二人の刃
名前変換
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人捜しは骨が折れる。まだ鬼の方がすぐに見つかりそうなくらいだ。
(二、三年前くらいまでの話なら何か手がかりがあったかも知れねぇが、ずいぶん前の事だしな。……やっぱ神楽坂じゃねぇかもな。他の花街と言ったら、浅草に赤坂に新橋、それに芳町……)
神楽坂ではないのであれば母親の消息を知る必要はなく、生きていようが何だろうが獪岳は無関心だった。
獪岳は的を絞り、勾玉を身に着けた娼妓の有無と、紛れもない事実である「神楽坂に捨てられていたという赤子」の話の両方から攻める事にしたのだが、勾玉を着けていたかどうかは客の方が知っている可能性が高く、赤子の事も内々で処理されるため、番頭のような男では耳にすら入っていない事が多い。
(嫌がったって、お袋はきっとガキを堕ろす事になっただろう。俺としたらそっちの方が助かるぜ。どこの街に売られようとも、堕ろしてんならそれでいい。冗談じゃねぇ。あんなカスが実の弟だったなんて事になったら、これ以上恥ずかしい事はあるのか?)
獪岳は何としても善逸が弟ではない事を証明したい。ここで何も手がかりが得られなければ、他の花街へ行って母親が在籍していたかどうかを確認しようとも考えた。売られた店が別の花街である事を証明できれば、神楽坂で拾われた善逸は別の母親の子であると言えるはずだ。
「ちょっといいか」
また店の男に声をかける。今度は袖の下を使い、お喋り好きそうな遣手婆 に引き合わせてもらう。そしてあれやこれやと話を聞き出した。
この「琴松 楼」の遣手婆が言うには、たとえ産んだとしても、産婆が殺して死産としてしまうか、売るか捨てるかしかないようだ。そんな話は、誰もが口の堅いこの世界では他人の耳に入る事もない。娼妓同士でもお互い様として秘密順守の結束は固く、知っていても誰にも漏らす事はないという。
「何だい、アンタの家族なのかい」
「……いや、そういうわけじゃ……」
「アンタ、名前は?」
「悪いが急いでんだ。ありがとよ、婆さ──」
「……善景 じゃないのかい」
「……?」
帰ろうと暖簾をくぐった獪岳の足はピタリと止まる。振り返ると、遣手婆は長いキセル煙草を深く吸ってから、ゆっくりと白い煙を吐き出した。
「昔世話した子にね、子を産んだせいで他所 の店を追い出された子がいたんだよ。まぁまぁ年増だったけどね、三味線や琴が得意だから雇ってくれって泣いて頼むからうちの店で雇ったのさ。これまでに二人子を産んで、上の子はまだ小さくて、善に景色の景って書いて『よしかげ』って名前だって言ってた。もう一人の子は何て名前だいって訊くと、泣いて何も答えないのさ。そのうち金を貯めて子供らを捜しに行きたいんだって泣いて言ってね。……こういう場所は訳ありの子だらけだし、あたしもそれ以上野暮な事は訊かなかったけどね。……そうそう、大きくなっても自分の子だって分かるように、二人の子には印を残して来たっていうような事を言ってたよ」
「印……?」
遣手婆はもう一度キセルを吸う。
フゥ……と長い息を吐き、ニヤリと笑った。
「アンタの首にある、その勾玉さ」
「……!」
獪岳は自分の首元を隠すように押さえた。
「……その子は十年程前に死んだよ。客から結核をもらってね」
「…………」
(二、三年前くらいまでの話なら何か手がかりがあったかも知れねぇが、ずいぶん前の事だしな。……やっぱ神楽坂じゃねぇかもな。他の花街と言ったら、浅草に赤坂に新橋、それに芳町……)
神楽坂ではないのであれば母親の消息を知る必要はなく、生きていようが何だろうが獪岳は無関心だった。
獪岳は的を絞り、勾玉を身に着けた娼妓の有無と、紛れもない事実である「神楽坂に捨てられていたという赤子」の話の両方から攻める事にしたのだが、勾玉を着けていたかどうかは客の方が知っている可能性が高く、赤子の事も内々で処理されるため、番頭のような男では耳にすら入っていない事が多い。
(嫌がったって、お袋はきっとガキを堕ろす事になっただろう。俺としたらそっちの方が助かるぜ。どこの街に売られようとも、堕ろしてんならそれでいい。冗談じゃねぇ。あんなカスが実の弟だったなんて事になったら、これ以上恥ずかしい事はあるのか?)
獪岳は何としても善逸が弟ではない事を証明したい。ここで何も手がかりが得られなければ、他の花街へ行って母親が在籍していたかどうかを確認しようとも考えた。売られた店が別の花街である事を証明できれば、神楽坂で拾われた善逸は別の母親の子であると言えるはずだ。
「ちょっといいか」
また店の男に声をかける。今度は袖の下を使い、お喋り好きそうな
この「
「何だい、アンタの家族なのかい」
「……いや、そういうわけじゃ……」
「アンタ、名前は?」
「悪いが急いでんだ。ありがとよ、婆さ──」
「……
「……?」
帰ろうと暖簾をくぐった獪岳の足はピタリと止まる。振り返ると、遣手婆は長いキセル煙草を深く吸ってから、ゆっくりと白い煙を吐き出した。
「昔世話した子にね、子を産んだせいで
「印……?」
遣手婆はもう一度キセルを吸う。
フゥ……と長い息を吐き、ニヤリと笑った。
「アンタの首にある、その勾玉さ」
「……!」
獪岳は自分の首元を隠すように押さえた。
「……その子は十年程前に死んだよ。客から結核をもらってね」
「…………」
