阿弥陀ヶ原の鬼婆
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山間部の阿弥陀ヶ原。ここにはその昔、阿弥陀如来が垂迹 したと伝わる岩屋があり、その名が付いた。元々は沼地だったが、整備して農業用の溜め池を作り、集落に住む多くの民はこの溜め池の水を利用しながら田畑を耕して生活している。
女性の声で駆けつけた清治と善逸は、女性の声を聞いて家を飛び出て来たのか、村男と鉢合わせになる。見慣れない顔に怪しんだ村男は、提灯で二人を照らした。
「あっ、アンタらは誰だ⁉」
「あっ、怪しい者ではありません! たった今女の人の声が聞こえたので駆けつけました!」
村男はじっくり清治と善逸を見る。怪しくないと言い張っても、怪しくないわけがない。ましてや一人は変てこりんな髪色をして、囃子隊(チンドン屋)かと思うような派手な色の羽織を羽織っているのである。どうも疑われていると察した二人は、その目線の先の腰元をさっと隠した。
「……アンタらまさか、鬼殺隊か?」
軍服のような黒の詰襟に、腰には日本刀。現代と前時代が混ざったような格好で、夜な夜な街を歩き回る者たちの噂を聞いたことがある者は多い。
「はぁ、まぁ……」
「なら良かった。俺たちはな、町の藤の家紋が飾られている家に言えば化け物を退治してくれるって聞いたもんだから、この間頼みに行ったんだ。それでアンタらが来たってわけかい。いやな、近頃この村の娘っ子が二人ほどいなくなっててよ。向こうにある阿弥陀窟くつの方に血だまりがあったって言うから、まさか熊にでもやられたんじゃねぇかと話してたんだ。でもこの辺りは昔から熊なんか出ねぇし、おかしいなって言ってたら違ってたんだよな。妖怪だったんだよ妖怪。妖怪の山姥だ。その阿弥陀窟からおっかねえババアの妖怪が出て来たのを見たって奴がいたんだよ!」
妖怪なのであれば鬼殺隊はお手上げだが、鬼ならばそうではない。どちらにせよ人に危害を加える恐れがあるのは間違いないので、とりあえず様子を見に行かなければならないが、善逸は「妖怪」と聞いて明らかに嫌そうな顔をした。
「とにかく、見て来てくんねぇかな。もしかするとさっきの叫び声がうちのミヨの声じゃないかと思って出てきたんだ。甕の水をうっかり切らしちまったから、井戸で水汲んで来ると言って出て行ったきりでさ。どうも心配なんだよ」
「分かりました。危険なので、ここは俺たちに任せて家に入っていてください。俺たちが必ず連れて戻ります」
清治は乗り気ではなさそうな師範の代わりに返事をする。
「すまんが頼んだぞ。気をつけてな」
清治と善逸は納屋と思われる茅葺屋根の小屋の陰に隠れ、状況を判断できそうな「音」に耳を澄ます。
「……師範、妖怪って言ってましたけど、本当に鬼なんですかね」
「さぁな。お前、これは俺に来た任務だ。付き合う事はないよ」
「いや、付き合いますよ。こんな状況なのに帰れるわけないでしょう」
「でもこれがお前の運命の分かれ道かも知れない。死ぬか生きるか、そういう時だぞ。俺と一緒になって死ななくてもいいんだよ」
「死ぬか生きるか……ですか。師範、隊士に限らずどんな人間でも、死ぬか生きるかなんて毎日の事です。だから俺たちができる事は、毎日死ぬ気で精一杯生き抜く、それだけですよ」
清治はニコっと笑うと、様子を見に行こうと小屋から離れた。
「待て!」
「ちょっと見に行くだけです。師範はここで待っ──」
「シッ! 声を出すな」
空には三日月。真っ暗な闇夜である辺りはそのわずかな月光だけでは全く光が足りずに、そこで何が起きているのか分からない。
見れば善逸は目を閉じている。その状態で一体何が分かると言うのか、清治には分からなかった。
「拾時の方向、鬼は一体。行くぞ」
「えっ?」
善逸は原っぱの背の高い草の間を、野を駆ける鼠のように身を低くして進んで行く。
(何だよ、師範は何が分かったんだ? まさかあの御船 何とかって人みたいに千里眼があるって言うんじゃないよな?)
何かが見えたわけでもないのに、善逸は方角と鬼の数をも把握できたようだ。とても千里眼を持つような男には見えないが、炭治郎が一目置いている様子なので、きっと何か決定的な理由があるに違いない。
派手な色の羽織を目印に後を追う。すると、善逸は突然ピタッと止まったかと思うと、いきなり刀を抜き払った。
ギャイィィィンと火花が散り、何事かと驚いた清治は目を見開いた。
「……おやおや、こんなに一度には喰いきれんなぁ」
くの字に曲がった腰の小柄な姥うばは、弾かれた鎌にフゥと生臭い息を吹きかける。そして深く頬被りをした豆絞りの手拭いを脱ぐと、それを首に巻き付けながら二人の鬼狩りを見てニタァ……と笑った。
(ヒィッ!)
着崩したボロボロの寝間着からはみ出る骨と皮だけの牛蒡のような足、ざんばらの白髪頭には似つかない椿蒔絵の高級つげ櫛を引っかけ、皺の深い額の両側からはボコンと粉瘤のような角が皮膚を貫き、ぬらりと光る黄ばんだ目に、猫のように縦長に伸びた瞳孔、所々抜けた歯に、下の糸切り歯だけが異様に尖って口からはみ出ている。
鬼女のお面のように見えた清治はブルっと震え上がった。善逸は恐怖で顔を歪ませている。目の前に現れた老女は、まるで昔話から出てきたかのような山姥の姿である。一見ただの老婆のようでもあるが、この見た目はどう見ても鬼だとしか思えない。そして妙に生臭い。藤襲山で嗅いだような臭いがする。
「やれやれ……。やるしかないようじゃのぅ」
姥鬼は、さらったと思われる娘の襟首から手を離して、そのまま勢い良く蹴り転がすと、小枝のように細い指でがっしりと握った鎌を振りかざして襲い掛かって来た。
「イャァァァァッ! 助けてぇぇぇぇっ!」
娘はゴロゴロと草むらを転がり、叫び声を上げる。善逸と清治は老婆の鎌を躱 し、二手に分かれた。
「清治、俺が気を引く。お前はあの人を安全な場所へ!」
「はっ、はい!」
清治は走って女性を追った。そのうち女性は切り株に腰を打ちつけて止まる。
「大丈夫ですか!?」
「あっ、あなたは⁉」
「……叫び声を聞いて駆けつけました。さぁ、安全な場所まで行きましょう」
清治は、乱れた髪に猫じゃらしやらぺんぺん草やらの絡まった女性をひょいと抱き上げる。女性は余程怖かったのか、清治の首に腕を回し、ギュッと抱きついた。
女性の声で駆けつけた清治と善逸は、女性の声を聞いて家を飛び出て来たのか、村男と鉢合わせになる。見慣れない顔に怪しんだ村男は、提灯で二人を照らした。
「あっ、アンタらは誰だ⁉」
「あっ、怪しい者ではありません! たった今女の人の声が聞こえたので駆けつけました!」
村男はじっくり清治と善逸を見る。怪しくないと言い張っても、怪しくないわけがない。ましてや一人は変てこりんな髪色をして、囃子隊(チンドン屋)かと思うような派手な色の羽織を羽織っているのである。どうも疑われていると察した二人は、その目線の先の腰元をさっと隠した。
「……アンタらまさか、鬼殺隊か?」
軍服のような黒の詰襟に、腰には日本刀。現代と前時代が混ざったような格好で、夜な夜な街を歩き回る者たちの噂を聞いたことがある者は多い。
「はぁ、まぁ……」
「なら良かった。俺たちはな、町の藤の家紋が飾られている家に言えば化け物を退治してくれるって聞いたもんだから、この間頼みに行ったんだ。それでアンタらが来たってわけかい。いやな、近頃この村の娘っ子が二人ほどいなくなっててよ。向こうにある阿弥陀窟くつの方に血だまりがあったって言うから、まさか熊にでもやられたんじゃねぇかと話してたんだ。でもこの辺りは昔から熊なんか出ねぇし、おかしいなって言ってたら違ってたんだよな。妖怪だったんだよ妖怪。妖怪の山姥だ。その阿弥陀窟からおっかねえババアの妖怪が出て来たのを見たって奴がいたんだよ!」
妖怪なのであれば鬼殺隊はお手上げだが、鬼ならばそうではない。どちらにせよ人に危害を加える恐れがあるのは間違いないので、とりあえず様子を見に行かなければならないが、善逸は「妖怪」と聞いて明らかに嫌そうな顔をした。
「とにかく、見て来てくんねぇかな。もしかするとさっきの叫び声がうちのミヨの声じゃないかと思って出てきたんだ。甕の水をうっかり切らしちまったから、井戸で水汲んで来ると言って出て行ったきりでさ。どうも心配なんだよ」
「分かりました。危険なので、ここは俺たちに任せて家に入っていてください。俺たちが必ず連れて戻ります」
清治は乗り気ではなさそうな師範の代わりに返事をする。
「すまんが頼んだぞ。気をつけてな」
清治と善逸は納屋と思われる茅葺屋根の小屋の陰に隠れ、状況を判断できそうな「音」に耳を澄ます。
「……師範、妖怪って言ってましたけど、本当に鬼なんですかね」
「さぁな。お前、これは俺に来た任務だ。付き合う事はないよ」
「いや、付き合いますよ。こんな状況なのに帰れるわけないでしょう」
「でもこれがお前の運命の分かれ道かも知れない。死ぬか生きるか、そういう時だぞ。俺と一緒になって死ななくてもいいんだよ」
「死ぬか生きるか……ですか。師範、隊士に限らずどんな人間でも、死ぬか生きるかなんて毎日の事です。だから俺たちができる事は、毎日死ぬ気で精一杯生き抜く、それだけですよ」
清治はニコっと笑うと、様子を見に行こうと小屋から離れた。
「待て!」
「ちょっと見に行くだけです。師範はここで待っ──」
「シッ! 声を出すな」
空には三日月。真っ暗な闇夜である辺りはそのわずかな月光だけでは全く光が足りずに、そこで何が起きているのか分からない。
見れば善逸は目を閉じている。その状態で一体何が分かると言うのか、清治には分からなかった。
「拾時の方向、鬼は一体。行くぞ」
「えっ?」
善逸は原っぱの背の高い草の間を、野を駆ける鼠のように身を低くして進んで行く。
(何だよ、師範は何が分かったんだ? まさかあの
何かが見えたわけでもないのに、善逸は方角と鬼の数をも把握できたようだ。とても千里眼を持つような男には見えないが、炭治郎が一目置いている様子なので、きっと何か決定的な理由があるに違いない。
派手な色の羽織を目印に後を追う。すると、善逸は突然ピタッと止まったかと思うと、いきなり刀を抜き払った。
ギャイィィィンと火花が散り、何事かと驚いた清治は目を見開いた。
「……おやおや、こんなに一度には喰いきれんなぁ」
くの字に曲がった腰の小柄な姥うばは、弾かれた鎌にフゥと生臭い息を吹きかける。そして深く頬被りをした豆絞りの手拭いを脱ぐと、それを首に巻き付けながら二人の鬼狩りを見てニタァ……と笑った。
(ヒィッ!)
着崩したボロボロの寝間着からはみ出る骨と皮だけの牛蒡のような足、ざんばらの白髪頭には似つかない椿蒔絵の高級つげ櫛を引っかけ、皺の深い額の両側からはボコンと粉瘤のような角が皮膚を貫き、ぬらりと光る黄ばんだ目に、猫のように縦長に伸びた瞳孔、所々抜けた歯に、下の糸切り歯だけが異様に尖って口からはみ出ている。
鬼女のお面のように見えた清治はブルっと震え上がった。善逸は恐怖で顔を歪ませている。目の前に現れた老女は、まるで昔話から出てきたかのような山姥の姿である。一見ただの老婆のようでもあるが、この見た目はどう見ても鬼だとしか思えない。そして妙に生臭い。藤襲山で嗅いだような臭いがする。
「やれやれ……。やるしかないようじゃのぅ」
姥鬼は、さらったと思われる娘の襟首から手を離して、そのまま勢い良く蹴り転がすと、小枝のように細い指でがっしりと握った鎌を振りかざして襲い掛かって来た。
「イャァァァァッ! 助けてぇぇぇぇっ!」
娘はゴロゴロと草むらを転がり、叫び声を上げる。善逸と清治は老婆の鎌を
「清治、俺が気を引く。お前はあの人を安全な場所へ!」
「はっ、はい!」
清治は走って女性を追った。そのうち女性は切り株に腰を打ちつけて止まる。
「大丈夫ですか!?」
「あっ、あなたは⁉」
「……叫び声を聞いて駆けつけました。さぁ、安全な場所まで行きましょう」
清治は、乱れた髪に猫じゃらしやらぺんぺん草やらの絡まった女性をひょいと抱き上げる。女性は余程怖かったのか、清治の首に腕を回し、ギュッと抱きついた。
