さんの花が倒れたんや。あ~あ、せっかく昼間に母ちゃんが生けた花……。うーん、ちょっとこれやと多すぎやで。母ちゃん、また調子こいて檀家さんに貰った花を一気に全部生けてもうたな。多ければ多いほどええやろって言うてもなぁ、限度があるやろ。阿弥陀様も苦笑いしてはるで。清治、急いでボロ布 持って来 い。水こぼれとるさかい、拭かな』
『わーった。ちょ、待っとって』
清治は真っ暗な中走り出した。……が、すぐに大きな悲鳴を上げた。
『ギャアァァァッ‼ 兄ちゃん! 何やコイツ! 変なんおる!』
『何や、清治‼ 泥棒か!?』
いつの間に入り込んだのか、天井から黒い人影がドスンと落ちて来た。過去にも何度か泥棒騒ぎがあり、今度もそうかと思ったが、どうも様子が違う。人が本堂に入り込んだのだと判ったが、寺に犬や猫が迷い込む事はあっても、人が上から降って来た事はない。
『だっ……誰やお前は!』
暗闇に怪しく光る二つの目に、ヴーッと獣のような低い唸り声……。正治は提灯で照らし出す。すると、この世の物とは思えないような形相の男が、四つん這いになって涎を垂らしてニタニタと笑っていた。
瞼がはち切れそうなほど飛び出した眼球は血走り、耳まで裂けた大きな口からはみ出す乱喰い歯、二股に分かれた長い舌……それらがぼんやりと照らされて、いつか一緒に入ったお化け屋敷の妖怪人形よりも生々しく、腐敗臭までツーンと鼻に付く。
『ギャアァァァッ!』
正治は気を動転させて腰を抜かす。
『にっ、兄ちゃん、早よ逃げなアカンて! こっち来 い! 父ちゃんどこ!? 父ちゃーんッ!』
清治はお堂の雨戸を開け放って逃げ道を作り、兄に一緒に逃げるよう呼びかけ、同時に父親を大声で呼んだ。
『フーッ、フゥーッ……!』
その生き物は荒い呼吸をしながら畳でガリ、ガリと爪を研ぐ。正治の持っていた提灯は畳の上でグニャリと潰れ、煙を出し始めた。
『ああっ兄ちゃん、アカンアカン! 火ィ! 火ィッ!』
一瞬で提灯の火はボッと燃え盛り、清治はほうきを持って来てそれを叩いて消そうとする。正治は錯乱状態で這いながら、お堂の外へと逃げようとする。二人は混乱を極めていた。
その人間のようで人間ではない変な生き物は、背中を見せて逃げる正治に狙いを定めたのか、咆哮して飛びかかった。
『正治!』
ザシュっと音がしたかと思うと、生臭い血しぶきが宙を舞った。
『はーい』
お堂は通夜や葬式が行われる事もあれば、時に周辺の住民の集いにも利用される事もあり、地域にはなくてはならない場所である。檀家の寄付で建つこの寺では、常々火事だけは起こさないようにと就寝前の確認は特に念入りに行われていた。
清治の父親はその習慣を息子たちにも身につけさせようと、しっかりと自覚と責任感を持たせるような教育をしていた。
活発な清治に、おっとりと大人しい兄・正治。二人は性格の違いはあるものの、非常に仲が良かった。
『兄ちゃん、大蝋燭はちゃんと消えとるわ』
『よし。こっちの香炉も大丈夫や』
真っ暗なお堂で提灯一つを持ちながら、指を指して確認する。だだっ広い空間に子供二人では少々心許ない気もするが、清治は六つ歳の離れた兄が一緒なら何も怖くなかった。
確認を終えて父親に報告に行こうとしたところ、突然ガタンと何かが倒れる音がした。
『にっ、兄ちゃん! 何や倒れたん違うか?』
『ああ、何やろ。ちょっと見てみるわ』
正治は提灯を掲げ、音がした方を照らす。
『ああ、これや、御本尊さんの花が倒れたんや。あ~あ、せっかく昼間に母ちゃんが生けた花……。うーん、ちょっとこれやと多すぎやで。母ちゃん、また調子こいて檀家さんに貰った花を一気に全部生けてもうたな。多ければ多いほどええやろって言うてもなぁ、限度があるやろ。阿弥陀様も苦笑いしてはるで。清治、急いでボロ
『わーった。ちょ、待っとって』
清治は真っ暗な中走り出した。……が、すぐに大きな悲鳴を上げた。
『ギャアァァァッ‼ 兄ちゃん! 何やコイツ! 変なんおる!』
『何や、清治‼ 泥棒か!?』
いつの間に入り込んだのか、天井から黒い人影がドスンと落ちて来た。過去にも何度か泥棒騒ぎがあり、今度もそうかと思ったが、どうも様子が違う。人が本堂に入り込んだのだと判ったが、寺に犬や猫が迷い込む事はあっても、人が上から降って来た事はない。
『だっ……誰やお前は!』
暗闇に怪しく光る二つの目に、ヴーッと獣のような低い唸り声……。正治は提灯で照らし出す。すると、この世の物とは思えないような形相の男が、四つん這いになって涎を垂らしてニタニタと笑っていた。
瞼がはち切れそうなほど飛び出した眼球は血走り、耳まで裂けた大きな口からはみ出す乱喰い歯、二股に分かれた長い舌……それらがぼんやりと照らされて、いつか一緒に入ったお化け屋敷の妖怪人形よりも生々しく、腐敗臭までツーンと鼻に付く。
『ギャアァァァッ!』
正治は気を動転させて腰を抜かす。
『にっ、兄ちゃん、早よ逃げなアカンて! こっち
清治はお堂の雨戸を開け放って逃げ道を作り、兄に一緒に逃げるよう呼びかけ、同時に父親を大声で呼んだ。
『フーッ、フゥーッ……!』
その生き物は荒い呼吸をしながら畳でガリ、ガリと爪を研ぐ。正治の持っていた提灯は畳の上でグニャリと潰れ、煙を出し始めた。
『ああっ兄ちゃん、アカンアカン! 火ィ! 火ィッ!』
一瞬で提灯の火はボッと燃え盛り、清治はほうきを持って来てそれを叩いて消そうとする。正治は錯乱状態で這いながら、お堂の外へと逃げようとする。二人は混乱を極めていた。
その人間のようで人間ではない変な生き物は、背中を見せて逃げる正治に狙いを定めたのか、咆哮して飛びかかった。
『正治!』
ザシュっと音がしたかと思うと、生臭い血しぶきが宙を舞った。
