師範の秘密
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消灯時間と言っても、廊下の足元には常夜灯がついている。それでも善逸は自分の影すら怖いので、背中を壁にくっつけてカニのように横歩きしながら階段を下りて行く。
「へぇっ……⁉」
誰もいない真っ暗な厨房の方からボリボリと何かを噛むような音がする。
(だっ、誰……? アオイちゃんはいないし、すみちゃんもきよちゃんもなほちゃんも多分寝てる……よね? じゃあ何だろ……ネズミ? ネズミが食べ物あさってんの?)
厠は厨房とは逆の方向だが、善逸は音が気になって仕方がない。治療中の隊士で動けるのは自分だけで、後は寝たきりの隊士ばかり。清治だってちゃんと寝ていたのを確認している。だったらこの音は何なのか。クチャクチャ、ゴキュゴキュ、ングッ……といった獣がガツガツと何かを貪り食うような音が絶えず聞こえてくる。
(もっ、もしかして鬼⁉ いや、蝶屋敷に鬼だなんて……。でも分かんないぞ。しのぶさんは不在だし、怪我人ばかりのこんな所に鬼が入り込んだなんて事になったらどうなるんだ⁉ ちょっ、待って待って! 何か食ってる音がするって事は、誰かが食われてんの⁉ えっ、そういう事⁉)
善逸は暗闇で耳を澄ませた。だが鬼のような禍々しい音はしない。むしろこれはどこかで聞いたような……。
恐怖よりも好奇心が勝る。善逸は厠へ行くのをやめ、まずは厨房の方へと壁伝いに進み、暖簾の下から中を覗く。
(……何かいる! やっぱり何かいるぅぅぅぅぅぅぅぅッ‼)
黒い影が小刻みに揺れている。ゴキブリでもネズミでもない。自分と同じほどの大きさの何かだ。
(ん⁉ 上半身裸じゃね⁉ 裸の背中がモロ見えるぞ……! 女の子だったらどうしよう! 裸で何してんの⁉ 俺、女の子の裸なんて見た事ないよぉぉぉぉ⁉)
恐怖のドキドキが興味のドキドキへと変化していく。お年頃の善逸は壁にべったり背中をくっつけながら赤面する。
(どうしよう、俺は初めて女の子の裸を見るなら、禰豆子ちゃんの裸がいいなって前から思ってたけど……。いいのかな? 見ちゃっていいのかな? あーっ、おしっこにも行きたいし、女の子の裸も見てみたいし……!)
いつの間にか、真夜中の怪は頭の中で女の子にすり替わっている。泥棒や鬼だったらどうしようという考えは消え去り、頭の中にはボヤけた未知の女の裸体が浮かんでいる。
ソワソワしっぱなしの善逸は、もう一度覗いてみようとそーっと首だけで厨房を覗いた。
すると、鼻先が柔らかい何かに触れた。
「……? もしかしておっぱ……ぃ?」
プニッとしたそれから突然ブォーっと風が吹き出て、善逸の重たい前髪がピラピラピラと持ち上がった。
そして見えたのだ。柔らかい乳房だと思ったそれは生き物の鼻だった。そして猛烈な風はそれの鼻息だったのだ。
「ギッ……ギィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァッ‼ バ ケ モ ノ だァァァァァァッ‼」
善逸は大絶叫を撒き散らして腰を抜かした。
「「「どうしたんですか善逸さん!」」」
三人娘が寝間着のまま明かりを持って慌てて走って来た。
「ヒィィィィッ‼ 何かいる! 何かいる~!」
指で指す先を照らすと、大根の一本漬けを両手に掴んだ猪が一匹、暗闇の中にボーっと浮かび上がった。
「「「キャァァァァァァ‼」」」
「ウォォォォォッ、大根! 大根持ってるぅぅぅぅ!」
三人娘も一緒になって腰を抜かし、善逸にしがみつく。
「どうしたんですか、騒々しい!」
騒ぎを聞きつけて、アオイと清治もやって来る。
「いっ、伊之助さん⁉ 意識が戻ったんですか?」
アオイは、さっきまで上の病室で寝ていたはずの伊之助が起きているので驚いた。
「腹減った。何もねぇからこの沢庵食ってた」
「いっ、伊之助さん……!」
アオイは泣きながら伊之助に抱きついた。三人娘も伊之助だと判って喜び合っている。……が、善逸は放心状態で動けない。股間を押さえて口元を引きつらせている。
「大丈夫ですか、師範」
「……清治、何も訊かずにボロ布持って来てくれないか。上の病室の桶の中にあるから……捨ててもいいやつ」
「えっ? ボロ布ですか?」
「早く。あと洗い替えの褌と寝間着も」
「はぁ。いいですけど、何でですか?」
「いいから早く‼」
清治はよく分からないまま病室へ戻り、急いで持って戻って来る。伊之助の為にアオイと三人娘で夜食を用意する事にしたようで、厨房には煌々と明かりがつき、四人はテキパキと動いていた。その外の廊下でうずくまって動けないままになっている善逸に、清治は頼まれた物を渡す。
「あのさ、湯浴みのお湯って残ってるかな?」
「えっ? いや、どうでしょうか。もうぬるいかとっくに冷めちゃってるでしょ」
「悪いんだけどさ、ちょっとでいいから沸かし直してくんない!?」
「えっ? はぁ……別に構いませんけど」
「じゃあ先に行ってほんのちょっとでいいからお湯沸かしといて! 俺はすぐに行くから! ほら、早く!」
「……? はぁ……」
清治は首を傾げながら風呂場へと向かった。結局清治は何があったか分からないまま湯を沸かしてやると、今度は先に寝るよう言われたので善逸を風呂場に残して戻って来た。そして病室に戻る前に厨房を覗く。
「伊之助さん、意識が戻って良かったですね。体は大丈夫ですか?」
伊之助は厨房で餅を焼いてもらっていた。それを砂糖醤油につけながらパクパクと口に運んでいる。
「おうよピヨ治! おめぇも元気だったか?」
「はい! ……まぁちょっと前まで元気じゃなかったですけど」
「皇さんは伊之助さんが眠っている間、奈良へ遠征して帰って来たばかりなんですよ」
「何! 俺が寝ている間に? 鬼は倒したか⁉」
「はぁ、まぁ一応」
「よし! それでこそ俺の子分だ! ンナハハハハ!」
毒が回って止血が遅れたせいで、一時命が危ぶまれていたとは思えないほどの食欲と回復力である。餅の他にもすぐに食べられそうな果物や菓子なども用意され、それを貪りながら伊之助は豪快に笑った。
「あとは炭治郎さんですね」
「おう、アイツに声をかけたけどよ、グースカ寝たまんまで俺様を無視しやがったから、一発ぶん殴ってやった!」
「「「「えぇぇぇぇぇぇ~っ‼」」」」
「ちょ、ちょっと伊之助さん! ダメですよ、炭治郎さんは重傷なんですから! 何て事してるんですか!」
「ガハハハハ! そういや紋逸はどこだ? あの野郎、コソコソ覗きやがるから、俺が鼻息かけてやったらビビッて小便チビってたぞ!」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇ~っ⁉」」」」」
ボロ布を持って来いと言うのはその為だったのか……。清治は、その後に湯を沸かすよう言われた事も、先に寝ているよう言われた事も全て合点がいった。
「あ~旨ぇ! 餅旨ぇ! もっと焼いてくれ! もっと食う!」
「はいはい。あっ、それはまだ焼けてませんよ!」
アオイはいつも通りプリプリ怒りながらもその表情はいつもより柔らかかった。後は炭治郎も無事目が覚めてくれればいいのだが、いつになるのか。伊之助のお見舞い がどう影響するのか分からない───。
「へぇっ……⁉」
誰もいない真っ暗な厨房の方からボリボリと何かを噛むような音がする。
(だっ、誰……? アオイちゃんはいないし、すみちゃんもきよちゃんもなほちゃんも多分寝てる……よね? じゃあ何だろ……ネズミ? ネズミが食べ物あさってんの?)
厠は厨房とは逆の方向だが、善逸は音が気になって仕方がない。治療中の隊士で動けるのは自分だけで、後は寝たきりの隊士ばかり。清治だってちゃんと寝ていたのを確認している。だったらこの音は何なのか。クチャクチャ、ゴキュゴキュ、ングッ……といった獣がガツガツと何かを貪り食うような音が絶えず聞こえてくる。
(もっ、もしかして鬼⁉ いや、蝶屋敷に鬼だなんて……。でも分かんないぞ。しのぶさんは不在だし、怪我人ばかりのこんな所に鬼が入り込んだなんて事になったらどうなるんだ⁉ ちょっ、待って待って! 何か食ってる音がするって事は、誰かが食われてんの⁉ えっ、そういう事⁉)
善逸は暗闇で耳を澄ませた。だが鬼のような禍々しい音はしない。むしろこれはどこかで聞いたような……。
恐怖よりも好奇心が勝る。善逸は厠へ行くのをやめ、まずは厨房の方へと壁伝いに進み、暖簾の下から中を覗く。
(……何かいる! やっぱり何かいるぅぅぅぅぅぅぅぅッ‼)
黒い影が小刻みに揺れている。ゴキブリでもネズミでもない。自分と同じほどの大きさの何かだ。
(ん⁉ 上半身裸じゃね⁉ 裸の背中がモロ見えるぞ……! 女の子だったらどうしよう! 裸で何してんの⁉ 俺、女の子の裸なんて見た事ないよぉぉぉぉ⁉)
恐怖のドキドキが興味のドキドキへと変化していく。お年頃の善逸は壁にべったり背中をくっつけながら赤面する。
(どうしよう、俺は初めて女の子の裸を見るなら、禰豆子ちゃんの裸がいいなって前から思ってたけど……。いいのかな? 見ちゃっていいのかな? あーっ、おしっこにも行きたいし、女の子の裸も見てみたいし……!)
いつの間にか、真夜中の怪は頭の中で女の子にすり替わっている。泥棒や鬼だったらどうしようという考えは消え去り、頭の中にはボヤけた未知の女の裸体が浮かんでいる。
ソワソワしっぱなしの善逸は、もう一度覗いてみようとそーっと首だけで厨房を覗いた。
すると、鼻先が柔らかい何かに触れた。
「……? もしかしておっぱ……ぃ?」
プニッとしたそれから突然ブォーっと風が吹き出て、善逸の重たい前髪がピラピラピラと持ち上がった。
そして見えたのだ。柔らかい乳房だと思ったそれは生き物の鼻だった。そして猛烈な風はそれの鼻息だったのだ。
「ギッ……ギィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァッ‼ バ ケ モ ノ だァァァァァァッ‼」
善逸は大絶叫を撒き散らして腰を抜かした。
「「「どうしたんですか善逸さん!」」」
三人娘が寝間着のまま明かりを持って慌てて走って来た。
「ヒィィィィッ‼ 何かいる! 何かいる~!」
指で指す先を照らすと、大根の一本漬けを両手に掴んだ猪が一匹、暗闇の中にボーっと浮かび上がった。
「「「キャァァァァァァ‼」」」
「ウォォォォォッ、大根! 大根持ってるぅぅぅぅ!」
三人娘も一緒になって腰を抜かし、善逸にしがみつく。
「どうしたんですか、騒々しい!」
騒ぎを聞きつけて、アオイと清治もやって来る。
「いっ、伊之助さん⁉ 意識が戻ったんですか?」
アオイは、さっきまで上の病室で寝ていたはずの伊之助が起きているので驚いた。
「腹減った。何もねぇからこの沢庵食ってた」
「いっ、伊之助さん……!」
アオイは泣きながら伊之助に抱きついた。三人娘も伊之助だと判って喜び合っている。……が、善逸は放心状態で動けない。股間を押さえて口元を引きつらせている。
「大丈夫ですか、師範」
「……清治、何も訊かずにボロ布持って来てくれないか。上の病室の桶の中にあるから……捨ててもいいやつ」
「えっ? ボロ布ですか?」
「早く。あと洗い替えの褌と寝間着も」
「はぁ。いいですけど、何でですか?」
「いいから早く‼」
清治はよく分からないまま病室へ戻り、急いで持って戻って来る。伊之助の為にアオイと三人娘で夜食を用意する事にしたようで、厨房には煌々と明かりがつき、四人はテキパキと動いていた。その外の廊下でうずくまって動けないままになっている善逸に、清治は頼まれた物を渡す。
「あのさ、湯浴みのお湯って残ってるかな?」
「えっ? いや、どうでしょうか。もうぬるいかとっくに冷めちゃってるでしょ」
「悪いんだけどさ、ちょっとでいいから沸かし直してくんない!?」
「えっ? はぁ……別に構いませんけど」
「じゃあ先に行ってほんのちょっとでいいからお湯沸かしといて! 俺はすぐに行くから! ほら、早く!」
「……? はぁ……」
清治は首を傾げながら風呂場へと向かった。結局清治は何があったか分からないまま湯を沸かしてやると、今度は先に寝るよう言われたので善逸を風呂場に残して戻って来た。そして病室に戻る前に厨房を覗く。
「伊之助さん、意識が戻って良かったですね。体は大丈夫ですか?」
伊之助は厨房で餅を焼いてもらっていた。それを砂糖醤油につけながらパクパクと口に運んでいる。
「おうよピヨ治! おめぇも元気だったか?」
「はい! ……まぁちょっと前まで元気じゃなかったですけど」
「皇さんは伊之助さんが眠っている間、奈良へ遠征して帰って来たばかりなんですよ」
「何! 俺が寝ている間に? 鬼は倒したか⁉」
「はぁ、まぁ一応」
「よし! それでこそ俺の子分だ! ンナハハハハ!」
毒が回って止血が遅れたせいで、一時命が危ぶまれていたとは思えないほどの食欲と回復力である。餅の他にもすぐに食べられそうな果物や菓子なども用意され、それを貪りながら伊之助は豪快に笑った。
「あとは炭治郎さんですね」
「おう、アイツに声をかけたけどよ、グースカ寝たまんまで俺様を無視しやがったから、一発ぶん殴ってやった!」
「「「「えぇぇぇぇぇぇ~っ‼」」」」
「ちょ、ちょっと伊之助さん! ダメですよ、炭治郎さんは重傷なんですから! 何て事してるんですか!」
「ガハハハハ! そういや紋逸はどこだ? あの野郎、コソコソ覗きやがるから、俺が鼻息かけてやったらビビッて小便チビってたぞ!」
「「「「「えぇぇぇぇぇぇ~っ⁉」」」」」
ボロ布を持って来いと言うのはその為だったのか……。清治は、その後に湯を沸かすよう言われた事も、先に寝ているよう言われた事も全て合点がいった。
「あ~旨ぇ! 餅旨ぇ! もっと焼いてくれ! もっと食う!」
「はいはい。あっ、それはまだ焼けてませんよ!」
アオイはいつも通りプリプリ怒りながらもその表情はいつもより柔らかかった。後は炭治郎も無事目が覚めてくれればいいのだが、いつになるのか。伊之助の
