鬼を守る者
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負けは確実、実力が違いすぎる。
(この人は刀を持ったら人が変わる。……そんな事は分かっとったのに、俺は……)
挫けても、意地だけは張らなければならない。自分の信念を貫き通さなければならない。清治は声を張り上げた。
「俺だって、鬼を殺すためなら何だってします! 師範だって倒します! 鬼を殺せるなら、命なんていらないんです! でないと俺はッ……俺は何のために隊士に……っ!」
溢れて来る激情と熱い涙。清治は、だんだん滲んでくる師範の顔を涙に塗れた瞳で睨み続けた。
「父ちゃんに合わせる顔がない! 俺は父ちゃんの仇を討つために隊士になったんだ! 命なんか惜しくない!」
「……やめてもいいんだぞ」
「やめません! 一生懸命に戦って死んだんなら、父ちゃんもようやったって褒めてくれる! 師範、俺は鬼を殺さないといけないんです! だから絶対にその女の鬼を殺してやる!」
「……そうか。それなら仕方がないな」
────シィィィィィィ……
また聞こえるあの音。落雷の前のような静けさが、清治の鼓膜を震わせる。
────雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 六連
眩しい稲光りが六回、清治はほぼ同時に両手両足、頭に腹までをも打たれてその場に頽 れる。
「アガッ……ガハッ」
治ったばかりのわき腹がジンと痛みだす。うつ伏せになりながら、ビクビクと手足を痙攣させて泡を吹いた。
「立てよ。禰豆子ちゃんを殺したいんだろ? 早くかかって来いよ」
「…………!」
物を言えない清治を見下ろし、善逸は刃先を清治の頬に当てた。いつもは優しい眼差しが、刃物のように冷たく見えた。
「おいッ、おめぇら何してんだ!」
「「「キャァァァァ! 皇さん⁉」」」
診察を終えた伊之助と三人娘がやって来て叫び声を上げた。
「あっ、禰豆子さん!」
隅に隠れていた禰豆子は、なほに抱きついて背中に回った。
ひっくり返った洗濯籠、隠れようとする禰豆子、殺気立つ善逸に打ち負かされている清治。見れば何が起こったか大体の想像はつく。
「おいどうした。何でピヨ治がこんな弱虫に……?」
状況を分かっていないのは伊之助だけのようで、呑気に庭に出て清治の顔を覗く。
「どけよ伊之助。まだ勝負はついてないんだよ」
「あん?」
「いけません、善逸さん!」
「刀を下ろしてください!」
「皇さんをどうする気ですか?」
三人娘も庭に下り、清治に覆い被さる。
「清治は禰豆子ちゃんを殺すと言った。俺はそれなら俺を殺してからだと言った。俺は禰豆子ちゃんを殺す奴は誰だって殺すつもりだ。だから清治を殺す」
「でも皇さんは善逸さんの弟子ですよ!?」
「関係ないよ。禰豆子ちゃんを殺そうとする奴は誰だって許さない」
「善逸さん‼」
禰豆子の事になると人が変わってしまうという事はみんな知っているが、それを知らない清治にとっては善逸の言動は異常なもののように思えた。
「ど……どいてください。俺は……あの鬼を殺……さないと」
清治はヨロヨロと起き上がろうとするが、三人娘は清治の体を地面に押さえつける。
「ダメです。すみませんが、ここは善逸さんに従ってください。禰豆子さんは私たちの仲間の鬼なんです!」
「気持ちは分かります。私たちも最初は戸惑いました。でも禰豆子さんは人を襲ったり、人を食べたりしません!」
「私たちと一緒に鬼と戦ってくれている鬼なんですよ。禰豆子さんも鬼殺隊の一員なんです!」
すみ・なほ・きよは、清治の背中にどっしりと座り、身動きが取れないようにして訴えた。
「……そうだぜピヨ治。ねず公は俺の子分で、俺らの仲間だ。俺だって最初は鬼だから殺そうとした。でもこの凡逸が……身を張ってそれを止めた。ねず公は炭治郎の大事な妹だからってな。この俺様にボコボコにされてもコイツはねず公を守った。俺様でも倒せなかったポン逸を、お前が倒せるわけがねぇよ」
伊之助にも諭され、清治の戦意はだんだん失われていく。その問題の鬼・禰豆子は、部屋の隅に隠れて清治の方を怯えた目で見ている。
清治は禰豆子と目が合った。鬼と言うにはあまりにも可憐、まるで猪狩りをしている最中にたまたま現れた野兎のような愛らしい姿だ。危害を加えないなら見逃がしてやってもいいと思うような、そんな姿の少女なのだ。
「あらあら。何か騒がしいと思ったら、みなさんで何をしているんですか?」
騒ぎが診察室まで聞こえたのか、しのぶが様子を見に来た。
「あっ、しのぶ様」
「皇さん、診察室へどうぞ」
「……? おっ、俺は怪我なんて……」
「診察室へどうぞ」
しのぶはニコニコしながらはっきりとした口調で言うと、背中を見せて行ってしまった。
(この人は刀を持ったら人が変わる。……そんな事は分かっとったのに、俺は……)
挫けても、意地だけは張らなければならない。自分の信念を貫き通さなければならない。清治は声を張り上げた。
「俺だって、鬼を殺すためなら何だってします! 師範だって倒します! 鬼を殺せるなら、命なんていらないんです! でないと俺はッ……俺は何のために隊士に……っ!」
溢れて来る激情と熱い涙。清治は、だんだん滲んでくる師範の顔を涙に塗れた瞳で睨み続けた。
「父ちゃんに合わせる顔がない! 俺は父ちゃんの仇を討つために隊士になったんだ! 命なんか惜しくない!」
「……やめてもいいんだぞ」
「やめません! 一生懸命に戦って死んだんなら、父ちゃんもようやったって褒めてくれる! 師範、俺は鬼を殺さないといけないんです! だから絶対にその女の鬼を殺してやる!」
「……そうか。それなら仕方がないな」
────シィィィィィィ……
また聞こえるあの音。落雷の前のような静けさが、清治の鼓膜を震わせる。
────雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 六連
眩しい稲光りが六回、清治はほぼ同時に両手両足、頭に腹までをも打たれてその場に
「アガッ……ガハッ」
治ったばかりのわき腹がジンと痛みだす。うつ伏せになりながら、ビクビクと手足を痙攣させて泡を吹いた。
「立てよ。禰豆子ちゃんを殺したいんだろ? 早くかかって来いよ」
「…………!」
物を言えない清治を見下ろし、善逸は刃先を清治の頬に当てた。いつもは優しい眼差しが、刃物のように冷たく見えた。
「おいッ、おめぇら何してんだ!」
「「「キャァァァァ! 皇さん⁉」」」
診察を終えた伊之助と三人娘がやって来て叫び声を上げた。
「あっ、禰豆子さん!」
隅に隠れていた禰豆子は、なほに抱きついて背中に回った。
ひっくり返った洗濯籠、隠れようとする禰豆子、殺気立つ善逸に打ち負かされている清治。見れば何が起こったか大体の想像はつく。
「おいどうした。何でピヨ治がこんな弱虫に……?」
状況を分かっていないのは伊之助だけのようで、呑気に庭に出て清治の顔を覗く。
「どけよ伊之助。まだ勝負はついてないんだよ」
「あん?」
「いけません、善逸さん!」
「刀を下ろしてください!」
「皇さんをどうする気ですか?」
三人娘も庭に下り、清治に覆い被さる。
「清治は禰豆子ちゃんを殺すと言った。俺はそれなら俺を殺してからだと言った。俺は禰豆子ちゃんを殺す奴は誰だって殺すつもりだ。だから清治を殺す」
「でも皇さんは善逸さんの弟子ですよ!?」
「関係ないよ。禰豆子ちゃんを殺そうとする奴は誰だって許さない」
「善逸さん‼」
禰豆子の事になると人が変わってしまうという事はみんな知っているが、それを知らない清治にとっては善逸の言動は異常なもののように思えた。
「ど……どいてください。俺は……あの鬼を殺……さないと」
清治はヨロヨロと起き上がろうとするが、三人娘は清治の体を地面に押さえつける。
「ダメです。すみませんが、ここは善逸さんに従ってください。禰豆子さんは私たちの仲間の鬼なんです!」
「気持ちは分かります。私たちも最初は戸惑いました。でも禰豆子さんは人を襲ったり、人を食べたりしません!」
「私たちと一緒に鬼と戦ってくれている鬼なんですよ。禰豆子さんも鬼殺隊の一員なんです!」
すみ・なほ・きよは、清治の背中にどっしりと座り、身動きが取れないようにして訴えた。
「……そうだぜピヨ治。ねず公は俺の子分で、俺らの仲間だ。俺だって最初は鬼だから殺そうとした。でもこの凡逸が……身を張ってそれを止めた。ねず公は炭治郎の大事な妹だからってな。この俺様にボコボコにされてもコイツはねず公を守った。俺様でも倒せなかったポン逸を、お前が倒せるわけがねぇよ」
伊之助にも諭され、清治の戦意はだんだん失われていく。その問題の鬼・禰豆子は、部屋の隅に隠れて清治の方を怯えた目で見ている。
清治は禰豆子と目が合った。鬼と言うにはあまりにも可憐、まるで猪狩りをしている最中にたまたま現れた野兎のような愛らしい姿だ。危害を加えないなら見逃がしてやってもいいと思うような、そんな姿の少女なのだ。
「あらあら。何か騒がしいと思ったら、みなさんで何をしているんですか?」
騒ぎが診察室まで聞こえたのか、しのぶが様子を見に来た。
「あっ、しのぶ様」
「皇さん、診察室へどうぞ」
「……? おっ、俺は怪我なんて……」
「診察室へどうぞ」
しのぶはニコニコしながらはっきりとした口調で言うと、背中を見せて行ってしまった。
