阿弥陀ヶ原の鬼婆
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昼餉に呼ばれても行かなかった善逸に、夕方になって指令が舞い込んだ。
湯浴みを済ませて身支度をし、玄関の框 に座って草履を履いている善逸を見送ろうと、すみは台所から廊下を駆けてやって来る。
「善逸さん、これを持って行ってくださぁぁぁい!」
任務に出る時は、紐でしっかりと草履を固定する。戦闘中に脱げないようにする為だが、それを念入りに行いながら善逸は振り返る。すみが持ってきた物は竹の皮で包まれた夜食だった。
「今ご飯が炊けたばっかりで。おにぎりとお漬物だけなんですけど、何とか間に合って良かったです。善逸さんは昼も食べていらっしゃらなかったので、多めに握っておきました。夕餉の後の御出立なら良かったんですが……」
「ありがとう。じゃあ行って来るよ」
「お気をつけて。明日の朝は善逸さんの好きなかぼちゃの煮物を用意しておきます。うんと甘くして」
善逸はニッコリと笑うと、一人で任務へと出かけて行った。
(善逸さん、いつも任務に行く時は嫌だ嫌だって言いながら行くのに……)
今日の善逸は何も言わなかった。まるで蝶屋敷ここから出て行く事でほっとしていたような……。何となく様子がおかしいと心配になったすみは、表に出て善逸の後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。
「……清治 、お前は行かなくていいのか?」
鍛錬を終え、部屋で刀の手入れをしていた炭治郎は、のんびりとくつろいで番茶を啜っている清治に訊いた。伊之助に続き、炭治郎とも手合わせをしてもらった清治は、さすがに疲れたのか嫌な顔をした。
「師範の技、目で確かめなくても良いのか?」
「でも……。師範は俺の事嫌がってるみたいだし……。やっぱ昨日の夜、厠でイタズラしたのを根に持ってんのかな。へへっ、すっかり嫌われちゃったみたいです」
ポリポリと頭を掻く清治。そんな清治を厳しい目で見る炭治郎。
「お前は自ら機会を失おうとしている。お前に必要なのは、獣の呼吸でもなく、水の呼吸や日の呼吸でもない。ただでさえ使い手の少ない雷の呼吸で、実際人が鬼を倒した瞬間を見た事があるのか? 客観的に見た事があるのか? 人の技を見て、盗んで、自分に反映しようと思わないのか?」
「でっ、でも……。師範は壱ノ型だけでしょ? 壱ノ型は俺にだって……」
「できるのは、誰でもそれなりに修行を積めばできるようになるだろう。だけど善逸のようにできるのか? お前は型がまだ自分の物になっていないと言っていた。その志はどうした? できる型の数に囚われ、その中身を疎かにして人を貶していないか? 全部できて一丁前、そんな基準で判断するのもいいだろう。だけど一番大切なのは、どんな事をしてでも鬼を倒す事だ。何ができたとしても、鬼を倒せず、鬼に殺されてしまうような隊士は一人でも減らしていかなければならない。その為にみんな厳しい鍛錬を続けているんじゃないか。それは最高位の柱であっても変わらない。決して驕る事なくその努力を続けているんだぞ」
人当たりが良く、優しそうだと思っていた炭治郎にこう厳しく言われては、余計に身が引き締まる思いだ。清治はすぐに隊服に着替え、日輪刀を腰に差す。
「俺、行って来ます! 師範はどこへ向かったんですか⁉」
「ここから北の方に行くと阿弥陀ヶ原って所がある。どうも最近、その辺りに住む若い女性が鬼に襲われているようなんだ」
それだけ聞くと、清治は蝶屋敷を飛び出して行った。
(そうだ、俺は心のどこかで師範をバカにしてた。師範が戦う姿を一度も見た事がないのに、俺は自分の目で確かめもせずに師範の見た目と周りからの評価だけで判断してた。能ある鷹は爪を隠すって言うじゃないか。本当に強い人は自分を過信しない。だからこそ天井を作らず、向上し続けられるんだって、俺の育手も言ってたじゃないか!)
足には自信がある。昼間あれだけ伊之助や炭治郎とやり合ったとしても、絞り出せばまだ体力は残っている。まだそう遠くへは行っていないと思い、走りつつも人に道を尋ねながら、善逸の向かっている阿弥陀ヶ原の方面へと急いだ。
湯浴みを済ませて身支度をし、玄関の
「善逸さん、これを持って行ってくださぁぁぁい!」
任務に出る時は、紐でしっかりと草履を固定する。戦闘中に脱げないようにする為だが、それを念入りに行いながら善逸は振り返る。すみが持ってきた物は竹の皮で包まれた夜食だった。
「今ご飯が炊けたばっかりで。おにぎりとお漬物だけなんですけど、何とか間に合って良かったです。善逸さんは昼も食べていらっしゃらなかったので、多めに握っておきました。夕餉の後の御出立なら良かったんですが……」
「ありがとう。じゃあ行って来るよ」
「お気をつけて。明日の朝は善逸さんの好きなかぼちゃの煮物を用意しておきます。うんと甘くして」
善逸はニッコリと笑うと、一人で任務へと出かけて行った。
(善逸さん、いつも任務に行く時は嫌だ嫌だって言いながら行くのに……)
今日の善逸は何も言わなかった。まるで蝶屋敷ここから出て行く事でほっとしていたような……。何となく様子がおかしいと心配になったすみは、表に出て善逸の後ろ姿が見えなくなるまで見送っていた。
「……
鍛錬を終え、部屋で刀の手入れをしていた炭治郎は、のんびりとくつろいで番茶を啜っている清治に訊いた。伊之助に続き、炭治郎とも手合わせをしてもらった清治は、さすがに疲れたのか嫌な顔をした。
「師範の技、目で確かめなくても良いのか?」
「でも……。師範は俺の事嫌がってるみたいだし……。やっぱ昨日の夜、厠でイタズラしたのを根に持ってんのかな。へへっ、すっかり嫌われちゃったみたいです」
ポリポリと頭を掻く清治。そんな清治を厳しい目で見る炭治郎。
「お前は自ら機会を失おうとしている。お前に必要なのは、獣の呼吸でもなく、水の呼吸や日の呼吸でもない。ただでさえ使い手の少ない雷の呼吸で、実際人が鬼を倒した瞬間を見た事があるのか? 客観的に見た事があるのか? 人の技を見て、盗んで、自分に反映しようと思わないのか?」
「でっ、でも……。師範は壱ノ型だけでしょ? 壱ノ型は俺にだって……」
「できるのは、誰でもそれなりに修行を積めばできるようになるだろう。だけど善逸のようにできるのか? お前は型がまだ自分の物になっていないと言っていた。その志はどうした? できる型の数に囚われ、その中身を疎かにして人を貶していないか? 全部できて一丁前、そんな基準で判断するのもいいだろう。だけど一番大切なのは、どんな事をしてでも鬼を倒す事だ。何ができたとしても、鬼を倒せず、鬼に殺されてしまうような隊士は一人でも減らしていかなければならない。その為にみんな厳しい鍛錬を続けているんじゃないか。それは最高位の柱であっても変わらない。決して驕る事なくその努力を続けているんだぞ」
人当たりが良く、優しそうだと思っていた炭治郎にこう厳しく言われては、余計に身が引き締まる思いだ。清治はすぐに隊服に着替え、日輪刀を腰に差す。
「俺、行って来ます! 師範はどこへ向かったんですか⁉」
「ここから北の方に行くと阿弥陀ヶ原って所がある。どうも最近、その辺りに住む若い女性が鬼に襲われているようなんだ」
それだけ聞くと、清治は蝶屋敷を飛び出して行った。
(そうだ、俺は心のどこかで師範をバカにしてた。師範が戦う姿を一度も見た事がないのに、俺は自分の目で確かめもせずに師範の見た目と周りからの評価だけで判断してた。能ある鷹は爪を隠すって言うじゃないか。本当に強い人は自分を過信しない。だからこそ天井を作らず、向上し続けられるんだって、俺の育手も言ってたじゃないか!)
足には自信がある。昼間あれだけ伊之助や炭治郎とやり合ったとしても、絞り出せばまだ体力は残っている。まだそう遠くへは行っていないと思い、走りつつも人に道を尋ねながら、善逸の向かっている阿弥陀ヶ原の方面へと急いだ。
