仲直りの鰻
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清治は診察室を出ると、その足で縁側に向かった。もうそこには禰豆子も善逸もおらず、静かになった縁側に一人座って庭を眺める。
(師範……)
今でもあの怒りに満ちた善逸の目を思い出すと背筋が冷たくなる。普段のどこか抜けたような人柄を思えば、さっきは全くの別人のようだった。
(あの鬼の事……きっと好きなんやろうな)
隊士が鬼に恋をするなど、おかしな話である。清治にしてみれば全く理解できない事だ。
確かに禰豆子はかわいらしかった。あの竹の口枷は人を襲わせないようにするための物なのだろうが、ほとんど人間と見分けがつかないような見た目だ。
(でも師範、俺はやっぱ無理ですよ。どんなにかわいくても、鬼は鬼や。あんな口枷しとる言う事は、人を襲うからやろ)
以前、鬼に恨みはないと言っていた善逸。家族を鬼に殺されたわけでもなく、ただ桑島に借金を返してもらい、その見返りのように連れて行かれて技を仕込まれただけの人間だ。だから鬼に寛容な態度なのだろうが、いつか痛い目に遭うのではないかと心配になる。
(前も姥鬼の時にあの人はなかなか斬ろうとせんかったな。そのせいで危ない目にも遭っとった。婆さん言うても女の鬼やったからか? あんな風に鬼を殺そうかどうか迷っとったら、先に自分がやられるわ)
庭の塀に掛かる鉢植えに咲く小さな白い花が風で揺れていた。清治はそれを見ても気に留めるわけでもなく、頭の中に燻ぶる思いに真剣になっている。
(獪岳さんならあんな事にはならんやろうな。この話を聞いたら、あの人ならどう思うやろ。良い鬼、悪い鬼と区別するのはどう思うやろ。俺がおかしいんか、あの人でもおかしいって思うんか訊いてみたい。あの人なら、俺の味方してくれるんとちゃうかな。これから会いに行こう。借りた金も早よ返さんとあかん。師範に借りた金はやっぱそのまま師範に返すわ。俺はもう、師範とは……)
今日で善逸と蝶屋敷に別れを告げる──。菊江の御骨は親戚から連絡があるまでここに置かせてもらい、納骨までは自分が責任を持って行うつもりだ。
善逸に借りた大金に一筆添えて出て行こう。琵琶子には獪岳の居場所を調べさせ、しばらく居候させてもらおう。そんな事を考えていた。
「ヒューッ。もうホオズキが咲いてんだな」
いつの間にかすぐ隣に宇髄が座っていた。何の音もなく現れたので、清治は心臓が止まるほど驚いた。
「わーッ‼ いつからいたんですか!?」
「何を辛気臭ぇ顔してんだよ。ほら、あれの事だよあれ、あの花。あれはな、ホオズキの花だぜ。花が咲いて、それから夏にかけて例の良く知るあの提灯みたいなやつになるんだ」
「……そっ、そうですか」
清治には興味がなかった。今は植物を愛でる気力すらない。
「ホオズキってよ、鬼に灯って書くんだぜ。知ってたか?」
「……いえ」
しのぶには用事があるので急いでいると言っていたのに、宇髄はこんな所でどうでもいい話をして油を売っている。清治は宇髄に良い印象がない。権力を振りかざし、傲慢で人の気持ちも考えず、自分勝手な男のように思えるのだ。一人で考えたい事がたくさんあるのにこれ以上絡まれるのは御免だと思い、清治は立ち上がろうと床に手をついた。
「お前、ちゃんと善逸といろよ」
「えっ……?」
派手な眼帯を着けた宇髄は、片目だけで険しい顔の清治を見て微笑む。まるで心の内を読まれているような気がして、清治は気味悪く思った。
「胡蝶らから大体の話を聞いた。まぁ、それについて俺は何も言わねぇ。俺はお館様の決めた事には全て従う事にしているが、お前がどうかは知らねぇ。好きにすればいい。でもよ、竈門妹が俺たちの味方でいねぇときっと鬼舞辻無惨は倒せねぇ。人間だけの力じゃきっと倒せねぇ野郎なんだろうって思うんだ。だから竈門妹には俺たちと一緒に戦ってもらいたいと思っている」
「あんな大人しそうな鬼は何の力にもならないでしょう。厄介者なだけですよ」
「俺が吉原で生き永らえたのは、竈門妹に解毒してもらったお陰でもあるんだぜ?」
「そんな。……アンタは柱だ。いや、柱になれたほどの人間だ。アンタが強かっただけでしょう。そんな大きな体なら、毒なんて効かないでしょうし」
お世辞ではないがお世辞のように聞こえたのか、宇髄は鼻で笑った。
「体の大きさなんて関係ねぇよ。俺は所詮人間だ。見ろよこの左腕、やっぱこいつのせいで引退しちまうのはもったいねぇだろ? だからさっき胡蝶に玄弥みたいな銃を腕に移植してくれって頼んだんだが……。あいつ、こめかみに青筋立ててニコニコしながら、目も腕も失くした上に脳味噌まで失くしたのかと訊きやがった。……ド派手でカッコイイと思うんだがな」
失くした手の代わりに銃を……? ふざけているのか、本気で言っているのか。宇髄という人間はよく解からない。
「お前、強くなりたいならこのまま善逸の傍にいろ。誰に泣きつこうとしてんのか知らねぇが、善逸は馬鹿でも臆病でもねぇ。あいつはそのうち大化けする」
「大化け……?」
「ああ。あいつは今はまだ伏龍だ。まだその時ではないが、時が来れば本物の雷神になる」
「雷神…………」
「煉獄の旦那がなぜお前に奴を紹介したか。ただの気まぐれだったかどうか、二つ揃っているそのお目々でちゃんと確かめろ」
本当に宇髄が解らない。笑みを浮かべながら話す宇髄の顔を、清治は胡散臭そうにじっと見つめた。
「じゃあ俺はこれで。いつまでも暗い顔してんじゃねぇよ。明るくド派手に行こうぜ」
バシっと背中を叩かれ、清治は思わず前のめりになる。
「そういや、あの時は悪かったな。お前をお尋ね者にしちまって」
「……は?」
「デカい女装男 だよ」
宇髄は笑いながら行ってしまった。そう、前々から宇髄に会ったらその事について文句を言いたかったのだ。
「あっ、あの!」
呼び止めてももう遅い。あの吉原炎上騒動は、清子こと清治が仕掛けたダイナマイトのせいだという事にされてしまっていた。だが今はもうそんな事はどうでもよくなっていた。そんな事よりも、迷える自分に宇髄が残していった助言の方が気になる。
善逸との師弟関係を解消し、獪岳に弟子入りしようと考えていた。誰にも言っていないはずなのに、なぜその事が宇髄にはお見通しだったのだろうか。ゾッとするほど気味が悪い。
善逸からは確かに学ぶところも多いと思うが、鬼への考え方には賛同できない。そんな気持ちを抱えたままで師事する事は苦痛でしかない。また何かの拍子に喧嘩になってしまうだろう。
どうするかは自分で決める。元・音柱に何を言われようとも、清治は自分で決めた道を歩むつもりだった。
(師範……)
今でもあの怒りに満ちた善逸の目を思い出すと背筋が冷たくなる。普段のどこか抜けたような人柄を思えば、さっきは全くの別人のようだった。
(あの鬼の事……きっと好きなんやろうな)
隊士が鬼に恋をするなど、おかしな話である。清治にしてみれば全く理解できない事だ。
確かに禰豆子はかわいらしかった。あの竹の口枷は人を襲わせないようにするための物なのだろうが、ほとんど人間と見分けがつかないような見た目だ。
(でも師範、俺はやっぱ無理ですよ。どんなにかわいくても、鬼は鬼や。あんな口枷しとる言う事は、人を襲うからやろ)
以前、鬼に恨みはないと言っていた善逸。家族を鬼に殺されたわけでもなく、ただ桑島に借金を返してもらい、その見返りのように連れて行かれて技を仕込まれただけの人間だ。だから鬼に寛容な態度なのだろうが、いつか痛い目に遭うのではないかと心配になる。
(前も姥鬼の時にあの人はなかなか斬ろうとせんかったな。そのせいで危ない目にも遭っとった。婆さん言うても女の鬼やったからか? あんな風に鬼を殺そうかどうか迷っとったら、先に自分がやられるわ)
庭の塀に掛かる鉢植えに咲く小さな白い花が風で揺れていた。清治はそれを見ても気に留めるわけでもなく、頭の中に燻ぶる思いに真剣になっている。
(獪岳さんならあんな事にはならんやろうな。この話を聞いたら、あの人ならどう思うやろ。良い鬼、悪い鬼と区別するのはどう思うやろ。俺がおかしいんか、あの人でもおかしいって思うんか訊いてみたい。あの人なら、俺の味方してくれるんとちゃうかな。これから会いに行こう。借りた金も早よ返さんとあかん。師範に借りた金はやっぱそのまま師範に返すわ。俺はもう、師範とは……)
今日で善逸と蝶屋敷に別れを告げる──。菊江の御骨は親戚から連絡があるまでここに置かせてもらい、納骨までは自分が責任を持って行うつもりだ。
善逸に借りた大金に一筆添えて出て行こう。琵琶子には獪岳の居場所を調べさせ、しばらく居候させてもらおう。そんな事を考えていた。
「ヒューッ。もうホオズキが咲いてんだな」
いつの間にかすぐ隣に宇髄が座っていた。何の音もなく現れたので、清治は心臓が止まるほど驚いた。
「わーッ‼ いつからいたんですか!?」
「何を辛気臭ぇ顔してんだよ。ほら、あれの事だよあれ、あの花。あれはな、ホオズキの花だぜ。花が咲いて、それから夏にかけて例の良く知るあの提灯みたいなやつになるんだ」
「……そっ、そうですか」
清治には興味がなかった。今は植物を愛でる気力すらない。
「ホオズキってよ、鬼に灯って書くんだぜ。知ってたか?」
「……いえ」
しのぶには用事があるので急いでいると言っていたのに、宇髄はこんな所でどうでもいい話をして油を売っている。清治は宇髄に良い印象がない。権力を振りかざし、傲慢で人の気持ちも考えず、自分勝手な男のように思えるのだ。一人で考えたい事がたくさんあるのにこれ以上絡まれるのは御免だと思い、清治は立ち上がろうと床に手をついた。
「お前、ちゃんと善逸といろよ」
「えっ……?」
派手な眼帯を着けた宇髄は、片目だけで険しい顔の清治を見て微笑む。まるで心の内を読まれているような気がして、清治は気味悪く思った。
「胡蝶らから大体の話を聞いた。まぁ、それについて俺は何も言わねぇ。俺はお館様の決めた事には全て従う事にしているが、お前がどうかは知らねぇ。好きにすればいい。でもよ、竈門妹が俺たちの味方でいねぇときっと鬼舞辻無惨は倒せねぇ。人間だけの力じゃきっと倒せねぇ野郎なんだろうって思うんだ。だから竈門妹には俺たちと一緒に戦ってもらいたいと思っている」
「あんな大人しそうな鬼は何の力にもならないでしょう。厄介者なだけですよ」
「俺が吉原で生き永らえたのは、竈門妹に解毒してもらったお陰でもあるんだぜ?」
「そんな。……アンタは柱だ。いや、柱になれたほどの人間だ。アンタが強かっただけでしょう。そんな大きな体なら、毒なんて効かないでしょうし」
お世辞ではないがお世辞のように聞こえたのか、宇髄は鼻で笑った。
「体の大きさなんて関係ねぇよ。俺は所詮人間だ。見ろよこの左腕、やっぱこいつのせいで引退しちまうのはもったいねぇだろ? だからさっき胡蝶に玄弥みたいな銃を腕に移植してくれって頼んだんだが……。あいつ、こめかみに青筋立ててニコニコしながら、目も腕も失くした上に脳味噌まで失くしたのかと訊きやがった。……ド派手でカッコイイと思うんだがな」
失くした手の代わりに銃を……? ふざけているのか、本気で言っているのか。宇髄という人間はよく解からない。
「お前、強くなりたいならこのまま善逸の傍にいろ。誰に泣きつこうとしてんのか知らねぇが、善逸は馬鹿でも臆病でもねぇ。あいつはそのうち大化けする」
「大化け……?」
「ああ。あいつは今はまだ伏龍だ。まだその時ではないが、時が来れば本物の雷神になる」
「雷神…………」
「煉獄の旦那がなぜお前に奴を紹介したか。ただの気まぐれだったかどうか、二つ揃っているそのお目々でちゃんと確かめろ」
本当に宇髄が解らない。笑みを浮かべながら話す宇髄の顔を、清治は胡散臭そうにじっと見つめた。
「じゃあ俺はこれで。いつまでも暗い顔してんじゃねぇよ。明るくド派手に行こうぜ」
バシっと背中を叩かれ、清治は思わず前のめりになる。
「そういや、あの時は悪かったな。お前をお尋ね者にしちまって」
「……は?」
「
宇髄は笑いながら行ってしまった。そう、前々から宇髄に会ったらその事について文句を言いたかったのだ。
「あっ、あの!」
呼び止めてももう遅い。あの吉原炎上騒動は、清子こと清治が仕掛けたダイナマイトのせいだという事にされてしまっていた。だが今はもうそんな事はどうでもよくなっていた。そんな事よりも、迷える自分に宇髄が残していった助言の方が気になる。
善逸との師弟関係を解消し、獪岳に弟子入りしようと考えていた。誰にも言っていないはずなのに、なぜその事が宇髄にはお見通しだったのだろうか。ゾッとするほど気味が悪い。
善逸からは確かに学ぶところも多いと思うが、鬼への考え方には賛同できない。そんな気持ちを抱えたままで師事する事は苦痛でしかない。また何かの拍子に喧嘩になってしまうだろう。
どうするかは自分で決める。元・音柱に何を言われようとも、清治は自分で決めた道を歩むつもりだった。
