師範の秘密
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夕餉を終え、炭治郎と伊之助が眠る病室にやって来た善逸は、心配そうに兄に寄り添う禰豆子に一生懸命に話しかけていた。
「大丈夫だよ、禰豆子ちゃん。しのぶさんの話では、もうじき目が覚めるだろうって」
「むー……」
禰豆子は炭治郎の手の甲をつねったり、指を引っ張ったりして何とか兄の目を覚まそうとしている。
「一生懸命戦ったから、ちょっと疲れただけなんだよ。ね? もう少しお休みさせてあげようよ。つまんないなら、俺がいくらでもお喋りしてあげるからさぁ」
「……むー。むーむ?」
今度は隣の寝台でスースー眠る伊之助を指差す。
「伊之助? コイツは別に目が覚めなくても……」
「むーッ‼」
禰豆子は両手を突き上げて怒ると、ポカスカ善逸を叩いた。
「痛っ‼ 痛いよ禰豆子ちゃぁぁぁん」
「むーむーッ‼」
今度は髪を引っ張る。毟 り取ろうとする気満々だ。
「ごめん、ごめんって! ちょっと冗談を言っただけだよぉ。……って! 禰豆子ちゃん、清治が戻って来たみたい! 早くこの箱に入って‼」
「むぅ?」
「ほら、早く早く! 絶対に静かにしてるんだよ」
急かすと、禰豆子はスルスルと小さくなり、背負い箱の中に収まった。
「師範、只今戻りました~」
「あっ、ああっ‼ お帰り清治。どうだった? 誰かに会えた?」
「ええ。隣のお婆さんがいろいろ教えてくれて、何とかお寺さんにも話ができました。親戚の方と連絡が取れたら、この蝶屋敷に連絡するとの事で」
善逸は清治から隠すように背負い箱の前に立つ。
「へっ、へぇ! それは良かったね。で、夕餉は? まだなら食って来たら?」
「ええ、今準備してもらっています。いやぁ今夜は任務要請がなくて良かったですよ。結構疲れちゃって。どうですか、炭治郎さんと伊之助さんは」
清治は二人の寝顔を交互に覗き見る。相変わらず包帯だらけで眠っているだけで、何も変わっていない。
清治が動く度に、善逸は背負い箱を隠すように体の角度を変えている。明らかに不自然な動きだが、清治は気付いていない様子だ。
「二人とも、早く目覚ましてくださいよ~。師範が寂しがって泣いてます」
「ばっ‼ 何言ってんのさ!」
「師範、この間の吉原の後、給金ってもらいました?」
「給金⁉ えーっと……どうかな。吉原の分はまだのような……」
「そっか……」
「何かあったの?」
「いや、まだ一度ももらってなくて。まぁ、大して鬼を倒してないし、しょうがないかなと思うんですけど」
清治は浮かない顔をしている。そんな「音」にも善逸はすぐに反応を示す。
「もしかして、お金ないの?」
「……実はそうなんですよ。今日も汽車を使いたかったんですが、結局走って帰ってきました。飯はここで何とかなるにしても、少し持ち合わせがないと不便で」
バツが悪そうに笑う弟子に、善逸はため息をつく。
「分かったよ。少し持たせてあげるよ。お前はお土産も買って来てくれたし、いろいろと大変だったみたいだしさ」
「いいんですか? 必ず返しますから」
「返さなくてもいいよ。俺からの小遣いだ。いくら欲しい?」
善逸は禰豆子が聞いている事を 意識した上で、格好をつけて見栄を張る。
「言い難いんですが……」
「何だよ、はっきり言えよ。フフン、俺はこう見えてたくさんお金があるんだからな」
偉そうに腕組みをする始末。そんな頼もしい師範の姿に、清治は何の遠慮もなく言い放つ。
「では……三百円(※現代では約三十~四十万円)」
「さっ、三百円だってぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
善逸は、炭治郎と伊之助が目を覚ますのではないかと思う程の大声で叫んだ。
「しっ、師範……声……」
清治はキーンと鳴る耳を押さえて顔をしかめた。
「バカ野郎! 遠慮のカケラもなしに、何て大金を欲しているんだ‼ 何に使いたいんだよ! 十四歳の分際で花街でパァっと使おうとしてんじゃないだろうな!? ダメだ‼ お前のような男前があんな街に行ったら、いろんなお姉さんに骨の髄まで吸い取られて、スカスカの骨とカサカサの皮だけになっちまうぞ‼」
「ちっ、違いますって‼」
「だったら何だよ‼ 博打か!? 花札なら俺に任せとけ! 丁半も得意だぞ! 何しろ俺は音でサイコロの目が判っちゃうんだからな!」
「……それは凄いですね。でも違うんですよ、早く家も借りなきゃいけないし、借りたらいろいろ身の回りの物の準備もあるじゃないですか。だからまとまったお金が必要なんですよ。頭金も。それにちょっと借金をしてまして」
「借・金! そりゃ早く返さなきゃだよね‼ 誰に追われてんの!? 分かるよ、俺も昔は借金取りにひどい目に遭わされたし‼ いやぁ、アイツらトイチ だっつって無茶苦茶な事言って地の果てまで追っかけて来るからね!? ヒドイ奴らなんてカラス金 って言って……まぁとにかく、お前なんか顔がいいから男色専門の店に売られちゃうよ! だとしたら大変だ! よし、お前の尻 を守るために俺は喜んで三百円を出すぞ!」
禰豆子の前で格好つけるつもりが、聞かれてはマズいような過去の暴露話を大声でしている事に善逸は気付いていない。
清治は勝手に勘違いしている師範の勢いを止める事ができず、顔を歪ませている。
「いや、実は獪岳さんに借金をしてて……」
「兄貴に⁉ 何で!? まさか騙されて借金背負わされたの!? あの人博打好きだから、多分いろんな所で負けてると思うんだ。それとも脅されてんの?」
「いや、全然そういうのじゃないんですよ。普通に足りなくて借りただけなんです。実は昨日の土産の代金、俺の手持ちじゃ足りなくて。それを代わりに払ってもらったんですよ」
獪岳が代わりに払ったと聞くと、善逸はまたまた大声で騒ぎ出し、雨が降るんじゃないかと言って慌てて窓の外を見る。
「獪岳さんはいい人ですよ。まぁ、ちょっとアレなところもありますけど。でも人ってみんなそうでしょう? 何もかもが完璧な人はいませんよ」
「完璧な人ならここにいるよ‼ ──この禰……あーっ‼」
善逸は手で口を押さえる。清治はおかしな挙動の善逸を見て、その周辺をジロジロと見渡した。
「……何ですか?」
「いやっ、アハハハハハ‼ だからさー、このねぇ、炭治郎がねっ、まっ、マジで良い子なんだよねぇぇぇっ⁉」
「……はぁ、俺もそう思います」
「かっ、家族思いでね! ものすご~く」
「でも、炭治郎さんは家族をみんな鬼に殺されてますよね。菊江さんの家もまさにそうで、一人だけ残されたみたいで、本当に気の毒だったと思いますよ」
「アハッ、アッハハッ、そうだよねぇぇぇ!?」
「笑い事じゃないんですよ、師範‼ まぁとにかく、必ず返しますので貸してもらえると助かります」
後で貸してやると言うと、清治は夕餉を食べに行ってしまった。
善逸はヘナヘナと椅子に倒れ込むように座り、深呼吸をする。
「はー、ヤバかったなぁ。うっかり禰豆子ちゃんの事を言いそうになっちゃったよ。アイツに禰豆子ちゃんを紹介するわけにはいかないよ。あんな男前を禰豆子ちゃんに見せちゃったら、俺なんかもう……」
チラと背負い箱に目をやるが、禰豆子は言われた通りに静かに収まっている。
家族を鬼に殺された清治は、どんな鬼も決して許さないと言っていた。その対象は人を襲わない鬼である禰豆子でも同じだろう。説明をしても、あのまっすぐな性格なら「どんな事情があろうとも鬼は鬼だ」と清治は禰豆子を殺そうとするに違いない。
だから絶対に存在を知られるわけにはいかない。禰豆子の身に何かあれば、目覚めた炭治郎がどんな行動をするか想像もつかない。またこれは師範の自分だけではなく、鬼殺隊やこの蝶屋敷で働く女の子たちの信用にも関わってくる。
鬼を匿っている事をお館様が承諾していても、中には納得がいかない隊士もいるだろう。それは組織の根幹にも関わり、士気の低下や混乱をも招くはずだ。ましてや清治は入隊したばかり。新米隊士の意気込みはどの隊士よりも熱く、鬼に対する恨みも深いだろう。
師範の身であっても、清治を納得させられる自信はない。だからバレないようひた隠しにするしかない。
「禰豆子ちゃん、俺や蝶屋敷の子たち以外の人がいたら、絶対に箱から出ちゃだめだよ」
「……」
まずは自衛である。返事はないが、内側をカリカリと引っ掻く音がした。
「大丈夫だよ、禰豆子ちゃん。しのぶさんの話では、もうじき目が覚めるだろうって」
「むー……」
禰豆子は炭治郎の手の甲をつねったり、指を引っ張ったりして何とか兄の目を覚まそうとしている。
「一生懸命戦ったから、ちょっと疲れただけなんだよ。ね? もう少しお休みさせてあげようよ。つまんないなら、俺がいくらでもお喋りしてあげるからさぁ」
「……むー。むーむ?」
今度は隣の寝台でスースー眠る伊之助を指差す。
「伊之助? コイツは別に目が覚めなくても……」
「むーッ‼」
禰豆子は両手を突き上げて怒ると、ポカスカ善逸を叩いた。
「痛っ‼ 痛いよ禰豆子ちゃぁぁぁん」
「むーむーッ‼」
今度は髪を引っ張る。
「ごめん、ごめんって! ちょっと冗談を言っただけだよぉ。……って! 禰豆子ちゃん、清治が戻って来たみたい! 早くこの箱に入って‼」
「むぅ?」
「ほら、早く早く! 絶対に静かにしてるんだよ」
急かすと、禰豆子はスルスルと小さくなり、背負い箱の中に収まった。
「師範、只今戻りました~」
「あっ、ああっ‼ お帰り清治。どうだった? 誰かに会えた?」
「ええ。隣のお婆さんがいろいろ教えてくれて、何とかお寺さんにも話ができました。親戚の方と連絡が取れたら、この蝶屋敷に連絡するとの事で」
善逸は清治から隠すように背負い箱の前に立つ。
「へっ、へぇ! それは良かったね。で、夕餉は? まだなら食って来たら?」
「ええ、今準備してもらっています。いやぁ今夜は任務要請がなくて良かったですよ。結構疲れちゃって。どうですか、炭治郎さんと伊之助さんは」
清治は二人の寝顔を交互に覗き見る。相変わらず包帯だらけで眠っているだけで、何も変わっていない。
清治が動く度に、善逸は背負い箱を隠すように体の角度を変えている。明らかに不自然な動きだが、清治は気付いていない様子だ。
「二人とも、早く目覚ましてくださいよ~。師範が寂しがって泣いてます」
「ばっ‼ 何言ってんのさ!」
「師範、この間の吉原の後、給金ってもらいました?」
「給金⁉ えーっと……どうかな。吉原の分はまだのような……」
「そっか……」
「何かあったの?」
「いや、まだ一度ももらってなくて。まぁ、大して鬼を倒してないし、しょうがないかなと思うんですけど」
清治は浮かない顔をしている。そんな「音」にも善逸はすぐに反応を示す。
「もしかして、お金ないの?」
「……実はそうなんですよ。今日も汽車を使いたかったんですが、結局走って帰ってきました。飯はここで何とかなるにしても、少し持ち合わせがないと不便で」
バツが悪そうに笑う弟子に、善逸はため息をつく。
「分かったよ。少し持たせてあげるよ。お前はお土産も買って来てくれたし、いろいろと大変だったみたいだしさ」
「いいんですか? 必ず返しますから」
「返さなくてもいいよ。俺からの小遣いだ。いくら欲しい?」
善逸は
「言い難いんですが……」
「何だよ、はっきり言えよ。フフン、俺はこう見えてたくさんお金があるんだからな」
偉そうに腕組みをする始末。そんな頼もしい師範の姿に、清治は何の遠慮もなく言い放つ。
「では……三百円(※現代では約三十~四十万円)」
「さっ、三百円だってぇぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
善逸は、炭治郎と伊之助が目を覚ますのではないかと思う程の大声で叫んだ。
「しっ、師範……声……」
清治はキーンと鳴る耳を押さえて顔をしかめた。
「バカ野郎! 遠慮のカケラもなしに、何て大金を欲しているんだ‼ 何に使いたいんだよ! 十四歳の分際で花街でパァっと使おうとしてんじゃないだろうな!? ダメだ‼ お前のような男前があんな街に行ったら、いろんなお姉さんに骨の髄まで吸い取られて、スカスカの骨とカサカサの皮だけになっちまうぞ‼」
「ちっ、違いますって‼」
「だったら何だよ‼ 博打か!? 花札なら俺に任せとけ! 丁半も得意だぞ! 何しろ俺は音でサイコロの目が判っちゃうんだからな!」
「……それは凄いですね。でも違うんですよ、早く家も借りなきゃいけないし、借りたらいろいろ身の回りの物の準備もあるじゃないですか。だからまとまったお金が必要なんですよ。頭金も。それにちょっと借金をしてまして」
「借・金! そりゃ早く返さなきゃだよね‼ 誰に追われてんの!? 分かるよ、俺も昔は借金取りにひどい目に遭わされたし‼ いやぁ、アイツら
禰豆子の前で格好つけるつもりが、聞かれてはマズいような過去の暴露話を大声でしている事に善逸は気付いていない。
清治は勝手に勘違いしている師範の勢いを止める事ができず、顔を歪ませている。
「いや、実は獪岳さんに借金をしてて……」
「兄貴に⁉ 何で!? まさか騙されて借金背負わされたの!? あの人博打好きだから、多分いろんな所で負けてると思うんだ。それとも脅されてんの?」
「いや、全然そういうのじゃないんですよ。普通に足りなくて借りただけなんです。実は昨日の土産の代金、俺の手持ちじゃ足りなくて。それを代わりに払ってもらったんですよ」
獪岳が代わりに払ったと聞くと、善逸はまたまた大声で騒ぎ出し、雨が降るんじゃないかと言って慌てて窓の外を見る。
「獪岳さんはいい人ですよ。まぁ、ちょっとアレなところもありますけど。でも人ってみんなそうでしょう? 何もかもが完璧な人はいませんよ」
「完璧な人ならここにいるよ‼ ──この禰……あーっ‼」
善逸は手で口を押さえる。清治はおかしな挙動の善逸を見て、その周辺をジロジロと見渡した。
「……何ですか?」
「いやっ、アハハハハハ‼ だからさー、このねぇ、炭治郎がねっ、まっ、マジで良い子なんだよねぇぇぇっ⁉」
「……はぁ、俺もそう思います」
「かっ、家族思いでね! ものすご~く」
「でも、炭治郎さんは家族をみんな鬼に殺されてますよね。菊江さんの家もまさにそうで、一人だけ残されたみたいで、本当に気の毒だったと思いますよ」
「アハッ、アッハハッ、そうだよねぇぇぇ!?」
「笑い事じゃないんですよ、師範‼ まぁとにかく、必ず返しますので貸してもらえると助かります」
後で貸してやると言うと、清治は夕餉を食べに行ってしまった。
善逸はヘナヘナと椅子に倒れ込むように座り、深呼吸をする。
「はー、ヤバかったなぁ。うっかり禰豆子ちゃんの事を言いそうになっちゃったよ。アイツに禰豆子ちゃんを紹介するわけにはいかないよ。あんな男前を禰豆子ちゃんに見せちゃったら、俺なんかもう……」
チラと背負い箱に目をやるが、禰豆子は言われた通りに静かに収まっている。
家族を鬼に殺された清治は、どんな鬼も決して許さないと言っていた。その対象は人を襲わない鬼である禰豆子でも同じだろう。説明をしても、あのまっすぐな性格なら「どんな事情があろうとも鬼は鬼だ」と清治は禰豆子を殺そうとするに違いない。
だから絶対に存在を知られるわけにはいかない。禰豆子の身に何かあれば、目覚めた炭治郎がどんな行動をするか想像もつかない。またこれは師範の自分だけではなく、鬼殺隊やこの蝶屋敷で働く女の子たちの信用にも関わってくる。
鬼を匿っている事をお館様が承諾していても、中には納得がいかない隊士もいるだろう。それは組織の根幹にも関わり、士気の低下や混乱をも招くはずだ。ましてや清治は入隊したばかり。新米隊士の意気込みはどの隊士よりも熱く、鬼に対する恨みも深いだろう。
師範の身であっても、清治を納得させられる自信はない。だからバレないようひた隠しにするしかない。
「禰豆子ちゃん、俺や蝶屋敷の子たち以外の人がいたら、絶対に箱から出ちゃだめだよ」
「……」
まずは自衛である。返事はないが、内側をカリカリと引っ掻く音がした。
