師範の秘密
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向かうのは王子町。東京の北部にある町で風光明媚な土地と言われているが、明治期から製紙工場が広がる工業地帯でもある。後の令和の時代に壱萬円札に描かれる人物が中心となって設立したものだ。
そう時間もなく、距離があるので鉄道で向かう事にし、路線を調べるためにとりあえず最寄りの駅へ向かった。
(あー、そろそろ給金入らんかな。獪岳さんには十円も返さなあかんし、あの化粧品も十五円やで⁉ どないする? ……俺、借金ばっかしとるなぁ。家も早よ借りんとあかんし……。汽車賃いくらやろ。やっぱ歩きで行った方がええか? うーん、足は治ったけど、無理したらまた疲労骨折するって言われたしなぁ。今夜早速任務があるとしたら、あんまし負担になる事はせん方がええんやけどな……)
清治は、給金が入るまでの金策を何とか考えながら道を行く。東京へ出て来て、育手の元を離れてからずっと金がない。藤の花の家紋の家を転々としながら、今は蝶屋敷に落ち着いた。それは師範の善逸が療養中だからだが、あの様子だとそろそろ任務に戻る事になりそうで、蝶屋敷を出る日も近いだろう。
(兄ちゃんに文書いて、蝶屋敷に幾らか送ってもらおうかな。いやぁ……でもなぁ、そんな調子ええ事はできへんし)
お金に不自由なく育った清治は、少々金遣いに難があった。だがそれは自分のために使うのではなく、ほとんどが人のために何かしら出費を重ねているものだった。
良い事をしているはずなのだが、清治の場合は「手持ちがないのに使ってしまう」という点が問題である。幼い頃から兄弟でおつかいに行かされても財布は兄が持ち、兄が支払う。兄弟でおやつを買いに出掛けても、清治がこれと欲しがり兄が支払う。自分の小遣いが足りなければ兄はすんなり貸してくれる。そんな事をして育ったものだから、しっかりとその癖がついてしまっている。
悪い癖だと気付いていながらも、ひとまず金がなければ何も買えない。愛嬌で何とかごまかして来たが、獪岳相手にそれは通用しないという事は言うまでもない。
(早いとこ何とか返さんとうるさそうやしな。あの変な鴉……電光丸やったか? あいつが毎日取り立てにでも来たら厄介やで。一旦は獪岳さんに借りた分を師範に借りて……。でもそれは悪循環やな。何も解決せぇへんわ。ホンマ、給金早う頼むで‼)
あれこれ考えながら歩いていると、黒い影が上空から現れ、頭めがけて襲いかかって来た。
「なっ、何や‼」
「カァァァァーッ‼」
「鴉か‼ まさか電光丸⁉ 早速取り立てか!」
清治は突然の鴉の襲撃に身構え、番傘に見せかけて背中に隠してある刀に手を伸ばした。
「清治サァァァァァン‼ ヒドイ‼ ヒドイ‼ ヒドイワーッ‼」
降り立った鴉は、羽を大きく広げながら地団太を踏んでいる。
「その声は……琵琶子‼」
「何デ帰ッテ来タッテスグニ教エテクレナイノ⁉ ソレニ、ドコカ行クナラ何デアタシヲ呼ンデクレナイノ⁉」
清治はポリポリと頭を掻く。蹴られて乱れた髪もついでに撫でつけて元に戻した。
「あー……そうだったね、へへっ、ごめんごめん。バタバタしててさ」
「ゴメンデ済ンダラ鬼殺隊ハ要ラナイノヨ! ドレダケ心配シテタカ‼ 奈良マデ飛ンデ行コウトシテタラ、我妻サンニ『胸肉ガ発達シテナイカラ無理』ダナンテ、イヤラシイ事言ワレチャッテ……! アノ人本当助平ダワ! 鴉ダロウガ人ダロウガ、見境ナイノヨ! イツモ天井見テ一人デニヤツイテルシ、何カ変ナ箱ニ向カッテ独リ言ヲ言ッテ笑ッテルシ」
「……胸肉? いやらしい? 何だかよく分かんないけど、俺ちょっと出掛けるから」
「ドコヘ?」
「王子町だよ」
「何シニ? 鬼ガ出タノ?」
「いや、そういう用事ではないんだけどさ」
詳しく話してやると、琵琶子はいじけて背中を見せる。そしてその辺に転がっていた小石を器用に足で掴むと、ポイっと投げ捨てた。
「ソノ人ト……ドンナ関係ダッタノ……?」
「どんなって……。別に、ただの隊士と隠の関係だよ」
「……抱キ合ッテナイ?」
「だっ、抱き合う⁉ ……ま、まぁそういう事もあったと言えばあったかな」
「カッ⁉ ……カァ」
琵琶子は落ち込んで首を垂らす。何を想像しているかは知らないが、それは想像するよりも穏やかではない状況だった。清治にとっては、その時の事を思い出す度に菊江の血の温かさが腕にじんわりと蘇るほど辛い記憶だ。
「違うんだよ、琵琶子。菊江さんは俺の目の前で突然鬼に斬られた。倒れかけた菊江さんを俺が咄嗟に抱きとめただけなんだよ」
「……」
「はぁっ、しょうがないな。ほら、おいで」
清治は琵琶子を抱え上げ、腕の中に抱いて頭を撫でてやる。
「悪かった。本当はもっと早く帰って来たかったけど、俺が弱かったからそれが叶わなかったんだ。菊江さんを死なせてしまったのは俺のせいだ。だから俺は最後までしっかりと面倒を見てあげなきゃいけないんだよ。そうでもしないと俺はずっと立ち直れない」
「清治サン……」
若い男が鴉を抱えて頭を撫でてやりながら何かブツブツ喋っている。街行く人々はそれを奇異な目で見ながら避けて通って行く。
グゥゥゥゥゥウ……
琵琶子の腹から音が鳴った。
「……アラヤダ、オ腹鳴ッチャッタ」
「何も食べてないのか?」
「ウン。ダッテ、帰ッテ来タッテうこぎニ聞イテ、飛ンデキタモン。文字通リ」
「そっか。……あの店の饅頭なんかどう?」
「イイネ。食ベル」
清治はなけなしの金を出し、饅頭一つを買ってやる。結局饅頭を買った事で運賃が足りなくなり、日暮里までしか乗られず、あとは徒歩で向かう事になった。
そう時間もなく、距離があるので鉄道で向かう事にし、路線を調べるためにとりあえず最寄りの駅へ向かった。
(あー、そろそろ給金入らんかな。獪岳さんには十円も返さなあかんし、あの化粧品も十五円やで⁉ どないする? ……俺、借金ばっかしとるなぁ。家も早よ借りんとあかんし……。汽車賃いくらやろ。やっぱ歩きで行った方がええか? うーん、足は治ったけど、無理したらまた疲労骨折するって言われたしなぁ。今夜早速任務があるとしたら、あんまし負担になる事はせん方がええんやけどな……)
清治は、給金が入るまでの金策を何とか考えながら道を行く。東京へ出て来て、育手の元を離れてからずっと金がない。藤の花の家紋の家を転々としながら、今は蝶屋敷に落ち着いた。それは師範の善逸が療養中だからだが、あの様子だとそろそろ任務に戻る事になりそうで、蝶屋敷を出る日も近いだろう。
(兄ちゃんに文書いて、蝶屋敷に幾らか送ってもらおうかな。いやぁ……でもなぁ、そんな調子ええ事はできへんし)
お金に不自由なく育った清治は、少々金遣いに難があった。だがそれは自分のために使うのではなく、ほとんどが人のために何かしら出費を重ねているものだった。
良い事をしているはずなのだが、清治の場合は「手持ちがないのに使ってしまう」という点が問題である。幼い頃から兄弟でおつかいに行かされても財布は兄が持ち、兄が支払う。兄弟でおやつを買いに出掛けても、清治がこれと欲しがり兄が支払う。自分の小遣いが足りなければ兄はすんなり貸してくれる。そんな事をして育ったものだから、しっかりとその癖がついてしまっている。
悪い癖だと気付いていながらも、ひとまず金がなければ何も買えない。愛嬌で何とかごまかして来たが、獪岳相手にそれは通用しないという事は言うまでもない。
(早いとこ何とか返さんとうるさそうやしな。あの変な鴉……電光丸やったか? あいつが毎日取り立てにでも来たら厄介やで。一旦は獪岳さんに借りた分を師範に借りて……。でもそれは悪循環やな。何も解決せぇへんわ。ホンマ、給金早う頼むで‼)
あれこれ考えながら歩いていると、黒い影が上空から現れ、頭めがけて襲いかかって来た。
「なっ、何や‼」
「カァァァァーッ‼」
「鴉か‼ まさか電光丸⁉ 早速取り立てか!」
清治は突然の鴉の襲撃に身構え、番傘に見せかけて背中に隠してある刀に手を伸ばした。
「清治サァァァァァン‼ ヒドイ‼ ヒドイ‼ ヒドイワーッ‼」
降り立った鴉は、羽を大きく広げながら地団太を踏んでいる。
「その声は……琵琶子‼」
「何デ帰ッテ来タッテスグニ教エテクレナイノ⁉ ソレニ、ドコカ行クナラ何デアタシヲ呼ンデクレナイノ⁉」
清治はポリポリと頭を掻く。蹴られて乱れた髪もついでに撫でつけて元に戻した。
「あー……そうだったね、へへっ、ごめんごめん。バタバタしててさ」
「ゴメンデ済ンダラ鬼殺隊ハ要ラナイノヨ! ドレダケ心配シテタカ‼ 奈良マデ飛ンデ行コウトシテタラ、我妻サンニ『胸肉ガ発達シテナイカラ無理』ダナンテ、イヤラシイ事言ワレチャッテ……! アノ人本当助平ダワ! 鴉ダロウガ人ダロウガ、見境ナイノヨ! イツモ天井見テ一人デニヤツイテルシ、何カ変ナ箱ニ向カッテ独リ言ヲ言ッテ笑ッテルシ」
「……胸肉? いやらしい? 何だかよく分かんないけど、俺ちょっと出掛けるから」
「ドコヘ?」
「王子町だよ」
「何シニ? 鬼ガ出タノ?」
「いや、そういう用事ではないんだけどさ」
詳しく話してやると、琵琶子はいじけて背中を見せる。そしてその辺に転がっていた小石を器用に足で掴むと、ポイっと投げ捨てた。
「ソノ人ト……ドンナ関係ダッタノ……?」
「どんなって……。別に、ただの隊士と隠の関係だよ」
「……抱キ合ッテナイ?」
「だっ、抱き合う⁉ ……ま、まぁそういう事もあったと言えばあったかな」
「カッ⁉ ……カァ」
琵琶子は落ち込んで首を垂らす。何を想像しているかは知らないが、それは想像するよりも穏やかではない状況だった。清治にとっては、その時の事を思い出す度に菊江の血の温かさが腕にじんわりと蘇るほど辛い記憶だ。
「違うんだよ、琵琶子。菊江さんは俺の目の前で突然鬼に斬られた。倒れかけた菊江さんを俺が咄嗟に抱きとめただけなんだよ」
「……」
「はぁっ、しょうがないな。ほら、おいで」
清治は琵琶子を抱え上げ、腕の中に抱いて頭を撫でてやる。
「悪かった。本当はもっと早く帰って来たかったけど、俺が弱かったからそれが叶わなかったんだ。菊江さんを死なせてしまったのは俺のせいだ。だから俺は最後までしっかりと面倒を見てあげなきゃいけないんだよ。そうでもしないと俺はずっと立ち直れない」
「清治サン……」
若い男が鴉を抱えて頭を撫でてやりながら何かブツブツ喋っている。街行く人々はそれを奇異な目で見ながら避けて通って行く。
グゥゥゥゥゥウ……
琵琶子の腹から音が鳴った。
「……アラヤダ、オ腹鳴ッチャッタ」
「何も食べてないのか?」
「ウン。ダッテ、帰ッテ来タッテうこぎニ聞イテ、飛ンデキタモン。文字通リ」
「そっか。……あの店の饅頭なんかどう?」
「イイネ。食ベル」
清治はなけなしの金を出し、饅頭一つを買ってやる。結局饅頭を買った事で運賃が足りなくなり、日暮里までしか乗られず、あとは徒歩で向かう事になった。
