仲直りの鰻
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スタスタと速く歩く善逸の後を付いて行って早小一時間、ちょうど日が暮れかかった頃だった。大通りから横道に入ると、いい香りが漂って来る。
炭火の匂いに甘い醤油のような、何とも香ばしい香りだ。
「ここだよ」
店先の暖簾には「う」を魚のように変形させた字が書いてある。
「……鰻屋ですか?」
「そう。ここは俺の気に入ってる鰻屋。お前に本物のうな重を食わせてやる」
意気揚々と入って行く善逸に続き、清治は遠慮がちに暖簾をくぐった。客はまだ誰もない。大将と女将の威勢のいい声にビクつきながら、清治の視線は金額が判りそうな物ばかりを探している。
(鰻なんて、これまた高いもんを……)
誘っておいて、さっきの罰として支払いをしろと言われたらたまらない。
(並、上、特上……。並でなんぼや? 東京で鰻なんか食うた事ないで? うわぁぁぁっ、なんぼするんや~っ)
どこを探しても値段は書いていない。善逸は慣れたように卓に着くと、女将が温かい茶を入れた湯呑を二つ持って来る。
「ご苦労さん。今から?」
「いや、今日はお休みなんです」
「そう、じゃあゆっくりしてってね。いつものにする?」
「いや、今日は特上のさらに上……。常連だけが味わえる究極で至高の極上のうな重を二つ‼」
「おっ、いい事あったんだね‼ アンタ、極上二つ~!」
「あいよー‼」
気合の入った大将の声が響き渡る。どうやらこの店で一番高いのではないかと思しきうな重を、何の躊躇もなく善逸は二つも頼んだ。
「あのぉ師範、俺は一番安いのでいいんですが……。何ならタレご飯でも……。煙の匂いをおかずに食いますから」
「バカだな。そんなんじゃ絶対に後悔するよ」
「だからって極上だなんて! そんなバカ高そうな物頼んだ方が後悔しますよ! 一体いくらなんです⁉ どうすんですか、俺は金持ってないんですよ!?」
善逸は熱い茶をグイと飲み、平気な顔をして胸を叩いた。
「俺の奢りだ! お前は心配せずに鰻を食えばいい」
「奢り⁉ 何で⁉」
「……仲直りの鰻だよ。これを食って何もかも忘れよう。お前の頭から禰豆子ちゃんを忘れさせてやる。これから食う鰻にはそんな魔力がある」
「……は?」
「お前が禰豆子ちゃんに恋したらどうするんだ! お前も一瞬禰豆子ちゃんがかわいいと思っただろ‼ 俺はな、音で判るんだよ! 今まで会った鬼の中で禰豆子ちゃんが一番かわいいって思っただろ!? 滅茶苦茶かわいかっただろ!? あの子マジでかわいいよな!? だけどな、お前も相当な男前だ! 蝶屋敷の子たちはみんなお前にドキドキしてる! そんなお前と禰豆子ちゃんのお互いの気持ちが一致して、両想いになんかなってもらったら困るんだよ! そうなったら俺はマジでお前を殺すからな! それか何らかの方法でブサイクにしてやる!」
何を言っているのか……と呆れつつ、何だか馬鹿馬鹿しくなってきて清治はクスクス笑い出した。
「何がおかしいんだよ。俺はこんなにも禰豆子ちゃんが好きなのに」
「分かってますよ、よーく分かりました。俺はもう手出しはしません」
「手出し? それってどっちの意味? ちょっかいを出すって事? それとも命を奪おうとする事?」
「どっちもです。あの鬼は師範のものです」
「あの鬼って言い方は気に食わないけど、俺のものって言ってくれるとマジで嬉しいよ‼ 今度から禰豆子ちゃんって呼んであげてね。女将さん、うざく(鰻と胡瓜の酢の物)もお願い! あと肝焼きも!……お前に恋の酸いも甘いも苦い思いも全部まとめて味合わせてやる!」
初めて食べる東京の鰻はおいしかった。結局いくら支払ったか善逸は言わなかったが、清治には一生忘れられない味になった。うな重は善逸の大好物。清治もまた、大好物になってしまった。
炭火の匂いに甘い醤油のような、何とも香ばしい香りだ。
「ここだよ」
店先の暖簾には「う」を魚のように変形させた字が書いてある。
「……鰻屋ですか?」
「そう。ここは俺の気に入ってる鰻屋。お前に本物のうな重を食わせてやる」
意気揚々と入って行く善逸に続き、清治は遠慮がちに暖簾をくぐった。客はまだ誰もない。大将と女将の威勢のいい声にビクつきながら、清治の視線は金額が判りそうな物ばかりを探している。
(鰻なんて、これまた高いもんを……)
誘っておいて、さっきの罰として支払いをしろと言われたらたまらない。
(並、上、特上……。並でなんぼや? 東京で鰻なんか食うた事ないで? うわぁぁぁっ、なんぼするんや~っ)
どこを探しても値段は書いていない。善逸は慣れたように卓に着くと、女将が温かい茶を入れた湯呑を二つ持って来る。
「ご苦労さん。今から?」
「いや、今日はお休みなんです」
「そう、じゃあゆっくりしてってね。いつものにする?」
「いや、今日は特上のさらに上……。常連だけが味わえる究極で至高の極上のうな重を二つ‼」
「おっ、いい事あったんだね‼ アンタ、極上二つ~!」
「あいよー‼」
気合の入った大将の声が響き渡る。どうやらこの店で一番高いのではないかと思しきうな重を、何の躊躇もなく善逸は二つも頼んだ。
「あのぉ師範、俺は一番安いのでいいんですが……。何ならタレご飯でも……。煙の匂いをおかずに食いますから」
「バカだな。そんなんじゃ絶対に後悔するよ」
「だからって極上だなんて! そんなバカ高そうな物頼んだ方が後悔しますよ! 一体いくらなんです⁉ どうすんですか、俺は金持ってないんですよ!?」
善逸は熱い茶をグイと飲み、平気な顔をして胸を叩いた。
「俺の奢りだ! お前は心配せずに鰻を食えばいい」
「奢り⁉ 何で⁉」
「……仲直りの鰻だよ。これを食って何もかも忘れよう。お前の頭から禰豆子ちゃんを忘れさせてやる。これから食う鰻にはそんな魔力がある」
「……は?」
「お前が禰豆子ちゃんに恋したらどうするんだ! お前も一瞬禰豆子ちゃんがかわいいと思っただろ‼ 俺はな、音で判るんだよ! 今まで会った鬼の中で禰豆子ちゃんが一番かわいいって思っただろ!? 滅茶苦茶かわいかっただろ!? あの子マジでかわいいよな!? だけどな、お前も相当な男前だ! 蝶屋敷の子たちはみんなお前にドキドキしてる! そんなお前と禰豆子ちゃんのお互いの気持ちが一致して、両想いになんかなってもらったら困るんだよ! そうなったら俺はマジでお前を殺すからな! それか何らかの方法でブサイクにしてやる!」
何を言っているのか……と呆れつつ、何だか馬鹿馬鹿しくなってきて清治はクスクス笑い出した。
「何がおかしいんだよ。俺はこんなにも禰豆子ちゃんが好きなのに」
「分かってますよ、よーく分かりました。俺はもう手出しはしません」
「手出し? それってどっちの意味? ちょっかいを出すって事? それとも命を奪おうとする事?」
「どっちもです。あの鬼は師範のものです」
「あの鬼って言い方は気に食わないけど、俺のものって言ってくれるとマジで嬉しいよ‼ 今度から禰豆子ちゃんって呼んであげてね。女将さん、うざく(鰻と胡瓜の酢の物)もお願い! あと肝焼きも!……お前に恋の酸いも甘いも苦い思いも全部まとめて味合わせてやる!」
初めて食べる東京の鰻はおいしかった。結局いくら支払ったか善逸は言わなかったが、清治には一生忘れられない味になった。うな重は善逸の大好物。清治もまた、大好物になってしまった。
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