鬼を守る者
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翌日からは伊之助も機能回復訓練に加わり、清治きよはると善逸の三人は騒がしくしながらも三人娘の厳しい言いつけをこなし、徐々に体を実戦へ向けて慣らしていった。
訓練後、三人は庭の井戸で水を浴びて爽やかな汗を──基 、冷や汗を水で洗い流して体を拭く。容赦のない柔軟体操や、筋力強化のための片腕による腕立て伏せは、三人娘がそれぞれ彼らの背中に乗った上で行われた。
一番きついのは巨大瓢箪に息を吹き込み、破裂させるものである。酸欠になりながら、破裂するのは瓢箪が先か頭の血管が先か。善逸の話では、できなければ何度でも何時間でもやらされるらしいが、清治は善逸の言う通り、いつも優しいあの三人娘がこの時ばかりは鬼に見えてしまった。今日は見逃してもらえたが、明日はまた挑戦しなければならないようだ。
清治は肌を拭きながら、先輩二人の痛々しい傷跡が残る体と自分の体を見比べた。やや気分は落ち込んでいる。思ったように体が動かず、気胸だったせいか肺機能も落ちてしまったようで、訓練では出来が良くなかったからだ。
師範の善逸はもとより、二か月近くも眠っていた伊之助さえもその筋肉量が減っていない。清治も怪我をして一か月ほど寝込んでいたが、すっかり筋肉は落ちてしまっていた。なぜこんなにも差があるのだろうと思うと、その実力差を見せつけられたようで気分が沈んでしまうのである。
そして傷跡もそうだ。本来なら傷のない隊士の方が優れていると言えるはずなのだが、ほとんど傷のない自分の体に比べると、この先輩二人の数々の傷跡は武勇の証のように見えて、薄っぺらい綺麗な裸を見せるのが恥ずかしくなる。
「みなさん、おやつにしましょう。柿の葉寿司のお礼に、隠の方から水饅頭をたくさんいただきましたよ」
アオイは盆に盛った水饅頭を、三人娘はやかんのお茶と湯呑を持って縁側にやって来る。
「水饅頭? 何ですかそれは」
「葛粉などを練って半透明にした物の中に餡が入っている夏のお菓子ですよ。もう売りに出されていたようで。季節が過ぎるのは早いですね、ついこないだまでお菓子屋さんには桜餅ばかりだったのに」
「何だぁこのブヨブヨは。肥えたジジイとババアのだらしねぇ腹みてぇだぜ……。なぁ、ピヨ治」
「コラ‼突 かないの! それに変な例えはしないでください!」
「何でだよアオコ! これ以上ねぇようなピッタシの例えだろうが!」
清治も伊之助も、笹で包まれた水饅頭を見るのも初めてで食べた事もない。
「伊之助さんの分はこっちですからね! こちら側の物には手を付けないでください。私たちの分なんで」
「ああん!? たったこんだけかよ!」
こんだけと言っても十個ほどある。みんな一個ずついただくので十分すぎる量だが、伊之助は不満げだった。
「そうそう皇さん、大阪から文が届いていますよ」
「えっ、大阪から?」
何だろうと首を傾げながら封を開けてみると、優玄からの文だった。
毒に侵されて大阪の病院へ入院して治療している優玄だったが、もうすぐ退院する事になったとある。また、親の仇である蓮峰を討ってくれた事と、親身になって相談に乗ってくれた事等、文面は感謝の言葉で溢れていた。
ただ、片眼を失明する事になってしまい、こればかりは治しようのないものだと言う。見えている片眼も視力は完全には回復せず、このまま不自由に過ごす事になるようだ。
障害は残ったが、これからの事を考えれば優玄はどうやって生きていくのか。清治は何よりもその事が気になったが、最後の方にこう認 めてあった。
『寺は産屋敷様、そして吉野の村役場や麓の住民、他の寺院などからの多大な支援をいただき、再建する運びとなりました。僕の方は両親の供養をし続けたいのと、迷惑をかけてしまった和尚さんのお役に立てないかと思って相談したところ、これからも寺に置いてもらえる事になりました。目のせいで寺の仕事もままならない事も多いと思うのですが、絵が得意なら仏画を描いたらどうかと和尚さんに勧められましたので、お勤めに励みながら片眼でも挑戦したいと思います。来年の秋には新しく寺が完成するとの事なので、もし近くに来られた際は是非お立ち寄りください。
また、僕の名前ですが、この度和尚さんから新しい字をいただきました。これからは優玄改め、勇・玄となります。元々和尚さんから付けてもらった名ですが、件 の件で僕が鬼を追って吉野まで辿り着き、敵討ちをしようとした事に因んで勇という字を与えられました。勇ましいのは皇さんの方ですよと僕が言うと、和尚さんはそうやなぁと笑っておられました。過大な字をいただいてしまい、お恥ずかしい限りです。皇さんもどうぞ笑ってやってください。
ですが皇さん、僕も皇さんのように勇気をもって強く生きていきたいと思います。体の方は徐々にですが肉も付き、今は散歩をする程度ですが、もう少ししたら本格的に体を鍛えていこうと思います。長くなりましたが、どうかお体に気をつけて。必ずや鬼殺隊の悲願が成就いたしますよう。合掌 勇玄』
気付けば、清治は微笑みながら涙を流していた。そんな様子を、水饅頭に夢中の伊之助以外は心配そうに見つめる。
「ど、どうしたんだよ清治! 何で嬉しそうに泣いてんの? もしかして女の子からの恋文?」
「何が書いてあったんですか?」
「皇さんが泣いているなんて……」
「うわぁぁ、泣かないでください皇さぁぁぁん」
清治は指で涙を拭いながらニッコリと笑った。嬉しくて堪らなかった。片眼を失明したとはいえ、勇玄は体も心も回復の途上にあり、気持ちも前向きなものになっていると文からはひしひしと伝わって来る。
「すみません、吉野で知り合った僧侶の方からで。身を心配していたんですが……」
清治は何があったかを詳しく説明した。するとみんな神妙な顔で聞き入る。両親を鬼に殺され、その敵討ちの為に寺に入ったという点は、形は違えどここにいる者たちの心を強く打つ。
「その方、鬼殺隊の存在を知らなかったとは言っても、すごい人ですね。たった一人で鬼を追いかけて仇討ちをしようとしてたなんて」
「はい。大人しくていつもおどおどしていた人なんですが、まさかそんな理由で僧侶になったなんて思いもしませんでした」
「フンッ、弱っちいくせに寺に潜り込んで鬼を殺そうとするなんてなかなかの根性だぜ。おいピヨ治、そいつに俺の子分にしてやってもいいって言っておけ! おめぇのビビリのションベンたれ師範よりかはちゃんとした奴だしな!」
「いっ、伊之助さん……」
善逸はムスッとした顔で水饅頭を齧った。昨夜ビックリして漏らしてしまった事がみんなにバレてしまった善逸は、朝からどうも無口だった。三人娘は「ちょうど厠へ行く途中だったのなら仕方がないですよぉ」と慰めていたが、アオイからは「いい歳して何やってるんですか!」と叱られていた。朝餉の時から度々伊之助に揶揄われ、善逸は我慢ならずに水饅頭を食べ終わるとさっさとどこかへ行ってしまった。
「伊之助さん、師範を悪く言われて俺は黙っていられませんね。どうです、この後俺と手合わせは」
清治は悪戯な表情を浮かべて伊之助を誘う。清治もまだ十四、暇つぶしをするにはヤンチャにチャンバラが一番と言ったところだ。
「おう? いいぜいいぜ! 俺様が寝ている間にお前がどんだけ強くなったか見てやるぜ!」
清治も怪我が治ったばかり、伊之助は夜中に目が覚めたばかりなのにとアオイに止められたが、手合わせと聞いて血沸き肉躍る伊之助が大人しく言う事を聞くわけがない。
二人は調子に乗ってやりすぎないよう釘を刺され、そのまま庭に出て手合わせを始めてしまった。
訓練後、三人は庭の井戸で水を浴びて爽やかな汗を──
一番きついのは巨大瓢箪に息を吹き込み、破裂させるものである。酸欠になりながら、破裂するのは瓢箪が先か頭の血管が先か。善逸の話では、できなければ何度でも何時間でもやらされるらしいが、清治は善逸の言う通り、いつも優しいあの三人娘がこの時ばかりは鬼に見えてしまった。今日は見逃してもらえたが、明日はまた挑戦しなければならないようだ。
清治は肌を拭きながら、先輩二人の痛々しい傷跡が残る体と自分の体を見比べた。やや気分は落ち込んでいる。思ったように体が動かず、気胸だったせいか肺機能も落ちてしまったようで、訓練では出来が良くなかったからだ。
師範の善逸はもとより、二か月近くも眠っていた伊之助さえもその筋肉量が減っていない。清治も怪我をして一か月ほど寝込んでいたが、すっかり筋肉は落ちてしまっていた。なぜこんなにも差があるのだろうと思うと、その実力差を見せつけられたようで気分が沈んでしまうのである。
そして傷跡もそうだ。本来なら傷のない隊士の方が優れていると言えるはずなのだが、ほとんど傷のない自分の体に比べると、この先輩二人の数々の傷跡は武勇の証のように見えて、薄っぺらい綺麗な裸を見せるのが恥ずかしくなる。
「みなさん、おやつにしましょう。柿の葉寿司のお礼に、隠の方から水饅頭をたくさんいただきましたよ」
アオイは盆に盛った水饅頭を、三人娘はやかんのお茶と湯呑を持って縁側にやって来る。
「水饅頭? 何ですかそれは」
「葛粉などを練って半透明にした物の中に餡が入っている夏のお菓子ですよ。もう売りに出されていたようで。季節が過ぎるのは早いですね、ついこないだまでお菓子屋さんには桜餅ばかりだったのに」
「何だぁこのブヨブヨは。肥えたジジイとババアのだらしねぇ腹みてぇだぜ……。なぁ、ピヨ治」
「コラ‼
「何でだよアオコ! これ以上ねぇようなピッタシの例えだろうが!」
清治も伊之助も、笹で包まれた水饅頭を見るのも初めてで食べた事もない。
「伊之助さんの分はこっちですからね! こちら側の物には手を付けないでください。私たちの分なんで」
「ああん!? たったこんだけかよ!」
こんだけと言っても十個ほどある。みんな一個ずついただくので十分すぎる量だが、伊之助は不満げだった。
「そうそう皇さん、大阪から文が届いていますよ」
「えっ、大阪から?」
何だろうと首を傾げながら封を開けてみると、優玄からの文だった。
毒に侵されて大阪の病院へ入院して治療している優玄だったが、もうすぐ退院する事になったとある。また、親の仇である蓮峰を討ってくれた事と、親身になって相談に乗ってくれた事等、文面は感謝の言葉で溢れていた。
ただ、片眼を失明する事になってしまい、こればかりは治しようのないものだと言う。見えている片眼も視力は完全には回復せず、このまま不自由に過ごす事になるようだ。
障害は残ったが、これからの事を考えれば優玄はどうやって生きていくのか。清治は何よりもその事が気になったが、最後の方にこう
『寺は産屋敷様、そして吉野の村役場や麓の住民、他の寺院などからの多大な支援をいただき、再建する運びとなりました。僕の方は両親の供養をし続けたいのと、迷惑をかけてしまった和尚さんのお役に立てないかと思って相談したところ、これからも寺に置いてもらえる事になりました。目のせいで寺の仕事もままならない事も多いと思うのですが、絵が得意なら仏画を描いたらどうかと和尚さんに勧められましたので、お勤めに励みながら片眼でも挑戦したいと思います。来年の秋には新しく寺が完成するとの事なので、もし近くに来られた際は是非お立ち寄りください。
また、僕の名前ですが、この度和尚さんから新しい字をいただきました。これからは優玄改め、勇・玄となります。元々和尚さんから付けてもらった名ですが、
ですが皇さん、僕も皇さんのように勇気をもって強く生きていきたいと思います。体の方は徐々にですが肉も付き、今は散歩をする程度ですが、もう少ししたら本格的に体を鍛えていこうと思います。長くなりましたが、どうかお体に気をつけて。必ずや鬼殺隊の悲願が成就いたしますよう。合掌 勇玄』
気付けば、清治は微笑みながら涙を流していた。そんな様子を、水饅頭に夢中の伊之助以外は心配そうに見つめる。
「ど、どうしたんだよ清治! 何で嬉しそうに泣いてんの? もしかして女の子からの恋文?」
「何が書いてあったんですか?」
「皇さんが泣いているなんて……」
「うわぁぁ、泣かないでください皇さぁぁぁん」
清治は指で涙を拭いながらニッコリと笑った。嬉しくて堪らなかった。片眼を失明したとはいえ、勇玄は体も心も回復の途上にあり、気持ちも前向きなものになっていると文からはひしひしと伝わって来る。
「すみません、吉野で知り合った僧侶の方からで。身を心配していたんですが……」
清治は何があったかを詳しく説明した。するとみんな神妙な顔で聞き入る。両親を鬼に殺され、その敵討ちの為に寺に入ったという点は、形は違えどここにいる者たちの心を強く打つ。
「その方、鬼殺隊の存在を知らなかったとは言っても、すごい人ですね。たった一人で鬼を追いかけて仇討ちをしようとしてたなんて」
「はい。大人しくていつもおどおどしていた人なんですが、まさかそんな理由で僧侶になったなんて思いもしませんでした」
「フンッ、弱っちいくせに寺に潜り込んで鬼を殺そうとするなんてなかなかの根性だぜ。おいピヨ治、そいつに俺の子分にしてやってもいいって言っておけ! おめぇのビビリのションベンたれ師範よりかはちゃんとした奴だしな!」
「いっ、伊之助さん……」
善逸はムスッとした顔で水饅頭を齧った。昨夜ビックリして漏らしてしまった事がみんなにバレてしまった善逸は、朝からどうも無口だった。三人娘は「ちょうど厠へ行く途中だったのなら仕方がないですよぉ」と慰めていたが、アオイからは「いい歳して何やってるんですか!」と叱られていた。朝餉の時から度々伊之助に揶揄われ、善逸は我慢ならずに水饅頭を食べ終わるとさっさとどこかへ行ってしまった。
「伊之助さん、師範を悪く言われて俺は黙っていられませんね。どうです、この後俺と手合わせは」
清治は悪戯な表情を浮かべて伊之助を誘う。清治もまだ十四、暇つぶしをするにはヤンチャにチャンバラが一番と言ったところだ。
「おう? いいぜいいぜ! 俺様が寝ている間にお前がどんだけ強くなったか見てやるぜ!」
清治も怪我が治ったばかり、伊之助は夜中に目が覚めたばかりなのにとアオイに止められたが、手合わせと聞いて血沸き肉躍る伊之助が大人しく言う事を聞くわけがない。
二人は調子に乗ってやりすぎないよう釘を刺され、そのまま庭に出て手合わせを始めてしまった。
