弱味噌の師範
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善逸は自分たちがいつも眠る寝台のある部屋にやって来た。その部屋の炭治郎の寝台の横には、縦長の木箱がある。
善逸はその木箱の横に膝を抱えて座った。
「……禰豆子ちゃん、まだ寝てるの?」
木箱からは微かに寝息が聞こえている。声をかけても反応はない。
「返事はしなくてもいいから、ちょっと聞いてほしいんだ」
善逸は、昨夜清治が突然やって来てからの出来事を、順を追って話した。もちろん何の反応もない。
「一晩中考えてたんだ。朝になっても、答えが出なかったんだ。俺は一体何を教えればいいのか、ずっと分からないんだよ。炭治郎は、俺は強いから大丈夫だって言うけど、俺はあいつや伊之助の方が強いって知ってる。さっき伊之助が清治の師範になってやるって言ってた。それでいいよね? その方がみんな納得するよね」
善逸は木箱を抱きしめておでこをくっつける。
「俺は禰豆子ちゃんを守る力があればそれだけでいいよ。君が生きていられるなら、俺は死んだっていい。俺が代わりに鬼になって、禰豆子ちゃんが人間に戻れるのなら、そうしてあげたい。それで俺は炭治郎に頸を斬ってもらうんだ。禰豆子ちゃんの為なら、俺は何だってできるよ。そのくらいの勇気しかないダメな奴なんだ、俺は」
物音を立てないようにこっそり善逸の後をつけていた炭治郎は、廊下から善逸のしがない独り言を聞いていた。
(善逸……)
善逸は事ある毎に壱ノ型しかできない事を揶揄され、その度に「自分はダメな奴だから」と自分でも自尊心を傷つけている。決して能力がないわけではなく、一つの技が飛び抜けて秀でているだけなのだ。
向上心が強い者は、競うように技の数だけで優劣をつけがちだが、数に囚われ過ぎては本質を見誤る事になる。事実、どの型も完璧にこなす隊士であっても命を落とす事はままある事だ。
鬼殺隊士において、呼吸が使える、使えないという事は問題ではなく、もちろんできる型の数も問題ではない。最も重要な事は命を落とす事なく、どんな手法であっても鬼の頸を取り続ける事なのである。事実、呼吸を使えない玄弥でも、隊士としての責務はきちんと果たしている。そんな隊士は他にもたくさんいる。
型の多さは単に手数てかずの多さであって、その多くは相手や状況に合わせて、臨機応変に戦いを続けた中で編み出されたものだ。要は鬼に効果的に打撃を与える技の工夫の数なのである。一つの型で十分な効果が得られなければ、次々と型が生み出され、その分どんどん数が多くなってしまう。
炭治郎は水の呼吸、そして日ノ呼吸であるヒノカミ神楽からの技を駆使してでも、毎回怪我で体はボロボロになる。それをたった一つの技だけで戦い抜ける善逸を炭治郎は心からすごいと思っているし、全くそれを気に病む必要もないと思っている。
何か声をかけてやりたいが、善逸にとっては、この物言わぬ禰豆子との時間が唯一心を癒す瞬間なのかもしれないと思い、炭治郎は庭で手合わせを続けている清治と伊之助の様子を見に行った。
「おいっ、ピヨ治 ! ちょっと休むぞ!」
「はいっ‼ 親分、水でも浴びますか? すごい汗ですよ」
いつの間にか仲良くなった二人は、庭の井戸から水を引き、頭からザブンと水を被った。
「あ~、気持ちいいぜ!」
「ひんやりして気持ちいいですね!」
「ピヨ治、ちょっと休んだらまたやるぞ! 今度は関節を外す技を見せてやる! 見れば目ン玉がぶっ飛ぶぞ」
「関節を? それは楽しみです!」
伊之助は年下とよく気が合うようだ。さっきまで睨み合っていたのに、すっかり打ち解け合っている。
「あのぉ……二人とも、俺はちょっと道場の方で鍛錬して来るからさ」
「あっ、炭治郎さん。後で手合わせお願いできますか?」
「えっ? あ、ああ。まぁいいけど……」
「ありがとうございます!」
「ピヨ治、このデコっぱちはなかなか手強いぜ? 何しろ俺様の次に強ぇからな」
清治に頼まれて、炭治郎は気まずそうに返事をした。清治はあんなに「師範にしてください」と頼んでいたはずの善逸の事はもう気にもかけていないのか。壱ノ型しかできないという真実を聞き、何も教わる事はないと見限ってしまったのか。
「あのさ伊之助、なぜピヨ治 なんだ?」
「ああん? だってコイツ、隊士になったばっかでひよっ子だからに決まってんだろ。ずーっと教えろ教えろってヒナみたいに口開けてピヨってるからな、ヌハハハハ!」
──というわけだ。
適当に言っているのかと思いきや、こちらはちゃんと理由があっての事。妙に納得した炭治郎は、一人で道場に行き、黙々と鍛錬を始めた。
善逸はその木箱の横に膝を抱えて座った。
「……禰豆子ちゃん、まだ寝てるの?」
木箱からは微かに寝息が聞こえている。声をかけても反応はない。
「返事はしなくてもいいから、ちょっと聞いてほしいんだ」
善逸は、昨夜清治が突然やって来てからの出来事を、順を追って話した。もちろん何の反応もない。
「一晩中考えてたんだ。朝になっても、答えが出なかったんだ。俺は一体何を教えればいいのか、ずっと分からないんだよ。炭治郎は、俺は強いから大丈夫だって言うけど、俺はあいつや伊之助の方が強いって知ってる。さっき伊之助が清治の師範になってやるって言ってた。それでいいよね? その方がみんな納得するよね」
善逸は木箱を抱きしめておでこをくっつける。
「俺は禰豆子ちゃんを守る力があればそれだけでいいよ。君が生きていられるなら、俺は死んだっていい。俺が代わりに鬼になって、禰豆子ちゃんが人間に戻れるのなら、そうしてあげたい。それで俺は炭治郎に頸を斬ってもらうんだ。禰豆子ちゃんの為なら、俺は何だってできるよ。そのくらいの勇気しかないダメな奴なんだ、俺は」
物音を立てないようにこっそり善逸の後をつけていた炭治郎は、廊下から善逸のしがない独り言を聞いていた。
(善逸……)
善逸は事ある毎に壱ノ型しかできない事を揶揄され、その度に「自分はダメな奴だから」と自分でも自尊心を傷つけている。決して能力がないわけではなく、一つの技が飛び抜けて秀でているだけなのだ。
向上心が強い者は、競うように技の数だけで優劣をつけがちだが、数に囚われ過ぎては本質を見誤る事になる。事実、どの型も完璧にこなす隊士であっても命を落とす事はままある事だ。
鬼殺隊士において、呼吸が使える、使えないという事は問題ではなく、もちろんできる型の数も問題ではない。最も重要な事は命を落とす事なく、どんな手法であっても鬼の頸を取り続ける事なのである。事実、呼吸を使えない玄弥でも、隊士としての責務はきちんと果たしている。そんな隊士は他にもたくさんいる。
型の多さは単に手数てかずの多さであって、その多くは相手や状況に合わせて、臨機応変に戦いを続けた中で編み出されたものだ。要は鬼に効果的に打撃を与える技の工夫の数なのである。一つの型で十分な効果が得られなければ、次々と型が生み出され、その分どんどん数が多くなってしまう。
炭治郎は水の呼吸、そして日ノ呼吸であるヒノカミ神楽からの技を駆使してでも、毎回怪我で体はボロボロになる。それをたった一つの技だけで戦い抜ける善逸を炭治郎は心からすごいと思っているし、全くそれを気に病む必要もないと思っている。
何か声をかけてやりたいが、善逸にとっては、この物言わぬ禰豆子との時間が唯一心を癒す瞬間なのかもしれないと思い、炭治郎は庭で手合わせを続けている清治と伊之助の様子を見に行った。
「おいっ、ピヨ
「はいっ‼ 親分、水でも浴びますか? すごい汗ですよ」
いつの間にか仲良くなった二人は、庭の井戸から水を引き、頭からザブンと水を被った。
「あ~、気持ちいいぜ!」
「ひんやりして気持ちいいですね!」
「ピヨ治、ちょっと休んだらまたやるぞ! 今度は関節を外す技を見せてやる! 見れば目ン玉がぶっ飛ぶぞ」
「関節を? それは楽しみです!」
伊之助は年下とよく気が合うようだ。さっきまで睨み合っていたのに、すっかり打ち解け合っている。
「あのぉ……二人とも、俺はちょっと道場の方で鍛錬して来るからさ」
「あっ、炭治郎さん。後で手合わせお願いできますか?」
「えっ? あ、ああ。まぁいいけど……」
「ありがとうございます!」
「ピヨ治、このデコっぱちはなかなか手強いぜ? 何しろ俺様の次に強ぇからな」
清治に頼まれて、炭治郎は気まずそうに返事をした。清治はあんなに「師範にしてください」と頼んでいたはずの善逸の事はもう気にもかけていないのか。壱ノ型しかできないという真実を聞き、何も教わる事はないと見限ってしまったのか。
「あのさ伊之助、なぜピヨ
「ああん? だってコイツ、隊士になったばっかでひよっ子だからに決まってんだろ。ずーっと教えろ教えろってヒナみたいに口開けてピヨってるからな、ヌハハハハ!」
──というわけだ。
適当に言っているのかと思いきや、こちらはちゃんと理由があっての事。妙に納得した炭治郎は、一人で道場に行き、黙々と鍛錬を始めた。
